精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

文字の大きさ
118 / 508
第6章 王家の森

第117話 マリアさんがやってきた

しおりを挟む
 *お昼に1話投稿しています。
      お読みでない方は1話戻ってお読みください。
  お手数をおかけします。

   **********

 王家の森のことはひとまず置いておいて、患者さんが来たので治癒を施していく。
冬場に天幕で行うのは寒いし、患者さんの体にも良くないということで精霊神殿の礼拝堂を借りて行うことになったんだ。


 冬場なのでやはり風邪をひいた人が多いし、他には雪かきで腰を痛めたという人も目立ったよ。
 それと、無償で癒しを施しているため、冬場の水仕事でできた霜焼けやあかぎれの治癒を求めてくる奥様方も結構いたんだ。

 そういう奥様方の担当はハンナちゃん、奥様方もそれがわかっているらしくてお菓子持参の人が多かったの。 ハンナちゃんが餌付けされている…。
 一生懸命に治癒術をふるうハンナちゃんの姿に奥様方は心も癒されている様子だけど、治癒が施された自分の手を見て驚いていた。
 そこにあかぎれがあったなんて信じられないくらいスベスベの手になっているからね。ハンナちゃんの上達具合に奥様方は目を見張っていたよ。


 そんな精霊神殿の活動に今回からヒカリとスイが加わったんだ。
 わたし達より少し年上の二人がかいがいしく患者さんを癒していく姿を見ていた奥様方は、うちの息子の嫁に欲しいとか言っているけど、この二人が王族ということになっているのを知っているのかな。
 ちなみにミドリはミルトさんの横について細々とした雑用をしていたよ。

 
 今回も評判は上々でミルトさんが上機嫌で後片付けをしていると、礼拝堂に二人の人物が入ってきた。


     ***********


「これ、いきなり皇太子妃様にそのようなことを申すのは失礼だぞ。」

「いいえ、司祭様は私が直接皇太子妃様とお話しすると創世教にとって拙いからそう言ってらっしゃるのでしょう。」

 なにやら大きな荷物を引き摺った旅姿の女性を創世教の司祭が引き止めているようだね。
 あれ、女性の顔に見覚えがあるような気がする。

「あら、マリアさん、お早いお着きで。もう少し時間が掛かるかと思っていましたわ。
 で、そちらの司祭様は何かしら?」

 思い出した、ポルトからの帰り道で会った創世教の治癒術師さんだ。ミルトさんが引き抜きをしていたっけ。
 それにしても早いなもう王都に着いたの。馬車なら出会ってからすぐに町を出ないとこんなに早くは着かないだろうに。

「はい、あの日すぐに荷物をまとめて、翌日の王都行きの駅馬車に乗りましたから。今日王都に着きました。
 王都へ着いてすぐに創世教の本部に辞表を出しに行ったら、皇太子妃様が私などに直接お声を掛けるはずがないと司祭様に引き止められまして、司祭様が確認するので待てとおっしゃるのです。
 王宮に行けば皇太子妃様に取り次いでいただけるお墨付きも頂いているから大丈夫だと申したのですが、こうして付いて来てしまって。」

 この人も即断即決の人だ…、少しは立ち止まって考えた方がいいと思うよ、わたし。

「申し訳ございません、この者が大変失礼なことを申しまして。」

 創世教の司祭さんがマリアさんの口を止めようとする。

「あら、構わないわよ。創世教を抜けたいのなら相談に乗ると言ったのは私ですし。
 別に無礼なことではありませんわ。」

 ミルトさんの言葉を聞いた司祭は顔をゆがめて言った。

「それは、創世教の治癒術師を引き抜くということですかな?」

「イヤですわ、私が創世教に喧嘩を売るわけないじゃありませんか。
 それに、私が私のもとへ来いなんていったら命令になってしまいますわ。
 それは、わが国の法で定める職業選択の自由に反しますわ。
 私はあくまで創世教を辞めたいのなら相談に乗ると言ったのですわ。」

 ミルトさんはいけしゃあしゃと言った。この人本当に創世教が嫌いなんだな…。

「そう簡単に辞められたら困るのです。
 彼女には幼少の頃から多額の養育費と教育費を投資しておりますので、それを回収しませんことには手放せません。」

 創世教の立場ならそう言うよね、幼いときから美味しい物ときれいな服を与えて、高等教育まで受けさせているのだからすぐに辞められたら大損だものね。

「まあ、そうでしたの。それで、違約金はお幾らほど支払えばよろしくて。
 相談に乗るといった以上は、そのくらいは面倒を見ますわ。」

 ミルトさんの答えに司祭さんは泡を食っている、まさか治癒術師一人に皇太子妃がこんなに目をかけるとは思わなかったのだろう。

「彼女の父親と交わした契約書では、創世教の治癒術師となってから十年以内に辞めた場合は王国金貨で千枚の違約金となっていたかと思います。」

 司祭さんは渋々答えた。

「そう、じゃあ、明日その契約書を持って王宮に私を訪ねて来なさい。
 その場でお支払いいたしますわ。
 マリアさんは、今日は王宮で預かります。どうせ宿も取っていないでしょう。」

 ミルトさんは有無も言わせずに話を打ち切ってしまった。
 司祭さんは口をぱくぱくさせていたが結局何も言い返せず、肩を落として帰っていった。


 司祭さんが神殿から出て行ったことを見届けたミルトさんは満面の笑顔を湛えて言った。

「やったわ!たった一人だけど創世教の独占を崩したわ!
 これがはじめの一歩よ!」

 よっぽど嬉しかったんだね、常々創世教が治癒術師を独占しているのは許せないといっていたものね。

「あの、ご迷惑をおかけしたみたいで申し訳ございません。
 それで、金貨千枚なんていう大金を私はどのようにお返しすればよろしいのでしょうか?」

 今まで、ミルトさんの傍らで静観していたマリアさんが恐る恐るミルトさんに尋ねた。

「いやだわ、返す必要などありませんわ、あのくらいは公費ではなく私の私費で賄えますので。
 現実問題、あんな大金を返せといわれたらあなたが困ってしまうでしょう。
 あなたにはそれだけの価値があるの、自信を持ちなさない。
 それに、司祭のあの顔が見られただけでも金貨千枚出す価値はあるわ。」


 マリアさんは精霊神殿で雇い入れることして常駐の治癒術師になってもらうことになった。
 細かい雇用条件は王宮に帰ってから相談するらしい。


 でもいいのかな?
 今までは、不定期に臨時で診療活動をしていたから、創世教も表立って苦情を言ってくることはなかったけど、常時診療活動をするようになったら揉めるような気がするのだけど。







しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

処理中です...