精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第12章 三度目の夏休み

第298話 大人の世界は色々とあるみたい…

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 話がまとまったので全員揃って船に戻ろうとしたら、リタさんから待ったが掛かった。

「ターニャちゃん、ちょっと待ってください。
 みんな薄汚れていて臭いますよ。
 その子達をそのまま連れて帰ったら、新造船が台無しだって、テーテュスさんに怒られますよ。
 わたしがリリちゃんに聞いて着替えを用意しました。
 ターニャちゃんはいつものピカッていうのでみんなを綺麗にしてください。」

 リタさんは孤児達の様子を予想し、リリちゃんにスラムで一緒に暮らしていた子供の人数、性別、背丈を粗々と聞いていて、昨日のうちに古着を買い求めていたらしい。
 リタさんは、リリちゃんの記憶力がよくて助かったと言っている。どうやら、見た感じ不足は無いらしい。
 リタさんには感謝だね、わたしはそこまで気が回らなかったよ。

「リタさん、有り難う!すごく助かる。」

「私は事務官として当たり前のことをしただけですので、私に感謝は不要ですよ。
 お礼ならミルト様に言ってくださいね、この服の代金はミルト様のポケットマネーですので。」

 でも、ミルトさんに進言してくれたんでしょう、やっぱりリタさんにも感謝だよ。

 わたしは、リタさんに言われたとおり、光のおチビちゃんの浄化の術で孤児たちの汚れを落とす。
 わたしの隣では、リタさんとフェイさんが手分けをして子供達に服を配っていた。

「驚くべき記憶力ですね、数はリリちゃんの言う通りでした。足りないといけないと思って余分に買った分は丸々余りました。
 サイズも融通が利くように女の子は全部ワンピース、男の子は半ズボンとシャツにしたのですが、ほぼリリちゃんの記憶どおりで、小さくて着れない服はありませんでしたよ。無駄が出なくて良かったです。
 多少余りましたが足りないよりは良いでしょう。」

 リタさんがリリちゃんの記憶力に感心している。
 なんか、ハンナちゃんにしろ、リリちゃんにしろ、保護した子が優秀すぎて怖いのですけど…。

 みんなの着替えが終るの待って出発することになった。
 結局一緒に王国へ来るのは女の子二十四人、男の子二十二人の総勢四十六人になったよ。
 スラムから出てこの町の目抜き通りをぞろぞろと船に向かって歩く。
 五十人を超える女子供の集団だけあって、道を歩く人が足を止めて好奇の目で見ている。
 まあ、気にしないことにしたけど。

 そして、ピオニール号の前まで来ると、テーテュスさんがわたし達の帰りを迎えてくれた。

「おう、ターニャ、無事子供達を連れてこれたか、よかったな努力したことが無駄にならなくて。
 ミルトが中で待っているぞ、早く子供達を連れて行け。
 例の子供は連れてきたかい。」

「うん、連れてきたよ。
 この子がヤン君、それと後ろの三人もここに残るって。」

『そうか、じゃあ、おまえら四人はちょっと話があるからこっちへ来い。』

 そう言ってテーテュスさんは四人を何処かへ連れて行ってしまった。


     **********


「ただいま、ミルトさん!連れてきたよ!」

 そう言ってわたしが船内に入ると、

『ようこそ、よく来たわね。
 私はオストマルク王国の皇太子妃、と言っても解らないか。
 次の王様の奥さんのミルトよ。
 オストマルク王国はあなた達を歓迎するわ。
 これからよく食べて、よく勉強して立派な大人になってくださいね。』

 ミルトさんが帝国語で子供達を歓迎してくれた。
 子供にもわかるように『次の王様の奥さん』と言い直してくれたが、それでも大半の子供達にはよくわかっていないようだ。
 王族なんて縁のない存在だし、誰も教えてくれる人がいなかったのだものね。

「ミルトさん、子供達の服を用意してくれて有り難うございます。
 全然そこまで気が回りませんでした。助かりました。」

「いいのよ、ターニャちゃんが全部やろうとする必要はないわ。
 今回、あなたの一番大切な役割はその子たちを説得して連れてくること。
 ターニャちゃんの気付かないこと、手に負えないことをフォローするのは私達大人の役割なのだから。」 

 そう言ってもらえるとすごく嬉しい。すごく頼もしいよミルトさん、今日はちゃんと王族に見える。

『みんな、ミルトさんがみんなの今着ている服を用意してくれたんだよ。
 有り難うって、お礼を言って。』

『『『ありがとうございます!』』』

 子供達の声にミルトさんが目を細めていた。

「そうそう、それと私もターニャちゃんに謝らないといけないことがあるの。
 その子達、少し訳有りみたいで勝手に連れ出したら拙かったみたいなのよ。
 ただ、それに気付いたテーテュス様が昨日のうちに話しを付けておいてくださったので、今は問題ないわ。
 テーテュスさんにお礼を言っておいて。」

 訳ありってなんだろうと思ったけど、ミルトさんは言葉を濁して教えてくれなかった。
 「もう少し大人になったらね」って言われたよ。


 わたしは船内の案内などの細々とした説明をリタさんやフェイさんに任せてテーテュスさんを探しに行くことにした。


     **********


 甲板に上がるとちょうどテーテュスさんが戻ってきたところだった。

「テーテュスさん、昨日何かお手数をお掛けしたようで申し訳ありませんでした。
 手助けして頂いたようで有り難うございました。」

 わたしがそう言うと、テーテュスさんが笑いながら言った。

「いや、ミルトが解らないことなんだから、子供のおまえが解らなくても仕方がないさ。
 ミルトもおまえも純粋培養だから、あんな世界があるとは思わないだろうさ。
 実際、王国にはないみたいだからな。
 その顔じゃあ、ミルトは詳しい話はしなかったんだろう、ならば私が話すことではないな。
 ただな、あいつら孤児だけど、この町にはあいつらを心配している人達がいるんだよ。
 だから、無断で連れ出すと大事になる恐れがあったのさ。
 だから、私がその人たちの所に行って説明してきたよ。
 『さる貴族のお嬢様が孤児たちの境遇を憂慮し国を説得して孤児院を用意した』と説明したらみんな納得してくれたよ。みんな、安心した顔をしていたぞ。」

 わたし、貴族ではないのだけど、それで安心してもらえるのなら、嘘も方便だね。

「ヤン少年な、彼は私が話しを付けに行った人達から孤児たちの世話を託されているんだよ。
 もちろん、あいつ自身も孤児だし、別に給金をもらって雇われているわけではないぞ。
 あの歳なんで事情を聞かされているのだと思う、だからここを離れられないんだ。
 でだ、ヤン少年を含む四人を私が下働きとして雇うことにしたよ。
 前に言っていただろう、南の大陸がきな臭いのでこっちに拠点を移そうかと。
 ポルトに本店を置くつもりなんだけど、帝国にも一つくらい支店を置こうと思っていたんだ。
 ここだとポルトに近すぎる気がするけど、昨日お前達が良い空き家を作ってくれたろう。
 あれを見て、ここに支店を置くのも悪くないと思ったのさ。
 それで、新たに捨てられた孤児はヤン少年達が下働きの合間に世話をして、定期的に私がポルトの孤児院に移すことにした。
 ミルトもそれで承知している。」

 なんと、ハーフェン組が拠点に使っていた建物をテーテュスさんが即金で買い取ったそうだ。
 所有者はハーフェン組が戻ってくることを懸念して、早く建物を手放したかったようで安く買えたとテーテュスさんは言っている。

 テーテュスさんは、ハーフェン組の者が戻ってきて難癖付けて来るかもしれないので、荒事に長けたクルーを数名ここに残して行くそうだ。
 そうすれば、ヤン君たちも安心だろうって。
 
 一応これで、今回やろうと思っていたことは全部終ったかな。

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