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第10章 王都に春はまだ遠く
第261話 久し振りのお婆ちゃん
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「よお、やってるなお嬢ちゃん達、こんな雪の中でも休まずに続けるとは感心、感心。」
精霊神殿で恒例の臨時診療所の活動をしていると、お婆ちゃんの気さくな声がした。
「あっ、フィナントロープ様、お久し振りでございます。
今日はマリアさんに御用ですか?」
ミーナちゃんがお婆ちゃんに気付いて挨拶をする。
このお婆ちゃん、フィナントロープさんはどっかの商家のご婦人という身なりでここへ来ているが実はとっても偉い人なんだ。
この大陸で最も信者の多い宗教、創世教、その大司教の一人がフィナントロープさん。
ヴィーナヴァルト教区の大司教であるフィナントロープさんはこの国の信者を束ねていて、この国の創世教のトップに立つ人なの。
教会全体の中でも、教皇、教会本部を束ねる大司教に次いで三番目に偉い人みたい。
「別にマリアに用事って訳でもないんだ。
この雪じゃ教会もやることがなくてね、たまには商売敵の様子でも見ておこうかと思ってね。」
そう言ってフィナントロープさんは笑った。
フィナントロープさん、実は創世教の大司教を辞めたら、ミルトさんの下で王国による治癒術師の育成に協力してくれることになっている。ミルトさんとは頻繁に会っているみたい。
商売敵というけど患者さんはほとんど被ってない、創世教の治癒術師に治癒術を施してもらうのには大金が要るの。そんなお金を払えない人に無償で治癒術を施すのがわたし達の活動だから。
もっとも、創世教の商売の邪魔にならないかといえば、そうでもない。
二年前までは創世教が治癒術師を独占していたので施術料が最低金貨一枚と非常に高かったのね。
そこへわたし達が無償で治癒を施し始めたことから創世教の暴利が目立ってしまい、創世教の不祥事と相俟って大幅な値下げを余儀なくされたの。
創世教の中にいる拝金主義者には恨まれているのじゃないかな。
フィナントロープさんは、前任の大司教が無茶苦茶をやって信徒の信頼を失った教会の建て直しのために送られてきた人で非常に信頼できる人なの。
元々、教会の治癒術師をしていた人で、以前から治癒術の施術料の高さに不満を持っており、教会が拝金主義に傾いていることに批判的な人だったみたい。
「フィナントロープさん、その後腰の調子はどうですか?
今日も腰の治療をしておきますか?」
わたしは以前治療した腰のその後の経過を尋ねる、昨年念入りに治癒を施したのでそう悪くはないはずだけど。
「お嬢ちゃんのおかげですっかり腰の痛みが取れて、まるで若い頃に戻ったようだよ。
心配してもらって有り難うよ。」
そう、それは良かった。去年の春は、歩けないくらい酷かったものね。
**********
「ターニャちゃん、ミーナちゃん、患者さんが途切れたので一休みしましょうか。
あら、フィナントロープさん、いらしていたのですか?
こちらにも声を掛けて頂ければ良かったのに。」
女性の患者さんも途切れたようで、ミルトさんが顔を覗かせた。
「ミルト様とはちょくちょく顔を会わせているだろう、このお嬢ちゃん達とは久し振りなんで少し話しでもしようかと思ってね。」
そんな挨拶を交わしたあと、あたし達は応接室で休憩を取ることにした。
「それで、お嬢ちゃん達方へ先に行ったのはもちろん久し振りに話がしたかったこともあるが、妙な噂を耳にしてね。」
へっ、私たちに関わる妙な噂?
「この二人がどうかしましたか?」
フィナントロープさんの言葉に私たちに代わってミルトさんが尋ねた。
「いやね、雪が本格的になる前に教会の本部からもたらされた情報なんだけどね。
このお嬢ちゃん達が夏に帝国で妙な森を作ったというのさ。
何でも、森に入ろうとすると入った場所に戻されたり、別の場所に飛ばされたりとかで森に入れないらしい。
また、森の木を伐ろうとすると斧が木を避けてしまって木が切れないそうだ。
それで、帝国の妙な宗教団体が、このお嬢ちゃん二人を目の敵にしていると言うのさ。
私のところには、その情報と共に、帝国で噂されているような少女が本当にいるのかという照会が来ているんだ。」
フィナントロープさんの手許に届いた書簡には、わたし達とは書かれておらず、王国から来た『色なし』の少女二人と書かれていたそうだ。
教会の本部の人も俄かには信じられないことだがとしつつも、『黒の使徒』の連中が本気でわたし達を目の敵にしているので、フィナントロープさんに心当たりがないか連絡して来たみたい。
「『夏に森を作った』っていったいなんだい、森ってのは百年掛けて出来るもんだろう。
普通なら何与太話をしているんだと言って、相手にしないところなんだけどね。
あいにく、私はお嬢ちゃん達のことを知っているんでね。
もしかしたらお嬢ちゃん達がやったのかなと思って訪ねて来たんだよ。
もし、お嬢ちゃん達がやったことだとしたら、妙な宗教団体に目を付けられているようなので気を付けるように注意しておこうと思ってね。」
創世教の本部がフィナントロープさんに照会してきたのは、帝国で流れている噂が『色なし』が魔法で森を作ったとなっているからのようだ。
創世教でも『色なし』は神の加護がない忌まわしき人で、信仰心の薄い人から生まれてくるものとされている。
まあ、ぶっちゃけ、これも方便で、魔法が使えるのが当たり前のこの大陸では魔法が使えない『色なし』は出来損ないでということで、信心が足りないから罰が当たったんだと言い易かったんだね。
『色なし』が森を作るなんていう大魔法を使えたら由々しき事態ということで照会して来たみたい。
それはともかく、フィナントロープさんはわたし達が『黒の使徒』の目の敵になっているので注意意しろって言いに来てくれたのだね。
精霊神殿で恒例の臨時診療所の活動をしていると、お婆ちゃんの気さくな声がした。
「あっ、フィナントロープ様、お久し振りでございます。
今日はマリアさんに御用ですか?」
ミーナちゃんがお婆ちゃんに気付いて挨拶をする。
このお婆ちゃん、フィナントロープさんはどっかの商家のご婦人という身なりでここへ来ているが実はとっても偉い人なんだ。
この大陸で最も信者の多い宗教、創世教、その大司教の一人がフィナントロープさん。
ヴィーナヴァルト教区の大司教であるフィナントロープさんはこの国の信者を束ねていて、この国の創世教のトップに立つ人なの。
教会全体の中でも、教皇、教会本部を束ねる大司教に次いで三番目に偉い人みたい。
「別にマリアに用事って訳でもないんだ。
この雪じゃ教会もやることがなくてね、たまには商売敵の様子でも見ておこうかと思ってね。」
そう言ってフィナントロープさんは笑った。
フィナントロープさん、実は創世教の大司教を辞めたら、ミルトさんの下で王国による治癒術師の育成に協力してくれることになっている。ミルトさんとは頻繁に会っているみたい。
商売敵というけど患者さんはほとんど被ってない、創世教の治癒術師に治癒術を施してもらうのには大金が要るの。そんなお金を払えない人に無償で治癒術を施すのがわたし達の活動だから。
もっとも、創世教の商売の邪魔にならないかといえば、そうでもない。
二年前までは創世教が治癒術師を独占していたので施術料が最低金貨一枚と非常に高かったのね。
そこへわたし達が無償で治癒を施し始めたことから創世教の暴利が目立ってしまい、創世教の不祥事と相俟って大幅な値下げを余儀なくされたの。
創世教の中にいる拝金主義者には恨まれているのじゃないかな。
フィナントロープさんは、前任の大司教が無茶苦茶をやって信徒の信頼を失った教会の建て直しのために送られてきた人で非常に信頼できる人なの。
元々、教会の治癒術師をしていた人で、以前から治癒術の施術料の高さに不満を持っており、教会が拝金主義に傾いていることに批判的な人だったみたい。
「フィナントロープさん、その後腰の調子はどうですか?
今日も腰の治療をしておきますか?」
わたしは以前治療した腰のその後の経過を尋ねる、昨年念入りに治癒を施したのでそう悪くはないはずだけど。
「お嬢ちゃんのおかげですっかり腰の痛みが取れて、まるで若い頃に戻ったようだよ。
心配してもらって有り難うよ。」
そう、それは良かった。去年の春は、歩けないくらい酷かったものね。
**********
「ターニャちゃん、ミーナちゃん、患者さんが途切れたので一休みしましょうか。
あら、フィナントロープさん、いらしていたのですか?
こちらにも声を掛けて頂ければ良かったのに。」
女性の患者さんも途切れたようで、ミルトさんが顔を覗かせた。
「ミルト様とはちょくちょく顔を会わせているだろう、このお嬢ちゃん達とは久し振りなんで少し話しでもしようかと思ってね。」
そんな挨拶を交わしたあと、あたし達は応接室で休憩を取ることにした。
「それで、お嬢ちゃん達方へ先に行ったのはもちろん久し振りに話がしたかったこともあるが、妙な噂を耳にしてね。」
へっ、私たちに関わる妙な噂?
「この二人がどうかしましたか?」
フィナントロープさんの言葉に私たちに代わってミルトさんが尋ねた。
「いやね、雪が本格的になる前に教会の本部からもたらされた情報なんだけどね。
このお嬢ちゃん達が夏に帝国で妙な森を作ったというのさ。
何でも、森に入ろうとすると入った場所に戻されたり、別の場所に飛ばされたりとかで森に入れないらしい。
また、森の木を伐ろうとすると斧が木を避けてしまって木が切れないそうだ。
それで、帝国の妙な宗教団体が、このお嬢ちゃん二人を目の敵にしていると言うのさ。
私のところには、その情報と共に、帝国で噂されているような少女が本当にいるのかという照会が来ているんだ。」
フィナントロープさんの手許に届いた書簡には、わたし達とは書かれておらず、王国から来た『色なし』の少女二人と書かれていたそうだ。
教会の本部の人も俄かには信じられないことだがとしつつも、『黒の使徒』の連中が本気でわたし達を目の敵にしているので、フィナントロープさんに心当たりがないか連絡して来たみたい。
「『夏に森を作った』っていったいなんだい、森ってのは百年掛けて出来るもんだろう。
普通なら何与太話をしているんだと言って、相手にしないところなんだけどね。
あいにく、私はお嬢ちゃん達のことを知っているんでね。
もしかしたらお嬢ちゃん達がやったのかなと思って訪ねて来たんだよ。
もし、お嬢ちゃん達がやったことだとしたら、妙な宗教団体に目を付けられているようなので気を付けるように注意しておこうと思ってね。」
創世教の本部がフィナントロープさんに照会してきたのは、帝国で流れている噂が『色なし』が魔法で森を作ったとなっているからのようだ。
創世教でも『色なし』は神の加護がない忌まわしき人で、信仰心の薄い人から生まれてくるものとされている。
まあ、ぶっちゃけ、これも方便で、魔法が使えるのが当たり前のこの大陸では魔法が使えない『色なし』は出来損ないでということで、信心が足りないから罰が当たったんだと言い易かったんだね。
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