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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ
第143話 この夏、辺境でやりたいこと
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「よし!昨日ソールさんたちと相談したとおり精霊の森ができたよ!」
今まで上位精霊のみんなが存分に力を振るうような場面がなかったので、フェイさんたち上位精霊が本気を出したらどんなことになるかわたしも初めて知ったよ。
さすがにあっという間に森ができたのには吃驚した。
「ターニャちゃん、この村の人のために力を貸してくれて有り難うございます。」
「ふぇ?ハイジさんにお礼を言われることじゃないよ。
別にこの村の人のためにやったわけじゃないから。」
「はい?どういうことですか?」
わたしの返事にハイジさんが首をかしげる。
「わたしがフェイさんたちに頼んでここに精霊の森を作ってもらったのはここを足掛りにするため。
これから、帝国の彼方此方に精霊の森を作って帝国の瘴気を浄化するの。」
昨日のミーナちゃんの予想が当たっていたら『黒の使徒』の連中は相当怒るだろうね。
わたしは、悪い笑みを浮かべてハイジさんに告げた。
おかあさん達が瘴気の森を浄化しているのだって別に正義感からやっているわけじゃないし、ましては人のためではない。
精霊は清浄なマナを糧としているのだから、マナを蝕む瘴気を発する森なんて精霊の生存を脅かすもの以外の何物でもない。だから二千年もかけて延々と浄化作業をしているの、旧魔導王国に対する恨み言をぼやきながら…。
わたしは、昨年帝国に来たときに精霊が全く居ないことに驚いたの。オストマルク王国じゃあその辺に居るのに。
ソールさんにそのことを尋ねたら、帝国の瘴気の濃さは精霊には到底我慢できないもので、とっとと出て行ったのだろうと言うの。
その時ソールさんは帝国の瘴気の濃さが生き物全てに害を及ぼす危機的水準だと言って警鐘を鳴らしていた。
今回帝国に来るのにあたって、帝国には荒れたまま放置されいる土地がたくさんあるので、精霊の森を作っちゃおうって、ソールさん達やミーナちゃん、ハンナちゃんと相談してきたの。
人の手が届かない精霊の自由にできる森が増えれば精霊達も喜ぶから、ソールさん達も協力してくれるって。瘴気が掃えて自由になる森が手に入るなら一石二鳥だって。
「それで、瘴気の森を越えて最初にあるこの村から始めようということになったの。
だって、商隊が帝国に入って最初に目にする村がここでしょう、青々とした森があって豊かな実りをもたらす畑があったら評判になると思わない?
フェイさんが気を利かせて枯れない泉を作ってくれたし、この村はオアシスとして商隊の人が必ず立ち寄る村に変わると思うよ。
そうなったら、後々森を増やすときにその近くの村の人に歓迎してもらえるよね。
そういう意味で、この村は足掛りなの。」
わたし達がやろうとしていることを黙って聞いていたハイジさんは、
「それでも有り難うと言わせてください。
ターニャちゃん達の目的がどこにあろうと、この村の人に農地と水を与えてくれたこと、瘴気から村の人の健康を守ってくれたのは事実なんですから。」
と言って再び頭を下げた。
ハイジさんって本当に謙虚だよね、とてもあの暴君の娘とは思えないよ。弟のザイヒト王子なんか皇帝の生き写しなのに…。
**********
「それで、この後はどうするんですか?」
「明日、街道の南側に畑と果樹園を作るつもりなの。
それができたら、精霊の森の様子を見て、この村を発つのは明後日かな?」
フェイさんから注意されたんだ、ソバとか芋とかばっかりじゃ飢えは凌げるけど体に良くないって。
緑黄色野菜っていうのが必要だってフェイさんが言うの。それと柑橘類も健康に良いって。
フェイさんに言われて用意したのが、蕪と人参、それに何種類かの青菜の種。
蕪と人参は栄養があって保存が効くんだって、青菜はすぐに食べるもの以外は塩漬けにして冬場に食べるらしいよ。
それと乾燥に強い種類のオレンジの苗木を用意してきたんだ。
明日は、街道を挟んだ南側の手付かずになっている荒地に緑黄色野菜の種を蒔く畑と果樹園を作るんだ。
フェイさんの泉から出ている小川を暗渠にして街道の南側に引っ張らないといけないな。
小川の終点は小さなため池にしてその回りにオレンジを植えるの。
「この村の次はどちらの方へ向かうのですか?」
「それなんだけど、オストエンデの町の方に行くつもりはないんだ。
この近くの村を回るつもりなんだけど、村がどこにあるのか村長さんに聞いてみようと思って。
他にも村長さんには聞きたいことがあるんだ。」
**********
夕食を済ませたあと、わたし達は村長さんのお宅にお邪魔している。
「瘴気の森の木材の伐り出しですか?」
「はい、どこかで伐り出して帝都辺りまで送っているようなのですけど。
どこで伐採しているか知りませんか?」
「さて、申し訳ありませんが聞いたことがありませんな。
瘴気の森から木材を切り出すとなるとこんな小さな村では無理ですな。
瘴気の森には魔獣がおりますので、伐採している間伐採する人を守り魔獣を駆逐する人が必要です。
相当大掛かりな仕事になりますよ、ある程度大きな村でないとできないでしょう。
少なくてもこの近辺にそんな大きな村はありませんな。」
わたし達は昨年帝国を訪れたときから気に掛かっていた瘴気の森産の木材の出所を知るために、村長さんのお宅を訪ねたのだ。
遠くから出張って木を伐採するのは非効率なので、瘴気の森周辺の開拓村で伐採しているものと思い村長さんに聞いてみたのだが知らないようだね。
一番近くの村はここから荷馬車で三時間ほど行った所にあるらしい。
この村と同じくらいの大きさで村人は百人に届かないみたい。
やっぱり魔晶石の採取が村の生業となっていて、魔晶石をオストエンデ方面へ運ぶため道はちゃんとあるらしい。
街道を少し西に行ったところから北へ分岐する道があるそうだ、行けばわかると村長さんは言っている。
とりあえず次はその村に行って情報を探るしかないかな…。
今まで上位精霊のみんなが存分に力を振るうような場面がなかったので、フェイさんたち上位精霊が本気を出したらどんなことになるかわたしも初めて知ったよ。
さすがにあっという間に森ができたのには吃驚した。
「ターニャちゃん、この村の人のために力を貸してくれて有り難うございます。」
「ふぇ?ハイジさんにお礼を言われることじゃないよ。
別にこの村の人のためにやったわけじゃないから。」
「はい?どういうことですか?」
わたしの返事にハイジさんが首をかしげる。
「わたしがフェイさんたちに頼んでここに精霊の森を作ってもらったのはここを足掛りにするため。
これから、帝国の彼方此方に精霊の森を作って帝国の瘴気を浄化するの。」
昨日のミーナちゃんの予想が当たっていたら『黒の使徒』の連中は相当怒るだろうね。
わたしは、悪い笑みを浮かべてハイジさんに告げた。
おかあさん達が瘴気の森を浄化しているのだって別に正義感からやっているわけじゃないし、ましては人のためではない。
精霊は清浄なマナを糧としているのだから、マナを蝕む瘴気を発する森なんて精霊の生存を脅かすもの以外の何物でもない。だから二千年もかけて延々と浄化作業をしているの、旧魔導王国に対する恨み言をぼやきながら…。
わたしは、昨年帝国に来たときに精霊が全く居ないことに驚いたの。オストマルク王国じゃあその辺に居るのに。
ソールさんにそのことを尋ねたら、帝国の瘴気の濃さは精霊には到底我慢できないもので、とっとと出て行ったのだろうと言うの。
その時ソールさんは帝国の瘴気の濃さが生き物全てに害を及ぼす危機的水準だと言って警鐘を鳴らしていた。
今回帝国に来るのにあたって、帝国には荒れたまま放置されいる土地がたくさんあるので、精霊の森を作っちゃおうって、ソールさん達やミーナちゃん、ハンナちゃんと相談してきたの。
人の手が届かない精霊の自由にできる森が増えれば精霊達も喜ぶから、ソールさん達も協力してくれるって。瘴気が掃えて自由になる森が手に入るなら一石二鳥だって。
「それで、瘴気の森を越えて最初にあるこの村から始めようということになったの。
だって、商隊が帝国に入って最初に目にする村がここでしょう、青々とした森があって豊かな実りをもたらす畑があったら評判になると思わない?
フェイさんが気を利かせて枯れない泉を作ってくれたし、この村はオアシスとして商隊の人が必ず立ち寄る村に変わると思うよ。
そうなったら、後々森を増やすときにその近くの村の人に歓迎してもらえるよね。
そういう意味で、この村は足掛りなの。」
わたし達がやろうとしていることを黙って聞いていたハイジさんは、
「それでも有り難うと言わせてください。
ターニャちゃん達の目的がどこにあろうと、この村の人に農地と水を与えてくれたこと、瘴気から村の人の健康を守ってくれたのは事実なんですから。」
と言って再び頭を下げた。
ハイジさんって本当に謙虚だよね、とてもあの暴君の娘とは思えないよ。弟のザイヒト王子なんか皇帝の生き写しなのに…。
**********
「それで、この後はどうするんですか?」
「明日、街道の南側に畑と果樹園を作るつもりなの。
それができたら、精霊の森の様子を見て、この村を発つのは明後日かな?」
フェイさんから注意されたんだ、ソバとか芋とかばっかりじゃ飢えは凌げるけど体に良くないって。
緑黄色野菜っていうのが必要だってフェイさんが言うの。それと柑橘類も健康に良いって。
フェイさんに言われて用意したのが、蕪と人参、それに何種類かの青菜の種。
蕪と人参は栄養があって保存が効くんだって、青菜はすぐに食べるもの以外は塩漬けにして冬場に食べるらしいよ。
それと乾燥に強い種類のオレンジの苗木を用意してきたんだ。
明日は、街道を挟んだ南側の手付かずになっている荒地に緑黄色野菜の種を蒔く畑と果樹園を作るんだ。
フェイさんの泉から出ている小川を暗渠にして街道の南側に引っ張らないといけないな。
小川の終点は小さなため池にしてその回りにオレンジを植えるの。
「この村の次はどちらの方へ向かうのですか?」
「それなんだけど、オストエンデの町の方に行くつもりはないんだ。
この近くの村を回るつもりなんだけど、村がどこにあるのか村長さんに聞いてみようと思って。
他にも村長さんには聞きたいことがあるんだ。」
**********
夕食を済ませたあと、わたし達は村長さんのお宅にお邪魔している。
「瘴気の森の木材の伐り出しですか?」
「はい、どこかで伐り出して帝都辺りまで送っているようなのですけど。
どこで伐採しているか知りませんか?」
「さて、申し訳ありませんが聞いたことがありませんな。
瘴気の森から木材を切り出すとなるとこんな小さな村では無理ですな。
瘴気の森には魔獣がおりますので、伐採している間伐採する人を守り魔獣を駆逐する人が必要です。
相当大掛かりな仕事になりますよ、ある程度大きな村でないとできないでしょう。
少なくてもこの近辺にそんな大きな村はありませんな。」
わたし達は昨年帝国を訪れたときから気に掛かっていた瘴気の森産の木材の出所を知るために、村長さんのお宅を訪ねたのだ。
遠くから出張って木を伐採するのは非効率なので、瘴気の森周辺の開拓村で伐採しているものと思い村長さんに聞いてみたのだが知らないようだね。
一番近くの村はここから荷馬車で三時間ほど行った所にあるらしい。
この村と同じくらいの大きさで村人は百人に届かないみたい。
やっぱり魔晶石の採取が村の生業となっていて、魔晶石をオストエンデ方面へ運ぶため道はちゃんとあるらしい。
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