精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第9章 王都の冬

第232話 精霊の森へご招待 ②

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 ミルトさんと別れて、先に森へ行ったみんなを追いかけた。
 森に入ってさほど歩かないうちにみんなに追いついた、どうやらフローラちゃん達と出会って歩みを止めていたらしい。

「あ、ターニャちゃん、ミルトさんの用事はもう済んだの?」

 わたしに気付いたミーナちゃんが声をかけてくれた。
 一番騒がしい子の声が聞こえないので、おやっと思ってルーナちゃんの様子を窺うとハンナちゃんと一緒になにやらモグモグと頬張っている。

「ターニャちゃん、見て!これ、ミドリさんからもらったの、この森で取れた果実なんだって。
 とっても美味しいの、ターニャちゃんの部屋で出してもらったジュースもこれが入ってたんだね。」

 そう言ってルーナちゃんは食べかけのモモをわたしに差し出して見せた。
 美味しいのは何よりだけど、口の回りベタベタだよ…。

「もう、ルーナちゃんたら、口の周りベタベタですよ。
 ハンナちゃんを見習ってもう少しきれいに食べてください。」

 ミーナちゃんが持っていたハンカチでルーナちゃんの口の周りを拭いながら窘める。
 その様子は、お姉さんが小さな妹を世話しているようだ。
 普段、ミーナちゃんがハンナちゃんを窘める時の様子を見ているみたい…。

「えへへ、ありがとう、ミーナちゃん。
 ごめんね、初めて食べた物だからつい夢中になっちゃって。」
 
 ルーナちゃんは赤面しながら言う。
 流石に三つも年下のハンナちゃんを見習えと言われて、ルーナちゃんも恥ずかしかったみたい。


     **********

 
「ごきげんよう、ターニャちゃん。また、凄いものを作りましたね。
 森そのものは王家の森と変わりませんが、あの屋敷が凄いです。
 ここに友人を招待するって素敵ですね。
 皆さんにも精霊の森の素晴らしさを知って頂いて、精霊に対する理解を深めて貰いたいです。」

 ミーナちゃん達と合流していたフローラちゃんが感心した様子で言った。
 フローラちゃんは、わたしがこの森に友達を招待することを前向きに捉えているみたいだね。

「今回みたいに雪でずっと外に出られない日が続くと気が滅入るでしょう。
 わたし達は王家の森に立ち入れるから気分転換できるけど他の人はそれが出来ないじゃない。
 かといって、立ち入り禁止の王家の森に友達を連れて行く訳にもいかないし。
 今回の場合、いつものメンバーが不在でわたし達しか遊び相手のいないルーナちゃんだけを寮に残して、わたし達だけ王家の森に行くのは気が引けたから。
 そう思っていたらソールさんがみんなを招待できる場所を作ってくれるって言ってくれたの。」

「ええ、お母様から聞いていますわ。
 優しい保護者がいて良かったですね。」

 本当だよ、ソールさんたちには凄く大切にされていると思う、感謝の気持ちを忘れないようにしないと。

「でもこれで、豪雪のときとか、夏場の暑いときとかにみんなを誘って逃げ込めるところが出来たね。
 フローラちゃんも一緒に来てくれるでしょう?」

「もちろんですわよ。むしろ、仲間外れにされたら泣いてしまいますわ。」

 みんなを誘ってあのお屋敷でお泊りするのは楽しそうだね、エルフリーデちゃん達が帰ってきたら早速誘ってみよう。


    **********


 わたし達はフローラちゃん達も交えて森の散策を続けることにした。
 
 森の景色は王家の森とさほど変わらない、色とりどりの花が咲いていてきれいだ。
 人とは違う精霊の感性で作られたものだが、全体としてみると咲き誇る花が描くグラデーションは調和の取れた美しいものだ。

 しかし、その中身をよく見ると調和など全く無視した凄いことになっている。
 なんと言っても、ヘレボルスのような真冬に咲く花もあると思えば、ポピーのような真夏の花まで咲いている。季節感無視もいいところだ。 

 しかも、本来はこの大陸にはない植物まであると言う。

「ターニャちゃん、さっき貰ったモモもそうだけど、ターニャちゃんの部屋で出してもらったフルーツジュースって精霊の森で採ってきたくだもので作っていたんだね。
 道理で飲んだことのない味がすると思っていたんだ。
 ここにある木に生っている果実って見たことのない物がたくさんあるんだね。」

 初めて見る花や木にルーナちゃんは目を輝かせていたが、一番関心があるのは食べられる果実だったようだ。
 でも、ダメだよ勝手に取ったら、精霊の機嫌を損ねるからね。

「そうそう、さっき驚いたんだけど、ミドリさんが何もないところに向かって話しかけたと思ったら、モモがミドリさんのところまで浮かんでくるの。森の精霊に採って来てもらったんだって。
 ミドリさんが、森の果実は勝手に採ったらダメだって、欲しい場合はそこにいる精霊にお願いするんだって。
 ボクは精霊が見えないから他の人に頼んでもらうしかないんだね。
 ボクの他はみんな精霊が見えているんだってね、どんな景色が見えているのか気になるな。」

 わたしが言わなくても既にミドリが注意をしていたらしい…。
 ルーナちゃんは精霊が見えないことを少し残念に感じているみたい。
 ルーナちゃんは、わたし達には見えていて、自分には見えない精霊たちに関心を持ったようだ。

 難しいよね、精霊がまだ人と共にあった昔でも精霊を見ることができ、言葉を交わせた人は極僅かな『色なし』だけだったらしいものね。

 でも、さっきフローラちゃんも言っていたけど、ここに招待することで今のルーナちゃんみたいに精霊に関心を持ってくれる人が増えるのは良いことかも知れない。

 そんな事を考えながら、わたしは森の散策を続けた。
 

 
 
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