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第64話 「ズルくない?」
しおりを挟む熱と甘さでやられた頭は、まともな機能はしていない。
ごくん、と生唾を飲み込む。
目の前にいる、青葉先輩。
好きにしていい、と、言われても、どうしたらいいのかなんて、やっぱりわからない。
ほんとは。先輩を気持ちよくさせるためのこととか、そういうことをしたほうがいいんだろうけど。
そのためにどうしたらいいかなんて、まともに働いてない頭じゃ考えつかない。単純に、出来る気もしない。
けど。先輩は相変わらず笑っている、から。
すぐ近くにある、先輩の頬に、ぎこちなく手を添える。
とろけるような微笑みを一層濃くして、先輩の唇の端があがる。
それにつられて、手が勝手に動く。
指先で、青葉先輩の唇に触れる。
薄くて、やわらかい。
何度も――驚くことに、何度もキスはされたけど。改めてこうやって確かめるように触ることなんてなくて。
キスをされるたびに熱いと思っていたけど、指で触るとそんなことはないんだな、とか、間抜けなことが浮かぶ。
この唇にいつもキスをされたり、食まれたりしているのかと思うと、不思議で。
指の腹に返ってくる弾力を確かめていたら、急にぱくり、と指をくわえられた。
「っつ!」
驚いて指を引くけど、それをくわえた唇が追ってくる。
さっきまで唇をなでていた人差し指の腹を噛まれ、わざとくわえた隙間を見えるようにして、先輩の舌が爪を、指先をペロリと舐める。
濡れた赤い舌が、自分の指を這う姿が、なんでこんなにも扇情的に見えてしまうのか。
指先が濡れる感触とその光景にじわりと熱が腰にたまる。
そうした本人は、青葉先輩は指をくわえたまま、にやっと意地悪気に笑った。
わざとからかわれてる、と気づいて、顔が赤くなるのと思わずむっとした。
子どもじみた反発心。反射的なものだった。
ただ同じことをしかえそうと。されたことを同じことをして、先輩の手をとった。
そのまま、長い人差し指をくわえた。
びくり、とわずかに口の中の指が震えた。
先輩は目を丸くして驚いている。いや、僕のなかにほんの少しだけ残った冷静さとか理性とか客観的な思考とか、そういうのも驚いていた。僕がこんなことをするなんて、と。
でも。目の前の珍しい、先輩の驚いた顔を見ると、どくりと心臓から血液が漏れ出た感覚がした。
ぞわぞわと走る不可思議な気持ちに逆らえなくて、くわえた指に舌を這わせる。
長くて、骨ばった指。綺麗にととのえられた、まあるい爪の先端。
歯を立てないように気をつけながら、舐めていく。
触られるたび僕の神経をおかしくさせる指。味も形もただの男性のものなのに、先輩の指というだけで特別になる。
ぺろりと指の先端を舐めると、ほんの少し震える。それが面白くて、ああ、僕がすることで先輩が反応しているのかという気持ちになって、またじくじくと心臓が騒ぐ。
「んっ、ふっ……」
長い指を口の奥までくわえる。長い指が奥まで迎え入れると息が苦しくなって、肉体の生理反応で目尻が濡れる。こらえきれなかった声が、くぐもった息になって漏れ出た。
でもそんな苦痛は些細なことにすぎなくて。くわえたまま、舌で指のつけ根から先端まで舐めていく。丁寧に。先輩にいつもそうされるように。
味なんてないはずなのに。舐めれば舐めるほど、吸いつくほどに、蜜がにじみでてくるんじゃないか、とおかしな期待をしてしまう。
きっと、ああ、先輩から、溢れる蜜なら、とても甘くて、おいしいんだろう。
指の横まで舌を這わせようとすると、くちゅり、と指と舌の唾液が絡まって音が漏れた。
その音は、静かな部屋によく響いて。あからさまで。
はっきり言えば、いやらしくて。
だけど、その音を生み出したのが自分自身で。
気づいた途端、急激に身体が火照った。
「……ああー、もう」
イラだったような、焦れたような声が聞こえたのと同時に、急に口の中にいれていた指が引き抜かれる。
「くっ、はっ……せん、ぱ、い?」
やばい、調子に乗り過ぎたか。怒らせたかと先輩を仰ぎ見ようとして阻まれる。
いつの間にか間近に迫った先輩に強引にキスをされて引き寄せられる。
空っぽになった口の中に、空白を埋めるように先輩の舌がねじ込まれる。さっきまで先輩の指を舐めていた舌を捉えられて、ぎゅうぎゅうにしぼられるように吸われる。意図的にそうしているじゃんないかと思えるように、二人の舌が絡まるたびにぴちゃりと濡れた音がする。
息を奪われて、舌を吸われて、そんな音を聞かされて、身体の中の熱が否応なしに高め上げられる。抱きしめられたせいで互いの肌がくっついて、自分とは違う体温が重ねられるから、なおさらに。
「ぁっ、ん、んんっ、っ」
さらに、自分のせいで濡れた指をわからせるように耳朶を触られる。濡れた感触が這うと、それだけで恥ずかしさが増して、熱が倍増する。
ようやくキスをやめた先輩は、濡れる唇を舌で舐めながら、目を細める。
「……好きにしていいって言ったけど、そんな煽り方するの、ズルくない?」
怒っているわけではない、んだろう、けど。眉を寄せて、じとりとこちらを見据える先輩に、口ははくはくと息をうまく吸いこめないまま何も返せない。
煽る? ズルい? ダメだ、ぜんぜん自分とかけ離れた言葉すぎて先輩の言っていることがよくわからない。むしろそういうのは、先輩のほうに似合う言葉なんじゃないか。
先輩は呆けてわかっていなさそうな僕を見て、よりいっそう眉を寄せた。
そのまま手をとられて、さっきの僕とまるっきり同じことをする。見せつけるように。
どくん、と心臓が跳ねた。
僕の人差し指を、根元まで先輩の口がくわえて。
そのままじっくりと舐めて、吸い上げる。
ただの身体の先端をやわらかい粘膜で包まれるだけの行為。
けれど、それをされると。その姿を見ると。
どくどくと鼓動が鳴る。じわじわと熱が顔に集まって、だけどそれ以上に身体の中心部分の熱が高まっていく。
さっきまで僕がしていたのと同じこと。でも、指に触れる粘膜の感触と視覚からの圧倒的暴力に頭がくらくらしてくる。
こんなこと、僕はしていたのか。
こんな、――いやらしい、ことを。
じっと僕を見る先輩は、さっきまでお前がやっていたんだぞ、と訴えてくるようで。
人差し指を丹念に舐められた後、中指に、薬指にと、同じようにされる。
ちらちらと覗く赤い舌も、ちろちろとくすぐる温かい粘膜の刺激も何倍にもなって襲い掛かってくる。
はっ、と息がこぼれる。
「あおば、せ、んぱい、んっ、っ」
わかったからもうやめてください、と懇願しようと名前を呼べばそのままあらぬ声が出てしまう。
熱にとらわれて、普段絶対出さないような、高い声が見苦しく思えて口をふさごうとする。だけど、先輩はそれも許してくれない。
口に当てようとした手をつかまれて、先輩の頭に回される。手に先輩の、まだ少し湿っている髪に触れた。濡れているからか、あ、いつもより柔らかいな、なんてバカみたいなことに意識が向いて、結局声を抑えるための手段が封じられた。
指を舐めていた舌が掌をたどって、手首の内側にちゅっと音を立てて軽く吸いつく。
「んっ!」
あとがのこらないくらいの、軽いものだけど、リップ音と手首の脈の上にキスをされて、声が出てしまった。
先輩はふっと笑って、手をようやく解放する。けど、掴んでいた手は反対と同じように先輩の肩に回された。自由に手を動かす間もなく、すぐに唇にキスされた。
「っ、ぅ、ふっ」
口の上から舌の裏側まで、味わうように舐められる。それがさっき指を舐められていたせいで、見えないのに口の中でどんな風に動いているのかが頭の中に浮かんでしまって、もう、ほんと、おかしくなりそうだった。
見てるだけで心臓が圧迫されそうな、あの赤い舌が、自分の口の中で動いている。
ぞわぞわとお腹のそこから、言いようのない感覚がせりあがる。もどかしくて、じっとしていられないのに、でもそのもどかしさの解放のしかたがわからない。胸までせりあがってくれば、呼吸の仕方すら忘れてしまいそうだった。
「あっ、! ん、っつ、ぅ」
内側の、なんともしがたい衝動を持て余していたら、いつの間にか鎖骨から胸へと触っていた先輩の指が、胸の切っ先をかすめた。
平べったい胸のなかで、わずかにぷっくりと浮かぶ、色の薄い乳首。
常ならば意識もしないような場所。だけど、先輩の指が、触れたら。
「あっ、ん、ん、うぅっ……」
やわらかい中指の指のはらが、先端をなでるようにこねる。強すぎない刺激のそれはびりリと電気みたいな感覚に変わる。
ただでさえ先輩に触れられたら、どうあがいたって敏感になるのに。これまでの肌をなでられて、指を舐められたり、そのさまを見せられたりして、神経が擦り切れそうなほど鋭敏になっている。
だから、ゆっくりと、決して激しくないのにくるりと乳首の先端をなぞって、下から上にはじくようにぴんっといじられれば、たまらなかった、
たえず蓄積されていく熱ともどかしい衝動に、腰がびくびくと震える。直接触られていないのに、そこがもう硬くなり始めているのがわかった。
いたわるように、でも休むことなく先輩の指は胸の突起を弾くようにして刺激を送り続ける。直截的な快感じゃないからこそ、泣き出しそうなくらいにどうしようもない気持ちが作られていく。
だというのに。先輩はそれだけで許してくれることなんてなくて。
ぱくり、と空いているほうの乳首を食まれる。
「ひゃっ、やっ、あ、っ」
ぬるりと舌が、色づいた部分を舐める。それから獲物を少しずついたぶる獣のように、触れるか触れないかくらいのところで、舌先でちろちろと先端を舐められる。
「ん、くっ、あ、あお、ば、せん、ぱっ」
恥ずかしくてたまらない。顔だけじゃなくて全身が真っ赤になっててもおかしくない。止めたくても、こんな、ばかみたいに甘ったるい声をだしたら、気持ちいいことなんて丸わかりで。
甘痒い刺激にじわじわと追い立てられて、むずむずと腹の下の熱がにじみ出ていく。どうしたらいいのかわからなくて、どうしようもなくて、縋るように手に力をこめた。
自然と先輩のうなじと肩をつかむような形になってしまう。一瞬、それに気づいて慌てて離そうとしたら、咎めるようにいきなり強く胸を吸われた。
「ひゃっ、んん、んっ、え、あ、まっ、」
驚きでこぼれた声を取り消したくても無理で。何も出たりしないのに、先輩はきゅうきゅうと吸いついて、もう片方のほうもしぼるように指と指で挟み上げられる。
そのせいで掴んだ手を離すことなんてできずに、むしろ逆に力を込めてしまう。爪でひっかいたらどうしよう、とか、そういう心配があるのに、でもそれ以上にこの状態で唯一縋れるものから手を離せない。ぎゅうっと、しがみつくようにしてしまう。
それがよかったのかどうなのか、先輩は強く吸うのをやめて、じっくりと舌を這わせる。びくっと身体が震える。
そのまま肌に軽く吸いつくように、軽いキスをしながら唇が移動していく。そうやってずっと肌から唇を離さないようにしながら、反対側の尖りに辿り着く。
はっと息をのむ。
そして予想たがわず、指で触られていたほうを、次は食まれた。
今まで舐められていたほうを指の腹でいじられる。さっきまで舐められていたから濡れているせいで、余計にぬるぬると指の刺激が与えられる。ますます先輩の肩をつかむ手に力がこもる。
もう身体はずっと小刻みに震えている。涙腺も緩んで、目尻に涙がたまっていく。けどそれは不快感だとかそんなんじゃない。絶え間なく、ずっと、じれったい快感を与えられているせいだ。
「せ、ん、ぱ」
みっともないほど声がブレる。泣き声みたいに。なんで飽きないのかとこちらが不思議になるくらい丹念に胸をいじっていた先輩がようやく顔を上げる。
濡れた唇を舌で舐めるその姿ですら、目に毒だ。
どれくらい情けない顔をしていたのか。青葉先輩はおかしそうに笑った。
「なあに?」
なのに。そんな優しく、甘やかすみたいな声で聞いてこないでほしい。
体はぶるぶる震えてて息も整えられない僕に先輩は短くて軽いキスを何度もする。その間も手は必ずどこかに触れて、優しく撫でる。たまに指先の爪でつうっとなぞられて、そのせいでビクリと反応してしまう。
「どうしたコーヨー? どっか痛い?」
「痛くない、です、けど」
いや、それは嘘かもしれない。さっきから心臓が破けそうになってて痛い。まだ自分が生きていることが不思議なくらい。
先輩は何が気に入ったのか、指の爪で僕の肌を上から下へとたどりながら「んー」と生返事する。
「どっか、他のとこ、触ってほしい?」
下へ降りて行った指が、まだ脱いでいないスエットにたどり着く。
思わず、体がこわばった。
先輩は目を細めて、すべてを見透かそうとするように僕を見つめながら、服の上からゆっくりと手をおろしていく。
布越しに、先輩の手が、太腿、膝、脛へと降りていく。服の上なのに、直接触られていないのに。どくどくと血液が急激に下半身をめぐっていって、神経がざわつく。
踵まできた手は、次は逆に上へとのぼっていく。脚の内側を通るように。少しずつ、少しずつ追い詰めていくように。
膝を超えて、内腿をなぞって、さらに、その上のところへと。
「――ッ」
するり、と先輩の指が、硬くなりはじめているソコにかかる。
ゆっくりゆっくり、歯がゆいほどの刺激を絶え間なく送り続けられたせいで、そこは服の上からでもわかるくらいに昂っていて。
それが先輩に知られるのが恥ずかしくてたまらなくて、思わず逃げようと腰を引こうとする。けど。
「ひゃ、あっ!」
布の上からぎゅうっと触られて、体が跳ねた。
大きな掌が、そこの形を確かめるように包んで、指が絡む。
どくどくと血が早くなって、直接じゃないのに触られたそこへ、さらに血と熱を送り込む。
服の上からなのに。まだろくに触られてもいないのに。わかりやすく反応をしめしていることが確実に先輩には伝わっていて。
ああもうだめだ恥ずかしい逃げたい、とぐるぐるする頭を一閃するような、もっと別の刺激がきた。
「――ぇ、ぁ、っ、」
先輩の手がずれて、熱を持ったところの下へと。
それから、くいっ、と指を曲げて。
後ろのくぼみのところを、押されて。
声にもならない声が息になってあふれる。
スエットは脱いでないし、見えてないはずなのに、先輩の指はあやまたずそのくぼみに、しぼまりをしっかりととらえてて。
くっ、とわずかに力をこめられたら、布と一緒にしぼまりに、ほんとうに少しだけ食い込んで。
「ッ――、あ、ぁ、ん、っ……」
ゾクゾクっと電流が駆け上がる。
とんとんと、ノックするように叩かれれば、これからすることを予告する合図みたいで。
ああ、と、声が声にならないまま、空気にとけた。
「……こっちも、脱がすからな?」
先輩の手が、スウェットのウェスト部分にかかる。
問いかけのようでいて、決定事項のように断じるようなその声に。
ゾクリと。
興奮、した。
応援ありがとうございます!
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