最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい

アイイロモンペ

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第17章 夏、季節外れの嵐が通り過ぎます

第482話 食べ物に釣られているようです

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 王宮からの帰りの馬車の中。

「すごいなあ、ケリーって兄ちゃん、ごはんも無いくらいビンボーだったんだって。
 おれ、最初見た時、お貴族様の子供かと思ったよ。
 あんなきれいな格好をして、お貴族様みたいなしゃべり方するんだもん。
 おれたちみたいな、ビンボー人でも頑張ればああなれるのかな。」

 ナナちゃんの弟君の一人がケリー君を思い返してそんな感想を口にしました。

「けりーにいたんはエリーにごはん食べさせてくれたんだ。
 一つのパンを、エリーとサリーと、けりーにいたんでわけてたべたの。」

「うん、三つにわけて、いちばん小さいのをけりーにいたんがたべたの。
 サリーとエリーがおなかすかすとかわいそうだって。」

 その言葉を耳にして、私の膝の上に座っているエリーが、ケリー君に食事を分けてもらった話をします。
 サリーも、エリーの言葉を補足するように、その時の様子を教えてくれました。

 ちょうど良い機会なので、私もケリー君やサリー、エリーと出会った時の話を聞かせてあげました。

「信じられねえ…、自分が腹が減っている時にこのチビ達に自分の食い物を分けたって…。
 おれには、とてもできねえな。
 うちの村で食いモンが足りなくなったら、ガキ大将が食い物を独り占めしちまうぜ。」

 私の話を聞き終えた時、弟君がそんな呟きを零します。

「ケリー君がそんな人柄だから、王様もケリー君を高く評価したのよ。
 どんなに、頭が良くても、人を騙して金儲けをするようなずる賢い人は誰も評価しないわ。
 頭が良くて、人を思いやる優しさのある人が高く評価されるのよ。
 食べ物が足りない時に、喧嘩の強い人が独り占めするなんてのは、あってはダメなことなのよ。」

 私の言葉を聞いて、下の弟君はまだ納得していないようで、「そんなの変だよ。」なんて漏らしてますが。

「おれはなんとなく分かったよ。
 ケリー兄ちゃんみたいな人が偉くなるここは、家も立派だし、みんなきれいな格好をしてる。
 子供だって、俺たちみたいにガリガリに痩せている子供はいないし。
 おれたちは、ボロい服を着て、雨漏りはするし、冷たい風が入ってくる家に住んでるんだ。
 おれたちの村とどっちが良いかと聞かれたら、みんな、こっちが良いって言うに決まってるよ。
 やっぱり、おかしいのはうちの村の方だと思う。」

 私の館に近づいた時、上の弟君は馬車の車窓の外に並ぶお屋敷を見ながらそう言っていました。
 まあ、私の館の周辺は高級住宅街なので特に立派な家が並んでいるのですが。
 もっとも、この辺りの住民は平民の中でも知識階級と言われる人々が多く住んでいる街区なので。
 この国では頭の良い人が豊かだと言うのは、あながち間違いではないのですが。
 
     ********

 その日の晩、みんなには、ブラウニーのステラちゃんが腕によりを掛けたご馳走を食べてもらいました。

「うめえ、おれ、こんなうめーもの、はじめてたべた。」

 下の弟君が、料理に口をつけて開口一番そう言ったかと思うと、一心不乱にかき込始めました。
 ナナちゃんはその様子に恥ずかしそうな顔をし、他の女の子は引いてしまいました。

 上の弟君も美味しそうに食べていますが、下の子ほど意地汚くかき込んでいるという様子ではありません。

「さっきの話じゃないけど。
 こんな美味しいものを、お腹一杯に食べられるのなら…。
 おれたちの村より、こっちの方が良いに決まってる。
 ノノ姉ちゃんが言ってたけど。
 平民でも、領主様のもとに仕えると、朝晩うめえものを腹一杯くえるって。
 でも、そのためには、読み書き算術がスラスラできないとダメだって。
 やっぱり、喧嘩が強くなるより、勉強した方が良いんだ…。」

 上の弟君は、ゆっくりと料理を口に運びながら、並べられた幾つもの皿を見てしみじみと呟いたのです。
 その呟きは隣で一心不乱に料理をかき込んでいた下の弟君の耳にも届いたようで。

「そういえば、ノノねえちゃん、言ってたな。
 領主様につかえるとうまいものを腹一杯食えるって。
 おれ、うまいものってどんなものだか知らなかったから。
 腹いっぱい、食うだけなら、村にいたってできると思ってたよ。
 村長さんの牧場で、かしらを任せてもらえば、腹いっぱい食えるって。
 そのためには、力持じゃないといけねえと教えられたんだ。
 でも、村長さんのところで働いたら、こんなうめえものは食えねえな。
 おれもやっぱり、読み書き算術をきちんと習った方がいいかな。」

 食べ物の効果は絶大でした。
 村では、ともかくお腹を膨らませるのが最優先で、味付けは二の次みたいですからね。
 下の弟君は、おいしいごはんと聞いてもピンとこず、ノノちゃんの話をスルーしていたようです。
 将来美味しいものを食べられるようになれるなら、真面目に勉強した方が良いかと思い始めた様子です。

    ********

 そして、翌日。
 アルビオン王国から戻った私は、さっそく工房へ子供達を連れて行きました。

 最初に見せたのは。

「すごい!
 ここは、女の人しかいないんですね。
 何か、キレイな絵がいっぱい張ってある。
 ここで何をしているんですか?」

 女の子はみんなキレイなモノが好き、それは生まれついた性なのでしょうか。
 壁や黒板に張られた様々な絵、それに机の上の描きかけの絵を見て一人の女の子が尋ねました。

「ここは、私が経営している時計工房のデザインを企画する部屋なの。
 装飾性の高い女性向けの時計のデザインを考えるのが仕事なのよ。
 だから、どうしてもお客さんに感性が近い女の子ばかりなの。
 ここは、私の時計工房でも大切な仕事だから。
 この部屋で働く子は給金が高いのよ。」

 因みに、給金で言うと一番高いのが、オークレフトさんとジョンさんの二人で貴族もかくやという高給取りです。
 ついで、時計工房の熟練職人さんと七宝焼きの職人さん、彼らは全員一般的な工房の親方相当の給金を支払っています。
 ここまでは、幹部ですので、当然ですが。

 ここに工房を開設して、早四年、見習いで採用した子達も、熟練度合いや適性で差が生まれていて。
 若い子達の中でも給金に差がついて来ました。
 一番高いのはオークレフトさんの配下で現場監督を任されている女の子五人、この子達には熟練の職人並みの給金を支払っています。
 次いで、このデザイン工房のデザイナーの女の子とジョンさんの時計工房の精密組み立て担当の職人見習いです。
 この子達も、商人の使用人などでは三十過ぎにならないともらえないような給金を受け取っています。
 そして、オークレフトさんの機械工房で、職長と呼んでいる、幾つかに若い人をグループ分けしたリーダー。
 この辺りまでが、その年齢の平均的な給金に比して高い給金を貰っています。 

 因みに、デザイン工房のデザイナー、時計工房の精密職人見習いまでは全て女の子ですが。
 オークレフトさんの機械工房の職長では五人ほど男の子がいます。
 工房へ入った時から真面目に学んで、サルを無事卒業した男の子達です。
 全員、見た目は華奢な印象なのですが、オークレフトさんの言ではとても優秀な子達だと言います。
  
「へえ、女の人がそんな大切な仕事をさせて貰えて高い給金がもらえるんですか。
 村長さんの牧場じゃあ、女は同じ働きをしても稼ぎが少ないのに…。」

 そんな事を口にしたのは、最初に外の世界が見たいと言っていた子ですね。
 年の割にちゃんと周りの事が見えているようです。
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