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第7章 二度目の夏休み、再び帝国へ
第163話 瘴気の森の施設 ②
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「そうね、この人には聞きたいことがたくさんあるけど、簡単には話してくれそうもないですね。
先に別のことから片付けましょうか。」
ミルトさんは近衛騎士二人に責任者らしきおじさんをどこか空き部屋に移し、この施設の他の者と一緒にしないこと及び目を離さないことを指示した。
また、報告に来た二人の騎士に誰もこの部屋に近付けないように指示して部屋を出た。
ちゃっかり、一番重要な証拠書類だけはミルトさんが抱えている。
ミルトさんは事務所棟を出て一旦魔導車に戻ると証拠書類をテーブルに置いて、
「さて、病気の人の治療を先に済ませてしまいましょうか。」
と言った。
病気や怪我で動けない人は宿舎らしき建物の一つに集められていた。
建物の中はぶち抜きで一つの部屋になっており、簡素な寝台が多数並べられていた。
ここも今まで見てきた他の場所と違わず酷くすえた臭いがした、どうして病人が寝ているのにもう少し清潔にできないのだろう…。
いつもなら、室内を『浄化』してから治療に移るのだけど今日はソールさんが持続的に浄化を行っている。ソールさんが室内に入った途端、一気に室内の空気がきれいになった。
病気や怪我の人は奥からつめられていたようで、奥にいる人ほど病気や怪我の期間が長く衰弱していた。
わたし、ミーナちゃん、ミルトさんの三人で手分けをして奥の人から順に癒しを施していく。
かなり衰弱している人もいるがみんな意識ははっきりしていた、負傷している人も手足を欠損するほどの大怪我の人はいないみたい。
一人、二人、三人と瘴気中毒に罹った人の瘴気を『浄化』して、体力の回復を促すための『癒し』を施す。そして、四人目で魔獣に負傷を負わされたと思われる男の子に当たった。
男の子は腕の傷口にあまり清潔とはいえない布を当てていたせいか傷口が化膿して膿を持っていた。わたしは、傷口を『浄化』したあと『癒し』を施す。
見ているうちに傷が治っていく様子に目を丸くしていた男の子が言った。
「おまえ、ちっちゃいのに凄いんだな。母ちゃんが言っていたぞ、治癒術師って言うのはちょっと診るだけで金貨一枚取られるんで、うちみたいな貧乏人はお世話になれないって。
そう言えば、怪我を治してもらって悪いんだけど、俺、金貨一枚なんて大金払えないぞ。」
「大丈夫だよ、今日はお金は要らないから。
皇太子妃様が、ここへ病気の人や怪我の人を助けに来たんだよ。」
「そうなのか?この国の王族って俺達みたいな貧乏人も助けてくれるんだ、知らなかった。
王族とか貴族って威張ってばかりなのかと思ってたけど、優しい人もいるんだ。」
「そう、ミルト様はお優しい方よ。
ところで、お兄ちゃんはいくつなの、どこから働きに来たの?」
「俺はこの間十五歳になったんだ。一人前に働ける年になったんで仕事を探してたら良い仕事があるって誘われて王都から出てきたんだ。」
王都まで行って勧誘をしているんだ、しかもやっと働けるようになったばかりの子供を。
この国では、十五歳までは教育期間として就業を認めていない。義務教育の初等国民学校卒業後、中等国民学校へ進学しなかった子は十五歳までどこかに見習いに行くらしい。十五歳で見習いを卒業し一人前と認められるそうだ。
「それで、どんな仕事をしててこんな酷い怪我をしたの。」
「この村の周りに近寄ってくる魔獣を狩る仕事だよ。
この村を作っている作業中に魔獣が襲ってくると人足や大工の人が危ないので、護衛役として魔獣を狩るのさ。」
「えー、魔獣を狩るのって怖くないの?やれって言われてすぐできるものなの?」
「こうみえても俺は近所じゃ一番喧嘩が強くて、腕っ節には自信があったんだ。
魔獣なんか怖くなかったし、実際ここに来て三ヶ月は楽勝で魔獣狩りをやっていたんだ。
魔獣狩りに出れば日当銀貨五枚貰える上に、倒した魔獣の魔晶石を一つ銀貨一枚で買い取ってもらえるんだ。多い日は銀貨二十枚以上稼いだぜ。
ただ、それで油断しちまって気を抜いたときに狼の魔獣に腕を喰い付かれたんだ。
酷でえ痛てえし、血はいっぱい出るしで死ぬかと思ったぜ。
製材所が完成したら森で木を伐る奴の護衛で魔獣狩りをやらないかと誘われてるんだけど、こんな怪我をするんだったらどうするか迷うな。
なんてったって、この怪我で十日も稼ぎがなかったんだからな。お前が治してくれなかったらもっと休まないといけないところだったぜ。」
悪いけどもう魔獣狩りの仕事はできないよ。何か他の仕事を探してね。
やっぱり、製材所をここでやるつもりだったんだ、まだ作っている最中だったんだね。
全部で三十九人いたみたいだけど思ったよりも少なかったので、お昼前には全員に治癒を施すことができた。
病気や怪我は治ったはずだけどろくに食事を取れなかった人も多く、体力が弱っていてすぐに動くのは無理な人も多いみたい。
**********
全員の治療が終わった後、ミーナちゃん、ミルトさんと合流して治療の様子などを報告しあった。
「やっぱり、瘴気の森から木を切り出すつもりだったみたいだよ。
今製材所を作っているところなんだって。
それと、王都まで人を雇いに行っているみたいだよ、わたしが聞いた人はまだ十五歳だって。」
「そう、私も意識のはっきりしている人に聞いてみたら、王国の彼方此方、かなり遠いところからも人を連れてきているようね。
ただ、感じたのはターニャちゃんが言っていたほど、人の扱いが悪くはないわね。
ちゃんと全員寝台に寝かされているし、働けなくてもちゃんと食事は出たみたいよ。」
「それなんですけど、帝国では大きな町には必ずスラムがあるらしいのです。
私はターニャちゃんやミルト様と知り合ってから色々な町に連れて行ってもらいましたがこの国ではスラムって見たことがありません。
帝国の製材所ではスラムから跳ねっ返り者を連れてくるって言ってました。
そこに違いがあるのではないですか? 」
ミーナちゃんが言うのは、帝国にはスラムの住人が多く、かつ人の出入りが管理されていないので行方不明者が出てもわからないようだいうこと。
たしかに、帝国で見た製材所はスラムから人を連れてきていると言ってたし、いくらでも補充が出来るとも言っていたよね。
一方で、この国は戦争や飢饉がないため民の生活が安定している上に孤児院も充実していることからスラム街というものがないらしい。…生活が貧しい人は勿論いるみたいだけど。
それに加えて、この国は戸籍と住民登録がちゃんとしているで人の出入りが把握しやすいと学園の授業でも習った。
だから、帝国みたいに損耗することを前提にすることができないのではないかとミーナちゃんは言う。
一人二人ならともかく何百人も行方不明者が出たら絶対に露見するので、帝国で見たように肉の盾なんてことは出来ないだろうって。
ミーナちゃんの話を聞いていたミルトさんは、
「そうね、それはあるかもしれないわね。」
と頷いていた。
先に別のことから片付けましょうか。」
ミルトさんは近衛騎士二人に責任者らしきおじさんをどこか空き部屋に移し、この施設の他の者と一緒にしないこと及び目を離さないことを指示した。
また、報告に来た二人の騎士に誰もこの部屋に近付けないように指示して部屋を出た。
ちゃっかり、一番重要な証拠書類だけはミルトさんが抱えている。
ミルトさんは事務所棟を出て一旦魔導車に戻ると証拠書類をテーブルに置いて、
「さて、病気の人の治療を先に済ませてしまいましょうか。」
と言った。
病気や怪我で動けない人は宿舎らしき建物の一つに集められていた。
建物の中はぶち抜きで一つの部屋になっており、簡素な寝台が多数並べられていた。
ここも今まで見てきた他の場所と違わず酷くすえた臭いがした、どうして病人が寝ているのにもう少し清潔にできないのだろう…。
いつもなら、室内を『浄化』してから治療に移るのだけど今日はソールさんが持続的に浄化を行っている。ソールさんが室内に入った途端、一気に室内の空気がきれいになった。
病気や怪我の人は奥からつめられていたようで、奥にいる人ほど病気や怪我の期間が長く衰弱していた。
わたし、ミーナちゃん、ミルトさんの三人で手分けをして奥の人から順に癒しを施していく。
かなり衰弱している人もいるがみんな意識ははっきりしていた、負傷している人も手足を欠損するほどの大怪我の人はいないみたい。
一人、二人、三人と瘴気中毒に罹った人の瘴気を『浄化』して、体力の回復を促すための『癒し』を施す。そして、四人目で魔獣に負傷を負わされたと思われる男の子に当たった。
男の子は腕の傷口にあまり清潔とはいえない布を当てていたせいか傷口が化膿して膿を持っていた。わたしは、傷口を『浄化』したあと『癒し』を施す。
見ているうちに傷が治っていく様子に目を丸くしていた男の子が言った。
「おまえ、ちっちゃいのに凄いんだな。母ちゃんが言っていたぞ、治癒術師って言うのはちょっと診るだけで金貨一枚取られるんで、うちみたいな貧乏人はお世話になれないって。
そう言えば、怪我を治してもらって悪いんだけど、俺、金貨一枚なんて大金払えないぞ。」
「大丈夫だよ、今日はお金は要らないから。
皇太子妃様が、ここへ病気の人や怪我の人を助けに来たんだよ。」
「そうなのか?この国の王族って俺達みたいな貧乏人も助けてくれるんだ、知らなかった。
王族とか貴族って威張ってばかりなのかと思ってたけど、優しい人もいるんだ。」
「そう、ミルト様はお優しい方よ。
ところで、お兄ちゃんはいくつなの、どこから働きに来たの?」
「俺はこの間十五歳になったんだ。一人前に働ける年になったんで仕事を探してたら良い仕事があるって誘われて王都から出てきたんだ。」
王都まで行って勧誘をしているんだ、しかもやっと働けるようになったばかりの子供を。
この国では、十五歳までは教育期間として就業を認めていない。義務教育の初等国民学校卒業後、中等国民学校へ進学しなかった子は十五歳までどこかに見習いに行くらしい。十五歳で見習いを卒業し一人前と認められるそうだ。
「それで、どんな仕事をしててこんな酷い怪我をしたの。」
「この村の周りに近寄ってくる魔獣を狩る仕事だよ。
この村を作っている作業中に魔獣が襲ってくると人足や大工の人が危ないので、護衛役として魔獣を狩るのさ。」
「えー、魔獣を狩るのって怖くないの?やれって言われてすぐできるものなの?」
「こうみえても俺は近所じゃ一番喧嘩が強くて、腕っ節には自信があったんだ。
魔獣なんか怖くなかったし、実際ここに来て三ヶ月は楽勝で魔獣狩りをやっていたんだ。
魔獣狩りに出れば日当銀貨五枚貰える上に、倒した魔獣の魔晶石を一つ銀貨一枚で買い取ってもらえるんだ。多い日は銀貨二十枚以上稼いだぜ。
ただ、それで油断しちまって気を抜いたときに狼の魔獣に腕を喰い付かれたんだ。
酷でえ痛てえし、血はいっぱい出るしで死ぬかと思ったぜ。
製材所が完成したら森で木を伐る奴の護衛で魔獣狩りをやらないかと誘われてるんだけど、こんな怪我をするんだったらどうするか迷うな。
なんてったって、この怪我で十日も稼ぎがなかったんだからな。お前が治してくれなかったらもっと休まないといけないところだったぜ。」
悪いけどもう魔獣狩りの仕事はできないよ。何か他の仕事を探してね。
やっぱり、製材所をここでやるつもりだったんだ、まだ作っている最中だったんだね。
全部で三十九人いたみたいだけど思ったよりも少なかったので、お昼前には全員に治癒を施すことができた。
病気や怪我は治ったはずだけどろくに食事を取れなかった人も多く、体力が弱っていてすぐに動くのは無理な人も多いみたい。
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全員の治療が終わった後、ミーナちゃん、ミルトさんと合流して治療の様子などを報告しあった。
「やっぱり、瘴気の森から木を切り出すつもりだったみたいだよ。
今製材所を作っているところなんだって。
それと、王都まで人を雇いに行っているみたいだよ、わたしが聞いた人はまだ十五歳だって。」
「そう、私も意識のはっきりしている人に聞いてみたら、王国の彼方此方、かなり遠いところからも人を連れてきているようね。
ただ、感じたのはターニャちゃんが言っていたほど、人の扱いが悪くはないわね。
ちゃんと全員寝台に寝かされているし、働けなくてもちゃんと食事は出たみたいよ。」
「それなんですけど、帝国では大きな町には必ずスラムがあるらしいのです。
私はターニャちゃんやミルト様と知り合ってから色々な町に連れて行ってもらいましたがこの国ではスラムって見たことがありません。
帝国の製材所ではスラムから跳ねっ返り者を連れてくるって言ってました。
そこに違いがあるのではないですか? 」
ミーナちゃんが言うのは、帝国にはスラムの住人が多く、かつ人の出入りが管理されていないので行方不明者が出てもわからないようだいうこと。
たしかに、帝国で見た製材所はスラムから人を連れてきていると言ってたし、いくらでも補充が出来るとも言っていたよね。
一方で、この国は戦争や飢饉がないため民の生活が安定している上に孤児院も充実していることからスラム街というものがないらしい。…生活が貧しい人は勿論いるみたいだけど。
それに加えて、この国は戸籍と住民登録がちゃんとしているで人の出入りが把握しやすいと学園の授業でも習った。
だから、帝国みたいに損耗することを前提にすることができないのではないかとミーナちゃんは言う。
一人二人ならともかく何百人も行方不明者が出たら絶対に露見するので、帝国で見たように肉の盾なんてことは出来ないだろうって。
ミーナちゃんの話を聞いていたミルトさんは、
「そうね、それはあるかもしれないわね。」
と頷いていた。
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