精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第12章 三度目の夏休み

第312話 今後の予定は?

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「昨日、ソール様たちと何をこそこそやっているのかと思いきや、こんな大胆なことをするとは…。」

 朝起きたら村を囲む森が大きく広がっているのだからみんな驚きもするだろう。
 わたしは、昨日ソールさんたちに村を囲む森、特に北側の森を大きく拡げて欲しいとお願いしたの。
 勿論、『黒の使徒』に対する意趣返しだよ。
 連中、何十年もかけて森を減らしてきたらしいけど、僅かな間に元の木阿弥になったらどんな顔をするだろう。さぞかし悔しがるだろうね。

「この森は瘴気の森に沿って北に向かって伸ばしてもらうようにソールさんたちにお願いしたの。
 すぐには無理だろうけど、最終的には瘴気の森の北回廊まで延ばしてもらう予定なんだ。」

 そう、瘴気の森に沿って帯状に森を作って瘴気の森から人の住む村の方に漏れ出てくる瘴気を浄化してもらおうと思っているの。
 完全に遮断するのは無理としても、幾分は瘴気の影響がやわらぐだろうとソールさんたちは言ってたよ。
 瘴気の森周辺にある村々で瘴気中毒に罹る人がいなくなるくらいの効果は見込めるみたい。

 わたしは傍らに立つシュケーさんに昨晩の間にどのくらい森を広げられたかを尋ねてみた。

「少なくとも北に向かって十シュタットくらいは拡げられたと思います。
 森の幅は要望どおり狭いところでも四百シュトラーセくらいはとってありますよ。
 この後の北方向への拡張はチビ共に好きなように拡げて良いと言って任せてきました。
 中位の精霊たちの力では一日に一シュタットも広がられないでしょうが半年もあれば大陸の北端にまで届くでしょう。」

 もちろん、この広大な森の中には所々精霊の森を配してもらったよ。
 みんな、精霊の生存領域が広がると言って快く引き受けてくれたんだ。
 特に光の上位精霊のソールさんは、以前から帝国の瘴気の濃さを不愉快に感じ、浄化したいと言っていたので積極的に手を貸してくれたの。

 リタさんやフェイさんと話をしているとわたしに気付いた村長がこちらにやってきた。

「おはようございます、聖女様。
 朝起きたら森が広がっていて驚きました。
 これは聖女様がなさったことでしょうか?」

「これは、精霊のみんながお願いを叶えてくれたのです。」

「精霊様がこれをなさったのですか、精霊様のお力というのは凄いものですな。
 今朝起きたら体の調子がよいのです。
 特に呼吸に息苦しさがなくなったのですが、これが瘴気が掃われたおかげなんですか。
 だとしたら、私達は息苦しいまでの瘴気にずっと晒されてきたのですね。」

 それでも、この村は昨年作った森のおかげで周囲よりはだいぶ瘴気が薄かったのだけど。
 やっぱり、瘴気の森から漏れ出てくる瘴気は浄化し切れていなかったのだね。
 この村の人は息苦しさに慣れてしまってそれが当たり前だと感じるようになっていたみたい。
 こうして、瘴気の有害性を体感で理解してもらえるのは良かったかも。
 森があることの大切さを身を持って認識できるものね。

「はい、このくらい広い森があるとだいぶ瘴気が掃えるみたいです。
 この森が有害な瘴気から皆さんの健康を守ってくれるので、大切にしてくださいね。」

 わたしがこの森を大切にして欲しいと願うと村長はこう答えたの。

「はい、私達はこの森を無闇に伐採することなく、大切にしていくことを約束します。
 この村を訪れる商人達にも森があることの大切さを伝え、『黒の使徒』のような愚かな者たちの言いなりにならないように説いていこうと思います。」

 うん、そうしてください。
 ただ、『黒の使徒』に目を付けられるような言動は慎んでくださいね、わたしのせいで村のみんなが傷つけられるのは寝覚めが悪いから…。


   **********


「それで、ターニャちゃん、これからどうするのですか?
 魔導車を三台も持ち込んだということは、帝国の中を動き回る予定なのですよね。」

 リタさんに問われて、わたしはハタと気付いた。
 そう言えば、今回の日程、まだ誰にも言ってなかった…。

「ごめんなさい。
 『黒の使徒』への意趣返しに、ここに大きな森を作ることに意識が集中していて旅程を言ってなかったね。
 これから数日は昨年森を作った村の様子を見て回るつもりなの。
 森がちゃんと育っているか、村が『黒の使徒』の嫌がらせを受けていないかが気になるんだ。
 それが終ったら、オストエンデに向かって西へ進もうと思うの。」

 この村同様に昨年訪れた村々がどうなっているかはとても気になる。
 この村の森や畑の生育状況を見ると森や畑は問題ないと思うけど、『黒の使徒』の嫌がらせを受けていないかは確認しておかないとね。

「昨年訪れた村の様子を見たいというターニャちゃんの気持ちはわかるし、私も良いと思います。
 ただ、オストエンデ方面に向かって東へ進むというのは何をするつもりなのですか?」

 リタさんは、帝国東部で一番大きな街であるオストエンデに近付くと、わたしとミーナちゃんが『黒の使徒』の目に留まる危険性が高まると心配しているみたい。

「もちろん、街道沿いの村々に森と畑を作るんだよ。
 それと、もうソールさん達にはお願いしてあるのだけど、この辺に拠点を作るの。
 王国の西部に作ったような精霊の森とお屋敷を帝国の東部辺境にも一つ作ろうと思って。」

 わたしが発した言葉に珍しくリタさんが狼狽した様子を示した。
 あれ、おかしいな、わたし、リタさんが慌てるようなこと言ったかな?

「えええぇ!ターニャちゃん、王国を出て行くつもりなのですか?」
 
 いや、拠点を作るといっただけで、そんな大げさに驚かなくても…。
 別に帝国に移住するとは言っていないじゃない…。

「イヤだな、リタさん、早合点しないでよ。何も帝国に移住するなんて言っていないでしょうに。
 いま、ハイジさんやヴィクトーリアさんのことで少し考えていることがあるの。
 丁度良いから聞いてくれる。」

 わたしは、頭に描いているだけでまだ誰にも言っていない計画をリタさんに聞いてもらうことにした。


     **********


「ハイジさん、後一年半で学園の高等部を卒業して帝国へ帰るでしょう。
 その時にヴィクトーリアさんも一緒に帰国することになると思うの。
 でも、今の帝国の環境ではヴィクトーリアさんは必ず瘴気中毒をぶり返すと思うの。
 だから、これから一年半の間に帝都まで森を広げちゃおうと思って。」

 そうすれば、東部辺境から帝都までの間はだいぶ瘴気が薄くなると思うんだ。
 ヴィクトーリアさんだけでなく、帝国に住む人達の健康のためにも良いことだと思う。

 『黒の使徒』への嫌がらせにもなるし、それ以上にわたし達の想像通りなら『黒の使徒』の力を削ぐ事ができるはず。
 なんて言ってもご自慢の魔法が魔力切れであんまり使えなくなるのだから。

 どうやら、帝国には放棄されてしまった荒地がたくさんあるようだから勝手に森を作っても誰も文句言わないでしょう。

 その活動を行うために拠点となる場所を今回設置しようと思っているの。
 
 わたしがリタさんに今考えている計画を打ち明けると、リタさんはたった一言呟いた。

「それ、勝手にやってしまって良いものでしょうか?」



 *距離の設定
  十シュタット=五百キロメートル(一シュタット=五十キロメートル、馬車が一日に進む距離)
  四百シュトラーセ=二キロメートル(一シュトラーセ=五メートル、街道の基本幅員)
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