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第6章 王家の森
第126話 冬の広場で ①
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デマを流してミルトさんを貶めようとしていた三人は手酷いしっぺ返しを受けたようだね。
あの商人は火の車のようだし、ドゥム伯爵からは支援する商人がいなくなってしまった。
そして、グラウベ大司教の評判は地に落ちている。このままでは失脚してしまうと焦っているみたいだよ。
グラウベ大司教はまだ諦めていないみたいよ。
グラウベ大司教が欲するところは二つ。
ひとつは創世教をオストマルク王国の国教と認めさせること。これは急いでいないみたいだね。
もうひとつは、創世教による治癒術の独占を回復すること。わたし達に治癒術を使うのを止めさせることとマリアさんを取り返すことね、こっちは急いでいるみたい。大司教の面子がかかっているからね。
何か良からぬことたくらんでいるようだけど、何をたくらんでいるかの情報が入らなくなったの。
グラウベ大司教が口に出さないのでおチビちゃんが盗み聞きできないの。
あれ以来、大司教に協力的な商人や貴族がめっきり減っちゃって悪巧みの相談をする相手がなくなったことと情報漏えいを内通者のせいだと疑心暗鬼になって教会内部の人にも企てを漏らさなくなったことが情報を掴みにくくなった原因みたい。
ミルトさんに報告すると、
「そんな状態ならもうたいしたことは出来ないから放っておきましょう。」
とのんきなことを言っている。 でも、あの大司教はまだ諦めていないみたいだよ…。
**********
今日は『癒しの日』で学園はお休み、わたし達はミルトさんに引っ張り出されて奉仕活動に勤しんでいる。
二の月も半ばを過ぎたが未だ春は遠く、今日も精霊神殿の礼拝堂を借りて病気や怪我の人に治癒術を施してる。
いつも通り患者さんに男女別に並んでもらって治療を始めようとしていたら、なにやら神殿前の広場が賑やかになった。
何事かと外を見ると創世教の神官がたくさん広場にいて、こちらに向かってくる人に声をかけている。
「あなたは創世教の信者ではございませんか。どちらにいかれるのでしょうか。まさか邪教の神殿に参るのはございませんよね。」
神官は一人の女性の腕を掴んでそう問い質した。
「たしかに、創世教の信者ですが、別に精霊神殿の信仰があって訪れたわけではございません。
私は風邪を引いたこの子の治療をしてもらおうとやってきたのです。」
女性は腕の中に抱いた子供を神官に示しながら答えた。
「それはご心配ですね、そういうことなら是非創世教の教会をお訪ねください。
創世教が誇る治癒術師が神の御業をもってお子様を快癒させることでしょう。
何も汚らわしい邪教の術に頼る必要はございませんよ。」
そう言う神官に女性は言う。
「心苦しいのですが、我が家には創世教の治癒術師様にお支払いする浄財を用意することができないのです。」
それを聞いた神官が大げさな身振りをしながら言った。
「これはなんという信仰心に欠けることをおっしゃるのですか。
なにものにも変え難いご子息の健康がかかっているというのに。
神の奇跡のすがるのに浄財を渋るなど嘆かわしい。
ご子息のためになんとしても浄財を用立てるのが信仰心でしょうに。」
凄い身勝手なことを言っている。
お金がなければ借金をしてでも創世教の治癒術師に金を払えって言っているんだよね。
本当に創世教の人たちって拝金主義だよね、どうしてこれで信者を繋ぎとめておけるのかな。
見かねて、わたしは女性のところへ走った。
「おかあさん、お子さんの具合が悪いのでしたらここで診てしまいましょう。
そしたら、精霊神殿に入る必要ありませんし、この方に難癖付けられることもないでしょうから。」
「こら、子供が勝手に口を挟むんじゃない!」
神官が何か言っているが無視だ。
わたしは、光のおチビちゃんと水のおチビちゃんに、『浄化』と『癒し』を続けてかけるようにお願いする。
一応、わたしが治癒を施したことがわかるようにそれらしいことを言っておいた方がよいかな。
「幼子の体に巣食う悪しきモノをとり払い、その体に癒しを」
わたしの言葉に合わせて、赤ちゃんを明るい光がとりまきそれが収まると優しい青白い光が赤ちゃんを包み込む。
その光が赤ちゃんに吸い込まれるように消えると、そこには穏やかに眠る赤ちゃんの姿があった。
創世教の神官は、突然のことに言葉が出てこないようだ。
「もうこれで風邪は心配ないと思います。まだ寒いので早く帰って温かくしてくださいね。」
わたしは、そう言って女性に早くここから立ち去るように指示した。
「有り難うございます!」
女性はわたしの意図がわかったようで、そう言って足早に去って言った。
さて、どうしたものだろうか。
この寒い中たくさんの神官を動員して、広場のあちらこちらでさっきわたしが目にしたようなやり取りが行われている。
よく見るとグラウベ大司教自ら広場に出てきて陣頭指揮を執っているじゃない。よくやるよ…。
「あの大司教、姑息な手段を使っても埒が明かないことに気付いて強硬手段に出たわね。
でも、それが悪手なのに何故気が付かないのかしら。
創世教ってそこまで傲慢になってしまったのかしらね。
たぶん、フローラにだってこんなことをしたら逆効果だってわかるわよね。」
いつの間にかわたしの横にいたミルトさんが呟いた。
ここは、お休みの日の中央広場、冬とはいえ人通りをそれなりにある。
こんなところで、民衆を敵に回すような行いをするって、本当に勇者だよね…。
あの商人は火の車のようだし、ドゥム伯爵からは支援する商人がいなくなってしまった。
そして、グラウベ大司教の評判は地に落ちている。このままでは失脚してしまうと焦っているみたいだよ。
グラウベ大司教はまだ諦めていないみたいよ。
グラウベ大司教が欲するところは二つ。
ひとつは創世教をオストマルク王国の国教と認めさせること。これは急いでいないみたいだね。
もうひとつは、創世教による治癒術の独占を回復すること。わたし達に治癒術を使うのを止めさせることとマリアさんを取り返すことね、こっちは急いでいるみたい。大司教の面子がかかっているからね。
何か良からぬことたくらんでいるようだけど、何をたくらんでいるかの情報が入らなくなったの。
グラウベ大司教が口に出さないのでおチビちゃんが盗み聞きできないの。
あれ以来、大司教に協力的な商人や貴族がめっきり減っちゃって悪巧みの相談をする相手がなくなったことと情報漏えいを内通者のせいだと疑心暗鬼になって教会内部の人にも企てを漏らさなくなったことが情報を掴みにくくなった原因みたい。
ミルトさんに報告すると、
「そんな状態ならもうたいしたことは出来ないから放っておきましょう。」
とのんきなことを言っている。 でも、あの大司教はまだ諦めていないみたいだよ…。
**********
今日は『癒しの日』で学園はお休み、わたし達はミルトさんに引っ張り出されて奉仕活動に勤しんでいる。
二の月も半ばを過ぎたが未だ春は遠く、今日も精霊神殿の礼拝堂を借りて病気や怪我の人に治癒術を施してる。
いつも通り患者さんに男女別に並んでもらって治療を始めようとしていたら、なにやら神殿前の広場が賑やかになった。
何事かと外を見ると創世教の神官がたくさん広場にいて、こちらに向かってくる人に声をかけている。
「あなたは創世教の信者ではございませんか。どちらにいかれるのでしょうか。まさか邪教の神殿に参るのはございませんよね。」
神官は一人の女性の腕を掴んでそう問い質した。
「たしかに、創世教の信者ですが、別に精霊神殿の信仰があって訪れたわけではございません。
私は風邪を引いたこの子の治療をしてもらおうとやってきたのです。」
女性は腕の中に抱いた子供を神官に示しながら答えた。
「それはご心配ですね、そういうことなら是非創世教の教会をお訪ねください。
創世教が誇る治癒術師が神の御業をもってお子様を快癒させることでしょう。
何も汚らわしい邪教の術に頼る必要はございませんよ。」
そう言う神官に女性は言う。
「心苦しいのですが、我が家には創世教の治癒術師様にお支払いする浄財を用意することができないのです。」
それを聞いた神官が大げさな身振りをしながら言った。
「これはなんという信仰心に欠けることをおっしゃるのですか。
なにものにも変え難いご子息の健康がかかっているというのに。
神の奇跡のすがるのに浄財を渋るなど嘆かわしい。
ご子息のためになんとしても浄財を用立てるのが信仰心でしょうに。」
凄い身勝手なことを言っている。
お金がなければ借金をしてでも創世教の治癒術師に金を払えって言っているんだよね。
本当に創世教の人たちって拝金主義だよね、どうしてこれで信者を繋ぎとめておけるのかな。
見かねて、わたしは女性のところへ走った。
「おかあさん、お子さんの具合が悪いのでしたらここで診てしまいましょう。
そしたら、精霊神殿に入る必要ありませんし、この方に難癖付けられることもないでしょうから。」
「こら、子供が勝手に口を挟むんじゃない!」
神官が何か言っているが無視だ。
わたしは、光のおチビちゃんと水のおチビちゃんに、『浄化』と『癒し』を続けてかけるようにお願いする。
一応、わたしが治癒を施したことがわかるようにそれらしいことを言っておいた方がよいかな。
「幼子の体に巣食う悪しきモノをとり払い、その体に癒しを」
わたしの言葉に合わせて、赤ちゃんを明るい光がとりまきそれが収まると優しい青白い光が赤ちゃんを包み込む。
その光が赤ちゃんに吸い込まれるように消えると、そこには穏やかに眠る赤ちゃんの姿があった。
創世教の神官は、突然のことに言葉が出てこないようだ。
「もうこれで風邪は心配ないと思います。まだ寒いので早く帰って温かくしてくださいね。」
わたしは、そう言って女性に早くここから立ち去るように指示した。
「有り難うございます!」
女性はわたしの意図がわかったようで、そう言って足早に去って言った。
さて、どうしたものだろうか。
この寒い中たくさんの神官を動員して、広場のあちらこちらでさっきわたしが目にしたようなやり取りが行われている。
よく見るとグラウベ大司教自ら広場に出てきて陣頭指揮を執っているじゃない。よくやるよ…。
「あの大司教、姑息な手段を使っても埒が明かないことに気付いて強硬手段に出たわね。
でも、それが悪手なのに何故気が付かないのかしら。
創世教ってそこまで傲慢になってしまったのかしらね。
たぶん、フローラにだってこんなことをしたら逆効果だってわかるわよね。」
いつの間にかわたしの横にいたミルトさんが呟いた。
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こんなところで、民衆を敵に回すような行いをするって、本当に勇者だよね…。
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