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第9章 王都の冬
第233話 精霊の森へご招待 ③
しおりを挟む森から戻って屋敷のリビング、ハンナちゃんとルーナちゃん以外はお茶の時間だ。
ハンナちゃん達二人はどうしているかと言うと、森の散策だけでは有り余る体力を持て余してしまうみたいで、今は庭で鬼ごっこをしている。
あの二人精神年齢が近いようで気が合うみたい、それでいいのかい、ルーナちゃん…。
「それで、ターニャちゃんはこの屋敷に招くのはどのような人を考えているのですか?」
お茶を飲みながらフローラちゃんが尋ねてきた。
「そんなに多くの人を招き入れるつもりはないんだ。
今考えているのはエルフリーデちゃんのグループの五人とラインさん、カリーナちゃんかな。
それから、大人は自由に出入りできるミルトさん以外には基本的には考えてなくて、カリーナちゃんの侍女のエラさんくらいかな。
ああ、それとヴィクトーリアさんとハイジさんだね。あの二人には『黒の使徒』が本気で刺客を送ってきたらここに隠れていてもらうつもりなの。ここなら絶対に安全だから。」
すると子供達から少し離れたところでお茶を飲んでいたミルトさんがこちらに来て言った。
「ヴィクトーリア様達のことはそうしてもらえると助かるわ。
『黒の使徒』の連中何をするか予想も出来ないから、非常時に匿ってもらえると有り難いわ。」
わたしもそう思う、奴ら何を考えているかわからないから不気味なんだよね。
「わたしもターニャちゃんがあげた人たちなら安心して招待できると思うわ。
変な人を招き入れて精霊の森のことをその辺中に吹聴されたら困りますもの。」
フローラちゃんはわたしがあげた人の名を聞いて妥当な人選だと納得したようだった。
フローラちゃんもあまり多くの人を招くべきではないと考えてたみたい。
人の口には戸が立てられないから、本当に信頼できる人だけに限定しないと精霊の森のことが変な風に噂になって、森に入り込もうとする輩が増えるだろうって。
その点、エルフリーデちゃんのクループの子は真面目な子ばかりだし、他人に広めない方が良いと思うことは不用意に口にしないだけの分別がつく子ばかりだから安心できるよ。
カリーナちゃんとエラさんは今でも王家の森に立ち入ることが出来るから、今の時点ではこの森と屋敷はエルフリーデちゃんのグループを精霊の森に招くために作ったようなものになってしまった。
でも、わたしたちも成長するに従って交流範囲も広がって、きっとたくさんの人を招待するようになるんじゃないかな。
それに、エルフリーデちゃんにはいつもサロンでお世話になっているし、夏休みも遊びに来ないかと招待されていたから、こちらからも精霊に森に招待できたら良いなとは常々考えていたんだ。
**********
寮へ戻る前にお風呂で汗を流そうということになった。
昨日、お風呂に入れなかったミルトさんが強く主張した訳だけど…。
「ふー、生き返る…。いいわね、広いお風呂。
この大きな湯船、湯船の中で体を伸ばせるのが最高ね。
こうしてお湯に浸かっていると一日の疲れが消えていくようだわ。」
ミルトさんは早速湯船に浸かってご満悦のようだ。
でも、こっちでは…。
「こら!ルーナちゃん、湯船の中で泳がないでください!
ハンナちゃんが真似したらどうするのですか。」
「えー、こんなに大きなお風呂だもん、泳いだって良いじゃない。」
お風呂の中で泳がれたら周りの人にお湯が跳ねて迷惑だから、本当に止めて欲しい。
まったく、一応貴族のお嬢様なんだからもう少しお淑やかになろうよ…。
「ダメです!お湯が跳ねてみんな迷惑しているでしょう。
そのうち、ミルト様に叱られますよ。」
普段は大人しいミーナちゃんだけど、こういう躾みたいな事はきちんと言うんだね。
ミーナちゃんは貴族のマナーは堅苦しくて苦手だと言うけど、こうして見ていると身分に関係なく人として守るべきマナーには凄く厳しいようだ。
「ごめんなさい、ミーナちゃん。
もうしませんから許してください。」
ミーナちゃんが本気で怒っていることに気付いたルーナちゃんが泳ぐのを止めてミーナちゃんに謝り始める。さすがに、本気で怒らせたら拙いと思ったようだね。
泳ぐのを止めてわたしの隣でお湯の中に浸かり始めたルーナちゃんは言う。
「このお風呂本当に広いね。
あんまり広いからつい泳いじゃって、ミーナちゃんに怒られちゃった。
ターニャちゃんのお部屋のお風呂も凄いと思ったけど、こっちの方が格段にいいね。」
『つい』じゃあないよ…、少しはお淑やかにしないとお父さんにまたお見合いさせれちゃうよ。
でも、ルーナちゃんも先日わたしの部屋のお風呂に入ってから、お湯に浸かるタイプのお風呂が気に入ったようだね。
ここのお風呂はみんなで入れるのが良いと言い、エルフリーデちゃん達を誘ってくるのが楽しみだとルーナちゃんは言っていた。
そして、風呂上りにみんなでジュースを飲みながら休んでいると、
「ターニャちゃん、今日は連れてきてくれて有り難う。
精霊の森って想像していたよりずっと素敵なところだったよ。
ここにいると今が真冬で、森の外が大雪だなんて嘘みたいだね。
久し振りに外でいっぱい動き回れたんで、凄く気分が良いんだ。
それに汗をかいた後に、こうしてお風呂で体の汚れを落とせるなんて凄い贅沢。」
と、お風呂あがりの火照った顔でルーナちゃんは言った。
わたしもそう言ってもらえると嬉しいよ。
もう少しお淑やかでも良いと思うけど、快活なルーナちゃんには大雪で外に出られない生活はストレスが溜まるのだと思う。
今日はここに来て、ハンナちゃんと一緒におもいっきり外を駆け回ったのでだいぶストレスを発散したみたいだね。
ルーナちゃんには気に入ってもらえたみたいだし、この冬はここで過ごす時間が長くなるかな。
エルフリーデちゃん達が寮へ戻ってくるのが楽しみだ、早くお招きしたいよ。
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