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第9章 王都の冬
第254話【閑話】連行?
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ミルト様からヴィーナヴァルトホテルをお世話していただいた翌日、私は早速母校の恩師の許を訪れた。
恩師は教育熱心な方で、冬休みにも拘らず学校で休み明けの授業の準備を行っていた。
職員室で、私は勤めていた伯爵家がなくなってしまい職を失ったことを恩師に説明し、何か求人がないかを尋ねた。
「それは気の毒なことになりましたね。私も及ばずながら力になりたいと思います。
何か良い求人がないか気にかけておきましょう。
あなたのような優秀な人材を腐らせておくのは社会の損失ですからね。
とは言うものの、今月から来月の前半にかけては難しいですよ。
あなたも王都の生まれですから当然わかっていると思いますが、この雪ですからね。
経済活動が停滞していて求人なんかありはしません、むしろ使用人に幾ばくかのお金を与えて一時的に仕事を休む職場もあるくらいですから。
職場を紹介できるのは早くても二の月の半ば過ぎになりますよ。」
恩師は相変わらず教え子思いの方だった。
私の相談に真摯に応えてくれた、でもやっぱり、この雪の中で職探しは難しいか…。
恩師のもとを辞したわたしは肩を落としてホテルへ戻るべく道を歩いていた。
母校から中央広場に向かう途中、繁華街の中の道を通る。
雰囲気が良くないのであまり通りたくはないが、ここを通らねば凄い遠回りをしないといけない。
今はまだ昼間なのでそう酷いことはないだろう。
これが夜だと酔っ払いやゴロツキがうじゃうじゃいてとても女一人では歩けたものではないのだけど。
私が歩いていると、チャライ男が声をかけてきた。
「お姉さんどうしたの、元気がないね。
もしかして、仕事を探しているの?
それなら、良い仕事があるよ、日払いだからすぐお金が手に入るんだ。
お姉さん、若いし美人だから頑張れば月に金貨十枚は稼げるよ。
どうだい、事務所によってちょっとだけ話を聞いていかないかい。
温かいお茶でも出すよ。」
この道を通るとこういう仕事の斡旋屋ならすぐに寄って来るのだけどね…。
そういう仕事は間に合っています。
あいにく私は若いうちしか稼げないような仕事をする気はないんです。
*********
部屋へ戻った私はソファーに腰掛けて目の前のハンドベルを鳴らした。
するとワゴンを転がした給仕さんが出てきて、熱いお茶を淹れてくれた。
お茶を淹れると、
「外は寒かったでしょう。もしよろしければお風呂をご用意いたしますが?」
と給仕さんは言った。
さすが王族が手配してくれたホテル、まるで王侯貴族にでもなったような待遇の良さだ。
いけない、いけない、これに慣れると人間が堕落してしまう。
お風呂、心を惹かれる言葉だが、ここで贅沢に慣れてはいけない。
ここは自制心を持って、…。
「あ、お願いします。」
…ダメだ、誘惑に勝てなかったよ…。
給仕といえば、この部屋には専属の給仕の女性がいて何かと世話を焼いてくれる。
こういう高級ホテルに初めて泊まった私は給仕さんに対するチップの相場が判らなくて聞いてしまった。
すると返ってきた答えは、
「こちらは王家を尋ねて来られた賓客をもてなすことを前提としていますので、チップはお断りする規則になっています。
その分、王室より私たち給仕に対する手当てとして接客費を別途頂戴していますのでご心配は無用でございます。お心だけ頂戴しておきます。」
というものだった。
本当に至れり尽くせりだわ…。
**********
職探しが捗らないなか、ヴィーナヴァルトホテルでの贅沢な生活を三日ほど過ごした日の朝、給仕が突然の来客を告げる。
給仕が取り次いでくれるのだから変な来客ではないのだろう、ミルト様からの伝言かな?
やっぱり一ヶ月はやり過ぎだからもう少し早く退去するようにとか。
そう思って私は来客を招き入れるように給仕に伝えた。
するときっちした身なりの人達が部屋に入ってきた。えっ、一人じゃないの?
きっちりと完全武装した兵士、いや、騎士が五人部屋に入ってきて私を取り囲んだ。
そして、なかでも一番屈強に見える騎士が言いました。
「リタさんで間違いありませんか?」
何が起こったの理解できない私は、ただ首を縦に振るのが精一杯だった
するとその騎士は私の手を取って立ち上がらせると、無表情で言った。
「これから、私共にご同行願います。」
それは、有無を言わせない力の篭った言葉だった。
小心者の私はただただ、頷くしかなった。
屈強な騎士五人に囲まれてヴィーナヴァルトホテルのロビーを歩く私、周囲の注目を一身に集めている気がする。
多分気のせいじゃいないよね…、ほらあそこにいる貴族らしい女性なんか私を指差してひそひそと話しをしているし。
私は何も悪いことはしていませんよ。
それは少し若様の予算をちょろまかして、私達のおやつ代に充てたけど、子供の小遣い程度のモノですよ。それで、横領罪で連行されるなんてことはないですよね。
あっ、アロガンツ家が何か悪いことをしていましたか?それでしたら、私は無関係ですよ。
一介の使用人ですから。
訳がわからないまま連行される私、みんな無言なんだもの、お願い何とか言って…。
**********
いかつい騎士団の馬車に乗せられて着いたのは思ったとおり王宮だった。
王宮の表の宮の一階、いかにも取調室という感じの狭い部屋に入れられた私は、さっきの騎士にここで待つように言われた。
あの…、弁護士を呼べとは言いませんから、せめてミルト様に会わせて頂けませんか。
もちろん、心の声です。小心者の私は皇太子妃様を呼べなんて恐れ多いこと言えません。
どのくらい待っただろうか、多分大した時間は立っていないと思うけど、取調官らしき無愛想な男が部屋に入ってきました。
その男は無言で私の目の前に紙の束を置いて私の正面に腰掛けました。その男は不機嫌な様子を隠そうともしていないです。
その男は不機嫌そうに座ったまま一言も発しようとしなかったが、私が戸惑っているのを見て取ると一言だけ言った。
「何をやっている、早く始めないか。」
「へっ、何を?」
私の間抜けな返答に、その男は更に不機嫌な表情となり、
「何をじゃない、それを指示通り埋めればよいのだ。うだうだ言わんと早くしろ。」
と声を荒げました。
何かの供述調書だろうか?こういうのって容疑者から聞き取った内容を取調官が書くものじゃないの?容疑者に書かせるって初めて聞いたのだけど…。
恩師は教育熱心な方で、冬休みにも拘らず学校で休み明けの授業の準備を行っていた。
職員室で、私は勤めていた伯爵家がなくなってしまい職を失ったことを恩師に説明し、何か求人がないかを尋ねた。
「それは気の毒なことになりましたね。私も及ばずながら力になりたいと思います。
何か良い求人がないか気にかけておきましょう。
あなたのような優秀な人材を腐らせておくのは社会の損失ですからね。
とは言うものの、今月から来月の前半にかけては難しいですよ。
あなたも王都の生まれですから当然わかっていると思いますが、この雪ですからね。
経済活動が停滞していて求人なんかありはしません、むしろ使用人に幾ばくかのお金を与えて一時的に仕事を休む職場もあるくらいですから。
職場を紹介できるのは早くても二の月の半ば過ぎになりますよ。」
恩師は相変わらず教え子思いの方だった。
私の相談に真摯に応えてくれた、でもやっぱり、この雪の中で職探しは難しいか…。
恩師のもとを辞したわたしは肩を落としてホテルへ戻るべく道を歩いていた。
母校から中央広場に向かう途中、繁華街の中の道を通る。
雰囲気が良くないのであまり通りたくはないが、ここを通らねば凄い遠回りをしないといけない。
今はまだ昼間なのでそう酷いことはないだろう。
これが夜だと酔っ払いやゴロツキがうじゃうじゃいてとても女一人では歩けたものではないのだけど。
私が歩いていると、チャライ男が声をかけてきた。
「お姉さんどうしたの、元気がないね。
もしかして、仕事を探しているの?
それなら、良い仕事があるよ、日払いだからすぐお金が手に入るんだ。
お姉さん、若いし美人だから頑張れば月に金貨十枚は稼げるよ。
どうだい、事務所によってちょっとだけ話を聞いていかないかい。
温かいお茶でも出すよ。」
この道を通るとこういう仕事の斡旋屋ならすぐに寄って来るのだけどね…。
そういう仕事は間に合っています。
あいにく私は若いうちしか稼げないような仕事をする気はないんです。
*********
部屋へ戻った私はソファーに腰掛けて目の前のハンドベルを鳴らした。
するとワゴンを転がした給仕さんが出てきて、熱いお茶を淹れてくれた。
お茶を淹れると、
「外は寒かったでしょう。もしよろしければお風呂をご用意いたしますが?」
と給仕さんは言った。
さすが王族が手配してくれたホテル、まるで王侯貴族にでもなったような待遇の良さだ。
いけない、いけない、これに慣れると人間が堕落してしまう。
お風呂、心を惹かれる言葉だが、ここで贅沢に慣れてはいけない。
ここは自制心を持って、…。
「あ、お願いします。」
…ダメだ、誘惑に勝てなかったよ…。
給仕といえば、この部屋には専属の給仕の女性がいて何かと世話を焼いてくれる。
こういう高級ホテルに初めて泊まった私は給仕さんに対するチップの相場が判らなくて聞いてしまった。
すると返ってきた答えは、
「こちらは王家を尋ねて来られた賓客をもてなすことを前提としていますので、チップはお断りする規則になっています。
その分、王室より私たち給仕に対する手当てとして接客費を別途頂戴していますのでご心配は無用でございます。お心だけ頂戴しておきます。」
というものだった。
本当に至れり尽くせりだわ…。
**********
職探しが捗らないなか、ヴィーナヴァルトホテルでの贅沢な生活を三日ほど過ごした日の朝、給仕が突然の来客を告げる。
給仕が取り次いでくれるのだから変な来客ではないのだろう、ミルト様からの伝言かな?
やっぱり一ヶ月はやり過ぎだからもう少し早く退去するようにとか。
そう思って私は来客を招き入れるように給仕に伝えた。
するときっちした身なりの人達が部屋に入ってきた。えっ、一人じゃないの?
きっちりと完全武装した兵士、いや、騎士が五人部屋に入ってきて私を取り囲んだ。
そして、なかでも一番屈強に見える騎士が言いました。
「リタさんで間違いありませんか?」
何が起こったの理解できない私は、ただ首を縦に振るのが精一杯だった
するとその騎士は私の手を取って立ち上がらせると、無表情で言った。
「これから、私共にご同行願います。」
それは、有無を言わせない力の篭った言葉だった。
小心者の私はただただ、頷くしかなった。
屈強な騎士五人に囲まれてヴィーナヴァルトホテルのロビーを歩く私、周囲の注目を一身に集めている気がする。
多分気のせいじゃいないよね…、ほらあそこにいる貴族らしい女性なんか私を指差してひそひそと話しをしているし。
私は何も悪いことはしていませんよ。
それは少し若様の予算をちょろまかして、私達のおやつ代に充てたけど、子供の小遣い程度のモノですよ。それで、横領罪で連行されるなんてことはないですよね。
あっ、アロガンツ家が何か悪いことをしていましたか?それでしたら、私は無関係ですよ。
一介の使用人ですから。
訳がわからないまま連行される私、みんな無言なんだもの、お願い何とか言って…。
**********
いかつい騎士団の馬車に乗せられて着いたのは思ったとおり王宮だった。
王宮の表の宮の一階、いかにも取調室という感じの狭い部屋に入れられた私は、さっきの騎士にここで待つように言われた。
あの…、弁護士を呼べとは言いませんから、せめてミルト様に会わせて頂けませんか。
もちろん、心の声です。小心者の私は皇太子妃様を呼べなんて恐れ多いこと言えません。
どのくらい待っただろうか、多分大した時間は立っていないと思うけど、取調官らしき無愛想な男が部屋に入ってきました。
その男は無言で私の目の前に紙の束を置いて私の正面に腰掛けました。その男は不機嫌な様子を隠そうともしていないです。
その男は不機嫌そうに座ったまま一言も発しようとしなかったが、私が戸惑っているのを見て取ると一言だけ言った。
「何をやっている、早く始めないか。」
「へっ、何を?」
私の間抜けな返答に、その男は更に不機嫌な表情となり、
「何をじゃない、それを指示通り埋めればよいのだ。うだうだ言わんと早くしろ。」
と声を荒げました。
何かの供述調書だろうか?こういうのって容疑者から聞き取った内容を取調官が書くものじゃないの?容疑者に書かせるって初めて聞いたのだけど…。
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