精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第8章 夏休み明け

第214話 パーティの後で ①

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 学園祭の打ち上げパーティの終了後、わたし達の部屋のリビングルーム、今日は珍しく大人がたくさんいる。

 パーティが終ったときにヴィッツさんがウンディーネおかあさんと話がしたいと言ったんだよ。
 ウンディーネおかあさんは、一番近くてこの人数が入れる部屋ということで、わたしのリビングで話を聞くことにしたんだ。


「この寮に勤める料理人が腕によりをかけて作った料理だけあって美味しいですわ。」

「ええ、本当に美味しいですわね、特にお腹が空いていましたので一層美味しく感じます。
 私はお父様と一緒に会場にいる貴族の方々への挨拶をして一息ついたところで、今度はターニャちゃんのいる初等部のパーティ会場へ行くと言われたんです。
 料理に手を付ける暇がありませんでしたの。」

 エルフリーデちゃんとラインさんが本当に美味しそうに料理を味わっている。

 ソファーに座る大人たちから少し離れて置かれているテーブルでわたし達はパーティに供された料理に舌鼓を打っているところだ。
 食べ残しじゃないよ、パーティの会場に出し切れなかった料理の一部をミルトさんが厨房に指示してこの部屋に運んで貰ったんだ。
 最初から料理を食べていたわたしやミーナちゃんと違って、エルフリーデちゃんやラインさんは挨拶回りであまり料理が食べられなかったみたい。二人がお腹を空かせていることに気付いたミルトさんが気を利かせてくれたんだ。

「ハンナちゃんも、カリーナちゃんも遠慮していないでお食べなさい。
 寮で二人きりの夕食じゃあ寂しかったでしょう。
 はい、どーぞ。」

「わーい、ミルトおばさん有り難う!」

 なぜか、ミルトさんは子供達に混ざって、かいがいしくハンナちゃん達の世話をしている。
 本当にちいちゃい子供が好きだよね、ミルトさん…。

「ミルトさん、あっちに混ざらなくて良いのですか?」

「あっちはあっちで積もる話があるのよ、私が首を突っ込むのは無粋だわ。
 ブルーメン領の商人の件で話しておくことがあるので、あっちの話が終った頃に混ざるわ。」

 ミルトさんは、ハンナちゃんに別の料理を取り分けてあげながら、わたしの問い掛けに答えた。


     **********


 テーブルから少し離れたソファーでは、主が座る席にウンディーネおかあさんが座り、その対面にはヴィッツさんとアストさんが座っている。
 成り行きで連れて来られたアストさんからは、何故自分もここにいるのだろうという困惑の表情が窺える。

「ウンディーネ様、改めて我が領地の領民を代表して感謝申し上げます。
 おかげさまで、我が領の領民は一人も餓えに苦しむことなく、つつがなく暮らしております。
 今日はこうしてお目にかかれて大変光栄でございます。」

 いきなり、ウンディーネおかあさんに宰相のヴィッツさんが深々と頭を下げたものだから、アストさんはますます困惑の表情を深めてしまった。

「まあまあ、そんなに畏まらないでください。
 今は、お互いに娘を持つ親としてこの場にいるのです。
 そんなに畏まられてしまうと、こちらも気を使ってしまうわ。
 あの時は、別にあなた方のためではなく、私のお気に入りの場所を騒がしくして欲しくないので助言しただけよ。
 それに、感謝の気持ちであれば、私のお気に入りの湖を汚さずに守ってくれただけで十分に受け取っているわ。」

 ウンディーネおかあさんの言葉にヴィッツさんが答えて言った。

「いいえ、そんな訳にはいきません。
 私たちは恥ずかしながらウンディーネ様から受けたご恩を忘れていたのです。
 故事は失伝してしまい、残っていたのは女神の湖と神授の鉱山と言う名前のみ。
 何故そう呼ばれているのかは、誰もが忘れてしまっていたのです。
 先般、私の娘がウンディーネ様から過去の経緯をお聞きしてから、私もお目にかかって感謝の気持ちを伝えたいと思っていたのです。」

「そうですか、では、その感謝の気持ちしかと受け取りました。
 これからも、美しい森と泉を大切にしてくださいね。
 じゃあ、もう堅い話は終わりにしましょう。」

 ウンディーネおかあさんがヴィッツさんの感謝の言葉を受け取ったことで、ヴィッツさんの緊張が解けたのか場の空気が少し緩んだ。

「あのー、これはいったいどういうことなのでしょうか?」

 場の雰囲気が緩んだので、おいてけぼりになっていたアストさんがおそるおそる尋ねた。

「ああ、君にも関係あることだと思って連れてきたのに、放置してしまいすまなかったね。
 ウンディーネ様、こちらのブルーメン卿にウンディーネ様のことを教えてもよろしいでしょうか。」

「ええ、構いませんよ。もっとも、私の方が素性を知られると恥ずかしいのですが。
 ブルーメン領の方は逆に随分と神々しく伝えられてしまっているようなので。」

 ウンディーネおかあさんの許しを得たヴィッツさんがアストさんに告げる。

「こちらのウンディーネ様は、北部地域で水の女神と言われてらっしゃる方だ。
 私も先日初めて知ったのだが、王祖ヴァイスハイト女王を育てられたのもウンディーネ様だそうだ。
 娘が夏休みに女神の湖に行った際にお目にかかって、女神の湖と神授の鉱山にまつわる故事を聞かせていただいたのだよ。」

 ヴィッツさんの言葉にアストさんは信じられないと言う表情を見せている。
 それはそうだ、この人は女神様だといわれて「はいそうですか」と信じる大人はいないだろう。
 だが、ヴィッツさんに言われてウンディーネおかあさんの顔を凝視していたアストさんはあることに気付いたようだ。あまり、女性の顔をジーと見るのは感心しないよ…。

「泉の祠に祀ってある女神像とそっくりだ…。」

 アストさんの呟きにヴィッツさんが相槌を入れる。

「ああ、私もパーティ会場でご尊顔を拝したときにあまりにも女神像にそっくりなので声に詰まった。」

 言葉を失っているアストさんを見てウンディーネおかあさんは言う。

「これこれ、宰相、いきなり女神様などという荒唐無稽なことを言われても俄かに信じる者はいないでしょう。
 むしろ、それをすぐに信じるものがいたら、そちらの方が心配です。
 ブルーメン卿、今日はあなたの話が聞けてよかったです。
 こうしてあの男の血が脈々と受け継がれており、領地が豊かになり、おまけに自分がやり遂げたことが二千年もの間語り継がれているのです。
 あの男の想いは立派に実を結んでいることがわかりました、きっとあの男も本望だと思いますよ。」

 ウンディーネおかあさんがアストさんのご先祖さんを懐かしむようにいうと、アストさんの目からは涙が零れていた。



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