精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第3章 夏休み、帝国への旅

第44話 東の町の街角で

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 帝都を出発して三日が過ぎた、今わたし達は帝国で最も東にある城郭都市オストエンデにいる。
 初日に魔法部隊がわたし達に対する襲撃に失敗したあとは、わたし達に害を及ぼそうとする者は誰もなかった。
 わたしが皇帝と話した後すぐに、わたし達に何らかの危害を加えようとする指示を出したとしても、その指示は未だここまでは到達しておらず、この町は安全なはずだとハイジさんは言っている。


 わたし達は、辺境へ踏み込む前にこの町で補給をするため、二日間留まることにした。
 宿泊するのはこの町で最も格式の高いホテルだ、主寝室二つに、従者部屋、リビング、浴室がついた部屋をとる。
 ヴィクトーリアさんとハイジさんの安全を考えるとわたし達と一緒の部屋の方がいいからね。


「ターニャちゃんの用意してくれた魔導車があまりにも快適なので、このホテルが居心地がいまいちに感じるわ。
 人間ってすぐ贅沢に慣れるからダメね。」

 ヴィクトーリアさんが扇で自分を扇ぎながら言った。
たしかに、魔導車の中と違って魔導空調機がないので夏の暑さが堪えるのだろう。
 これでも、わたしとミーナちゃんが瘴気に弱いので、光のおチビちゃんに『浄化』を続けてもらっている。
 空気が清浄な分だけ過ごし易いはずだが、病み上がりのヴィクトーリアさんには厳しいのかな。


「ヴィクトーリア様、お体の調子が良くないようですので、少しお部屋の温度を下げますね。
アリエルさん、お願いしてもよろしいかしら。」

 わたしは、アリエルさんに頼んで室温を少し下げてもらうことにした。
さすがに、大気をつかさどる風の上位精霊だけあって、あっという間に快適な温度に下がった。

「ターニャちゃんだけでなく、お供の方も器用に魔法を使いこなすのですね。
大分過ごしやすくなりましたわ、ありがとう。」

 ヴィクトーリアさんは、アリエルさんの室温操作の巧みさに驚きを隠せない様子だった。


      ************


 オストエンデの町滞在二日目、わたし達は市場に食べ物の買出しに出かけた。
 ソールさんによると市場に並ぶ食料品の価格は、ヴィーナヴァルトより相当高いらしい。
凶作のため食料品が品薄になっていて、価格が上がっているみたいだ。

 それでも、今後の旅路に必要な食べ物を確保して街を歩いていると、フードを被った小さな子供が道の端に蹲っているのが見えた。

 具合が悪いのかと思い近づこうとしたところで、露天で野菜を売っている男に声をかけられた。

「そいつは、市場で廃棄される野菜屑なんかを漁りにきているスラムの住人だ。
おおかた、空腹で動くことも出来ないんだろう。
関わりにならん方がいいぞ。」

 こんな小さな子が、野菜屑で飢えを凌いでいるのか。
わたしも、おかあさん達に拾ってもらえなければ、こういう風になっていたんだろうな。


「あなた、大丈夫ですか?」

 わたしは子供に声をかけるが返事はなく、力なく蹲るだけだった。
 病気ではないようだが非常に汚れていたので、いつものように『浄化』と『癒し』をセットで施した。

「あなた、大丈夫ですか?」

 子供の顔色が良くなったので再び声をかけてみた。

「お腹が空いた……。」

 うっすらと目を開いた子供がたった一言呟いた。

「フェイさん、何か消化のよさそうな食べ物はないですか?」

 フェイさんが、甘い瓜を切ったものを露天で買ってきてくれた。

 わたしが、子供に瓜を差し出し「お食べ。」というと、子供は一心不乱に瓜に喰らいついた。
よほどお腹が空いていたのだろう結構な大きさの瓜をほぼ一つ食べ尽くしたころ、こちらを気にする余裕ができたようだ。

「お姉ちゃんたち、食べ物を恵んでくれて有り難うございました。
もう三日も何も食べてなくて、動けなかったの。」

 こんな小さな子供が三日も何も食べれられないのはさぞかし辛かっただろう。

「あなた、お名前は、ご両親は何処にいるの。」

「あたしは、ハンナっていうの。
パパとママは、この町の広場でここで待ってなさいと言って何処かへ行ったの。
広場でずっと待ってたんだけど、迎えに来てくれなくて。
泣いてたら、知らないお兄ちゃんがきて、ハンナは捨てられたんだって言うの。
それから、そのお兄ちゃんとスラムというところに居たんだけどお兄ちゃんも居なくなっちゃって。」

「ターニャちゃん、この子どうするの?
このままじゃ、暮らしていけないと思うよ。」

 ハンナちゃんの話を聞いたミーナちゃんが尋ねてきた。

「ソールさん、この子を連れて行きたいのだけど、ダメかな?」

 やっぱり、わたしと同じような境遇の子を放っておくことはできないよね。

「ティターニアお嬢様、分ってると思いますが、私達は全ての孤児を救うことなど出来ないのですよ。
 現実問題として、この子を連れて行ったら魔導車の定員からいって、同じような境遇の子がいてももう連れて行けませんよ。
 それでもいいですか?」

「わたしの手は小さく、全ての恵まれない子供に手を差し伸べることはできないのは解っています。
でも、この子とこうして出会ったのも何かの縁です。
きっとここで連れて行かなければ後で悔やむことになると思います。」

「ティターニアお嬢様がそうおっしゃるなら、私は反対したしません。」


 ソールさんの承諾が得られたので、ハンナちゃんを誘うことにする。

「ハンナちゃん、もし良かったらお姉ちゃんたちと一緒に来ない?
おなかいっぱいのご飯を食べさせてあげるよ。」

「本当?」

「うん、本当だよ。」

「ハンナをおいて、何処かへ行っちゃわない?」

「大丈夫、ずっと一緒だよ。」

「じゃあ行く!」


 こうして、ハンナちゃんがわたし達に加わることになった。








 
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