最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい

アイイロモンペ

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第15章 秋から冬へ、仕込みの季節です

第351話 へえー、そんな事も出来るんだ

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 下水道が無事に沈殿池に繋がったのを確認して新市街地の予定地に戻ってくると…。
 人が集まっていました…。

 それはそうですよね、昨日の朝までは半分湿地のような場所だったのです。
 それが、いつの間にか区画整然とした土地に変わっているのですから。

 人目に付かないように、早朝から作業をしていたのですが。
 流石に出来上がった土地を隠すことは出来ませんものね。

「いつの間に、こんな土地が出来たんだ?」

「これ道だよなあ?
 表面まっ平で、つなぎ目が無いんだよ。
 石を敷いたというより、一枚岩みたいに見えるぜ。」

「こんな事をするのは領主様しかいないよな…。」

 群衆の中からそんな会話が聞こえてきます。

「ハイ、ハイ、皆さん、聞いてください。
 私は、ここシューネフルトのご領主様に仕えるヘレーネと申します。
 この辺り一帯は、ご領主様の所有地です。
 この度、ご領主様とアルムハイム伯が共同でこの辺り一帯に新しい街を創る事になりました。
 早急にお触れを出しますが、皆さん、勝手にこの土地に立ち入らないようにしてください。
 間違っても、勝手に建物を建てるような事は無いようにしてくださいね。」

 パンパンと手を叩いて群衆の注目を集めたヘレーネさんが、開発予定地に立ち入らないように注意を呼びかけました。
 更に、この一帯については、建てられる建物や営める事業に制限を付ける方向で検討している事を説明しました。
 そして、その条件に従う者に対し一部土地の売却を予定している事も告げます。

「アルムハイム伯が造るホテルと鉄道の用地及びご領主様が利用する敷地以外については売却も検討しています。
 売却の際に付せられる条件をこれから検討しますので、買受を希望する方はしばらくお待ちください。
 決まりましたら、お触れを出しますので。」

「お役人様、その制限というのはどんなモノなんですか?」

 ヘレーネさんの説明に、商人風の男が新市街地の利用制限について興味津々の様子で尋ねました。

「領主様は、シューネフルトを含むアルム地方一帯を、裕福な方々に余暇を過ごして頂く場所にしようと考えておられます。
 今回開発する新市街は、アルム地方の玄関口、いわば顔となる場所です。
 上流階級の方々を迎えるにふさわしい、シックで上品な街並みにしようと計画しています。
 そのため、猥雑なモノ、例えば娼館とか、酌婦のいる酒場とか、そういったモノの営業は許可しない方向で検討しています。
 その他、建物の外観等にも制限を設ける形で検討するつもりでいます。」

「酌婦のいる酒場や娼館ですか?
 言っちゃあ何ですが、こんな片田舎の町にはそんなもんありませんぜ。」

「いや、お役人様のおっしゃることは理に適っているぜ。
 最近奇跡目当に他所から来るお客さんが増えてて、宿が足りねえくらいだと聞いている。
 余所者が増えれば、それを当て込んでそんな商売を始めようとする輩がいるかも知れねえぞ。
 ご領主様は、そんな輩が現れないように初めから禁止してしまおうってんだ。」

「ふーん、金持ち連中が集まる街か。
 そりゃ、さぞかし地元に金を落としてくれることだろうな。
 後々が楽しみだぜ。」

 ヘレーネさんの説明を聞いた人々からそんな声が聞こえてきました。
 集まった人たちの表情を見ていると概ね好意的に受け止めてもらえた様子でした。
 ヘレーネさんから街区の説明を聞いた人たちは、三々五々に立ち去って行きました。
 この先が立ち入り禁止と言われたこともあり、ここにいても仕方がないと思ったのでしょう。

     ********

「さすがに、この状況は隠せませんものね。
 まあ、ヘレーネから直接町の人に説明する機会が出来て良かったと思うことにしましょう。
 あの人達が街に帰って、ここは立ち入り禁止だと広めてくれるでしょう。
 ですが、この街区に立ち入って悪さをする者が出ないよう、衛兵に見回りさせる必要はありますね。」

 立ち去るやじ馬たちを見ながらリーナが呟きます。
 ヘレーネさんの説明でみんな納得して帰ってくれて良かったです。
 どうやって一晩でこんな街区を整備したのかと、突っ込まれたらどう答えようかと思いました。

 で、改めてやって来ました、ホテルの建設予定地。
 シューネ湖に面した一際広い街区、今回開発する新市街の湖畔の幅の約四分の一を占めています。

「ここに宮殿風のホテルを建てようと思うの。
 ねえ、ノミーちゃん、散々お願いして申し訳ないけど。
 ノミーちゃんの力で石造りの建物って作れないかな?
 来訪者がシューネフルトの宿の収容人数を越えてしまっているし。
 新しい子を雇ったらいつまでも、リーナのところに預けておく訳にもいかないの。
 少しでも早くホテルを建てようとするとノミーちゃんにお願いするしかないのよ。」

 私は申し訳ないなと思いつつ、ノミーちゃんに可能かどうかを尋ねてみました。

「良いわよ、そんなにすまなそうな顔をしなくても。
 乗り掛かった船だし、最後まで付き合ってあげるわ。
 出来るかと問われれば、出来るよ。
 ただし、その男みたいな細かい注文をつけられてもねぇ…。」

 オークレフトさんをジトっとした目でみて、細かい注文を付けられないように牽制するノミーちゃん。
 設計図通りなどには出来ないそうです。
 何ができるのかを聞いたところ、巨大な石の箱のようなモノなら出来ると言います。
 それに、扉や窓を取り付けるための空間を開ける事も可能だと言っていました。

 そして、よくよく聞いて行くと…。

「ぶっちゃけ、こんなものを造ってと細かく指示されるより、これと同じ物を造ってと言われる方が楽なんだ。
 全体の形を把握して、それと同じ形の石の箱を造れば済む話だし。
 例えば、ロッテちゃんのアルムハイムの館やアルビオンの館と全く同じ物を造れと言われたたすぐできるよ。
 あの二つの館の形は隅々まで把握しているから。
 出来るのは石で出来た部分だけだけど。」

 などとノミーちゃんは言いました。
 箱というのは何も四角いモノでないとダメと言うことではないようです。
 箱状の一体となったモノであれば形状は問わないし、間仕切りも出来るようです。
 通常、石造りの建物というと切り石を積み上げて造りますが。
 ノミーちゃんが造る建物は大きな岩塊をくり抜いたような形になるようです、つなぎ目のない一体成型の。

「そんなことができるのであれば、有り難いわ。
 石造りの部分が出来ちゃえば、あとは内装やら、建具やらを造ってもらうだけですものね。
 秋の内に石造りの躯体が出来てしまえば、冬の間に大工さんや建具屋さんに作業してもらえるわ。
 幸いなことに木材は余るほどあるから。」

 私は、敷地の隅に積み上げられている膨大な数の丸太を見ながらノミーちゃんにお願いしました。

「ガッテンだよ!
 どうする、アルムハイムの館と同じ物を造っちゃう?
 それとも、王都の館にする?」

 私のお願いを気風の良い返事で引き受けてくれたノミーちゃん。
 さっそく、手掛けてくれようとしますが。

「それは、ちょっと待ってね。
 私が所有する館は両方とも凹型をしていのよ。
 これだと、湖に面している部屋は一面だけになっちゃいます。
 私としては、客室は全室湖に面した形にしたいと思っているの。
 だから、横一直線に部屋が配置された建物が良いのよ。
 どこかにそんな宮殿がないか、ちょっと見て来ましょう。」

 今私達が立っている湖畔の敷地、シューネ湖越しにアルム山脈の絶景が見渡せる絶好のロケーションです。
 全ての客室から、この景色を見ることが出来るようにするためには、横一列に客室を配置する必要があります。
 そんな宮殿を探して、ノミーちゃんに構造を覚えてもらえば願ったり叶ったりです。

 それに、実はアテがあるのです。

     ********

「おお、ロッテや、よく来てくれた。
 私はそなたの顔が見れて嬉しいぞ。」

 毎度のことながら、ノックもせずに私の部屋の扉を開けたおじいさまが、私の来訪を歓迎してくれました。
 お約束の挨拶は置いておくとして…。

「おじいさま、今日はいつぞや言ってらした離宮を見せて頂こうと思ってお邪魔しました。」

「おお、やっと、あの離宮をもらってくれる気になってくれたか。
 それは良かった。
 ロッテがあそこに住んでくれれば、ちょくちょく会いに行くことができるからの。」

 以前、おじいさまに言われたことがありました。
 おじいさまが所有する離宮を一つくださると。

 もちろん、即座に断りました。
 私が帝室の一員だと印象付けるようなモノをもらう訳にはいきません。
 それこそ、私の一族が帝室に取り込まれてしまいます。

「いえ、おじいさま、早合点するのは止めてください。
 実はその宮殿を拝見して、建物の形状を把握したいのです。」

 私はおじいさまに宮殿を見せてもらいたい理由を説明しました。

「なんじゃ、私のぬか喜びであったか。
 それは残念だ。ロッテを傍に置いておけるかと思ったのに。
 しかし、なかなかに面白い力を持っておるの、その精霊さんは。
 わかった、それではこれから見に行くことにしようかの。
 なに、馬車に乗れば一時間もせずに着く。」

 そう言ったおじいさま。宰相に仕事を放り投げて、本当にすぐ出発しました。
 帝都を囲む城壁を出て約三十分、目指す宮殿が鎮座しています。

 この宮殿、低い丘の上と下に宮殿の建物があり、その間の斜面が広大な庭園となっています。
 二つの宮殿の間を歩くとゆうに三十分はかかるほど広い庭園です。

 そして、お目当ては元々迎賓館として建てられた上宮です。
 おじいさまから譲ると言われた時に聞かされました。

 丘の上に位置する上宮からは美しい庭園越しに、帝都の風景が一望に出来ると。
 そして、迎賓館として、滞在している賓客がその眺望を堪能できるように全室庭園側を向いていることを。

 ええ、おじいさまから聞いていた話では、横一列に部屋が配置された、お手本にするのにぴったりの宮殿なのです。

「素晴らしい眺望であろう。
 今はこの宮殿を使っている者は誰もおらんのだ。
 どうであるか、この眺望を見て気が変わったりはせんか?」

 おじいさま、しつこいです…。
 ですが、おじいさまの言葉通り見事な眺望でした。
 丹精込めて造られた美しい庭園、そしてその先には美しい街並みの帝都が広がっています。

 各部屋を回ってみると、その見事な眺望をどの部屋からも見ることが出来ます。申し分ない構造です。

「ノミーちゃん、この宮殿の形を覚えることが出来るかな。
 この宮殿をそっくりそのまま、シューネ湖に面して建てて欲しいのだけど。」

 私は、肩の上に腰掛けているノミーちゃんに尋ねてみます。

「任せて!たぶんできると思う。
 全体の形を把握して覚えるから少し待っていて。」

 ノミーちゃんはそう言い残して飛んでいってしまいました。
 宮殿各所を回って建物の形を把握するみたいです。

「何とも、有能な精霊さんであることよ。
 しかし、いよいよアルム地方の振興計画が動き出すのか。
 そのホテルが出来るのが楽しみであるな。
 私が真っ先に泊まりに行くこととしよう。」

「はい、おじいさま。
 是非、おじいさまにも見て頂きたいです。
 完成しましたら、開業前にご招待しますね。」

「おお、それは楽しみじゃ。」

 おじいさまが本当に楽しみにしているような表情を見せてくれました。
 是非とも早く完成させて、おじいさまをご招待したいものです。

 そして、しばらくラウンジで休んでいるとノミーちゃんが戻って来ました。

「バッチリだよ!
 今すぐ、戻ってでも造れるよ。」

 どうやら、上手くいきそうです。
 ノミーちゃんはとても意気込みを見せてくれますが…。

 少し待ってくださいね。
 用件が済んだらすぐ帰るでは、おじいさまが悲しんでしまいます。
 もう少し、ゆっくりして行きましょう。
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