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第6章 王家の森
第128話 謁見の間で
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王都の創世教が詫びを入れたことで民衆の抗議行動は収まり、グラウベ大司教が引き起こした騒動は一応収束した。
創世教の本部がどう対応するか今はまだ分からないので、本当の意味では解決していないのだけどね。
創世教の本部は片道一ヶ月以上かかる場所にあるらしいから、結論は二ヶ月以上先だね。
ただ、一つ言えるのは王家の森を開拓したい人達は創世教の協力を得られなくなったと言うこと。
元々、創世教が教会として王家の森を開発したい人たちを支援していたわけではないみたい。
王都における創世教の実権を握っていたグラウベ大司教が創世教を国教にするべく王家の森の開発推進派の支援を独断で決めていたようだね。
グラウベ大司教が事実上失脚してから、創世教は王家の森の開発推進派を支援するのを止めてしまった。
現在、臨時で王都の創世教の代表をしている司祭さんが、王に謁見しグラウベ大司教が行った数々の無礼を詫びると共に今後王家の問題に口を出さないと約束して帰って言ったそうだ。
ミルトさんは本部に任命されたわけではない臨時の人の言うことだからどこまで当てになるか分らないと言いつつも、創世教の本部も今回の騒動を鎮めた貢献者の言い分は聞くだろうと言う。
また今回の件で、商人も王家の森の開発推進派に組する者は潮が引くようにいなくなっちゃったらしい。
王家の森の開発推進派の筆頭であるドゥム伯爵が、グラウベ大司教と組んで悪巧みをしていたのが王都中に知れ渡ってしまったためドゥム伯爵を支援するのは拙いと思っているそうだ。
大司教とドゥム伯爵と組んでいた若い商人が王家の御用商人の立場を追われ窮地に立たされていることも、商人のドゥム伯爵離れを加速させたみたいね。
でも、収まりがつかないのがドウム伯爵を中心とする王家の森を開発したい宮廷貴族達。
教会と商人という、信仰面、資金面の後ろ盾を失ってもまだ諦めないみたい…、こりないね…。
**********
そして、何故かわたしは王宮で行われる式典に臨席している。
ミルトさんが面白い茶番を見せてあげるからいらっしゃいと無理やり引っ張ってきたんだ。
ミルトさんの横でフローラちゃんのドレスを纏ってちょこんと立っている。
今日は永年にわたって宰相をつとめた方の退官記念式典で、王から褒賞があるらしい。
退屈な式典の間、わたしは何度あくびを噛み殺したものか、これは新手の虐めですか…。
そんなとき、睡魔と闘うわたしの頭をミルトさんが軽く叩いた。
「これからが本番よ、ちゃんと見ていて。」
ミルトさんに言われて玉座の方を注目すると、ヴァイゼさんが前宰相にお声を掛けるところだった。
ミルトさんの話では、普通は横に立っている宰相が王の代わりに話をするので、王自らお声をかけることは本当に珍しいことなんだって。
「フェアメーゲンよ、卿の永年にわたる献身的な働き、誠に大儀であった。
卿の忠義に報いるため、ハイリケンシュタットの街及びその周辺を卿の領地として下賜するものとする。
併せて、卿を朕の終身相談役とする。」
謁見の間が大きくざわついた。
ミルトさんの話では、ハイリケンシュタットは王都に一番近い街で王都に何かあった際に臨時に王都を移すことを念頭に築かれた町なんだって。
だから、王室の直轄地となっていて臣下に下賜するとは思われていなかったらしい。
「恐れながら申し上げます。フェアメーゲン卿は宰相として現在は伯爵位をお持ちですが、元は平民の出自、ハイリケンシュタットの領主というのは何かの間違いでは?」
声を上げたのはくだんのドウム伯爵、本当は謁見の最中に臨席しただけの人が口を挟んではいけないらしいのだが。
「ほう、卿は朕の判断に異議を申すのか、身の程を知らぬかこの愚か者め。
朕は常々言っておろう、官僚は出自でなく働きで評価すると、この中でフェアメーゲンより功があると自信のある者がおればこの場で申し出てみよ。
皆の者よく聞け、今日はフェアメーゲン卿の褒賞を行うと共に、一つ周知してもらいたい事項があったのだ。
皇太子よ、告知事項の説明をせよ。」
ヴァイゼさんの指示でミルトさんの旦那さんが前へ進み出た。
「先日王室会議を開きまして王室典範の改正をいたしました。
改正点は従来曖昧になっていた王家の私有財産の下賜に関する基準を明確にしたことです。
具体的には王室の私有財産を下賜するのは宰相以上の勲功があった者で領地を有していない者に限るとしました。」
皇太子のは言葉に頷いたヴァイゼさんは続けて言った。
「朕はこのところの王室の私有財産に関する陳情の多いことに甚だ呆れていたのだ。
なんで、王室の私有財産に口を挟まれるのかと。
調査の結果、従来は王室の私有財産を下賜する基準が曖昧で、さしたる勲功のない者にも下げ渡した事例があるためこのような愚かな陳情が出てくるものだと思料した。
本来、褒章というのは国の予算を持って行われるもので、王室の私有財産を当てるのはそれだけ特別な働きのあった者に限られるべきものだと思うのだ。
そう考えると、最低限宰相として王と共に国の運営に骨を折るくらいの勲功は必要であろうと判断したのだ。
もちろん、戦や天災など時局によっては宰相以上の働きをするものもあろう、だから宰相以上の勲功があった者とした。『以上』の判断はそのときの王族が行うものとする。
『以上』に該当するのは宰相になるより難しいと理解して欲しい。」
つまり、宰相までつとめ上げた人には、王室の私有財産が下賜される可能性があるわけだ。
でも、必ずではなく、あくまで可能性なんだよね。
ちなみに、フェアメーゲンさん、ヴァイゼさんの王立学園時代の同級生で商人の次男、当時最年少の十五歳で高等文官試験に合格し大蔵省に入り、三十歳で主計局長になって男爵を叙爵し、三十五歳で大蔵卿兼宰相輔となり子爵に昇爵、四十歳で宰相となって伯爵、で先日まで十五年宰相の地位にあったんだって。
ヴァイゼさんの右腕的な人で、入省したころは王宮の麒麟児と言われていたらしい。
え、何でフェアメーゲンさんの話をしたかって?
それは、ヴァイゼさんの最後の言葉に繋がるから。
「今色々と陳情しているものは、望みを叶えたければ宰相まで登り詰めることであるな。
もっとも、その前に高等文官試験に合格してもらわないことには話にもならんか。」
この国の官僚制度は実績主義といわれているけど、王宮で課長以上になるには必ず高等文官試験に合格しないといけないそうだ。
これは、王宮に入ったあとに合格してもいいらしい、何故かと言うと貴族は特権として無試験で王宮の役人になれるからだそうだ。
ただし、役人になった後は、平民の役人と競って出世する必要があるそうだ。
そして、最初のハードルが高等文官試験なんだって。
で、今王宮勤めでうだつが上がらず王家の森を開発させろと言っているのは、もっぱら高等文官試験に合格できない輩らしい。
え、まさかこんなオチじゃないよね…。
「それこそまさかよ、これで潰せるのは小物だけ。
最初に言ったでしょう、誰か扇動した輩がいるの。
そこに行きつかないから、今回とりあえず手足を切ってみたのよ。
揺さぶりよ、これでどう転ぶかしらね。」
とミルトさんは言っている。
創世教の本部がどう対応するか今はまだ分からないので、本当の意味では解決していないのだけどね。
創世教の本部は片道一ヶ月以上かかる場所にあるらしいから、結論は二ヶ月以上先だね。
ただ、一つ言えるのは王家の森を開拓したい人達は創世教の協力を得られなくなったと言うこと。
元々、創世教が教会として王家の森を開発したい人たちを支援していたわけではないみたい。
王都における創世教の実権を握っていたグラウベ大司教が創世教を国教にするべく王家の森の開発推進派の支援を独断で決めていたようだね。
グラウベ大司教が事実上失脚してから、創世教は王家の森の開発推進派を支援するのを止めてしまった。
現在、臨時で王都の創世教の代表をしている司祭さんが、王に謁見しグラウベ大司教が行った数々の無礼を詫びると共に今後王家の問題に口を出さないと約束して帰って言ったそうだ。
ミルトさんは本部に任命されたわけではない臨時の人の言うことだからどこまで当てになるか分らないと言いつつも、創世教の本部も今回の騒動を鎮めた貢献者の言い分は聞くだろうと言う。
また今回の件で、商人も王家の森の開発推進派に組する者は潮が引くようにいなくなっちゃったらしい。
王家の森の開発推進派の筆頭であるドゥム伯爵が、グラウベ大司教と組んで悪巧みをしていたのが王都中に知れ渡ってしまったためドゥム伯爵を支援するのは拙いと思っているそうだ。
大司教とドゥム伯爵と組んでいた若い商人が王家の御用商人の立場を追われ窮地に立たされていることも、商人のドゥム伯爵離れを加速させたみたいね。
でも、収まりがつかないのがドウム伯爵を中心とする王家の森を開発したい宮廷貴族達。
教会と商人という、信仰面、資金面の後ろ盾を失ってもまだ諦めないみたい…、こりないね…。
**********
そして、何故かわたしは王宮で行われる式典に臨席している。
ミルトさんが面白い茶番を見せてあげるからいらっしゃいと無理やり引っ張ってきたんだ。
ミルトさんの横でフローラちゃんのドレスを纏ってちょこんと立っている。
今日は永年にわたって宰相をつとめた方の退官記念式典で、王から褒賞があるらしい。
退屈な式典の間、わたしは何度あくびを噛み殺したものか、これは新手の虐めですか…。
そんなとき、睡魔と闘うわたしの頭をミルトさんが軽く叩いた。
「これからが本番よ、ちゃんと見ていて。」
ミルトさんに言われて玉座の方を注目すると、ヴァイゼさんが前宰相にお声を掛けるところだった。
ミルトさんの話では、普通は横に立っている宰相が王の代わりに話をするので、王自らお声をかけることは本当に珍しいことなんだって。
「フェアメーゲンよ、卿の永年にわたる献身的な働き、誠に大儀であった。
卿の忠義に報いるため、ハイリケンシュタットの街及びその周辺を卿の領地として下賜するものとする。
併せて、卿を朕の終身相談役とする。」
謁見の間が大きくざわついた。
ミルトさんの話では、ハイリケンシュタットは王都に一番近い街で王都に何かあった際に臨時に王都を移すことを念頭に築かれた町なんだって。
だから、王室の直轄地となっていて臣下に下賜するとは思われていなかったらしい。
「恐れながら申し上げます。フェアメーゲン卿は宰相として現在は伯爵位をお持ちですが、元は平民の出自、ハイリケンシュタットの領主というのは何かの間違いでは?」
声を上げたのはくだんのドウム伯爵、本当は謁見の最中に臨席しただけの人が口を挟んではいけないらしいのだが。
「ほう、卿は朕の判断に異議を申すのか、身の程を知らぬかこの愚か者め。
朕は常々言っておろう、官僚は出自でなく働きで評価すると、この中でフェアメーゲンより功があると自信のある者がおればこの場で申し出てみよ。
皆の者よく聞け、今日はフェアメーゲン卿の褒賞を行うと共に、一つ周知してもらいたい事項があったのだ。
皇太子よ、告知事項の説明をせよ。」
ヴァイゼさんの指示でミルトさんの旦那さんが前へ進み出た。
「先日王室会議を開きまして王室典範の改正をいたしました。
改正点は従来曖昧になっていた王家の私有財産の下賜に関する基準を明確にしたことです。
具体的には王室の私有財産を下賜するのは宰相以上の勲功があった者で領地を有していない者に限るとしました。」
皇太子のは言葉に頷いたヴァイゼさんは続けて言った。
「朕はこのところの王室の私有財産に関する陳情の多いことに甚だ呆れていたのだ。
なんで、王室の私有財産に口を挟まれるのかと。
調査の結果、従来は王室の私有財産を下賜する基準が曖昧で、さしたる勲功のない者にも下げ渡した事例があるためこのような愚かな陳情が出てくるものだと思料した。
本来、褒章というのは国の予算を持って行われるもので、王室の私有財産を当てるのはそれだけ特別な働きのあった者に限られるべきものだと思うのだ。
そう考えると、最低限宰相として王と共に国の運営に骨を折るくらいの勲功は必要であろうと判断したのだ。
もちろん、戦や天災など時局によっては宰相以上の働きをするものもあろう、だから宰相以上の勲功があった者とした。『以上』の判断はそのときの王族が行うものとする。
『以上』に該当するのは宰相になるより難しいと理解して欲しい。」
つまり、宰相までつとめ上げた人には、王室の私有財産が下賜される可能性があるわけだ。
でも、必ずではなく、あくまで可能性なんだよね。
ちなみに、フェアメーゲンさん、ヴァイゼさんの王立学園時代の同級生で商人の次男、当時最年少の十五歳で高等文官試験に合格し大蔵省に入り、三十歳で主計局長になって男爵を叙爵し、三十五歳で大蔵卿兼宰相輔となり子爵に昇爵、四十歳で宰相となって伯爵、で先日まで十五年宰相の地位にあったんだって。
ヴァイゼさんの右腕的な人で、入省したころは王宮の麒麟児と言われていたらしい。
え、何でフェアメーゲンさんの話をしたかって?
それは、ヴァイゼさんの最後の言葉に繋がるから。
「今色々と陳情しているものは、望みを叶えたければ宰相まで登り詰めることであるな。
もっとも、その前に高等文官試験に合格してもらわないことには話にもならんか。」
この国の官僚制度は実績主義といわれているけど、王宮で課長以上になるには必ず高等文官試験に合格しないといけないそうだ。
これは、王宮に入ったあとに合格してもいいらしい、何故かと言うと貴族は特権として無試験で王宮の役人になれるからだそうだ。
ただし、役人になった後は、平民の役人と競って出世する必要があるそうだ。
そして、最初のハードルが高等文官試験なんだって。
で、今王宮勤めでうだつが上がらず王家の森を開発させろと言っているのは、もっぱら高等文官試験に合格できない輩らしい。
え、まさかこんなオチじゃないよね…。
「それこそまさかよ、これで潰せるのは小物だけ。
最初に言ったでしょう、誰か扇動した輩がいるの。
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揺さぶりよ、これでどう転ぶかしらね。」
とミルトさんは言っている。
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