精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第8章 夏休み明け

第213話 打ち上げパーティ ④

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 いつまでも正体のわからない商人の話しが続くわけもなく、その後はアストさんが現在のブルーメン領の様子をウンディーネおかあさんに説明している。

 領地の自慢話ではあるが、アストさんが誇らしげに話すのブルーメン領の様子をウンディーネおかあさんは興味深げに聞いている。

 きっとおかあさんの知る昔の大湿原が人の営みによりどのように変わったか関心があるのだろう。
 誇らしげに話すアストさんを見て大昔に出会ったアストさんのご先祖様の想いが結実していることを喜んでいるのかもしれない。


 そんなとき、わたしに声がかけられた。

「ターニャちゃん、少しいいかしら、わたしのお父様がターニャちゃんに挨拶したいって。」

 気が付くとそこにはエルフリーデちゃんが精悍な顔つきのおじさんと一緒に立っていた。

 そのおじさんは精悍な顔つきからは想像できない優しげな声で言った。

「はじめまして、ティターニアさん。エルフリーデの父のヴィッツです。
 いつもエルフリーデが世話になっているようで有り難う。」

「初めまして、ティターニアです。
 わたしの方こそ色々知らないことが多くてエルフリーデちゃんにはいつもお世話になってます。」
 
 わたしが挨拶を返すとヴィッツさんは続けて言う。

「今日は私個人としても君にお礼が言いたくてエルフリーデに君を紹介してくれと頼んだのだよ。
 昨年は貴族のくだらない陳情のせいでこのパーティに出席できなかったんだよ。
 せっかくの娘の晴れ姿を見る機会だと言うのに、本当に腹が立ったもんだ。
 今年は、君がそういう貴族をやり込めてくれたものだから時間に余裕が出来てね、こうして娘の着飾った姿を見ることができた。
 いや、本当に有り難う。」

 そう言ったヴィッツさんはこのうえなく上機嫌だった。
 ヴィッツさんの親馬鹿丸出しの発言に思わずミーナちゃんと顔を見合わせて笑ってしまった。
 そういえば以前エルフリーデちゃんが言っていたね、ヴィッツさんは家に帰ることが出来ないほど忙しかったのだが、最近は不平貴族の陳情が激減して人並みに休みが取れるようになったって。
 わたしとミルトさんで、不平貴族の金蔓だった商人を摘発したおかげだって言ってたっけ。

「ええ、お父様ったら、最近早く帰ってこられるもので上機嫌なんですよ。
 人並みにお休みもいただけるようになったので、学園の休日には王都の屋敷に顔を見せに来いって煩いんです。
 一年生の頃は一度も言われたことがなかったのに、様変わりです。
 今日もターニャちゃんにお礼が言いたいから紹介しろってうるさくて…。」

 そう言いつつもお父さんがパーティに来てくれてエルフリーデちゃんも嬉しそうだ。

「でも、君には色々と助けてもらっているので一度お礼が言いたいと思っていたんだ。
 特にポルトでの一件は君がいなければもっと大事になっていただろうからね。
 本当に助かったよ、感謝している。」

 宰相のヴィッツさんにお礼を言われて恐縮していると、

「あら、アデル卿、今年は自慢の娘さんの晴れ着姿が見られてよかったわね。
 昨年はあからさまに不機嫌な顔をして馬鹿な貴族のくだらない陳情を聞いていたものね。」

とミルトさんが茶化してきた。
 そんなミルトさんにヴィッツさんは恨めしそうに答えた。

「そう言うあなたは馬鹿な貴族の対応を私に押し付けてサッサとこのパーティに出席したのですよね、ミルト殿下。
 私は領地を離れて王宮に出仕しているせいで娘の晴れ着姿など滅多に見られないのに…。
 昨年のこのパーティを私がどんなに楽しみにしていたと思っているのですか。」

 そういえば、ミルトさんは昨年もこのパーティに顔を出していたね。

「しょうがないでしょう。昨年はターニャちゃんが学園祭で派手にやらかしてくれたから、打ち上げパーティでターニャちゃんにちょっかいをかけてくる愚か者が絶対にいると思ったのですもの。
 私にはお預かりしている子供を守ると言う大事な仕事があったのよ。
 アデル卿には悪いことをしたと思っているわ。」

 たしかに、昨年はドゥム伯爵から無理を言われていたのを助けてくれたね、ミルトさんがあの席でわたし達を王室の庇護下にあると紹介したので変な貴族が寄ってこないのだと思う。
 もっとも、わたしのことを心配してくれたのは事実だけど、一方でわたしを餌に愚か者を釣り出そうと画策していたよね。 


     **********


「ところで、こちらはどういった集まりですかな。
 そちらにはお目にかかったことのないご婦人がおられるようですが?」

 ヴィッツさんがミルトさんに問い掛けると、そちらに視線を向けたエルフリーデちゃんが言った。

「あ、ウンディーネ様、いらしていたんですか。
 先日、湖でお目にかかったエルフリーデでございます。
 その節は大変お世話になりました。」

「ええ、覚えていますよ、エルフリーデさん。ごきげんよう。」

 ああ、人の影になっていてウンディーネおかあさんがいることに気付いてなかったんだ。
 紹介されるより早くエルフリーデちゃんがおかあさんに挨拶をしたことにヴィッツさんは怪訝な顔をするが、ヴィッツさんが何かを言うより先にミルトさんがおかあさんを紹介してくれた。

「ああ、アデル卿は初対面でしたね、こちらの方はティターニアさんのお母様のウンディーネ様です。くれぐれも粗相の無いようにお願いしますよ。」

 わたしの素性を聞かされていたのだろう。
 ミルトさんの言葉にヴィッツさんは一瞬驚きの表情を見せたが、エルフリーデちゃんが頷くのを見ると、

「そうでしたか、初めまして、私はエルフリーデの父親のヴィッツと申しします。
 先日は家の娘が大変お世話になったようで有り難うございました。
 娘がお目にかかったときに居た辺り一帯の領主をしていますが、現在はこの国の宰相をおおせつかってこの王都に住まいしております。
 よろしくお見知りおきください。」

と、つとめて平静を装って言った。

「初めまして、ウンディーネと申します。
 お嬢さんには、うちの娘やミーナちゃんがいつもお世話になっています。
 こちらこそよろしくお願いしますね。」

 おかあさんがそう返すと、エルフリーデちゃんがおかあさんに尋ねた。

「ウンディーネ様はこんな隅の方で何をなされていたのですか?」

「先ほどまで、こちらのブルーメン卿に領地に伝わる伝承を聞かせてもらっていたのですよ。
 それから、最近のブルーメン領の様子も聞かせて頂いて、あまりに懐かしいものですからつい聞き入ってしまいました。」

「ウンディーネ様はブルーメン領に行かれたことがあるのですか?」

「ええ、昔二度ほど。」

 昔って…、それ、二千年以上前のことだよね…。
 それが伝承になっているのだから。

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