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第10章 動き出す時間
第222話 工房は人手不足になりました
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シューネフルトの街に街灯を設置する契約は取れましたが、すぐに工事が始められる訳ではありません。
街灯本体などの部材が揃っていないからです。
オークレフトさんの工房は、電灯部分や支柱などの部材作りに大忙しです。
シューネフルトまでの地下道に電線を引く工事も、並行して手掛けているのでみんな寝る暇もない忙しさです。
私としては、アルビオン王国で見た過酷な労働環境を良しとするモノではありません。
また、工房の就労時間も決めてあるので、寝る間も惜しんで仕事をするのかはいかがなものかと思いますが…。
「大丈夫ですよ。
過労で倒れることが無いように、一人一人にちゃんと目を配っていますので。
やばいようでしたら、早めに仕事を終わりにします。
それに、定時を超えた分は割増の残業代を払うと言ったら、見習い達は率先して働いていますよ。」
「ああ、先日、相談された件ですね。
残業代の制度を設けたいと言う話。
こういった状況になるのを想定していたのですか。」
「はい、見習い達は給金が低いので、多少残業代が嵩んだところで工房の収支に影響するほどではありません。
悪ガキ共の中には、今でも懲りずにカーラさんに夜這いを掛ける者がいるのです。
体力が有り余っているようなので、少し残業で体力を消耗させた方が良いと思いまして。
それに、今度また、アルビオン王国へ納品に行く時は連れて行くと言ってあるのです。
『あの王都の娼館はいいぞ』、と囁いたらてきめんに真面目に働いていますよ。
僕は行ったことないから、本当に良いかは知りませんけどね。
あいつら単純だから、釣り文句としては効果的でした。
まあ、アルビオンに行ったら、行ったで、そんな暇はないと思いますが。」
あの悪ガキ共は、学習というモノをしないのでしょうか。
何度も撃退されているのに、まだカーラに夜這いを掛ける者がいるなんて。
それに、前回のアルビオン王国出張であれだけ働かされたのですよ。
今回もそうなるとは思わないのでしょうか?
少しは警戒すると思うのですが…。
娼館に行くお金欲しさに一生懸命残業していると聞いて、悪ガキ共が不憫になって来ました。
**********
そんな感じで、オークレフトさんの工房は大忙しです。
そのため、工房はさっそく人手不足気味になり、増員することになりました。
それで、先日のリーナとの商談の際に、追加で二十名ほど見習いを雇いたいとお願いしておいたのです。
更に、オークレフトさんとジョンさんの二人から、先日、こんな相談を受けたのです。
「実は、僕の機械工房もそうなのですが、ジョン君の時計工房では特に細かい作業が多いのです。
それで、今までの見習い達は、どちらかと言えば力仕事向きの奴らばかりなのですよね。
ぶっちゃけ、ガサツな奴らばかりで、細かい作業は苦手なようでして。
時計や僕の工房の精密機械などは、力は余り要らないので女性の見習いを入れたいのですが。」
ジョンさんの時計工房は微細で精密な部品を丁寧に組み上げていく必要があり、ガサツな連中には不向きだと言います。
今は、工作機械を使った部品取りに見習い達を充てているのですが、時計の生産増加のため組み立てにも見習いを充てたいそうです。
それを、ガサツな悪ガキ共にさせるのは、非常に不安だとジョンさんも言います。
また、オークレフトさんの工房でも、大物の機械ならば重量物も多く悪ガキ共でも良いのです。
ですが、電気関係の機械は細かい部品が多く、はやり悪ガキ共に任せるのは不安だと言うのです。
そこで、女の子を見習い工に採用したいと二人は要望を申し出てきたのです。
二人の要望に私が答えようとすると…。
私の後ろに立って控えていたカーラが打ち合わせに割って入りました。
「打ち合わせの最中に口を挟む無礼をお許しください。
お二人のご要望はもっともだと思いますが、私は反対です。
みなさんは、田舎の村の悪ガキ共を甘く見過ぎです。
この工房で娘を雇おうものなら、半年もしないで全員がお腹を大きくしていますよ。
あの悪ガキ共は、年頃の娘が一人で山菜摘みをしているのを見つけようものなら見境なく押し倒す輩ですから。
うちの田舎では、悪ガキから身を守るために、若い娘が山に入る時は必ず二人以上で行くことになってます。」
そう言ったカーラは、奴らはケダモノと同じですなどと呟いていました。
カーラがそう言うのですから、あながち間違いではないのでしょう。
今でも、毎日のように夜這いを掛けられているようですしね。
カーラがそう言うのであれば、女性見習いの採用は見送ろうかと考えていると。
それまで、何かを思案していた様子のカーラが、先程の意見とは真逆の事を言ったのです。
「いや、見習いの女の子ですか…。
一つ、良いことを思いつきました。
女性見習いの採用、それ良い案かも知れません。
女性見習いの採用について私に協力させて頂けませんか。」
その後、私達三人は、カーラの話を詳しく聞いて決めました。
今回の件、カーラに任せてみようと。
**********
そのすぐ後の休日、私はカーラと共にカーラの生まれた村の隣村にやって来ました。
カーラは一件の農家の引き戸を開くと。
「おーい、リンネはいないかい!」
家の中に向かって大きな声で、呼びかけます。
すると、少しの間をおいて…。
「あれ、誰かと思えば、カーラの姐御じゃないですか。
ずいぶんと垢ぬけちまって、どこぞのお嬢様かと思いましたぜ。」
そう言って奥から姿を現したのは、私達より一つ二つ年下に見える少女でした。
茶色い髪をショートカットにした、ボーイッシュな雰囲気の子です。
「なあ、リンネ。おまえ、今年十五になるんだよな。
これから、どうするつもりなんだ。
この村か、隣村辺りで嫁の貰い手がありそうか?」
「アッシですか?
いやだな、カーラの姐御だったら聞かなくても分かってるでしょうに。
こんなジャジャ馬、貰い手なんてありませんよ。
町へ出て、娼婦にでもなろうかと思ってますよ。
幸い、うちは娘を売らないといけないほど、金には困ってませんから。
前借りさえしなければ、一年目から結構稼げるようですぜ、娼婦。
アッシは猫さえ被ってりゃ、そこそこ見栄えは悪くないでしょう。
結構、客は付くんじゃないかと思ってるんですけどね、
甘いですか?」
また、随分とサバサバした子ですね。
この子は、娼婦の仕事が何をするのか分かって言っているようです。
ま、確かに前借りでとんでもない暴利を貪られているそうですからね。
「おまえのこったから、そんなもんだろうと思っていたよ。
それで、今日はおまえを誘いに来たんだ。
別に働き口があれば、どうしても娼婦になりたい訳ではないんだろう。」
「そりゃ、そうですよ。
誰が好き好んで、小汚い男なんか乗っけますかって。
他に仕事の当てもないし、結構良い稼ぎになるって聞いたもんで娼婦でも良いかなって。
で、姐さん、何か良い仕事を紹介してくれるんで?」
「私が今お勤めしている工房で職人の見習いを探しているんだ。
非常に細かい作業になるんで、女の子の方が良いんだって。
おまえ、刺繍とか得意だったろう。」
「ええ、まあ。
刺繍はちょっとは出来ますぜ。
周りの連中からはガラでもないって言われますけど。」
そこで、いったん会話を打ち切ったカーラは、私に向かって言いました。
「この娘が、リンネと言ってこの村の娘衆の取りまとめをしています。
前にお話したかと思いますが、娘衆の取りまとめって言うのは娘たちを悪ガキ共から守るのが役割です。
だから、腕っ節は相当なものです。たぶん、工房の悪ガキ共には引けを取らないでしょう。
それに、ガサツに見えますが、刺繍が得意で繊細な仕事には向いていると思います。」
そう、カーラが提案したのは、悪ガキ共が尻尾を巻くような娘を集めようという事でした。
カーラは、まだ懲りずに夜這いを駆けてくる悪ガキ共に、キツイお灸をすえる必要があると思ったそうです。
「リンネさん、私はカーラを雇っている工房のオーナーでシャルロッテという者です。
今、カーラが言ったように、精密な機械の組み立てをする職人見習いを探しているの。
もし良ければ、私の工房で働きませんか。」
私はリンネに誘いの言葉を掛け、それから大まかな雇用条件を説明しました。
「えええぇ!
月に銀貨二百枚も給金がもらえるんで?
しかも、朝晩二回の飯と仕事着、それに寝床が無償で支給されるんですか?
カーラの姐御がそんだけ良い身なりをしてるんだから、嘘じゃないんですよね。
そりゃ、よろこんでお世話になりまっせ。
こんなガサツな田舎娘ですが、よろしくお願いします。」
こうして、この村の娘衆のリーダーであるリンネを雇うことになったのですが。
「それで、リンネよ。
工房では十人くらい見習いの娘を雇いたいんだけど。
今いる工房の見習いは、村の悪ガキ共なんだ。
毎晩、しつこく夜這いを掛けて来るもんで、いい加減ウンザリしてるんだよ。
おまえの知り合いで、こっちの条件にあう娘がいたら紹介して欲しいんだ。
腕っ節がたつ娘で、細かい作業が得意、それで歳が今年十四か十五の娘な。」
カーラの話では、農村では付き合いがあるのはせいぜいが隣村とのこと。
カーラはこの村のリンネしか思い当たる娘がいなかったので、次はリンネに紹介してもらおうと言う算段です。
「ああ、分かりました。
悪ガキ共を返り討ちにできる娘だけを雇おうって言うのですね。
そうですね、見習いって言う以上、一人前になるのに四、五年はかかるんでしょう。
せっかく雇ったのに、半年や一年で孕まされちまったら大損ですからね。
そう言う事なら、良い娘がいますぜ。」
リンネは、殊の外頭が回る子のようです。
こちらが細かく意図を説明しなくても、理解してくれたようでした。
その後、リンネの紹介で隣村に行き、そこで雇った娘の紹介でまた隣村に行く、という行動を繰り返したのです。
**********
そして、十日ほど経って、…。
私は、オークレフトさん以下工房に勤める職人や見習いを全員集めて、新たに雇い入れた見習いを紹介します。
「今日から、ここにいる十人が新たな見習いとしてこの工房で働くことになりました。
みなさん、仲良く働いてくださいね。」
私が紹介をしていると、悪ガキ共の中から囁き声が聞こえてきました。
「おい、あそこにいるの『疾風のリンネ』じゃないか?」
「なんだよ、『疾風のリンネ』って?」
「俺の村の仲間がよ、隣村に使いに言った時のことだ。
帰り道で野草を摘んでいる娘を見つけたんだってよ。
結構良い娘だったんで、ヤリ逃げしようと思ったんだってさ。
後ろから忍び寄って、組み付いて、さあ、いたそうと思ったら…。
どこからともなく、リンネが現れてそいつの股間を蹴り飛ばしたらしい。
慌てて逃げようとしたらしいが、すげえ足が速くて全然逃げられなかったらしい。
それで、捕まってボコボコにされて、それからイチモツが役にたたねえんだってよ。
とにかく、『疾風』のように足が速いらしい。
覗きなんかも見逃してくれないって噂だしな。
それから、俺の村では隣村には手を出すなという掟が出来たんだ。」
なんと、リンネはそんなに恐れられていたのですか。
「お、おい、あっちにいるの、『オーガ殺し』じゃないか。」
「えっ、お前が指差しているのって、あの一番のベッピンか?」
「ああ、隣村の『オーガ殺し』。
隣村一番の、ベッピンなんだけど。
あの奇麗な顔に騙されちゃいけねえぜ。
あれを手籠めにしようとして、半殺しになった男が近隣の村で両手に余るんだ。
うちの村一番の暴れん坊があいつを姦っちまおうとして、去勢されちまったんだよ。」
オーガというのは想像上の魔物で、実在する訳ではありません。
物語の中で、凶暴で人を惨殺すると恐れられている巨人です。
『オーガ殺し』というのは、良く使われる比喩表現でとてつもなく強い人のことを示します。
普通、男性に使われる言葉で、女性に使われるのを聞いたのは初めてです。
『オーガ殺し』と言われた少女、とてもあどけない顔をした可愛い子なのですが。
人は見かけによりませんね。
悪ガキ共からこぼれてくる言葉に耳を傾けると、今回雇った十人はそれぞれが地元では悪ガキ共の天敵の様でした。
これで、少しは行いを改めると良いのですが…。
そう、去勢される前に。
街灯本体などの部材が揃っていないからです。
オークレフトさんの工房は、電灯部分や支柱などの部材作りに大忙しです。
シューネフルトまでの地下道に電線を引く工事も、並行して手掛けているのでみんな寝る暇もない忙しさです。
私としては、アルビオン王国で見た過酷な労働環境を良しとするモノではありません。
また、工房の就労時間も決めてあるので、寝る間も惜しんで仕事をするのかはいかがなものかと思いますが…。
「大丈夫ですよ。
過労で倒れることが無いように、一人一人にちゃんと目を配っていますので。
やばいようでしたら、早めに仕事を終わりにします。
それに、定時を超えた分は割増の残業代を払うと言ったら、見習い達は率先して働いていますよ。」
「ああ、先日、相談された件ですね。
残業代の制度を設けたいと言う話。
こういった状況になるのを想定していたのですか。」
「はい、見習い達は給金が低いので、多少残業代が嵩んだところで工房の収支に影響するほどではありません。
悪ガキ共の中には、今でも懲りずにカーラさんに夜這いを掛ける者がいるのです。
体力が有り余っているようなので、少し残業で体力を消耗させた方が良いと思いまして。
それに、今度また、アルビオン王国へ納品に行く時は連れて行くと言ってあるのです。
『あの王都の娼館はいいぞ』、と囁いたらてきめんに真面目に働いていますよ。
僕は行ったことないから、本当に良いかは知りませんけどね。
あいつら単純だから、釣り文句としては効果的でした。
まあ、アルビオンに行ったら、行ったで、そんな暇はないと思いますが。」
あの悪ガキ共は、学習というモノをしないのでしょうか。
何度も撃退されているのに、まだカーラに夜這いを掛ける者がいるなんて。
それに、前回のアルビオン王国出張であれだけ働かされたのですよ。
今回もそうなるとは思わないのでしょうか?
少しは警戒すると思うのですが…。
娼館に行くお金欲しさに一生懸命残業していると聞いて、悪ガキ共が不憫になって来ました。
**********
そんな感じで、オークレフトさんの工房は大忙しです。
そのため、工房はさっそく人手不足気味になり、増員することになりました。
それで、先日のリーナとの商談の際に、追加で二十名ほど見習いを雇いたいとお願いしておいたのです。
更に、オークレフトさんとジョンさんの二人から、先日、こんな相談を受けたのです。
「実は、僕の機械工房もそうなのですが、ジョン君の時計工房では特に細かい作業が多いのです。
それで、今までの見習い達は、どちらかと言えば力仕事向きの奴らばかりなのですよね。
ぶっちゃけ、ガサツな奴らばかりで、細かい作業は苦手なようでして。
時計や僕の工房の精密機械などは、力は余り要らないので女性の見習いを入れたいのですが。」
ジョンさんの時計工房は微細で精密な部品を丁寧に組み上げていく必要があり、ガサツな連中には不向きだと言います。
今は、工作機械を使った部品取りに見習い達を充てているのですが、時計の生産増加のため組み立てにも見習いを充てたいそうです。
それを、ガサツな悪ガキ共にさせるのは、非常に不安だとジョンさんも言います。
また、オークレフトさんの工房でも、大物の機械ならば重量物も多く悪ガキ共でも良いのです。
ですが、電気関係の機械は細かい部品が多く、はやり悪ガキ共に任せるのは不安だと言うのです。
そこで、女の子を見習い工に採用したいと二人は要望を申し出てきたのです。
二人の要望に私が答えようとすると…。
私の後ろに立って控えていたカーラが打ち合わせに割って入りました。
「打ち合わせの最中に口を挟む無礼をお許しください。
お二人のご要望はもっともだと思いますが、私は反対です。
みなさんは、田舎の村の悪ガキ共を甘く見過ぎです。
この工房で娘を雇おうものなら、半年もしないで全員がお腹を大きくしていますよ。
あの悪ガキ共は、年頃の娘が一人で山菜摘みをしているのを見つけようものなら見境なく押し倒す輩ですから。
うちの田舎では、悪ガキから身を守るために、若い娘が山に入る時は必ず二人以上で行くことになってます。」
そう言ったカーラは、奴らはケダモノと同じですなどと呟いていました。
カーラがそう言うのですから、あながち間違いではないのでしょう。
今でも、毎日のように夜這いを掛けられているようですしね。
カーラがそう言うのであれば、女性見習いの採用は見送ろうかと考えていると。
それまで、何かを思案していた様子のカーラが、先程の意見とは真逆の事を言ったのです。
「いや、見習いの女の子ですか…。
一つ、良いことを思いつきました。
女性見習いの採用、それ良い案かも知れません。
女性見習いの採用について私に協力させて頂けませんか。」
その後、私達三人は、カーラの話を詳しく聞いて決めました。
今回の件、カーラに任せてみようと。
**********
そのすぐ後の休日、私はカーラと共にカーラの生まれた村の隣村にやって来ました。
カーラは一件の農家の引き戸を開くと。
「おーい、リンネはいないかい!」
家の中に向かって大きな声で、呼びかけます。
すると、少しの間をおいて…。
「あれ、誰かと思えば、カーラの姐御じゃないですか。
ずいぶんと垢ぬけちまって、どこぞのお嬢様かと思いましたぜ。」
そう言って奥から姿を現したのは、私達より一つ二つ年下に見える少女でした。
茶色い髪をショートカットにした、ボーイッシュな雰囲気の子です。
「なあ、リンネ。おまえ、今年十五になるんだよな。
これから、どうするつもりなんだ。
この村か、隣村辺りで嫁の貰い手がありそうか?」
「アッシですか?
いやだな、カーラの姐御だったら聞かなくても分かってるでしょうに。
こんなジャジャ馬、貰い手なんてありませんよ。
町へ出て、娼婦にでもなろうかと思ってますよ。
幸い、うちは娘を売らないといけないほど、金には困ってませんから。
前借りさえしなければ、一年目から結構稼げるようですぜ、娼婦。
アッシは猫さえ被ってりゃ、そこそこ見栄えは悪くないでしょう。
結構、客は付くんじゃないかと思ってるんですけどね、
甘いですか?」
また、随分とサバサバした子ですね。
この子は、娼婦の仕事が何をするのか分かって言っているようです。
ま、確かに前借りでとんでもない暴利を貪られているそうですからね。
「おまえのこったから、そんなもんだろうと思っていたよ。
それで、今日はおまえを誘いに来たんだ。
別に働き口があれば、どうしても娼婦になりたい訳ではないんだろう。」
「そりゃ、そうですよ。
誰が好き好んで、小汚い男なんか乗っけますかって。
他に仕事の当てもないし、結構良い稼ぎになるって聞いたもんで娼婦でも良いかなって。
で、姐さん、何か良い仕事を紹介してくれるんで?」
「私が今お勤めしている工房で職人の見習いを探しているんだ。
非常に細かい作業になるんで、女の子の方が良いんだって。
おまえ、刺繍とか得意だったろう。」
「ええ、まあ。
刺繍はちょっとは出来ますぜ。
周りの連中からはガラでもないって言われますけど。」
そこで、いったん会話を打ち切ったカーラは、私に向かって言いました。
「この娘が、リンネと言ってこの村の娘衆の取りまとめをしています。
前にお話したかと思いますが、娘衆の取りまとめって言うのは娘たちを悪ガキ共から守るのが役割です。
だから、腕っ節は相当なものです。たぶん、工房の悪ガキ共には引けを取らないでしょう。
それに、ガサツに見えますが、刺繍が得意で繊細な仕事には向いていると思います。」
そう、カーラが提案したのは、悪ガキ共が尻尾を巻くような娘を集めようという事でした。
カーラは、まだ懲りずに夜這いを駆けてくる悪ガキ共に、キツイお灸をすえる必要があると思ったそうです。
「リンネさん、私はカーラを雇っている工房のオーナーでシャルロッテという者です。
今、カーラが言ったように、精密な機械の組み立てをする職人見習いを探しているの。
もし良ければ、私の工房で働きませんか。」
私はリンネに誘いの言葉を掛け、それから大まかな雇用条件を説明しました。
「えええぇ!
月に銀貨二百枚も給金がもらえるんで?
しかも、朝晩二回の飯と仕事着、それに寝床が無償で支給されるんですか?
カーラの姐御がそんだけ良い身なりをしてるんだから、嘘じゃないんですよね。
そりゃ、よろこんでお世話になりまっせ。
こんなガサツな田舎娘ですが、よろしくお願いします。」
こうして、この村の娘衆のリーダーであるリンネを雇うことになったのですが。
「それで、リンネよ。
工房では十人くらい見習いの娘を雇いたいんだけど。
今いる工房の見習いは、村の悪ガキ共なんだ。
毎晩、しつこく夜這いを掛けて来るもんで、いい加減ウンザリしてるんだよ。
おまえの知り合いで、こっちの条件にあう娘がいたら紹介して欲しいんだ。
腕っ節がたつ娘で、細かい作業が得意、それで歳が今年十四か十五の娘な。」
カーラの話では、農村では付き合いがあるのはせいぜいが隣村とのこと。
カーラはこの村のリンネしか思い当たる娘がいなかったので、次はリンネに紹介してもらおうと言う算段です。
「ああ、分かりました。
悪ガキ共を返り討ちにできる娘だけを雇おうって言うのですね。
そうですね、見習いって言う以上、一人前になるのに四、五年はかかるんでしょう。
せっかく雇ったのに、半年や一年で孕まされちまったら大損ですからね。
そう言う事なら、良い娘がいますぜ。」
リンネは、殊の外頭が回る子のようです。
こちらが細かく意図を説明しなくても、理解してくれたようでした。
その後、リンネの紹介で隣村に行き、そこで雇った娘の紹介でまた隣村に行く、という行動を繰り返したのです。
**********
そして、十日ほど経って、…。
私は、オークレフトさん以下工房に勤める職人や見習いを全員集めて、新たに雇い入れた見習いを紹介します。
「今日から、ここにいる十人が新たな見習いとしてこの工房で働くことになりました。
みなさん、仲良く働いてくださいね。」
私が紹介をしていると、悪ガキ共の中から囁き声が聞こえてきました。
「おい、あそこにいるの『疾風のリンネ』じゃないか?」
「なんだよ、『疾風のリンネ』って?」
「俺の村の仲間がよ、隣村に使いに言った時のことだ。
帰り道で野草を摘んでいる娘を見つけたんだってよ。
結構良い娘だったんで、ヤリ逃げしようと思ったんだってさ。
後ろから忍び寄って、組み付いて、さあ、いたそうと思ったら…。
どこからともなく、リンネが現れてそいつの股間を蹴り飛ばしたらしい。
慌てて逃げようとしたらしいが、すげえ足が速くて全然逃げられなかったらしい。
それで、捕まってボコボコにされて、それからイチモツが役にたたねえんだってよ。
とにかく、『疾風』のように足が速いらしい。
覗きなんかも見逃してくれないって噂だしな。
それから、俺の村では隣村には手を出すなという掟が出来たんだ。」
なんと、リンネはそんなに恐れられていたのですか。
「お、おい、あっちにいるの、『オーガ殺し』じゃないか。」
「えっ、お前が指差しているのって、あの一番のベッピンか?」
「ああ、隣村の『オーガ殺し』。
隣村一番の、ベッピンなんだけど。
あの奇麗な顔に騙されちゃいけねえぜ。
あれを手籠めにしようとして、半殺しになった男が近隣の村で両手に余るんだ。
うちの村一番の暴れん坊があいつを姦っちまおうとして、去勢されちまったんだよ。」
オーガというのは想像上の魔物で、実在する訳ではありません。
物語の中で、凶暴で人を惨殺すると恐れられている巨人です。
『オーガ殺し』というのは、良く使われる比喩表現でとてつもなく強い人のことを示します。
普通、男性に使われる言葉で、女性に使われるのを聞いたのは初めてです。
『オーガ殺し』と言われた少女、とてもあどけない顔をした可愛い子なのですが。
人は見かけによりませんね。
悪ガキ共からこぼれてくる言葉に耳を傾けると、今回雇った十人はそれぞれが地元では悪ガキ共の天敵の様でした。
これで、少しは行いを改めると良いのですが…。
そう、去勢される前に。
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田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
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