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第8章 夏休み明け
第193話 彼らは何を狙っている?
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「このお母さんの手の傷、ばい菌が入ったらいけないので『浄化』を使ってきれいにした後、こうやって『癒し』をかけて傷を塞ぐの。」
「すごいです、ハンナちゃん!わたしが怪我をしたときもこうやって治してくれたのですね。」
わたしの目の前では、ハンナちゃんがご婦人の怪我を治し、それを見ていたカリーナちゃんが目を輝かせてそれに感心している。
今日は恒例となってしまった精霊神殿前での臨時診療所の日なんだ。
今日はカリーナちゃんも見学に連れてきている、そうしないと寮で一人になってしまうからね。
「有り難うね、ハンナちゃん。今日は可愛い子と一緒なんだね、お友達かい?」
怪我を治してもらったご婦人がハンナちゃんに問い掛けると、
「うん、お友達のカリーナちゃん、今同じ寮に住んでいるんだ。」
とハンナちゃんは上機嫌で返事をした。
アロガンツ家との縁談も王の裁定のおかげで無事に流れて、心なしかカリーナちゃんの表情も明るくなった気がする。
アロガンツ家を恐れる必要がなくなったため、フローラちゃんとの取り決めで週末の二日は家に帰ることになったそうだ。
だけど、今週はご両親のほうが予定があるとかで寮に留まることになったらしい。
寮で一人きりなのも寂しかろうとわたし達の活動を見てもらうことにしたの。
一際小さなハンナちゃんが怪我を治していくのを見てカリーナちゃんは凄く驚いていた。
カリーナちゃんが怪我をしたときは意識不明の重症だったものね、自分が治してもらったときの様子はわからないよね。
ハンナちゃんに怪我を治してもらったご婦人達は、そんな二人の様子を見てホッコリとしている。
こころも癒されているようだね…。
**********
そんな休日の昼下がり、精霊神殿の応接室を借りて昼食をとったあと食休みの時間のこと。
「あの日、アロガンツ伯爵ったら凄い目で私を睨んでいたでしょう。
何か良からぬことを仕掛けてくるんじゃないかと用心しているのだけど、今のところ静かだわ。
流石に、金蔓を潰されたのは痛かったのかしら、お金がないと悪巧みもできないものね。」
しかし、プッペはアロガンツ伯爵の派閥を抱き込んで何がしたかったのかな?
今のところ、アロガンツ伯爵が犯罪行為に加担していた形跡は見当たらないということなので、直接違法なことをさせようとした訳ではないみたい。
いや、製材所も完成していなかったし、まだ悪巧みが進行してなかっただけかも知れないね。
ミルトさんは、『黒の使徒』の連中も今すぐ大層な事をしようとは考えていなかったのかも知れないと言っている。
彼らが自分たちの教義を王国に広げようと思ったとき、今の王国の権力者層は彼らに都合が悪いらしい。
彼らの中では権力者は力によって民を支配するモノであると言う前提があるようだ。
だから、民に畏怖されるような強い魔法力を持つ、黒髪・黒い瞳・褐色の肌の人を神の使徒として支配層に据えているのだから。
彼らの中では権力者は民から富を吸い取るモノで、自らはあまり働かないものらしい。
民を富ませることを一番に掲げ、権力者自ら率先して働くこの国の権力者層は『黒の使徒』が前提としている社会構造とかけ離れたいるみたい。
この国の権力者は、『畏怖』ではなく『和』を以って国を治めているのだから、それはかけ離れているよね。
彼らにとっては、ふんぞり返って威張り散らしている『伝統的貴族派』の方が権力者としては普通であり、その方が都合が良いらそうだ。
彼らは『伝統的貴族派』を資金的に支援することでその勢力が多数派になることを目指し、最終的には『伝統的貴族派』が宰相などの権力の中枢に就く事を目指しているのではないかという。
そして、その中でも彼らに都合の良い黒髪・黒目の連中を中心に支援しているのではないかと。
ミルトさんの話を聞いて思ったよ、そんな迂遠な計画が成り立つのかと。
王族を始め上層部が勤勉なこの国でそんな事ができるはずないのにと思った。
するとミルトさんが言ったの。
「人は易きに流れるものなのですよ。
楽な選択肢が用意されていて、その選択肢が正解なのですと耳元で囁かれ続けてみなさい。
その誘惑にあがなえる人は少ないと思うわよ。
現に見てみなさい『伝統的貴族派』の連中のご先祖様だって立派な方が多かったのよ。
長い歴史の中で易きに流れた結果がこの体たらくよ。」
……それを言われると反論できない。
ちなみに、ミルトさんが以前慌てて調査をさせていたプッペが貴族から買い上げた木材の件、王家の保有する魔導車の機動力を活かして至急調べた結果がわかったそうだ。
やはり数ヶ所で既に森が失われていたらしい。
更に伐採途上の森が数ヶ所あり、そこは王命で伐採を中止させたそうだ。
そして、幸いにして伐採に着手していない森も数ヶ所あり、そこに関しては領主にプッペを逮捕したことを説明し、森を伐採させないように指示を出したと言う。
問題は、プッペは犯罪者だが、森を伐採する行為自体は違法でもなんでもないことだったそうだ。
伐採を差し止める根拠に欠けて困ったみたい。
でも、ここで幸いしたのは代金が後払いになっていたことだったそうだ。
プッペの商会の資金は全て、犯罪行為によって入手したものとして、国が差し押さえたので木材の代金が支払われることがないと説明したんだって。
すると誰もが指示に従ったって。
「すごいです、ハンナちゃん!わたしが怪我をしたときもこうやって治してくれたのですね。」
わたしの目の前では、ハンナちゃんがご婦人の怪我を治し、それを見ていたカリーナちゃんが目を輝かせてそれに感心している。
今日は恒例となってしまった精霊神殿前での臨時診療所の日なんだ。
今日はカリーナちゃんも見学に連れてきている、そうしないと寮で一人になってしまうからね。
「有り難うね、ハンナちゃん。今日は可愛い子と一緒なんだね、お友達かい?」
怪我を治してもらったご婦人がハンナちゃんに問い掛けると、
「うん、お友達のカリーナちゃん、今同じ寮に住んでいるんだ。」
とハンナちゃんは上機嫌で返事をした。
アロガンツ家との縁談も王の裁定のおかげで無事に流れて、心なしかカリーナちゃんの表情も明るくなった気がする。
アロガンツ家を恐れる必要がなくなったため、フローラちゃんとの取り決めで週末の二日は家に帰ることになったそうだ。
だけど、今週はご両親のほうが予定があるとかで寮に留まることになったらしい。
寮で一人きりなのも寂しかろうとわたし達の活動を見てもらうことにしたの。
一際小さなハンナちゃんが怪我を治していくのを見てカリーナちゃんは凄く驚いていた。
カリーナちゃんが怪我をしたときは意識不明の重症だったものね、自分が治してもらったときの様子はわからないよね。
ハンナちゃんに怪我を治してもらったご婦人達は、そんな二人の様子を見てホッコリとしている。
こころも癒されているようだね…。
**********
そんな休日の昼下がり、精霊神殿の応接室を借りて昼食をとったあと食休みの時間のこと。
「あの日、アロガンツ伯爵ったら凄い目で私を睨んでいたでしょう。
何か良からぬことを仕掛けてくるんじゃないかと用心しているのだけど、今のところ静かだわ。
流石に、金蔓を潰されたのは痛かったのかしら、お金がないと悪巧みもできないものね。」
しかし、プッペはアロガンツ伯爵の派閥を抱き込んで何がしたかったのかな?
今のところ、アロガンツ伯爵が犯罪行為に加担していた形跡は見当たらないということなので、直接違法なことをさせようとした訳ではないみたい。
いや、製材所も完成していなかったし、まだ悪巧みが進行してなかっただけかも知れないね。
ミルトさんは、『黒の使徒』の連中も今すぐ大層な事をしようとは考えていなかったのかも知れないと言っている。
彼らが自分たちの教義を王国に広げようと思ったとき、今の王国の権力者層は彼らに都合が悪いらしい。
彼らの中では権力者は力によって民を支配するモノであると言う前提があるようだ。
だから、民に畏怖されるような強い魔法力を持つ、黒髪・黒い瞳・褐色の肌の人を神の使徒として支配層に据えているのだから。
彼らの中では権力者は民から富を吸い取るモノで、自らはあまり働かないものらしい。
民を富ませることを一番に掲げ、権力者自ら率先して働くこの国の権力者層は『黒の使徒』が前提としている社会構造とかけ離れたいるみたい。
この国の権力者は、『畏怖』ではなく『和』を以って国を治めているのだから、それはかけ離れているよね。
彼らにとっては、ふんぞり返って威張り散らしている『伝統的貴族派』の方が権力者としては普通であり、その方が都合が良いらそうだ。
彼らは『伝統的貴族派』を資金的に支援することでその勢力が多数派になることを目指し、最終的には『伝統的貴族派』が宰相などの権力の中枢に就く事を目指しているのではないかという。
そして、その中でも彼らに都合の良い黒髪・黒目の連中を中心に支援しているのではないかと。
ミルトさんの話を聞いて思ったよ、そんな迂遠な計画が成り立つのかと。
王族を始め上層部が勤勉なこの国でそんな事ができるはずないのにと思った。
するとミルトさんが言ったの。
「人は易きに流れるものなのですよ。
楽な選択肢が用意されていて、その選択肢が正解なのですと耳元で囁かれ続けてみなさい。
その誘惑にあがなえる人は少ないと思うわよ。
現に見てみなさい『伝統的貴族派』の連中のご先祖様だって立派な方が多かったのよ。
長い歴史の中で易きに流れた結果がこの体たらくよ。」
……それを言われると反論できない。
ちなみに、ミルトさんが以前慌てて調査をさせていたプッペが貴族から買い上げた木材の件、王家の保有する魔導車の機動力を活かして至急調べた結果がわかったそうだ。
やはり数ヶ所で既に森が失われていたらしい。
更に伐採途上の森が数ヶ所あり、そこは王命で伐採を中止させたそうだ。
そして、幸いにして伐採に着手していない森も数ヶ所あり、そこに関しては領主にプッペを逮捕したことを説明し、森を伐採させないように指示を出したと言う。
問題は、プッペは犯罪者だが、森を伐採する行為自体は違法でもなんでもないことだったそうだ。
伐採を差し止める根拠に欠けて困ったみたい。
でも、ここで幸いしたのは代金が後払いになっていたことだったそうだ。
プッペの商会の資金は全て、犯罪行為によって入手したものとして、国が差し押さえたので木材の代金が支払われることがないと説明したんだって。
すると誰もが指示に従ったって。
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