精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第12章 三度目の夏休み

第309話 ある商人との再会

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 わたし達が村長の話を聞き終えて村長の家から出てくると、ハンナちゃんとリリちゃんがロッテちゃんとしゃがんでお喋りをしていた。

「それで、ターニャおねえちゃんがスラムのみんなを孤児院に住めるようにしてくれて、綺麗な服に、綺麗な寝床、それにお腹いっぱいのご飯を用意してくれたんだ。」

 どうやら、リリちゃんが自分がわたしに保護されてからのことをロッテちゃんに話していたらしい。

「へー、聖女のお姉ちゃんはやっぱり優しいね、それに凄い。
 わたしもお腹を空かせて死にそうになっていたところを聖女のお姉ちゃんに助けてもらったんだ。
 聖女のお姉ちゃんが食べ物を分けてくれて、村に畑を作ってくれたの。
 この村の周りにある森も綺麗な水が湧き出る泉もみんな聖女のお姉ちゃんが村のために造ってくれたんだよ。」

 ロッテちゃんがリリちゃんの話に相槌を打っている。だから聖女のお姉ちゃんは止めってって…。
 子供達がお喋りしているのは良いのだけど、それを真剣に聞いている大人が一人。
 どこかで見た覚えがあるんだけど…。

「ほう、そうかい、そうかい、他になんか面白い話は無いかい?」

 なんか子供達から聞き出しているし…。

「うんとね、私をさらって虐めた悪い人たちを、町から追い出してくれたの。」

 あー、それは言っちゃ拙いかも。まだ、一週間も経っていないよ、その当事者がここにいたらおかしいって。
 わたしは慌てて三人の許に向かおうとした。
 そのとき、子供達の話を聞いていておじさんがわたしに気が付いた。


     **********


「ああ、お嬢さん、お久し振りです。
 以前魔獣の襲撃から助けていただいた隊商のデニスです。
 その節はお世話になりました。
 最近、だいぶご活躍のようですね。」

 そうそう、二年前の今頃でっかい蛇に襲われていた隊商の代表の人だ。

「お久し振りです、デニスさん。お元気そうで何よりです。
 それで、今子供達が話しいていた件なんですが。
 最近、わたしの周りに物騒な人たちがうろつくようになりまして。
 出来れば『白い聖女』の噂がこれ以上立たないようにしていただけると有り難いのですが。」

「私としては、命の恩人に危害を加えようとする者を赦してはおけないです。
 しかし、話が広まることで連中みたいな性質の悪い者に恩人が付け狙われるのは本位ではないですからね。
 今日、子供達から聞かせてもらった話は私だけに留めておきましょう。」

 デニスさんには、二年前、『色なし』のわたしに助けてもらったことを噂で広めて欲しいとお願いしたの。
 帝国の『色なし』に対する差別があまりに酷いので、少しでも『色なし』に対する風当たりが弱まるようにと思って。
 それが、辺境での食糧支援の話と一緒になって『白い聖女』という噂が広がってしまったの。
 ちょっと噂が大きくなりすぎて『黒の使徒』の目の敵にされた感じかな。


「ターニャちゃん、別に口止めしなくてもいいのではないですか?」

 不意にリタさんが会話に割り込んできた。

「なんだい、おまえさんは?」

「突然口を挟んで失礼しました。私はターニャちゃんのお供の者でリタと申します。
 先ほどの件ですけど積極的に帝都の商業組合の関係者の方に広めて頂いたほうがよろしいかと。
 そう思いませんか、アーデルハイト殿下。」

 リタさんは背後に控えていたハイジさんにそう問い掛けた。

「アーデルハイト皇女殿下?」

 デニスさんは最初わからなかったようだけど、リタさんの後ろに立つハイジさんを認めると慌てて跪いた。

「今はお忍びで来ていますので、畏まらなくて結構ですよ。
 そうですね、リタさんの言う通りかと思います。
 商人の影響力は侮れないモノです。
 この際ですから、商業組合の皆さんに『黒の使徒』を糾弾していただきましょうか。」

 ハイジさんはデニスさんにそういうと、更にこう付け加えた。

「あなたは、ターニャちゃん達の味方になってくれるかしら?」

 デニスさんは俯いていた顔を上げハイジさんの目をまっすぐに見つめて宣誓するように言った。

「二年前のあの時、このお嬢さんがいなければ私の隊商はこうして商いを続けていることは無かったでしょう。
 それに、今私達がこうして水を補給できるのもこのお嬢さんのおかげと聞いております。
 私達がこのお嬢さんの助けになるのであれば幾らでも尽力いたしましょう。」

 デニスさんの返答を聞いたハイジさんは満足そうに頷いた。

 そして、

「『黒の使徒』なる無法者の集団は、自分達が掲げる教義に反するという偏狭な理由で僅か十歳の二人の少女に度々刺客を送っているのです。
 彼らは『色なし』の少女二人が奇跡のような魔法を使い、辺境で『聖女』と崇められるのが気に入らないようです。
 今回は、そこにいるまだ五歳にもならない幼子をターニャちゃんの油断が誘えるからと暗殺の道具として利用したのです。」

 ハイジさんは、『黒の使徒』が皇女である自分や皇后にも暗殺者を送ってきたこと、『色の黒い』自分達が魔法を使い易いように森を減らしてきたこと、 『シュバーツアポステル商会』という名称の商会を隠れ蓑に瘴気の森でスラムの少年に無茶な魔獣狩りをさせていること、有害な瘴気の森の木材で作った調度品を帝都に広めていることなど現在わかっている『黒の使徒』の非道な行いを全てデニスさんにぶちまけた。

「今私が言ったことは帝国皇女アーデルハイトの名にかけて嘘偽りのないものと宣言します。
 国教に指定されているのを良いことに好き勝手なことをしている『黒の使徒』は、もはや無法者の集団以外の何者でもありません。
 是非あなた方商人にも、『黒の使徒』とその隠れ蓑である『シュバーツアポステル商会』を糾弾してもらいたいのです。
 協力をお願いできますか。」

 神妙な顔つきで話を聞いていたデニスさんが言う。

「皇女様が証言していたと噂の中に入れてしまって良いのですか?
 『黒の使徒』はご存知のように皇帝陛下が後ろ盾についております。
 娘の皇女殿下が弓を引くような真似は拙いのではないですか。」

「いえ、むしろ私が証言していたということも積極的に流してしまってかまいません。」

 ハイジさんは、ハイジさん、皇太子、皇后の三人及び皇后の後ろ盾となっている複数の大貴族が『黒の使徒』の排斥の方向で動いていることを明らかにした。
 ただ、デニスさんの指摘のように皇帝が『黒の使徒』に傾倒していること、帝国は皇帝に権力が集中する形になっていることから『黒の使徒』の排斥が難しいのが現状だと説明した。
 その上で、商人達の力と商人達が生み出す世論を味方に付けたいとデニスさんに協力を要請したの。

「要するに、皇女殿下の名を出すことによって、『黒の使徒』の悪事についての噂の真実味を強めるのですね。
 そして、世の中の風潮が『黒の使徒』を排斥するべきだとなるように誘導すればよいのですか。
 わかりました、及ばずながら私はよろこんで協力させていただきます。」

 デニスさんによれば、『黒の使徒』の系列商会は皇帝の後ろ盾があるのを良いことに好き勝手をしていて、煮え湯を飲まされた者は多いらしい。
 デニスさんは、恨みを持つ者が多いので世論誘導に協力してくれる者は多いだろうと言っていた。

 デニスさんの助力を取り付けたハイジさんが言った。

「くれぐれもあなたやあなたの協力者である個々の商人が特定されないように慎重に噂を流してくださいね。噂が流れるのはゆっくりで結構です、慌てて流す必要はありませんよ。
 『黒の使徒』は無法者の集団です、十分警戒して慎重に行動してくださいね。
 私はあなた方が連中に危害を加えられるのは本意ではありません。」

 それを聞いたデニスさんは、「皇女殿下にこの身を気遣って頂けるとは光栄です。」と言って感激していたよ。


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