精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第3章 夏休み、帝国への旅

第55話 治療活動のひとコマ

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(注)本日、昼の12時過ぎに臨時に1話投稿してあります。
   もし、お読みでない方は、そちらからお読みください。
   いつも読んでいただき、有り難うございます。

   **********


 ミルト皇太子妃とフローラちゃんと合流した日の翌日は、フローラちゃん達の休息日ということでそのまま領主館に滞在した。
 初めて来た町なので街中を散策したいと思っていたんだけど、フローラちゃんが疲れていて出かける気力がないと言うので大人しく領主館でお喋りに興じることにした。


 この日ゆっくりと休んだことが良かったようで、フローラちゃんは翌朝にはすっかり元気を取り戻していた。
 さすがに、五時起きの七時出発というのはきついね、まだ眠かったよ。
これを十日間続けたなら、さぞかし疲れが溜まったことだろうと思う。


 九時前に領主館に着くと、わたし達はミルト皇太子妃に従って領主さんにご挨拶、その間に近衛騎士の人たちが中央広場に天幕を設営してくれる。
 ミルト皇太子妃が、ヴィクトーリアさんを紹介すると、ここでも領主さんが固まってしまった。
 なんか、ヴィクトーリアさんを迎え入れるお部屋の仕度とかが大変そうだ、領主さんが家宰と思わしき人に色々と指示を飛ばしているよ。



 一時間ほどで天幕の仕度ができたと近衛騎士の一人が伝達に来たので、中央広場に向かった。
ちなみに、どの町も中央広場を中心に広がっている、本当は『マルクト広場』って言ってまだお店が十分になかった頃、ここに市を開いて物の売り買いをしたらしいよ。
 色々なお店ができた今でも、お休みの日にはここにたくさんの露天が立つんだって。

 昨日までは、天幕は一つで治療をしていたが、今日からはわたし達が加わったので天幕を二つにして患者さんを男女に分けた。
 その方が女の人は安心して治療を頼めるよね。

 ヴィーナヴァルトの神殿前で行ったときと同じで、男性患者をわたしとミーナちゃん、女性患者をミルト皇太子妃とフローラちゃんが診る。


     **********


 今日は、治療開始と共に患者さんが集まってきた。
 どうも、両隣の町から王族の二人が市民の病気や怪我を癒して回っているという話が届いていたらしい。

 患者さんをみていると、身形のよい人は並んでいない。
 お金に余裕のある人は、創世教の治癒術師のお世話になっているのでここへ来る必要がないんだろうね。
 一方で、あまりみすぼらしい人とか、ガリガリに痩せている人とかも見当たらない。
 帝国で見た辺境の人はガリガリに痩せている人が多かったので、それだけこの国の人は豊かなんだろうと思った。
 もう二千年も飢饉が起こっていないっていっていたものね。

 治療を始めたとき先頭に並んでいる患者さんが戸惑っていた。
王族の二人が治療して回っているという話だったのに、治療を受け持つ人が増えておりそれが子供だとしたら誰もが戸惑うよね。

 最初の患者さんは、仕事中にうっかり火傷してしまったという鍛冶屋さんだった。
天幕に入ってくると左右を見渡して、「治癒術師さんはまだ来ていないのかな?お嬢ちゃん。」といった。

 まあ、予想していたとおりの言葉だったので、何処が悪いのかを聞いて、

「おじさん、少し手の火傷を見せてもらっていい?」

とお願いして患部を出してもらった。


 うっかりにしては結構な火傷で、手の甲がかなり焼け爛れている。
これ、凄く痛いでしょう。

 わたしは、水のおチビちゃんにお願いして水を出してもらって火傷した部分を洗浄したあとにすかさず癒しの術を施す。
 毎回お馴染みの『癒しの水』だ。
火傷した部分を仄かに青く光る薄い水の膜が覆い、やがて火傷した皮膚に吸い込まれるように光が消える。
 そこにはもう火傷の痕すら残っていない綺麗な手が現れた。

「お嬢ちゃんが治癒術師さんだったのかい。そりゃあ、失礼したな、勘弁してくれ。
こりゃあ、綺麗に治ったもんだ。もう全然痛くねえや。
お嬢ちゃん、小さいのに凄げえな、有り難うよ。」

 そう言って、鍛冶屋のおじさんが天幕を出て行く、もちろんこの様子は後ろに並んでいる人たちも見ていた。
 こうなれば、もう誰も疑うことなく患者の流れが出来上がる。
 わたしとミーナちゃんで手分けをして黙々と患者さんの手当てを行った。


 お昼時になって患者さんがいったん途切れたので、女性用の天幕を覗くとなにやら賑やかだ。

 覗いてみると、ハンナちゃんが一生懸命にご婦人の手の切り傷を治している。
包丁で切ったのか、どこかに引っ掛けたのか本当に小さな傷だった。
きっと、そのご婦人は別の病気か怪我を診てもらうために訪れたのだろう。

 見ていると、ちゃんと『癒しの水』が発動して、ご婦人の傷を治していく。
治療が終わると一斉に拍手が起こった。

「ハンナちゃん、有り難う。
おばちゃん、もう痛くなくなったよ、ハンナちゃんのおかげだね。
ハンナちゃん、小さいのに偉いね。」

 治療が終わったご夫人がハンナちゃんの頭を撫でながら、お礼を言っている。

 フローラちゃんに聞いたところ、フローラちゃん達を見ていたハンナちゃんが自分もやってみたいと言い出したそうだ。
 そこで、小さな怪我のある人に患者さんになってもらったところ、一生懸命治療する姿がご婦人方に受けたものだから、ハンナちゃんの負担にならない程度に治癒術を使ってもらっているらしい。
 これも、客寄せなんだ・・・。


     **********


 今日も盛況のうちに治療活動を終えて領主館に戻る魔導車の中、ヴィクトーリアさんがミルト皇太子妃に尋ねた。

「オストマルク王国の王室ではいつもこんな風に、市民に癒しを施しているのですか?」

「いいえ、今回が初めてなんですよ。
私も娘のフローラも、巷で言う『色なし』で最近まで魔法が使えなかったのですよ。
 ここにいるターニャちゃんが魔法を使えるように指導してくれたのです。
 この国では、人を外見で差別したらいけないとしていますが、やはり殆どの人が使える魔法が使えないというのは不便だし、差別の対象になることもあります。
 せっかく使えるようになったのですから、『色なし』でも魔法が使えるのだと示すことで、少しでも『色なし』に対する偏見がなくなればと思って今回から始めたのです。
 もっとも、最近影が薄くなっている王室と精霊神殿の人気取りのためでもあるのですけど。
 今回は、特に『色なし』に対する偏見が強い西方へ来たのですが、この辺りですとまだそれほどではなかったようです。
 時間が許せば、もっと西に行きたかったのですが残念ですわ。」


「そうなんですか。
でも、帝国では、帝室が魔法で民に癒しを施すなんてことは考えもしないです。
わたくしは素晴らしい行いだと思いますが、皇帝は魔法は民に畏怖を与えるためにあるのだと考えているものですから。」


「それは、国の生い立ちによるものでしょうね。
 この国の王祖は、自ら荒地を開拓したいわば農民のリーダーでしたから。
民と一緒に土地を開墾し、傷ついた民を癒し、民に慕われて王の座に着いたのです。
今回の活動を始めたのも、少しでも王祖様に近付けたらという意味合いもあったのです。
 力により他国を平定し帝国を築き上げた帝室とは考え方も、民との距離感も違うと思います。」


 確かに、帝国の皇帝は威圧的だったよね、力で他者を抑えつけるという感じ。
農民が凶作で苦しんでいるのに、農民のために魔法を使うなんてとんでもないって言っているようだしね。

 フットワークの軽いこの国の王様と比べればどちらが好感が持てるかははっきりしているね。

 しばらく、ミルト皇太子妃と会話していたヴィクトーリアさんは、なにやら思案しているようで黙り込んでしまった。

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