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第6章 王家の森
第125話 痛恨の一撃
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おかしい、私が懇意にしている商人に依頼した件の返事が全く来ないではないか。
いったいどうなっているんだ。
私は机の上のハンドベルを鳴らして家宰を執務室に呼んだ。
「おい、先日大司教様から依頼された件、商人たちの協力は取り付けたのであろうな?」
家宰は気まずそうな顔で答えた。
「申し訳ございません、伯爵様。未だどなたとも面談ができておらず、協力を取り付けることは叶っていません。」
「何をもたもたしているんだ。当家の最優先事項なんだぞ。」
「そう申されましても、どちらも店主が留守と申されては如何ともし難く…。」
家宰の煮え切らない返答に苛立ったが、ここで喚き散らしても埒が明かない。
ここは少し圧力を掛けるべきかと思い、家宰に私が直接出向くと商人に伝えるように指示した。
数日後やっと一人、面談の約束を取り付けた商人がいると報告を受け、私は大司教を伴ってその商人を訪問した。
その商人はまだ若く、少し頼りない印象であったがなかなかの野心家で快く私達に協力を申し出てくれた。
彼の話では、私と懇意にしている商人五人がミルト皇太子妃に呼ばれ悪意のある風評を流すようであれば御用商人から外すと釘を刺されたとのことだった。
それで、他の商人は尻込みしたのではないかと彼は言う。
彼の商会は王家との取引は微々たるモノで、彼は御用商人の座よりも私が王家の森を開発した場合の利権に賭けたいのでその節はくれぐれもよろしくと言っていた。
彼は言う。
「そもそも、御用商人から外すなんてこと皇太子妃の一存で出来る訳ないですよ。
長年の取引がある商人を簡単に切れる訳ないじゃないですか、あんなの虚仮脅しですよ。
それを他の大店は真に受けて、年寄りは守りに走り過ぎるんですよ。
それよりも、伯爵と大司教のたくらみがミルト皇太子妃に洩れているようなので注意した方がいいと思いますよ。」
そうなのか、内通者でもいるのかも知れん、私も雇い人全てを把握している訳ではないからな。
これからはもう少し注意を払った方が良いか。
とりあえず一件でも商人の協力を取り付けたことは大きい、商人の口コミは馬鹿にできないからな。
正直、皇太子妃にはしてやられた感じがあるが、これで少しは大司教の評判も持ち直すだろう。
**********
後は口コミでミルト皇太子妃の悪評が世間に広まるのを待つだけだなと一息ついたとこだった。
大司教が血相を変えて飛び込んできたのだ。
「おいドゥム伯爵、いったいどうなっているんだ?
わしが商人を使ってミルト皇太子妃を貶める風評を流そうとしていたという噂が王都中に広まっているぞ。」
寝耳に水だった。
私はすぐに家宰をあの商人のもとに送り、情報を聞きだしてくるように言った。
真相を掴むのは簡単だった、家宰があの商人に泣き付かれて帰って来たからだ。
噂の出所に関し、あの商人が裏切ったわけではないらしい。
しかし、噂の発端はあの商人であった。
私と大司教があの商人の協力を取り付けたその日の内に、彼はミルト皇太子妃に呼ばれその場で御用商人から外されたという。
皇太子妃は周到に準備していたようで、彼が商会に帰り着いたときには王家御用達の金看板が撤去され、商業組合に彼の商会を王家の御用商人から外した旨の告知がされていた。
通常、王家の御用商人から外されるというのはよっぽどの不祥事を起こさない限りありえないため、何故彼の商会が御用商人の座を失ったのかは商人の注目を集めた。
商人たちは躍起になって真相究明に動いたようだ。
なぜなら、王家の信用を失うような商会に大きな掛売りでもしたら焦げ付きが生じるかもしれないから。
商人の情報収集力はたいしたもので、事の真相はすぐ明らかになった。
そして、それはこんな噂となって瞬く間に王都に広まった。
『あの商会は、ドゥム伯爵と創世教の大司教の二人と結託してミルト皇太子妃を貶めるために事実無根の風評を流して王家の怒りを買ったようだ。創世教の大司教が前に流れた噂の腹いせに皇太子妃を貶めようとあの商会に協力を仰いだらしい。』
その噂はほぼ的を得たものだった。
あの商会が王家からの信用を失ったと知った他の商人たちの対応は素早かった。
まず、掛買いができなくなったらしい。通常あの商会くらいの大店になると現金による商いよりも、掛買い、掛売りによる商いの方が大きくなる。
誰しも焦げ付くかもしれない掛売りはしたくないので、信用を失ったあの商会に掛売りをしてくれる者がいなくなったのだ。
次に金貸しが金を貸してくれなくなったらしい。
掛売り、掛買いが商いの大分を占めると支払いと回収の時期のずれから間を繋ぐ金が必要になるそうだ。これはたとえ儲かっていても必要らしい。
今までは、金貸しが黙って金を融通してくれたらしいが、王家の御用商人の座を失った途端に金の融通を拒んだらしい。
王家の御用商人であることの信用は大きなものだったのだ、あの商人はそれを過小評価し過ぎたようだった
結局、ごく短期間で金繰りに支障を来たし始めたようで、ちょうど良く訪問したうちの家宰に泣き付いたようだ。
当家だってそんなに金に余裕があるわけではない、頭の痛い話だ…。
**********
そして、私の目の前には怒りで顔を真っ赤にし、声を震わせた大司教がいる。
「これでは、前よりもわしの立場が悪くなったではないか。
ミルトの小娘め、何故こちらの情報をあんなに正確に掴んでいるのだ。
先手先手と打たれて、こちらが何かする度に追い込まれるのはこちらではないか。」
本当に不思議なくらいミルト皇太子妃は我々の行動に先手を打ってくる。
既に情報操作でどうにかなる域は超えてしまったようだ。
しかし、目の前の大司教は、未だ負けを認めてはいない様子だ。
私の方はと言えば、今までは王家の森の開発に協力を申し出てくれる商人が多かったのに、この噂が流れてから潮が引くようにいなくなってしまった。
協力者がいなくては、王家の森の開発を王家に迫ることが困難になってしまうではないか。
私としても王家の森の開発利権はそう簡単に諦めるつもりはないのだが、良い手が思い浮かばない。
いったいどうなっているんだ。
私は机の上のハンドベルを鳴らして家宰を執務室に呼んだ。
「おい、先日大司教様から依頼された件、商人たちの協力は取り付けたのであろうな?」
家宰は気まずそうな顔で答えた。
「申し訳ございません、伯爵様。未だどなたとも面談ができておらず、協力を取り付けることは叶っていません。」
「何をもたもたしているんだ。当家の最優先事項なんだぞ。」
「そう申されましても、どちらも店主が留守と申されては如何ともし難く…。」
家宰の煮え切らない返答に苛立ったが、ここで喚き散らしても埒が明かない。
ここは少し圧力を掛けるべきかと思い、家宰に私が直接出向くと商人に伝えるように指示した。
数日後やっと一人、面談の約束を取り付けた商人がいると報告を受け、私は大司教を伴ってその商人を訪問した。
その商人はまだ若く、少し頼りない印象であったがなかなかの野心家で快く私達に協力を申し出てくれた。
彼の話では、私と懇意にしている商人五人がミルト皇太子妃に呼ばれ悪意のある風評を流すようであれば御用商人から外すと釘を刺されたとのことだった。
それで、他の商人は尻込みしたのではないかと彼は言う。
彼の商会は王家との取引は微々たるモノで、彼は御用商人の座よりも私が王家の森を開発した場合の利権に賭けたいのでその節はくれぐれもよろしくと言っていた。
彼は言う。
「そもそも、御用商人から外すなんてこと皇太子妃の一存で出来る訳ないですよ。
長年の取引がある商人を簡単に切れる訳ないじゃないですか、あんなの虚仮脅しですよ。
それを他の大店は真に受けて、年寄りは守りに走り過ぎるんですよ。
それよりも、伯爵と大司教のたくらみがミルト皇太子妃に洩れているようなので注意した方がいいと思いますよ。」
そうなのか、内通者でもいるのかも知れん、私も雇い人全てを把握している訳ではないからな。
これからはもう少し注意を払った方が良いか。
とりあえず一件でも商人の協力を取り付けたことは大きい、商人の口コミは馬鹿にできないからな。
正直、皇太子妃にはしてやられた感じがあるが、これで少しは大司教の評判も持ち直すだろう。
**********
後は口コミでミルト皇太子妃の悪評が世間に広まるのを待つだけだなと一息ついたとこだった。
大司教が血相を変えて飛び込んできたのだ。
「おいドゥム伯爵、いったいどうなっているんだ?
わしが商人を使ってミルト皇太子妃を貶める風評を流そうとしていたという噂が王都中に広まっているぞ。」
寝耳に水だった。
私はすぐに家宰をあの商人のもとに送り、情報を聞きだしてくるように言った。
真相を掴むのは簡単だった、家宰があの商人に泣き付かれて帰って来たからだ。
噂の出所に関し、あの商人が裏切ったわけではないらしい。
しかし、噂の発端はあの商人であった。
私と大司教があの商人の協力を取り付けたその日の内に、彼はミルト皇太子妃に呼ばれその場で御用商人から外されたという。
皇太子妃は周到に準備していたようで、彼が商会に帰り着いたときには王家御用達の金看板が撤去され、商業組合に彼の商会を王家の御用商人から外した旨の告知がされていた。
通常、王家の御用商人から外されるというのはよっぽどの不祥事を起こさない限りありえないため、何故彼の商会が御用商人の座を失ったのかは商人の注目を集めた。
商人たちは躍起になって真相究明に動いたようだ。
なぜなら、王家の信用を失うような商会に大きな掛売りでもしたら焦げ付きが生じるかもしれないから。
商人の情報収集力はたいしたもので、事の真相はすぐ明らかになった。
そして、それはこんな噂となって瞬く間に王都に広まった。
『あの商会は、ドゥム伯爵と創世教の大司教の二人と結託してミルト皇太子妃を貶めるために事実無根の風評を流して王家の怒りを買ったようだ。創世教の大司教が前に流れた噂の腹いせに皇太子妃を貶めようとあの商会に協力を仰いだらしい。』
その噂はほぼ的を得たものだった。
あの商会が王家からの信用を失ったと知った他の商人たちの対応は素早かった。
まず、掛買いができなくなったらしい。通常あの商会くらいの大店になると現金による商いよりも、掛買い、掛売りによる商いの方が大きくなる。
誰しも焦げ付くかもしれない掛売りはしたくないので、信用を失ったあの商会に掛売りをしてくれる者がいなくなったのだ。
次に金貸しが金を貸してくれなくなったらしい。
掛売り、掛買いが商いの大分を占めると支払いと回収の時期のずれから間を繋ぐ金が必要になるそうだ。これはたとえ儲かっていても必要らしい。
今までは、金貸しが黙って金を融通してくれたらしいが、王家の御用商人の座を失った途端に金の融通を拒んだらしい。
王家の御用商人であることの信用は大きなものだったのだ、あの商人はそれを過小評価し過ぎたようだった
結局、ごく短期間で金繰りに支障を来たし始めたようで、ちょうど良く訪問したうちの家宰に泣き付いたようだ。
当家だってそんなに金に余裕があるわけではない、頭の痛い話だ…。
**********
そして、私の目の前には怒りで顔を真っ赤にし、声を震わせた大司教がいる。
「これでは、前よりもわしの立場が悪くなったではないか。
ミルトの小娘め、何故こちらの情報をあんなに正確に掴んでいるのだ。
先手先手と打たれて、こちらが何かする度に追い込まれるのはこちらではないか。」
本当に不思議なくらいミルト皇太子妃は我々の行動に先手を打ってくる。
既に情報操作でどうにかなる域は超えてしまったようだ。
しかし、目の前の大司教は、未だ負けを認めてはいない様子だ。
私の方はと言えば、今までは王家の森の開発に協力を申し出てくれる商人が多かったのに、この噂が流れてから潮が引くようにいなくなってしまった。
協力者がいなくては、王家の森の開発を王家に迫ることが困難になってしまうではないか。
私としても王家の森の開発利権はそう簡単に諦めるつもりはないのだが、良い手が思い浮かばない。
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