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第9章 王都の冬
第218話 新年のひとコマ
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「新年、おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
じゃあ、乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
わたしの発声にみんなが答える。
新年を迎えた一の月の一日目、ささやかだけど新年お祝いをしようということになったの。
目の前のテーブルには王都一の高級ホテル、ヴィーナヴァルトのレストランからテイクアウトしてきた豪華な料理が並んでいる。
「美味しい!なにこのジュース、こんなの飲んだの初めて!
しかも、目の前の料理がなんか凄いよ、ここは王宮の食卓かって!」
そうでしょうとも、このジュースは今朝フェイさんが王家の森に行って採ってきた色々な果物を絞ったもの。柑橘類をはじめ冷涼な王都以北では見かけない果物も多数入っているのだから。
料理にしてもヴィーナヴァルトは通常ならば料理のテイクアウトに応じていないらしい。
ソールさんがヴィーナヴァルトのオーナーのクルークさんといつの間にか懇意になっていて、料理のテイクアウトにも応じてもらえるようなの。
それよりも、…。
「ルーナさん、もう年が明けたのにご両親のもとへ行かなくても良いのですか?
たしか、年が明けたらホテルに移るって行ってませんでしたっけ?」
わたしが尋ねようとした事をミーナちゃんが聞いてくれた。
何でルーナちゃんがここにいるの…。
「大丈夫だよ、今日中に行くから。
だって、朝からホテルに行ったら王宮へ新年の挨拶に連れて行かれちゃうじゃない。
それに王宮に行ったらすぐには帰ってこれないんだよ、貴族がいっぱい来てるから一々挨拶しないといけないし。
どうせ親父とお袋も王宮から戻ってくるのは夕方だから、ボクも夕方までにホテルに行けば大丈夫だって。
そんなことより、この料理食べてもいいんだよね。こんな凄い料理誰が作ったの?」
そんなことって…、ご両親のことより料理の方が大事かい…。
「これ?これはヴィーナヴァルトからテイクアウトしてきたんだよ。」
「え、これヴィーナヴァルトの料理なの?
すごーい、初めて食べた!今年は年の初めから凄い贅沢をしちゃった!」
ルーナちゃんが小皿に取り分けたローストビーフを咀嚼しながら言う。
口のものを含んだまま喋るなんて行儀が悪い、この子本当に貴族のお嬢様なのだろうか…。
「ええ?貴族の方ってヴィーナヴァルトホテルを良く使うのではないのですか?」
「ボクはヴィーナヴァルトホテルには泊まったことはないよ、たぶん親父やお袋も泊まったことないんじゃないかな。
ヴィーナヴァルトなんかをしょっちゅう使っていたら破産しちゃうよ。」
そうだよね、やっぱり一泊一部屋金貨十枚っていうのは異常に高いよね。よかった、わたしの感覚が変なわけじゃないんだ。
ルーナちゃんの話では、王都の一流ホテルと言ってもピンからキリまであるみたい。
その中でもヴィーナヴァルトホテルは別格だそうだ、この時期ヴィーナヴァルトを利用するのは伯爵クラスの領主だって。
一方で、ルーナちゃんのご両親の逗留しているホテルはぎりぎり一流ホテルと呼べる程度のホテルで滞在する貴族の殆どが男爵家らしい。
ルーナちゃんが言うには、ホテルによって泊まる人の階級が分けられているとホテル内で爵位の上下関係に気を使わずに済むから都合が良いのだって。
「というより、ボクはヴィーナヴァルトにテイクアウトを頼めると言う方がビックリだよ。
普通じゃそんな注文は受けてもらえないんじゃないの?」
「そうなのかもしれないけど、ソールさんがヴィーナヴァルトホテルのオーナーと懇意にしているんで無理なお願いが聞くみたいなの。
今までも何度か大量の料理をテイクアウトしたことがあるから。」
帝国へ行った二回と昨年ポルトに行ったとき、ヴィーナヴァルトで料理を作って貰い魔導冷蔵庫で冷やして持っていったんだ。
わたし達のメンバーに料理が得意な人はいないから。ハイジさんやミルトさんに変なものを食べさせる訳には行かないからね。
「へー、なんか凄いね。どっちが貴族だかわからないよ。
まあ、ボクはこうしてご相伴に預かれて有り難いけどね。」
そう言いながらルーナちゃんは子羊のローストを頬張った。
なんでもいいけど、さっきからお肉ばっかり食べているよね、野菜も食べないと健康に悪いよ。
**********
良い具合にお腹が膨れたのでそろそろお開きにしようということになった。
「ごちそうさま!お腹いっぱい!
こんなご馳走食べたことがなかったので、思わず食べ過ぎちゃったよ。
それじゃあ、腹ごなしにホテルまでのんびり歩いて行きましょうかね。」
ルーナちゃんがソファーから立ち上がり、そのままホテルへ向かうと言うので玄関まで見送ることにした。
ルーナちゃんったら貴族のお嬢様なのに従者も付けずにホテルまで歩くって大丈夫なの?
そもそも、手ぶらなんですけど、荷物はないのかな?
気になったので玄関へ向かう途中に聞いてみた。
「大丈夫だよ、領地にいたころは一人で野山を駆け回っていたから、むしろ従者をつけて歩いたことなんかないよ。
それに、着替えはホテルに用意してあるだろうしね。
あーあ、イヤだな、ホテルへ行ったら絶対にお袋の趣味のフリルがいっぱい付いたドレスを着させられる。
あれ動き難いから嫌いなんだ。」
フリルいっぱいのドレスを着た自分を想像したのか、いつも元気いっぱいのルーナちゃんがげんなりしていた。貴族のお嬢様って、そういうドレスが好きなものじゃないの?
**********
寮の玄関まで見送りに出てくると外は大粒の雪がしんしんと降っていた。
あーあ、さっきまで薄日が差していたのに、のんびりしているから…。
それでも、吹雪いていないこととまだ早い時間なので明るいことが幸いだ。
しんしんと降る大粒の雪を見ていたルーナちゃんはわたし達の方を振り返り、情けない顔をして言った。
「送ってください…。」
うん、わかったから、送ってあげるからそんな情けない顔しないで…。
じゃあ、乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
わたしの発声にみんなが答える。
新年を迎えた一の月の一日目、ささやかだけど新年お祝いをしようということになったの。
目の前のテーブルには王都一の高級ホテル、ヴィーナヴァルトのレストランからテイクアウトしてきた豪華な料理が並んでいる。
「美味しい!なにこのジュース、こんなの飲んだの初めて!
しかも、目の前の料理がなんか凄いよ、ここは王宮の食卓かって!」
そうでしょうとも、このジュースは今朝フェイさんが王家の森に行って採ってきた色々な果物を絞ったもの。柑橘類をはじめ冷涼な王都以北では見かけない果物も多数入っているのだから。
料理にしてもヴィーナヴァルトは通常ならば料理のテイクアウトに応じていないらしい。
ソールさんがヴィーナヴァルトのオーナーのクルークさんといつの間にか懇意になっていて、料理のテイクアウトにも応じてもらえるようなの。
それよりも、…。
「ルーナさん、もう年が明けたのにご両親のもとへ行かなくても良いのですか?
たしか、年が明けたらホテルに移るって行ってませんでしたっけ?」
わたしが尋ねようとした事をミーナちゃんが聞いてくれた。
何でルーナちゃんがここにいるの…。
「大丈夫だよ、今日中に行くから。
だって、朝からホテルに行ったら王宮へ新年の挨拶に連れて行かれちゃうじゃない。
それに王宮に行ったらすぐには帰ってこれないんだよ、貴族がいっぱい来てるから一々挨拶しないといけないし。
どうせ親父とお袋も王宮から戻ってくるのは夕方だから、ボクも夕方までにホテルに行けば大丈夫だって。
そんなことより、この料理食べてもいいんだよね。こんな凄い料理誰が作ったの?」
そんなことって…、ご両親のことより料理の方が大事かい…。
「これ?これはヴィーナヴァルトからテイクアウトしてきたんだよ。」
「え、これヴィーナヴァルトの料理なの?
すごーい、初めて食べた!今年は年の初めから凄い贅沢をしちゃった!」
ルーナちゃんが小皿に取り分けたローストビーフを咀嚼しながら言う。
口のものを含んだまま喋るなんて行儀が悪い、この子本当に貴族のお嬢様なのだろうか…。
「ええ?貴族の方ってヴィーナヴァルトホテルを良く使うのではないのですか?」
「ボクはヴィーナヴァルトホテルには泊まったことはないよ、たぶん親父やお袋も泊まったことないんじゃないかな。
ヴィーナヴァルトなんかをしょっちゅう使っていたら破産しちゃうよ。」
そうだよね、やっぱり一泊一部屋金貨十枚っていうのは異常に高いよね。よかった、わたしの感覚が変なわけじゃないんだ。
ルーナちゃんの話では、王都の一流ホテルと言ってもピンからキリまであるみたい。
その中でもヴィーナヴァルトホテルは別格だそうだ、この時期ヴィーナヴァルトを利用するのは伯爵クラスの領主だって。
一方で、ルーナちゃんのご両親の逗留しているホテルはぎりぎり一流ホテルと呼べる程度のホテルで滞在する貴族の殆どが男爵家らしい。
ルーナちゃんが言うには、ホテルによって泊まる人の階級が分けられているとホテル内で爵位の上下関係に気を使わずに済むから都合が良いのだって。
「というより、ボクはヴィーナヴァルトにテイクアウトを頼めると言う方がビックリだよ。
普通じゃそんな注文は受けてもらえないんじゃないの?」
「そうなのかもしれないけど、ソールさんがヴィーナヴァルトホテルのオーナーと懇意にしているんで無理なお願いが聞くみたいなの。
今までも何度か大量の料理をテイクアウトしたことがあるから。」
帝国へ行った二回と昨年ポルトに行ったとき、ヴィーナヴァルトで料理を作って貰い魔導冷蔵庫で冷やして持っていったんだ。
わたし達のメンバーに料理が得意な人はいないから。ハイジさんやミルトさんに変なものを食べさせる訳には行かないからね。
「へー、なんか凄いね。どっちが貴族だかわからないよ。
まあ、ボクはこうしてご相伴に預かれて有り難いけどね。」
そう言いながらルーナちゃんは子羊のローストを頬張った。
なんでもいいけど、さっきからお肉ばっかり食べているよね、野菜も食べないと健康に悪いよ。
**********
良い具合にお腹が膨れたのでそろそろお開きにしようということになった。
「ごちそうさま!お腹いっぱい!
こんなご馳走食べたことがなかったので、思わず食べ過ぎちゃったよ。
それじゃあ、腹ごなしにホテルまでのんびり歩いて行きましょうかね。」
ルーナちゃんがソファーから立ち上がり、そのままホテルへ向かうと言うので玄関まで見送ることにした。
ルーナちゃんったら貴族のお嬢様なのに従者も付けずにホテルまで歩くって大丈夫なの?
そもそも、手ぶらなんですけど、荷物はないのかな?
気になったので玄関へ向かう途中に聞いてみた。
「大丈夫だよ、領地にいたころは一人で野山を駆け回っていたから、むしろ従者をつけて歩いたことなんかないよ。
それに、着替えはホテルに用意してあるだろうしね。
あーあ、イヤだな、ホテルへ行ったら絶対にお袋の趣味のフリルがいっぱい付いたドレスを着させられる。
あれ動き難いから嫌いなんだ。」
フリルいっぱいのドレスを着た自分を想像したのか、いつも元気いっぱいのルーナちゃんがげんなりしていた。貴族のお嬢様って、そういうドレスが好きなものじゃないの?
**********
寮の玄関まで見送りに出てくると外は大粒の雪がしんしんと降っていた。
あーあ、さっきまで薄日が差していたのに、のんびりしているから…。
それでも、吹雪いていないこととまだ早い時間なので明るいことが幸いだ。
しんしんと降る大粒の雪を見ていたルーナちゃんはわたし達の方を振り返り、情けない顔をして言った。
「送ってください…。」
うん、わかったから、送ってあげるからそんな情けない顔しないで…。
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