354 / 580
第15章 秋から冬へ、仕込みの季節です
第351話 へえー、そんな事も出来るんだ
しおりを挟む下水道が無事に沈殿池に繋がったのを確認して新市街地の予定地に戻ってくると…。
人が集まっていました…。
それはそうですよね、昨日の朝までは半分湿地のような場所だったのです。
それが、いつの間にか区画整然とした土地に変わっているのですから。
人目に付かないように、早朝から作業をしていたのですが。
流石に出来上がった土地を隠すことは出来ませんものね。
「いつの間に、こんな土地が出来たんだ?」
「これ道だよなあ?
表面まっ平で、つなぎ目が無いんだよ。
石を敷いたというより、一枚岩みたいに見えるぜ。」
「こんな事をするのは領主様しかいないよな…。」
群衆の中からそんな会話が聞こえてきます。
「ハイ、ハイ、皆さん、聞いてください。
私は、ここシューネフルトのご領主様に仕えるヘレーネと申します。
この辺り一帯は、ご領主様の所有地です。
この度、ご領主様とアルムハイム伯が共同でこの辺り一帯に新しい街を創る事になりました。
早急にお触れを出しますが、皆さん、勝手にこの土地に立ち入らないようにしてください。
間違っても、勝手に建物を建てるような事は無いようにしてくださいね。」
パンパンと手を叩いて群衆の注目を集めたヘレーネさんが、開発予定地に立ち入らないように注意を呼びかけました。
更に、この一帯については、建てられる建物や営める事業に制限を付ける方向で検討している事を説明しました。
そして、その条件に従う者に対し一部土地の売却を予定している事も告げます。
「アルムハイム伯が造るホテルと鉄道の用地及びご領主様が利用する敷地以外については売却も検討しています。
売却の際に付せられる条件をこれから検討しますので、買受を希望する方はしばらくお待ちください。
決まりましたら、お触れを出しますので。」
「お役人様、その制限というのはどんなモノなんですか?」
ヘレーネさんの説明に、商人風の男が新市街地の利用制限について興味津々の様子で尋ねました。
「領主様は、シューネフルトを含むアルム地方一帯を、裕福な方々に余暇を過ごして頂く場所にしようと考えておられます。
今回開発する新市街は、アルム地方の玄関口、いわば顔となる場所です。
上流階級の方々を迎えるにふさわしい、シックで上品な街並みにしようと計画しています。
そのため、猥雑なモノ、例えば娼館とか、酌婦のいる酒場とか、そういったモノの営業は許可しない方向で検討しています。
その他、建物の外観等にも制限を設ける形で検討するつもりでいます。」
「酌婦のいる酒場や娼館ですか?
言っちゃあ何ですが、こんな片田舎の町にはそんなもんありませんぜ。」
「いや、お役人様のおっしゃることは理に適っているぜ。
最近奇跡目当に他所から来るお客さんが増えてて、宿が足りねえくらいだと聞いている。
余所者が増えれば、それを当て込んでそんな商売を始めようとする輩がいるかも知れねえぞ。
ご領主様は、そんな輩が現れないように初めから禁止してしまおうってんだ。」
「ふーん、金持ち連中が集まる街か。
そりゃ、さぞかし地元に金を落としてくれることだろうな。
後々が楽しみだぜ。」
ヘレーネさんの説明を聞いた人々からそんな声が聞こえてきました。
集まった人たちの表情を見ていると概ね好意的に受け止めてもらえた様子でした。
ヘレーネさんから街区の説明を聞いた人たちは、三々五々に立ち去って行きました。
この先が立ち入り禁止と言われたこともあり、ここにいても仕方がないと思ったのでしょう。
********
「さすがに、この状況は隠せませんものね。
まあ、ヘレーネから直接町の人に説明する機会が出来て良かったと思うことにしましょう。
あの人達が街に帰って、ここは立ち入り禁止だと広めてくれるでしょう。
ですが、この街区に立ち入って悪さをする者が出ないよう、衛兵に見回りさせる必要はありますね。」
立ち去るやじ馬たちを見ながらリーナが呟きます。
ヘレーネさんの説明でみんな納得して帰ってくれて良かったです。
どうやって一晩でこんな街区を整備したのかと、突っ込まれたらどう答えようかと思いました。
で、改めてやって来ました、ホテルの建設予定地。
シューネ湖に面した一際広い街区、今回開発する新市街の湖畔の幅の約四分の一を占めています。
「ここに宮殿風のホテルを建てようと思うの。
ねえ、ノミーちゃん、散々お願いして申し訳ないけど。
ノミーちゃんの力で石造りの建物って作れないかな?
来訪者がシューネフルトの宿の収容人数を越えてしまっているし。
新しい子を雇ったらいつまでも、リーナのところに預けておく訳にもいかないの。
少しでも早くホテルを建てようとするとノミーちゃんにお願いするしかないのよ。」
私は申し訳ないなと思いつつ、ノミーちゃんに可能かどうかを尋ねてみました。
「良いわよ、そんなにすまなそうな顔をしなくても。
乗り掛かった船だし、最後まで付き合ってあげるわ。
出来るかと問われれば、出来るよ。
ただし、その男みたいな細かい注文をつけられてもねぇ…。」
オークレフトさんをジトっとした目でみて、細かい注文を付けられないように牽制するノミーちゃん。
設計図通りなどには出来ないそうです。
何ができるのかを聞いたところ、巨大な石の箱のようなモノなら出来ると言います。
それに、扉や窓を取り付けるための空間を開ける事も可能だと言っていました。
そして、よくよく聞いて行くと…。
「ぶっちゃけ、こんなものを造ってと細かく指示されるより、これと同じ物を造ってと言われる方が楽なんだ。
全体の形を把握して、それと同じ形の石の箱を造れば済む話だし。
例えば、ロッテちゃんのアルムハイムの館やアルビオンの館と全く同じ物を造れと言われたたすぐできるよ。
あの二つの館の形は隅々まで把握しているから。
出来るのは石で出来た部分だけだけど。」
などとノミーちゃんは言いました。
箱というのは何も四角いモノでないとダメと言うことではないようです。
箱状の一体となったモノであれば形状は問わないし、間仕切りも出来るようです。
通常、石造りの建物というと切り石を積み上げて造りますが。
ノミーちゃんが造る建物は大きな岩塊をくり抜いたような形になるようです、つなぎ目のない一体成型の。
「そんなことができるのであれば、有り難いわ。
石造りの部分が出来ちゃえば、あとは内装やら、建具やらを造ってもらうだけですものね。
秋の内に石造りの躯体が出来てしまえば、冬の間に大工さんや建具屋さんに作業してもらえるわ。
幸いなことに木材は余るほどあるから。」
私は、敷地の隅に積み上げられている膨大な数の丸太を見ながらノミーちゃんにお願いしました。
「ガッテンだよ!
どうする、アルムハイムの館と同じ物を造っちゃう?
それとも、王都の館にする?」
私のお願いを気風の良い返事で引き受けてくれたノミーちゃん。
さっそく、手掛けてくれようとしますが。
「それは、ちょっと待ってね。
私が所有する館は両方とも凹型をしていのよ。
これだと、湖に面している部屋は一面だけになっちゃいます。
私としては、客室は全室湖に面した形にしたいと思っているの。
だから、横一直線に部屋が配置された建物が良いのよ。
どこかにそんな宮殿がないか、ちょっと見て来ましょう。」
今私達が立っている湖畔の敷地、シューネ湖越しにアルム山脈の絶景が見渡せる絶好のロケーションです。
全ての客室から、この景色を見ることが出来るようにするためには、横一列に客室を配置する必要があります。
そんな宮殿を探して、ノミーちゃんに構造を覚えてもらえば願ったり叶ったりです。
それに、実はアテがあるのです。
********
「おお、ロッテや、よく来てくれた。
私はそなたの顔が見れて嬉しいぞ。」
毎度のことながら、ノックもせずに私の部屋の扉を開けたおじいさまが、私の来訪を歓迎してくれました。
お約束の挨拶は置いておくとして…。
「おじいさま、今日はいつぞや言ってらした離宮を見せて頂こうと思ってお邪魔しました。」
「おお、やっと、あの離宮をもらってくれる気になってくれたか。
それは良かった。
ロッテがあそこに住んでくれれば、ちょくちょく会いに行くことができるからの。」
以前、おじいさまに言われたことがありました。
おじいさまが所有する離宮を一つくださると。
もちろん、即座に断りました。
私が帝室の一員だと印象付けるようなモノをもらう訳にはいきません。
それこそ、私の一族が帝室に取り込まれてしまいます。
「いえ、おじいさま、早合点するのは止めてください。
実はその宮殿を拝見して、建物の形状を把握したいのです。」
私はおじいさまに宮殿を見せてもらいたい理由を説明しました。
「なんじゃ、私のぬか喜びであったか。
それは残念だ。ロッテを傍に置いておけるかと思ったのに。
しかし、なかなかに面白い力を持っておるの、その精霊さんは。
わかった、それではこれから見に行くことにしようかの。
なに、馬車に乗れば一時間もせずに着く。」
そう言ったおじいさま。宰相に仕事を放り投げて、本当にすぐ出発しました。
帝都を囲む城壁を出て約三十分、目指す宮殿が鎮座しています。
この宮殿、低い丘の上と下に宮殿の建物があり、その間の斜面が広大な庭園となっています。
二つの宮殿の間を歩くとゆうに三十分はかかるほど広い庭園です。
そして、お目当ては元々迎賓館として建てられた上宮です。
おじいさまから譲ると言われた時に聞かされました。
丘の上に位置する上宮からは美しい庭園越しに、帝都の風景が一望に出来ると。
そして、迎賓館として、滞在している賓客がその眺望を堪能できるように全室庭園側を向いていることを。
ええ、おじいさまから聞いていた話では、横一列に部屋が配置された、お手本にするのにぴったりの宮殿なのです。
「素晴らしい眺望であろう。
今はこの宮殿を使っている者は誰もおらんのだ。
どうであるか、この眺望を見て気が変わったりはせんか?」
おじいさま、しつこいです…。
ですが、おじいさまの言葉通り見事な眺望でした。
丹精込めて造られた美しい庭園、そしてその先には美しい街並みの帝都が広がっています。
各部屋を回ってみると、その見事な眺望をどの部屋からも見ることが出来ます。申し分ない構造です。
「ノミーちゃん、この宮殿の形を覚えることが出来るかな。
この宮殿をそっくりそのまま、シューネ湖に面して建てて欲しいのだけど。」
私は、肩の上に腰掛けているノミーちゃんに尋ねてみます。
「任せて!たぶんできると思う。
全体の形を把握して覚えるから少し待っていて。」
ノミーちゃんはそう言い残して飛んでいってしまいました。
宮殿各所を回って建物の形を把握するみたいです。
「何とも、有能な精霊さんであることよ。
しかし、いよいよアルム地方の振興計画が動き出すのか。
そのホテルが出来るのが楽しみであるな。
私が真っ先に泊まりに行くこととしよう。」
「はい、おじいさま。
是非、おじいさまにも見て頂きたいです。
完成しましたら、開業前にご招待しますね。」
「おお、それは楽しみじゃ。」
おじいさまが本当に楽しみにしているような表情を見せてくれました。
是非とも早く完成させて、おじいさまをご招待したいものです。
そして、しばらくラウンジで休んでいるとノミーちゃんが戻って来ました。
「バッチリだよ!
今すぐ、戻ってでも造れるよ。」
どうやら、上手くいきそうです。
ノミーちゃんはとても意気込みを見せてくれますが…。
少し待ってくださいね。
用件が済んだらすぐ帰るでは、おじいさまが悲しんでしまいます。
もう少し、ゆっくりして行きましょう。
2
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
学園アルカナディストピア
石田空
ファンタジー
国民全員にアルカナカードが配られ、大アルカナには貴族階級への昇格が、小アルカナには平民としての屈辱が与えられる階級社会を形成していた。
その中で唯一除外される大アルカナが存在していた。
何故か大アルカナの内【運命の輪】を与えられた人間は処刑されることとなっていた。
【運命の輪】の大アルカナが与えられ、それを秘匿して生活するスピカだったが、大アルカナを持つ人間のみが在籍する学園アルカナに召喚が決まってしまう。
スピカは自分が【運命の輪】だと気付かれぬよう必死で潜伏しようとするものの、学園アルカナ内の抗争に否が応にも巻き込まれてしまう。
国の維持をしようとする貴族階級の生徒会。
国に革命を起こすために抗争を巻き起こす平民階級の組織。
何故か暗躍する人々。
大アルカナの中でも発生するスクールカースト。
入学したてで右も左もわからないスピカは、同時期に入学した【愚者】の少年アレスと共に抗争に身を投じることとなる。
ただの学園内抗争が、世界の命運を決める……?
サイトより転載になります。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる