精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第9章 王都の冬

第217話 冬休み

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 今年も残すところ後五日、今日から学園は冬休みに入ったの。
 夏休みは寮に残る生徒も多いけど冬休みに寮に残る生徒は少ないんだ。
 王立学園の生徒の約八割は貴族の子女だ。広大な王国の各地から集まっているため、夏休み期間中に領地と往復することが出来ない生徒が多いから。

 じゃあ、冬休みはどこが違うかというと冬休み期間中は家族の方が王都に来ている生徒が大部分だからなの。
 聞くところによると領地を持つ貴族は年末に国税を納めに王都に来る必要があるんだって。
 でも、雪深い王都に年末に来るとなると雪解けの季節までは領地に帰れなくなる。
 そのため、冬は貴族が王都に集まって社交に勤しむみたい、王宮が会議を開いて王国の現状や新しい法律を領主達に周知するのもこの時期らしい。

 まあ、そういうことは私たち子供には関係ないことで、要は冬休みは家族が王都に来るからみんな家族のもとに行ってしまうということ。
 そして、残る約二割の平民の生徒だけど、そのほぼ全てが王都に家を持つ大商人の子女なんだ。当然、冬休みに入るとともに家に帰ってしまう。

 それで、貴族階級の生徒はどこへ行くかだけど、例えばエルフリーデちゃんのような大貴族は王都に屋敷を構えている家が多く、そういう生徒は王都の屋敷へ行くらしい。
 ハイジさんの話では帝国では人質の意味があり当主か嫡男のどちらかが帝都に住む義務があるそうで貴族は必ず帝都に屋敷があるみたい。
 でも、この国はそういう義務を課していないので、地方領主で王都に屋敷を持つのは経済的に余裕のある貴族だけだそうだ。
 侯爵や伯爵は殆どが王都に屋敷を持っていて、子爵以下になると保有率はぐっと下がるみたい。
 屋敷を持たない貴族がどうするかというと、親戚や自分の属する派閥のボスのところに身を寄せるか、一冬ホテル住まいをするそうだ。だからこの季節の一流ホテルは貴族であふれているみたい。

 王都に屋敷を持たない貴族の子女は、保護者が逗留しているホテルなどで一緒に過ごすんだって。
 

     **********


 しかし、ここに問題児が一人…。

「それで、ルーナちゃんは今年も両親がいるホテルに行かずに寮で生活するつもりなの?」

 ミーナちゃんが心配そうにルーナちゃんに尋ねる。
 ミーナちゃんが心配しているのはルーナちゃんのことではなく、ルーナちゃんと過ごす事を楽しみにしているであろうルーナちゃんのご両親のことだよね。 

 ルーナちゃんは、貴族ばっかりのホテルでは羽を伸ばせないで窮屈だと言って、昨年も新年のわずかな間しか両親のもとに行かなかったと聞いている。

「平気だよ、去年だって叱られなかったし、そのうち、親父とお袋も貴族の付き合いに辟易してこの寮に逃げてくるから。
 去年もボクに面会という名目でやってきて朝から晩まで寮でぐったりしていたんだよ。」

 なんだ、似たもの親子か…。
 しかし、ルーナちゃんは貴族の子女らしくないよね、言葉遣いとか。
 こちらとしてはその方が気を使わなくていいから楽だけど。
 そもそも、この国の貴族のお嬢様は大部分がロングヘアなのだけど、ルーナちゃんは鮮やかな金髪を肩甲骨の上あたりで切り揃えたミディアムヘアだ。
 その髪型と言葉遣いが相俟って平民と間違われることもしばしばあるらしい。本人は気にしてないようだが。


「良いですね、ルーナさんは。私なんか後五日で地獄のような日々がやってくるのですよ。
 ルーナさんと違って逃げることを許してもらえません。
 しかも、しばらくの間、この快適な部屋を離れて寒々とした王宮で暮らさないといけないと思うと憂鬱です。」

 ここにやさぐれている王女がいる。
 フローラちゃんは許されるぎりぎりまで寮に留まるそうだ。
 フローラちゃんの部屋は精霊の森から貰ってきた魔導空調機によって一年中快適な温度に保たれている。
 王宮の暖房は暖炉らしいが、昼間は侍女が絶えず薪をくべているので部屋は快適な温度が保たれる。
 しかし、夜間は火災防止のため暖炉の火が小さくされるそうだ、王宮は大理石造り、しかも夜間の暖炉の火に比して王族の寝室は広い、明け方は凍えるくらい寒いらしい。
 それでも、夜勤の侍女が暖炉の火を絶やさないだけ良いのだそうだ。

 フローラちゃんにとっては住環境が悪くなるだけでも憂鬱なのに、新年の王族のスケジュールが死ぬほど大変らしい。
 何が大変かって、新年の底冷えのする謁見の間で、朝から夕方まで絶えることなく貴族からの新年の祝賀挨拶を聞かないとならないこと。
 挨拶に来る貴族の方は精々一、二分のことだからどうってことないだろうが、挨拶を受ける王族の方は昼休みを挟んで1日中だから溜まったものではないと昨年ミルトさんが言っていた。
 退屈な挨拶を延々と聞かされるうえにトイレにも行けないんだって、王族って大変だね…。

 それが、新年の一日、二日と二日間続くそうだ、そして三日目からは連日新年の祝賀パーティがあるらしい。
 この国の貴族の子女は十五歳から正式にパーティに出席すると聞いていたが王族は違うらしい。
 皇太子の一人娘であるフローラちゃんは六歳の時から皇太子夫妻と共にパーティに出席して挨拶をして回ったらしい。もちろん、日中に催されるパーティのことらしいが。
 このパーティがまた何日も続くらしい、そうだよねこの時期国中の貴族が王都に集まっているのだから一回、二回では入りきれる訳がない。

 フローラちゃんは六歳と七歳の時でげんなりしたそうだ、昨年は慈善活動の名目でポルトへ行ったので、ちゃっかりその義務を免れてご満悦だったよね。


 わたしの懇意にしているクラスメートで寮に残っているのはこの二人だけ、他の人はみんな保護者のもとへ行ってしまった。もちろん、カリーナちゃんも親御さんのもとへ返したよ。 
 南部地区の男子なんか昨年と同様、南部の有力貴族であるリーンハルト君の家で用意した魔導車に乗り合わせて南部の領地まで帰ったよ。その方が、暖かくて快適だものね。

 寮では冬休み中も普段と同じように食事は出されるし、普段は学園のサロンに用意されているお茶やお菓子も冬休み中は寮の食堂で供されるらしい。至れり尽くせりだね。
 もちろん暖炉の薪も使い放題だよ、この部屋には要らないけど。


     **********


「あ、おねーちゃん、ゆきがふってきたよ!」

 ハンナちゃんの声にみんなが窓の外に注目する、そこには粉雪がちらほらと舞っていた。
 そういえば、昨年も冬休みの初日に雪が降り始めたんだよね。

「こうして暖かい部屋から雪を眺めることが出来るなんて幸せです。」

 昨年は雪を見て悲しそうな顔をしていたミーナちゃんだけど、今年は本当に幸せそうに言っている。
 少しは悪い思い出が払拭されたのかもしれない、そうだといいな。

 この日、王都は本格的な冬を迎えることになったの。

 
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