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第15章 秋から冬へ、仕込みの季節です
第349話 穴掘りはホントに得意なようです
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「いやぁ、さすが精霊さんですね。見事なものです。
人力で地盤改良なんかした日には、ドンだけの月日を要したことか。
しかも、こんな堅固な地盤は出来ませんよ。
お見それしました。」
仕事振りを絶賛しながら、カバンの中から取り出したショコラーデを再びセピアちゃんに手渡すオークレフトさん。
「わーい!兄ちゃん、アリガトー!」
すっかり、餌付けされてしまっているようですね、セピアちゃん。
リーナが頭を抱えていました。
「で、これからどうするの?
ノミーちゃんに区割りとか、下水道掘りとかしてもらうのかしら。」
私はオークレフトさんに尋ねます。
「その前に決めておかないといけないことがあります。
汚水の処理施設の場所ですね。
何処に造るか決めておかないと、ノミーさんに下水道を掘ってもらうにも困るでしょう。」
私に返答したオークレフトさんは、地図を指差しながらヘレーネさんに問い掛けます。
「ここに出来る新市街から排出された汚水は最終的には、この川に流したいと思います。
川を汚さないために、汚水の処理施設を途中に設けることは説明しましたが。
何処か良いところはありますか。
現状、利用されていない土地で、新市街や集落からそこそこ離れている土地。」
汚水の処理施設と言っても当面は汚水を沈殿させて上澄みを川に放出するのだと言います。
そのために、そこそこの広さの沈殿池を三連で設け、順次沈殿させて三回の沈殿を経た上澄みを川に捨てるそうです。
当然の事ながら、臭います。それに見栄えも良くないです。
ですから、集落から離れている未利用地が望ましいそうです。
森の中であれば、人目に付かないし、木々が悪臭が阻んでくれるので良いのではとオークレフトさんは言います。
「そういう事であれば、現状管理に手が回らず持て余している森が何ヶ所かあります。
その内の一つを潰して汚水処理施設に充てましょう。」
オークレフトさんの問いに答えたヘレーネさんは、何ヶ所か地図上を指差しました。
ヘレーネさんの指さした場所を見たオークレフトさんは、思案顔になり現地を見てみたいと希望したのです。
********
そして、ガタガタと田舎道を馬車に揺られて候補地を巡ることになります。
巡ったのは三ヶ所、どれもそれなりに広い森でしたが…。
手を余しているとの言葉通り、間伐はおろか、下草も掃われていない森でした。
だからと言って、中に踏み込むのが大変かと言うと…。
そこはそれ、植物の精霊ドリーちゃんが歩き易いように下草を掃ってくれるので然したる労も無かったのですが。
オークレフトさんは、森に入るとその都度ノミーちゃんに何やら確認をしていました。
二ヶ所を巡った時点で難しい顔をしているオークレフトさん、余りお気に召した様子ではありませんでした。
そして、三番目に訪れた森の中で言います。
「ここにしましょう。
ここが一番理想的です。」
ノミーちゃんの話を聞いていたオークレフトさんが唐突に声を上げます。
「「?」」
私もリーナも、急に声を上げたオークレフトさんの意図が理解できず首を捻ました。
少なくとも私には前の二ヶ所との違いは分かりません。どれも荒れた森ですよね?
「今までの二ヶ所は標高が新市街より高い場所にあったのです。
この土地は、新市街から放流する川に向けて傾斜している斜面の中ほどに位置していて都合が良いのです。
それにこの森、沈殿池を三つ並べて作るのにも十分な広さもあります。
カロリーネ様、いかがですか。ここに決めてしまいませんか?」
どうやら、ノミーちゃんに聞いていたのは候補地と新市街、それに放流する川との位置関係、特に高低差だったようです。
「そうね、ここだったら、何かあっても汚水が逆流することは無いでしょうね。」
オークレフトさんの言葉に相槌をいれるノミーちゃん。
二人(?)の言葉を聞いて、リーナはヘレーネさんの表情を窺います。
「どうせ、この森も二束三文の持て余している土地ですし、よろしいのではないですか。
例によって、カロリーネお嬢様の精霊さんに穴を掘っていただければすぐでしょう。
ですが、この森って結構広いですよ。
この森の木々を退けるだけでかなりの時間と費用を要すると思いますが。」
ヘレーネさんはこの場所に汚水処理施設を造る事に異存はないようです。
セピアちゃんに穴掘りをさせることは決定事項なのですね…。
まあ、セピアちゃんも嫌がっていないから良いのでしょうか。
ただ、領地のお財布を預かるヘレーネさんとしては、森の木々の事が気がかりなようです。
「あっ、なるほど、それで私を呼んだんだ!
この森の木を抜いちゃえば良いんだね。」
私の肩の上に腰掛けていた植物の精霊ドリーちゃんが、アクアちゃんに呼ばれた意図に気付いたようです。
「そう、その通りよ。
ドリーさんなら難しい事ではないでしょう。
その男の計画を聞いて、あなたの力が必要だと思いましたの。
頼まれて頂けるかしら?」
水の精霊アクアちゃんはそれを肯定し、ドリーちゃんの意向を確認します。。
「いいよー!難しい事もないしね!
抜いた木はどうする?」
「それはこちらに頂戴できませんか、カロリーネ様。
元々、多額の費用を要する作業をシャルロッテ様の契約精霊さんがしてくださるのです。
その対価として取り払った木々をこちらにくださっても損は無いのでは。
ここにある木は、ホテルの内装材として使おうと思います。」
快く引き受けてくれたドリーちゃん。
取り払った木々の処理を尋ねる言葉に、すかさずオークレフトさんが権利を主張しました。
ちゃっかりしていますね…。
「ええ、そうして頂けますか。
何から、何まで、ロッテの精霊ちゃんにお願いしてしまい、心苦しかったのです。
ロッテの建てるホテルで使うのであれば、是非とも持って行ってください。」
オークレフトさんの主張を快く受け入れるリーナ。
話しは決まったようです。
********
「四方に森をある程度残して他の木を全部抜いちゃってもらえますか。
残す森の幅は、シャルロッテ様のお屋敷の正門の前にある森と同じくらいでお願いします。」
オークレフトさんがドリーちゃんに指示を出します。
例によって精霊達に細かい寸法を言っても無駄です。
シンプルに私の屋敷の森くらいの厚みを残すように言っています。
「りょーかい!
うんじゃ、サッとやっちゃうね!
せーの!」
なんか、とても軽い掛け声でしたが…。
「「「「えっ?」」」」
そんな、微笑まし掛け声とはかけ離れた光景が目の前で展開しました。
これにはみんな、度肝を抜かれます。
手入れが行き届かず無秩序に木が生い茂った広い森、その薄暗い森に燦燦と陽の光りが降り注ぎました。
いえ、言葉が正確ではありませんね。
森に光が差し込むようになったのではなく、森が消えて目の前が明るくなったのです。
私達が目にしたのは、目にもとまらぬ速さで、スポスポを引き抜かれる木々でした。
引き抜かれた木々はご丁寧に、根っこと枝を切り落とされ、それぞれ別の場所に積み上げられます。
まだ根が張っていない雑草を抜くような感じで大木がいとも簡単に引き抜かれていきます。
まるで、冗談のような光景でした。
「でーきた!
こんなもんで良いかな?」
ドリーちゃんがそんな声を上げた時には目の前の森はすっかり姿を消し地面が姿を現しています。
確かに、ノミーちゃんの言う通り、私達のいるところから前方に向かって緩やかな斜面になっているのが分かりました。
「これどうする?」
ドリーちゃんが切り分けた木をどうするか尋ねてきます。
「そうね、根っこと枝は薪にしましょうか。
それと積み上げてある幹の部分は丸太にしておいてくれるかな。
それ以降は、大工さんなり、建具屋さんなりに使い易いように加工して頂きましょう。
あと、適度に乾燥させておいてもらえると助かるのだけど。
悪いけどドリーちゃん、お願いできる?」
「うん、わかった!
そのくらいは簡単だよ!」
私のお願いに快い返事を聞かせてくれたドリーちゃん。
言葉通り、精霊がもつ超常の力をもってすれば容易い事だったようで…。
数十分後、私達の目の前には堆く積み上げられた丸太と使い易い大きさに揃えられた薪の山が出来ていました。
広い森を大部分を覆っていた木の大部分を丸太と薪にしてしまいました。
当然、その数たるやとんでもないモノで、丸太などいつ崩れてくるか冷や冷やするくらいの高さに積まれてます。
「うーん、こんな量の薪は使い切れないわね。
うちの館で使って、王都の館に持って行って、工房に配ってもまだ余るわ。
ねえ、リーナ、女学校とかで薪がたくさん必要でしょう、冬越しに。
これ、半分くらい持って行かない?」
私が薪の山を指差しながらリーナに勧めると…。
「それは助かるわ。
ヘレーネと女学校の冬越しにかかる費用を算段していてね。
昨年、薪代が思ったよりかかったので、今年はどうしようかと考えていたの。
私が所有している森で、生徒たちに拾わせようかという話もあったのよ。
それだけ頂けるのなら、生徒たちを勉学に専念させられるわ。」
そう言って喜ぶリーナ、小さな所領の予算では生徒三十人分の薪代も負担になるようです。
********
で、丸太やら、薪やらですが。
私が転送魔法の敷物を使って転送するには余りに量が多過ぎました。
仕方がないので、私の身近で唯一時空を自由に操れる精霊に頼むことにしました。
本当はアレにはなるべく借りを作りたくないのですが…。
ええ、処女偏愛嗜好のペガサス(もどき)を呼んで、丸太や薪をあちこちに送ってもらいました。
私の屋敷はもちろんのこと、工房やリーナの館にも薪を送ることは出来ました。
ですが…。
「この丸太、送る場所が我には分らんぞ。
行ったことが無いのでな、場所が特定できぬことには送りようがないな。
どうだ、主、然して遠くないのであれば、我を案内するが良い。
さすれば、すぐに送る事ができるぞ。
さ、さっ、我の背中に跨るのだ。」
などとのたまうヴァイス、私を背に乗せて飛ぶ気満々です。
こちらから頼みごとをしている手前、イヤとは言えませんでした。
私は、渋々ヴァイスの背に乗ってホテルの建設予定地と往復してきました。
その甲斐あって無事丸太も片付き、目の前に何も無くなった緩やかな斜面が広がっています。
「良い、よく聞いて?
この斜面、この場所が一番高いのは分かるよね。
この場所から、斜面の下方に向かって同じ大きさの池を三つ掘って。
なるべく大きな池を掘ってね。
順繰りに低い位置になるように作るの。」
セピアちゃんに指示を出すアクアちゃん。
その指示をボケっと聞いているセピアちゃんに一抹の不安を感じます。
「うーん、ここから下に向かって降るように穴を掘れば良いんだね。
三つ並べて。
わかったよ!
おいら、穴掘りは得意だ!」
まあ、そうなのですが…、本当に任せて大丈夫なのか心配です。
私の不安も何のその、セピアちゃんはさっそく穴掘りにかかります。
「うんじゃ、お菓子をご馳走になっている分、働くよ!
そーれ!」
セピアちゃんの掛け声と共に沈み込んでいく地面、穴を掘っているのですが…。
掘った土は何処にも見当たりません。
これもアレですか、トンネルを掘った時と同じで土を思い切り圧縮しているのでしょうか。
そして間もなく、一つ目の沈殿池となる穴が掘り終わります。
近づくと、穴の側面と底がまるで御影石のようにツルツルで光っています。
「あれれ、これは思った以上のデキだわ。
穴の側面も底もえらい密度の岩になってる。
つなぎ目もないし、かなりの厚みもある。
これなら、汚水が染み込んで地下水を汚す事も無いね。
深さも十分。
じゃあ、これと同じ大きさの池をあと二つ造って!」
「わかった!
おいら、頑張っちゃうよ!」
御影石のようになった穴の表面に手を当てて、出来栄えを調べていたノミーちゃんから合格が出ました。
合格が出ると共にセピアちゃんは二つ目の穴を掘り始めました。
そして、あっという間に沈殿池用の穴が三つ揃います。
「じゃあ、ここからが出番だね。
新市街からここまで下水道を結んじゃおうか。」
ちょっと待ってください、ノミーちゃん。
もう日が暮れます。
あとは日を改めましょうか。
人力で地盤改良なんかした日には、ドンだけの月日を要したことか。
しかも、こんな堅固な地盤は出来ませんよ。
お見それしました。」
仕事振りを絶賛しながら、カバンの中から取り出したショコラーデを再びセピアちゃんに手渡すオークレフトさん。
「わーい!兄ちゃん、アリガトー!」
すっかり、餌付けされてしまっているようですね、セピアちゃん。
リーナが頭を抱えていました。
「で、これからどうするの?
ノミーちゃんに区割りとか、下水道掘りとかしてもらうのかしら。」
私はオークレフトさんに尋ねます。
「その前に決めておかないといけないことがあります。
汚水の処理施設の場所ですね。
何処に造るか決めておかないと、ノミーさんに下水道を掘ってもらうにも困るでしょう。」
私に返答したオークレフトさんは、地図を指差しながらヘレーネさんに問い掛けます。
「ここに出来る新市街から排出された汚水は最終的には、この川に流したいと思います。
川を汚さないために、汚水の処理施設を途中に設けることは説明しましたが。
何処か良いところはありますか。
現状、利用されていない土地で、新市街や集落からそこそこ離れている土地。」
汚水の処理施設と言っても当面は汚水を沈殿させて上澄みを川に放出するのだと言います。
そのために、そこそこの広さの沈殿池を三連で設け、順次沈殿させて三回の沈殿を経た上澄みを川に捨てるそうです。
当然の事ながら、臭います。それに見栄えも良くないです。
ですから、集落から離れている未利用地が望ましいそうです。
森の中であれば、人目に付かないし、木々が悪臭が阻んでくれるので良いのではとオークレフトさんは言います。
「そういう事であれば、現状管理に手が回らず持て余している森が何ヶ所かあります。
その内の一つを潰して汚水処理施設に充てましょう。」
オークレフトさんの問いに答えたヘレーネさんは、何ヶ所か地図上を指差しました。
ヘレーネさんの指さした場所を見たオークレフトさんは、思案顔になり現地を見てみたいと希望したのです。
********
そして、ガタガタと田舎道を馬車に揺られて候補地を巡ることになります。
巡ったのは三ヶ所、どれもそれなりに広い森でしたが…。
手を余しているとの言葉通り、間伐はおろか、下草も掃われていない森でした。
だからと言って、中に踏み込むのが大変かと言うと…。
そこはそれ、植物の精霊ドリーちゃんが歩き易いように下草を掃ってくれるので然したる労も無かったのですが。
オークレフトさんは、森に入るとその都度ノミーちゃんに何やら確認をしていました。
二ヶ所を巡った時点で難しい顔をしているオークレフトさん、余りお気に召した様子ではありませんでした。
そして、三番目に訪れた森の中で言います。
「ここにしましょう。
ここが一番理想的です。」
ノミーちゃんの話を聞いていたオークレフトさんが唐突に声を上げます。
「「?」」
私もリーナも、急に声を上げたオークレフトさんの意図が理解できず首を捻ました。
少なくとも私には前の二ヶ所との違いは分かりません。どれも荒れた森ですよね?
「今までの二ヶ所は標高が新市街より高い場所にあったのです。
この土地は、新市街から放流する川に向けて傾斜している斜面の中ほどに位置していて都合が良いのです。
それにこの森、沈殿池を三つ並べて作るのにも十分な広さもあります。
カロリーネ様、いかがですか。ここに決めてしまいませんか?」
どうやら、ノミーちゃんに聞いていたのは候補地と新市街、それに放流する川との位置関係、特に高低差だったようです。
「そうね、ここだったら、何かあっても汚水が逆流することは無いでしょうね。」
オークレフトさんの言葉に相槌をいれるノミーちゃん。
二人(?)の言葉を聞いて、リーナはヘレーネさんの表情を窺います。
「どうせ、この森も二束三文の持て余している土地ですし、よろしいのではないですか。
例によって、カロリーネお嬢様の精霊さんに穴を掘っていただければすぐでしょう。
ですが、この森って結構広いですよ。
この森の木々を退けるだけでかなりの時間と費用を要すると思いますが。」
ヘレーネさんはこの場所に汚水処理施設を造る事に異存はないようです。
セピアちゃんに穴掘りをさせることは決定事項なのですね…。
まあ、セピアちゃんも嫌がっていないから良いのでしょうか。
ただ、領地のお財布を預かるヘレーネさんとしては、森の木々の事が気がかりなようです。
「あっ、なるほど、それで私を呼んだんだ!
この森の木を抜いちゃえば良いんだね。」
私の肩の上に腰掛けていた植物の精霊ドリーちゃんが、アクアちゃんに呼ばれた意図に気付いたようです。
「そう、その通りよ。
ドリーさんなら難しい事ではないでしょう。
その男の計画を聞いて、あなたの力が必要だと思いましたの。
頼まれて頂けるかしら?」
水の精霊アクアちゃんはそれを肯定し、ドリーちゃんの意向を確認します。。
「いいよー!難しい事もないしね!
抜いた木はどうする?」
「それはこちらに頂戴できませんか、カロリーネ様。
元々、多額の費用を要する作業をシャルロッテ様の契約精霊さんがしてくださるのです。
その対価として取り払った木々をこちらにくださっても損は無いのでは。
ここにある木は、ホテルの内装材として使おうと思います。」
快く引き受けてくれたドリーちゃん。
取り払った木々の処理を尋ねる言葉に、すかさずオークレフトさんが権利を主張しました。
ちゃっかりしていますね…。
「ええ、そうして頂けますか。
何から、何まで、ロッテの精霊ちゃんにお願いしてしまい、心苦しかったのです。
ロッテの建てるホテルで使うのであれば、是非とも持って行ってください。」
オークレフトさんの主張を快く受け入れるリーナ。
話しは決まったようです。
********
「四方に森をある程度残して他の木を全部抜いちゃってもらえますか。
残す森の幅は、シャルロッテ様のお屋敷の正門の前にある森と同じくらいでお願いします。」
オークレフトさんがドリーちゃんに指示を出します。
例によって精霊達に細かい寸法を言っても無駄です。
シンプルに私の屋敷の森くらいの厚みを残すように言っています。
「りょーかい!
うんじゃ、サッとやっちゃうね!
せーの!」
なんか、とても軽い掛け声でしたが…。
「「「「えっ?」」」」
そんな、微笑まし掛け声とはかけ離れた光景が目の前で展開しました。
これにはみんな、度肝を抜かれます。
手入れが行き届かず無秩序に木が生い茂った広い森、その薄暗い森に燦燦と陽の光りが降り注ぎました。
いえ、言葉が正確ではありませんね。
森に光が差し込むようになったのではなく、森が消えて目の前が明るくなったのです。
私達が目にしたのは、目にもとまらぬ速さで、スポスポを引き抜かれる木々でした。
引き抜かれた木々はご丁寧に、根っこと枝を切り落とされ、それぞれ別の場所に積み上げられます。
まだ根が張っていない雑草を抜くような感じで大木がいとも簡単に引き抜かれていきます。
まるで、冗談のような光景でした。
「でーきた!
こんなもんで良いかな?」
ドリーちゃんがそんな声を上げた時には目の前の森はすっかり姿を消し地面が姿を現しています。
確かに、ノミーちゃんの言う通り、私達のいるところから前方に向かって緩やかな斜面になっているのが分かりました。
「これどうする?」
ドリーちゃんが切り分けた木をどうするか尋ねてきます。
「そうね、根っこと枝は薪にしましょうか。
それと積み上げてある幹の部分は丸太にしておいてくれるかな。
それ以降は、大工さんなり、建具屋さんなりに使い易いように加工して頂きましょう。
あと、適度に乾燥させておいてもらえると助かるのだけど。
悪いけどドリーちゃん、お願いできる?」
「うん、わかった!
そのくらいは簡単だよ!」
私のお願いに快い返事を聞かせてくれたドリーちゃん。
言葉通り、精霊がもつ超常の力をもってすれば容易い事だったようで…。
数十分後、私達の目の前には堆く積み上げられた丸太と使い易い大きさに揃えられた薪の山が出来ていました。
広い森を大部分を覆っていた木の大部分を丸太と薪にしてしまいました。
当然、その数たるやとんでもないモノで、丸太などいつ崩れてくるか冷や冷やするくらいの高さに積まれてます。
「うーん、こんな量の薪は使い切れないわね。
うちの館で使って、王都の館に持って行って、工房に配ってもまだ余るわ。
ねえ、リーナ、女学校とかで薪がたくさん必要でしょう、冬越しに。
これ、半分くらい持って行かない?」
私が薪の山を指差しながらリーナに勧めると…。
「それは助かるわ。
ヘレーネと女学校の冬越しにかかる費用を算段していてね。
昨年、薪代が思ったよりかかったので、今年はどうしようかと考えていたの。
私が所有している森で、生徒たちに拾わせようかという話もあったのよ。
それだけ頂けるのなら、生徒たちを勉学に専念させられるわ。」
そう言って喜ぶリーナ、小さな所領の予算では生徒三十人分の薪代も負担になるようです。
********
で、丸太やら、薪やらですが。
私が転送魔法の敷物を使って転送するには余りに量が多過ぎました。
仕方がないので、私の身近で唯一時空を自由に操れる精霊に頼むことにしました。
本当はアレにはなるべく借りを作りたくないのですが…。
ええ、処女偏愛嗜好のペガサス(もどき)を呼んで、丸太や薪をあちこちに送ってもらいました。
私の屋敷はもちろんのこと、工房やリーナの館にも薪を送ることは出来ました。
ですが…。
「この丸太、送る場所が我には分らんぞ。
行ったことが無いのでな、場所が特定できぬことには送りようがないな。
どうだ、主、然して遠くないのであれば、我を案内するが良い。
さすれば、すぐに送る事ができるぞ。
さ、さっ、我の背中に跨るのだ。」
などとのたまうヴァイス、私を背に乗せて飛ぶ気満々です。
こちらから頼みごとをしている手前、イヤとは言えませんでした。
私は、渋々ヴァイスの背に乗ってホテルの建設予定地と往復してきました。
その甲斐あって無事丸太も片付き、目の前に何も無くなった緩やかな斜面が広がっています。
「良い、よく聞いて?
この斜面、この場所が一番高いのは分かるよね。
この場所から、斜面の下方に向かって同じ大きさの池を三つ掘って。
なるべく大きな池を掘ってね。
順繰りに低い位置になるように作るの。」
セピアちゃんに指示を出すアクアちゃん。
その指示をボケっと聞いているセピアちゃんに一抹の不安を感じます。
「うーん、ここから下に向かって降るように穴を掘れば良いんだね。
三つ並べて。
わかったよ!
おいら、穴掘りは得意だ!」
まあ、そうなのですが…、本当に任せて大丈夫なのか心配です。
私の不安も何のその、セピアちゃんはさっそく穴掘りにかかります。
「うんじゃ、お菓子をご馳走になっている分、働くよ!
そーれ!」
セピアちゃんの掛け声と共に沈み込んでいく地面、穴を掘っているのですが…。
掘った土は何処にも見当たりません。
これもアレですか、トンネルを掘った時と同じで土を思い切り圧縮しているのでしょうか。
そして間もなく、一つ目の沈殿池となる穴が掘り終わります。
近づくと、穴の側面と底がまるで御影石のようにツルツルで光っています。
「あれれ、これは思った以上のデキだわ。
穴の側面も底もえらい密度の岩になってる。
つなぎ目もないし、かなりの厚みもある。
これなら、汚水が染み込んで地下水を汚す事も無いね。
深さも十分。
じゃあ、これと同じ大きさの池をあと二つ造って!」
「わかった!
おいら、頑張っちゃうよ!」
御影石のようになった穴の表面に手を当てて、出来栄えを調べていたノミーちゃんから合格が出ました。
合格が出ると共にセピアちゃんは二つ目の穴を掘り始めました。
そして、あっという間に沈殿池用の穴が三つ揃います。
「じゃあ、ここからが出番だね。
新市街からここまで下水道を結んじゃおうか。」
ちょっと待ってください、ノミーちゃん。
もう日が暮れます。
あとは日を改めましょうか。
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田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
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