召喚者は一家を支える。

RayRim

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第2部

29話

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 反抗に対する反撃作戦が開始された。
 戦士と兵士のいさかいは単純な武力同士のぶつかり合いとなる。ここでは他に余計な策は必要ないという事なのだろう。
 だが、ただぶつかり合うだけでは悪戯に被害を広げる。オレたちは、それを出来る限り回避するための場を作るように頼まれた。
 表は梓と遥香に任せ、オレは神殿の防衛と箱による遊撃を担当する。
 一人での拠点防衛。大失敗した思い出が甦るが、反省せずに生きてきたわけではない。

【シールドスフィア】

 神殿全体を防御魔法で覆い、一番広い部屋の隅に座った。入口だけ開けてあるが、その前には梓が用意した壁があるので大丈夫なはずだ。
 ここはこれから怪我人の収容場所となる。あの時のように真ん中を陣取るわけにはいかない。
 神殿の周囲は箱を展開して警戒し、避難民の救助と防衛を行う。梓、遥香、ジゼルも外で行うが4人では心許ない。柊とリリはこっちで色々な手伝いや運搬作業を頼んでいる。
 カトリーナとユキは前線支援。あらゆる手段、あらゆる方法を自分達の判断に任せた。

「父さん、今回はちゃんとついてるから。」

 バニラがやって来て、オレの手に自分の手を乗せた。

「ミンスリフは良いのか?」
「大丈夫。フィオナ一人でも守れる。というか、フィオナでも守れなかったらここはお終いだ。」
「それもそうだな。」

 目を閉じているので表情は分からないが、軽口を叩いた事で気持ちが和らいだようだ。

「今度は一人じゃない。みんながいる。母さん達もいる。わたしだって色々学んで、準備もしてきた。だから、思う存分守ってくれ。」
「思う存分守れ、も変だが、そのつもりだよ。だが…」

 バニラの手を握り返す。

「おかげで思ったよりも無理が出来そうだ。」
「ああ。英雄の二つ名は伊達じゃないってこと、マーマン達に知らしめてやってくれ。」
「バニラ、後は頼むぞ。」

 いつかとは違い今回は制御だけでなく、自分のいない場所の把握に意識を割くことにした。




 戦士と兵士の戦闘は拮抗している。
 だが、それは今だけで、戦闘不能の兵士が増える度に戦士が優位の流れになっていく。
 その状況は深刻な意識の差を浮き彫りにした。
 外で明確な敵と戦う戦士たちと違い、内に在って惰性で民を守る兵士には、特権意識のようなものが生まれている。

『自分達は民の為に戦っている。』

 互いにとって、その言葉は全く違う意味となっていた。

 戦士たちとって、民は最優先で守るべき者達であり、危害を加えるなどあり得ない。家族、友人、仲間と獲物を分け合い、食卓を共にする事に幸福を見出だしたからこそ、遥々遠征して巨大な魚類を狩ってくる事が出来るのだろう。

 兵士にとって、民は自分達によって守られているだけの者であり、命すら差し出すのは当然であるような振る舞いをしている。
 恥ずかしげもなく守るべき民を盾とする姿には、哀れみも感じない。

(形成が悪くなればこれか。戦士と兵士とで扱いが違うわけだ。)

 陛下にとって、考えがあっての身分差なのだろうが、それが完全に裏目に出ているように思える。
 制度の欠陥がこの事態を生み出したことに違いはないが、オレに改善案は考え付かなかった。 

 住民の盾を用いる兵士の発する号令で、戦士たちに矢が射掛けられる。戦士たちは当然のように得意の槍で全て防ぎ切るが、兵士はそれを見て躊躇いもなく盾にされた民を突き刺し、放り出す。今度は子供を盾にしてきた。

 ここまでするのか。
 意味が分からない。

 こんなことをして勝ったところで、緩やかな破滅しか無いはずだ。

 カトリーナやユキは離れていて、事態を認識していない。梓とリリは神殿前から動けず、遥香とジゼルは見ていたようだがあまりにも遠すぎる。
 となれば、オレがやるしかない。
 兵士から認識できない距離で、上からファイア・ブラストを放つ。通常の威力、範囲は極めて絞って二連射すると、熱線となって一瞬で兵士の両腕を焼き切った。
 卑劣の権化を違う箱の体当たりで吹っ飛ばすと、民を盾にしようと伸ばした他の兵士の腕を、同じように上から焼き切る。
 一瞬だけ戦士も困惑したようだが、事態を把握する早さは流石。人質を守れと言わんばかりの怒濤の突撃に、練度の低い兵士達は我先にと逃げ出した。

 重体の民間マーマンは、再調整済みリザレクションで治し、他の人質にもヒールを掛けてから違う場所へと箱を飛ばす。恥知らずの兵士は知らん。

 思った以上に広い街の中、戦力としては戦士が圧倒しているが、数が少ない。兵士が全く機能していないこの期に乗じ、略奪を行う者も居た。
 群衆の心理が働くのはどこも同じようで、一人が始めるとすぐに伝播する。治安維持の役目を期待できない以上、やるしかあるまい。
 真っ先に略奪を始めたヤツを、見せしめの生け贄に選ぶ。

 箱をぶつけて転ばし、備え付けのフックで引っ掻けて吊し上げる。
 離せと言って騒いでいるようだが、声は認識できない。 気になるのは他の反応だが、あまり気にしていないようだ。
 他の略奪犯目掛けてそいつを勢い良く投げ付けると、ようやくこちらに注目が集まった。
 今度は絞ったアイス・ブラストで略奪品のみを氷付けにしていく。事態が分かったのか、群衆は持っていた物を放り出し、散っていく。が、懐に隠したヤツは尻を氷付けにしておいた。治して欲しければ、後で出頭するように。

 その後も同様の事を繰り返していくと、略奪犯たちはスラムのような区画に、兵士達もその近くに集結をしていた。
 一般的な民は既に神殿付近に避難しており、梓と遥香の保護下にある。神殿内に収容しきれないので、前の広場を階層化して避難場所にしたようだ。そこまで覆えるようにシールドスフィアの範囲を広げておこう。

 戦士も集結して決戦に挑むようだが、このままでは側面攻撃を受けるので、道だろうが屋根だろうがお構い無しに、スラム側が合流できないよう細工を施しておいた。無限ジャンプトラップである。
 通り過ぎようとする者に対し、空中に打ち上げる程度の威力のエア・ストライク。まあ、嵌まると抜け出せない可能性があるが…いきなり、一人嵌まってるな。運がない。
 スラム側と兵士の合流を阻止したことで、戦士たちも思い切り戦えるはずだ。

 箱を通じて改めて全体を見渡す。
 神殿前広場は完全に避難所となっており、中央の開けてある道を通って、戦士が怪我人を搬入する姿があった。近くには慰安ライブとばかりに歌って踊るメイプルの姿。喜ぶ子供たちもいるからか、悲壮感が全くなかった。
 完全に崩れた建物は無いが、扉や壁が破壊されたり、屋台が木っ端微塵という場所がいくつもある。
 迷子や逃げ遅れた老人を見つけた遥香達が、元気な民間マーマンと手分けして誘導をしていた。やたら増えていた遥香のテイムモンスターも迅速な救助、移動に一役買っている。なんか10以上いるな。
 カトリーナとユキの姿があまり見えていなかったのは、伏兵の処理を行っていたからのようだ。影移動が得意な二人にはうってつけの役割だろう。民家に潜んでいた兵士を引きずり出し、縛り上げていた。

 大勢は決した。そう思っていたが、まだ終わりではないようだ。
 飛び抜けて精強な魔力を滾らす戦士と、疑り深そうなオーラの兵士が対峙している。
 念のために近くに箱を移動させると、気付いた戦士が任せてくれと言わんばかりに片手を上げた。そういう事なら離れていよう。
 忌々しげに箱を見る兵士。何か言っているが、聞こえていないのでよく分からない。戦士は逆に誇らしげに何か言っていた。

 互いに三叉槍トライデントを構え、戦士が先に動く。一気に決着させようと思ったようだがそうはいかない。この期に及んで、兵士は飛び退き部下に矢を射掛けさせた。
 屈強な戦士には効果がないが、二射、三射と繰り返していく内に傷が増える。その戦い方を良しとしない人物が一人居た。上に居たはずのソニアである。
 ライトクラフトを装着して飛んで来たソニアが、疑り深そうな兵士を蹴り飛ばし、屈強な戦士の前に転がすと、アースウォールで他の兵士と分断した。
 兵士を指差しながら説教をするソニア。恐らく二人には通じてないが、言わんとすることは分かっているはずだ。

『戦士たる者、決闘の場を設けたならば正々堂々と戦いなさい!』

 オレにはソニアがそう言っているように思える。
 今は明確な立場の違いがあるのだろうが、兵士だろうと元は戦士の卵として育てられたはず。この兵士の言い分をしっかり聞きたかったが、声を拾えないのは残念だ。

『…、戦士として生きたかった!』

 ソニアが箱を引き寄せて触れると、不明瞭だが音が伝わってくる。何かスキルが音を認識させてくれているようだ。

『でも、社会が周囲がそれを認めない!
 兵士は烙印だという事を戦士も王も認めない!オレだって機会さえあれば、お前のようになれたんだ!だが、無意味な巡回、無意味な報告、無意味な会議、帰れば明日に備えて食って寝る時間しかない日々に何の望みを持てと言うのか!』

 それは、とんでもないブラックな職場実態への反乱であった。

『貴様ら戦士のように休暇すら与えられない我々には、こうするしかなかったんだよ!』

 そりゃ、社会を、国を憎みたくなるよな…
 だが、市民や子供を巻き込む道理はない。

『そうか。だが、この騒動の落とし前は付けてもらう。悪く思うな。』
『良いも悪いも…あるかよぉっ!』

 兵士の鋭い突きが戦士に向かうが、軽くあしらわれる。戦士は、そのまま穂先の方の柄を掴んだまま強烈な突き返し。兵士の肩に直撃し、半身が吹っ飛ばされたかのように槍を手放すが、踏み留まる。戦士は武器の無い相手と戦うつもりはないらしく、槍を投げ返した。
 その行為に憤った兵士は残った方の手だけを使い、連続突き。だが、全く鋭さも精確さもない。
 戦士の一撃で槍が跳ね上げられると、横腹に強烈な尾ヒレ打ちが叩き込まれ、兵士が横に吹っ飛んでいった。
 マーマン戦士の太く、よくしなる尾ヒレでの一撃は侮れないな…
 勝負はあったようで、兵士はピクリとも動かない。
 アースウォールを解除すると、その向こうの兵達はカトリーナとユキによって制圧されていた。

『…偉大な小さき異邦の戦士よ。後は我々の仕事だ。今後の戦士と、兵士の事も含めてな。』
『分かっているのなら、私たちからは多くは申しませんわ。』

 互いに身振り手振りでそう言うと、ソニアがライトクラフトで浮かび上がり、箱を抱えて神殿へ戻ってきた。
 破壊の痕跡が残り、争乱がまだ治まり切らぬ光景に、何を感じたのかまでは察する事は出来ない。
 遅れて陛下がやって来て、ソニアが居ることに驚き、箱を抱えていた事で事態を理解したようだ。
 収束を宣言をすると、安堵する市民たち。だが、戦士たちは浮かない顔をしている。戦いの最中に理由を知り、それが伝わったのだろう。

 誰も満足な勝利を得ることのなかった戦いは、半日で終結した。
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