精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ

第145話 男しかいない村

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 村を出てオストエンデ方面へ少し進むと村長さんが言ったとおり北の方に向かう分岐があった。
 今きた道ほどの道幅はないが、ミーナちゃんは辺境の道としては手入れがされている方だと言っている。

「本当に草の一本も生えていないですね、こんなところに村があるんでしょうか?」

 ミーナちゃんが誰に尋ねるでもなく疑問を口にするとハイジさんが説明してくれた。

「帝国では農地の荒廃で食糧生産が落ち込んできたため、西の大陸との貿易で魔導具を輸出し食糧を輸入するようになったのです。
 魔導具の動力源として魔晶石が必需品なので、瘴気の森の近くに魔獣狩りを生業とする村をたくさん作ったのです。
 この先道沿いに狩場が重ならないように距離を置きながらいくつも小さな村があるはずです。」

 こんなに瘴気の森に近いと普通じゃあ農作物は育たないよね。
 ロッテちゃんの村もそうだったけど食料が自給できない村って大変だよね。近隣の農村が凶作だともろに影響を受けちゃう。昨年は大丈夫だったのかな?


     **********


 ほどなくして小さな村が見えてきた、村? 掘っ立て小屋みたいな荒ら屋あばらやしかないんですけど…。
 村の入り口で魔導車を降りたわたしはフェイさんとソールさんの付き添いで村の中に歩いていく。

「お貴族様がこんな辺鄙な村に何のご用だい?」

 あまり柄の良くない若い男が声をかけてきた。

「旅の者です、少しこの辺の事情をお聞きしたくて。村長さんはおいでですか?」

「悪いな、この村にゃそういうきちんとした役職の者はいないんだ。一応俺がここのまとめ役になっちゃいるんだがな。」

 何だろうこの村?まさか野盗の巣じゃないよね、野盗が出るなんて村長さん言ってなかったもんね。

「そうですか、わたしはティターニアと申します。
 この村に病気や怪我の方がいれば治療しますけど、治癒術には多少の心得がありますので。
 もちろん御代はいただきませんわ。」

「なんだい気味が悪い子供だな。
 治癒術なんてちょっとした怪我でも金貨一枚取るもんなんだろう。
 何を要求するつもりだい。」

「何も要求なんかしませんよ。
 少し話を聞かせて貰えば良いだけです。
 とりあえず、具合の悪い人はいませんか。」

 やっぱり、突然来て病人を治しますよは怪しかったか?
 でも、昨年みたいにいきなり食料を配るのも怪しいよね、それにこの人、妙に血色良いし。

「まあ、払えって言われたって先立つものはねえからな。
 ちょうどよかった、この前魔獣狩りに行って怪我した奴が何人かいてな。
 そんなに言うのならちょっと診てもらえるか。」

 男に連れられて荒ら屋の一軒に入る、怪我人が三人寝ているようだ。
 腕とふくらはぎと背中か、背中に引っ掻き傷がある人が一番重症みたいだ。

 わたしが背中に傷を負った男に近付くと傷口が膿んだ臭いがした。
 うわっ、化膿しているよ。
 わたしは傷口を念入りに『浄化』したあと、『癒し』を施す。
 よし、傷跡一つ残らずに治った、あとはおまけに全身を軽く『浄化』する。
 だって凄く臭いんだもん、怪我人なんだから清潔にしてよ…。

「あんた本当に治癒術師だったんだ。
 『色なし』の子供が何の冗談かと思ったぞ。
 傷口を見て卒倒でもしようもんなら、大人をからかうんじゃないってとっちめてやろうと思ってたんだ。」

 あ、はなから信用していなかったんだ…。

 わたしは、同じように残る二人にも治癒を施して男に言う。

「これで、全員ですか?最初に言ったとおり御代はいりませんよ。
 それで、少しお話をお聞かせ願えますか?」

「ああ、すまねえな、本当の治癒術師さんなら一人診て貰いたい病人がいるんだ。
 この間からひでえ熱を出して動けねえんだ。」


 別の建物に案内されると熱でぐったりとしている男が床に臥していた。
 いたよ、瘴気中毒の人…。

「どうだい、こいつ治せそうかい?」

 心配そうにしている男にわたしは自信を持って言う。

「ええ、大丈夫です。この病気の人がいないか探していたんです。」

 わたしは病人の体に溜まった瘴気を念入りに『浄化』する。しばらくすると熱も引いたようで呼吸も穏やかになった。
 こちらもおまけに『癒し』を施し体力を回復させておく。

「もう大丈夫です。この人は濃い瘴気に体を蝕まれて正常な状態を保てなくなっていたのです。
 この病気の件も含めてお話を伺いたいのですかよろしいですか?」

「おう、あんたは仲間の恩人だ、俺に分かることなら何でも聞いてくれ。」

 今度こそ男は信用してくれたようで、男の家で話を聞くことになった。


    ************

「名乗るのが遅くなってすまねえな、俺はハンスって言うんだよろしくな。
 この村にゃ女がいねえから茶の一つも出せないが勘弁な。
 で、なにが聞きてえって?」

 えっ、なんかスルーできないことを言ったよこの人。

「女性が一人もいないんですか?」

「おうよ、女子供がいたら気軽に移動できないじゃないか。
 この村は仮住まいみたいなもんだからな。だから村長なんていないんだよ。」

 ハンスさんの話では、この村は魔獣狩りを生業とする若い男だけの村らしい。
 集団で短期間に狩れるだけの魔獣を狩ったら、採取した魔晶石を村人全員でオストエンデまで売りに行くらしい。
 どんだけ魔獣を狩るのか知らないが、この村の住人は腕に覚えのある人ばかりで結構な実入りがあるようだ。魔晶石は良い値段で売れるらしいよ。
 オストエンデで羽を伸ばして、食糧を買い込んだらここへ戻ってまた魔獣狩りをすると言う。

 オストエンデで羽を伸ばす話の辺りで、いきなりフェイさんに耳を塞がれた。
 耳から手を離されたときには、フェイさんは

「子供になんて話を聞かせるんですか、まったく男ってやつは。」

と言ってハンスさんを叱っていた。なんだったんだろう?

 何でハンスさんがこんなに顔色が良いのかと思っていたら、十分な食料があったからなんだね。

 ハンスさんに隣の村では昨年餓死者が出るくらい困窮していたと話をしたところ、

「こんなところでそんな普通の家庭生活ができるわけないだろう。
 行商頼りの生活なんか危なくてできねえよ、こんな辺境、なんかあったら真っ先に切られるわ。」

と笑い飛ばされてしまった。

 女子供を連れてオストエンデまで行き来するのは日程や費用の面で難しいし、村に残して行くにしても女子供の分まで食料を持って帰えるのは量的に絶対できないと言う。
 ハンスさんは、魔晶石を売れば金銭的には家族を養えるように思えるけど、食料を始めとする物資調達面でこの辺境で女子供を抱えて生活するのは難しいと言っている。

 この村の男衆はお金が貯まったら村を捨てて町に帰り、そこで所帯を持つつもりなんだって。
 みんな結構堅実にお金を貯めているらしいよ。
 荒ら屋に住んでいるのもなるべくお金をかけないためみたい。


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