精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ

第161話 ガサ入れ

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 そこは集落というよりも砦と言ったほうが良い作りだったの。
 土塁と空堀に周囲が囲まれている、立地からして魔獣対策のためにあるのだろうね。
 でも、人の立ち入りを拒んでいるよう感じるのはわたしの気のせいだろうか。

 施設の門の前で後続の魔導車から近衛騎士が四人下車して門前に立つ二人の男に近付いていく。

「私達は近衛騎士団の者です。この地域は開発及び立ち入り禁止区域となっています。
 こちらの施設は王国法に違反しておりますので接収させていただきます。
 速やかに開門してください。」

 近衛騎士の一人が魔導車に乗るわたし達にも聞こえるような大きな声で門番に宣告した。
 門番は一瞬怯んだが素直に開門に応じるつもりはないようだ。
 なにやら口論から揉み合いになり、終には近衛騎士が門番を捕縛してしまった。

 近衛騎士の一人がこちら来て報告する。

「申し訳ございません。
 穏便に済まそうと思いましたが、開門を拒まれため公務執行妨害で捕縛しました。」

 そう言うと近衛騎士は小走りに門まで戻り速やかに門を開いた。

「へぇー、良く教育されているわね、あの門番達。」

「えっ、どうしてですか。」

「だって、いくら平和な国と言っても相手は訓練された精鋭の騎士よ。
 賊が来たならともかく騎士が正当な理由に基づいて開門を要求したのよ。
 普通、お金で雇われただけの門番が開門を拒むと思う?
 誰が来ても通さないように厳しく教育されているのだと思うわ。」

 ミルトさんはそう言って、それだけに怪しい施設だと言った。


     **********


 門を入ると土塁の中には作業場のようなやや大きな平屋の建物が二棟、宿舎だろうか質素な平屋の建物が十棟、そして事務所らしきちゃんとした建物が1棟建っていた。

 打ち合わせ通りに最後尾にいた侯爵の魔導車が門を塞ぐように停車しそこから十名の領兵が下車して門を閉鎖した。

 また、瘴気の森側にも門があるだろうとの予想に基づき十名の領兵を乗せた魔導車が一台奥へ進んでいった。

 わたしはおチビちゃん達に病気や怪我で動けない人がいるはずなのでで探して欲しいとお願いする。
 そして、

「ソールさん、外の瘴気が濃すぎてわたし達みたいな瘴気に対する耐性の弱い人間はすぐに瘴気に中てられそうなの。
 魔導車から降りる前にこの敷地内の瘴気を『浄化』してもらってもいいかな。」

とソールさんへお願いをする。

「ええ、そのくらいは問題ないですけど、瘴気の森に近いせいで一度浄化してもすぐに瘴気が濃くなります。
 ただ、継続的に『浄化』を行うとなるとターニャちゃん達の護衛に手が回らなくなるので、その点が心配です。」

 流石にソールさんでも絶えず瘴気の森から洩れ出てくる高濃度の瘴気を浄化しながら、他のことに気を配るのは難しいようだね。
 ソールさんの言葉に頷いてミルトさんが言う。

「たしかに、この瘴気の中活動するのは健康上どうかと思うわ。
 でも、一介の門番でさえ抵抗したのだから責任者やその周りの者が抵抗しないとは思えないわ。
 ターニャちゃんやミーナちゃんに危害を加えられる心配はあるわね。
 いっそのこと最初に無力化してから話を聞きましょうか。
 ヒカリちゃん、申し訳ないんだけど、あの建物中にいる人全員を眠らせてもらえるかな。」

 ミルトさんは問答無用で全員眠らせてしまえば良いと言う。ヒカリもやる気満々だ。
 たしかに、荒事になって誰かが怪我をするよりその方がいいかもしれないね。


 プランがまとまったので実行に移すため魔導車を事務所と思わしき建物の前に停車させる。
 そして、ソールさんが一気に施設全体を覆うように『浄化』の術を施す。継続的に浄化をしているせいなのか、ソールさんが光っているよ、こんなの初めて見た。

 それまで澱んで見えた空気が霧が晴れるように一気に清浄さを取り戻した。

 わたし達がまとまって魔導車を降りると、今度はヒカリの術による柔らかい光が目の前の建物全部を包み込んだ。

「ママ、終ったよ。建物の中にいる人はみんな眠っているはず。
 今のうちに入って縛り上げちゃって。」

 ヒカリがそう言うと公爵領の騎士達二十人が捕縛用の縄を持って建物に踏み込んで行った。
 待つこと約三十分、騎士の一人が建物の中にいた者全員の捕縛を報告してきた。

 ミルトさんは、公爵領の騎士二十名に作業所らしき建物の中にいる人を外に出して、建物を接収をするように指示していた。


     **********


 わたし達は近衛騎士を護衛に事務所らしき建物に足を踏み入れた。
 この建物には二十人ほどいたようだが、一人を除いて空き部屋にまとめてあるそうだ。
 責任者らしき人物だけはその執務室に縄を打って転がしてあるらしい。

 ミルトさんは、近衛騎士に捕縛した人の監視と物証の確保を手分けして行うように指示をし、二人の近衛騎士を伴い責任者らしき人物の執務室に向かうことにした。

 その部屋には立派な執務机と応接セットが設えてあり、いかにも責任者の部屋という感じだった。
 その床には身なりの良いおじさんが文字通り縄を打って転がされていた。
 ヒカリの術がよく効いているようで熟睡しており、わたし達が部屋に入っても起きる様子がない。

 ミルトさんは床に転がる人物を無視して執務机の両袖にある引き出しを漁り始めた。
 そして、

「何をボッと見ているのですか、叔父様も手伝ってください。」

と言った。

 皇太子妃と侯爵の二人で泥棒のように机の引き出しを漁る様子は滑稽だったが、その甲斐はあったようで紙の束を手にミルトさんはホクホク顔だった。

「ターニャちゃん、ひとまず安心して、瘴気中毒になった人は結構いるみたいだけど亡くなった人はまだいないみたい。怪我人も命に係わる人はいないみたいよ。
 この人、結構まめな人みたいで、今までの人の出入りをきちんと管理しているの。
 いつ何人入って何人出て行ったかと、怪我や病気で働けなくなった人の人数、まだいないけど死亡した人の人数、それぞれの人名もリストになっているわ。
 今、ここで働いている人は百二十七人で、怪我や病気で動けない人が三十九人いるらしいわよ。
 それと魔晶石の不正流通の資料も出てきたわ、もう完璧、ここまで来た甲斐があったわ。」


 そんな話をしているとヒカリの術の効果が切れたのか、床に転がされたおじさんが目を覚ました。

「お前らはいったい何者だ。こんなことをして許されると思っているのか。」
 
 手足を縛られていることに気付いたおじさんは激昂して声を上げた。

「初めまして、あなたがここの責任者でよいのかしら。
 私はオストマルク王国皇太子妃のミルトと申します。
 この地域は法により開発及び一般人の立ち入りが固く禁じられています。
 この施設は法に違反するものとして私の命令に基づき接収されました。
 さて、詳しい取調べは王都に送って専門の者が行いますがこの施設を接収するために必要なことがありますので少し話を聞かせてくださいね。」

 ミルトさんは、普段のおっとりした様子からは想像もできない酷薄な笑みを浮かべて言った。


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