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第1章 人間の街へ

第10話 王都のホテルにて

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 わたし達は、王都に着くとすぐに今日の宿をとることにした。もう夕方だもんね。
ソールさんは、衛兵さんに王都の宿で一番良い処を聞いていたらしい。さすがソールさん。

 王都一番といわれている宿は、正面入り口に車寄せがなく魔導車に乗ったまま中庭に入ると、中庭側に車寄せを備えた立派はエントランスがあった。
 どうやら、車で来たお客はこちらの入り口を使うようだ。


 車寄せで魔導車を降りてロビーに入ると三階までの吹き抜けになっており、天井が凄く高かった。
思わず見上げてしまったら、首が痛くなったよ。

「ターニャちゃん、私、こんな立派な宿に泊まっていいのかな?
なんか、お貴族様みたいな人がたくさんいるんですけど。」

「大丈夫だよ、ミーナちゃん。ちゃんとお金払うんだから。
それに、今のミーナちゃんの服装は、その辺のお貴族様よりよっぽどお貴族様に見えるよ。」


 今、ミーナちゃんが着ている服は、もと王族だというノイエシュタットの領主の御用達の服屋で購入したものだ。
 元々、人間の世界では服は注文して作るものらしいが、その店には領主へ売り込みに行くために見本として作った服が有ったんだ。
 領主に私たちくらいの娘さんがいるらしくて、ミーナちゃんのサイズに合う服をごっそり買ってきたの。

 
 ソールさんが、カウンターの女性に一番良い部屋を十泊と頼んでいる。

「お客様の人数ですとロイヤルスイートが十連泊でご用意できます。
三ベッドルーム・一リビング二食付で一泊金貨十枚になりますがよろしいでしょうか。」

「ええ、それでかまい……」

「申し訳ございません。当ホテルは現在満室でございます。」

 ソールさんの返事を遮るように、カウンターの女性の隣から声がかかった。

「支配人、今日は空室がございますし、ロイヤルスイートが開いているのは確認しました。」

「私が満室といえば満室なんです。
あなたは、このホテルが帝国から皇族の方が見えた際に定宿としている事を知っているでしょう。
ですから、高貴な方が気分を害さないようにお客様にも相応な品位を求めるのです。
このホテルの品位を汚すようなお客様はお断りするように言っているでしょう。
『色なし』がホテルの中を歩いていたら、貴族の方の気分を害するのが解らないのですか。」

 なに、この支配人、わたし達がこの宿の品位を落とすって言ってるの?やな奴だな。

「ソールさん、行きましょう。初対面の相手に、しかも客に向かって品位がないなんていう人間を雇っている宿なんてろくなサービスは期待できないわ。
客を見た目で判断するなんて最低です。」

「いや、お嬢さん、商売人というのは見た目で判断するものなんですよ。」

いきなり、わたしの後ろから身形の良い壮年の男性が話しかけてきた。
その男性は、支配人と呼ばれている男性に向かって言った。

「シュリム君、君はクビだ。今すぐここを出ていきたまえ。」

「お、オーナー、いきなり何をおっしゃいます。私が何か不手際をしたとでも。」

「君は今大事なお客様をお断りしようとした。しかも、お客様に聞こえるように失礼なことを言って。
君の方こそ、このホテルの品位を汚すよ。全くいい迷惑だ。」

「オーナーはホテルの品位を保つように、相応しくないお客は断るようにと言っているではないですか。」

「ああそうさ、身形みなりの悪い人、柄の悪い人はお断りするように言っているだろう。
こちらのお客様が、そう見えるのなら君の目はとんだ節穴だ。
それに、君は先日、ひどく柄の悪い貴族を泊めたそうではないか、他のお客様から苦情が出ていたよ。
君の品位の基準が貴族か否かなら、君はここには不用な人物だ。さっさと消えなさい。」

 支配人は、その場で解雇され、渋々と去っていった。


     **********


「先ほどは当ホテルの支配人が大変失礼しました、お嬢さん。
私はこのホテルのオーナーでクルークと申します。

 さっき私が言ったように、商売人は人を見なければならないんですよ。
代金を踏み倒されないように、ちゃんと支払ってくれる人物かどうかを見極めるのが商売人ですから。
 だから、身形みなりの悪い人や柄の悪い人はダメなんです。

 その点、お嬢さんたちは、非常に良いお召し物を着ておられるし、行儀が良い。
しかも、ロイヤルスイートを十連泊もしてくださるそうではないですか。

 これを断るとは、あいつは何を考えているのか理解できません。
 最近は帝国から入ってきた『色なし』を強く排斥する考えに染まる人が増えているので、あいつもその口なのかもしれません。

 で、お詫びと言っては何ですが、当ホテルの最高級のインペリアルスイートを一泊金貨十枚で、用意させていただくので、ご機嫌を直してお泊りいただけませんか。」

「良いんですか?」

「インペリアルスイートは、皇帝クラスがお泊りになるときのために、普段は使っていないのです。
別に多少値を下げても使わないよりはましですよ。
 それに、あんな保存状態の良い魔導車二台を連ねてくるようなお客様とお近づきになれるなら安いもんです。」


 ソールさんは、クルークさんの申し出を受け入れ、インペリアルスイートに十泊することにして、金貨百枚を支払った。

 ねえ、三人家族が一ヶ月余裕で暮らせるお金が金貨四枚って言ったよね、十泊で一家三人が二年以上生活できるお金を使うって贅沢すぎない?

 そりゃ、王族とも間違えられるよ。





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