精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第12章 三度目の夏休み

第316話 みなさん、体調はいかがですか?

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 乱暴に玄関の扉を開けて村長の家に入ってきたギリッグは、玄関ホールで村長と会話するわたし達を認めると声を荒げて言った。

「皇女殿下が視察に現われたと耳にしたので、もしやと思ってきて見ればやはりおったな、この悪魔め。」

 いや、わたしの横にその皇女殿下がいるんだよ、いくらなんでも不敬が過ぎるでしょう…。

「なんですか、ノックもなしに入ってくるなど無作法が過ぎませんか。」
 
 ハイジさんは、あからさまに不快感を示しギリッグに苦言を呈するが、興奮気味のギリッグの耳には届いていないみたい。

「おい、悪魔、あれは貴様の仕業だろう。」

 はて、悪魔というのはもしかしてわたしのことかな?そんなものにもなった覚えはないけど…。

「悪魔が誰のことだかわかりませんが、あれというのは何のことでしょう。」

 わたしがシレッと言うと、ギリッグはますます怒気を強めて言った。

「とぼけるな、表に広がる森のことに決まっているだろう。
 朝起きたらこの村の周りが一面森に囲まれていて、なんという悪夢かと思ったぞ。」

「酷い言い掛かりですね。わたしがやったという証拠でもあるのですか。
 あの森を一晩で造ったというのであればそれこそ、奇跡のなせる業。
 あなた方が蔑む『色なし』にそんな事が出来ると?」

 わたしが先日の打ち合わせどおり、証拠があるのかで通すことにした。
 ギリッグは「うぬぬ」と歯噛みをして悔しがっているが、返す言葉が見つからないらしい。

 そこへ、ハイジさんが冷淡に言った。

「自国の皇女を目の前にして挨拶もなしとは、不敬が過ぎますね。
 だいたい、荒地に森ができて何が問題なのですか?」

 ハイジさんの言葉にギリッグは悔しげな表情を強めた。そして、

「これは、アーデルハイト皇女殿下、この度はご尊顔を拝しまして恐悦至極に存じます。
 しかし、老婆心ながら申し上げさせていただくならば、帝国の皇女様とあろう方が下賎な『色なし』を供に連れまわすなど、民に示しが付きませんぞ。」

 形ばかりの挨拶に併せてわたし達が一緒にいることに不快感を示した。

「何が問題なのでしょう、『色なし』に対する差別は『黒の使徒』なる無法者の集団が主張しているだけのもの。
 魔法を使えぬ者を忌み子というのであれば、西大陸の者は全て忌むべき者になりますよ。」

「皇女殿下、今の言葉は聞き逃せませんぞ。
 国教として守護すべき立場の皇女殿下が、神聖なる『黒の使徒』を無法者呼ばわりするなど、帝室の方とて赦されざることですぞ。」

 ハイジさんの言葉が癇に障ったようで、ギリッグはいっそう語気を強めて言った。
 いや、そこで怒ると自分は『黒の使徒』の関係者だと言っているようなものだよ、形式的には『黒の使徒』とは無関係ということになっているのでしょう。

「自らの教義に反するとの理由だけで幼子を殺害しようとする集団を無法者と呼ばずしてなんとします。
 何が神聖なる国教ですか、聞いて呆れるわ。」

 ハイジさん、それ以上は水掛け論になるから虚しいだけだよ、時間の無駄だし…。
 さすがに、ハイジさんも不毛な議論だと思ったらしく、元の話題に話を戻した。

「あなた方のくだらない主張はもう良いです。
 ところで、あの森のことですが何か問題あるのですか。
 元々、不毛の荒野、誰も所有権を主張する者はいないはずです。
 そこに、勝手に木が生えてきた、何が問題なのですか?」

 ハイジさんの指摘にギリッグもここへ来た目的を思い出したみたい。
 こんなことを言ったの。

「問題も問題、大問題です。
 私も今朝から酷い脱力感に襲われているですが、製材所の幹部がことごとく私と同じ脱力感を訴えるのです。
 今日変わったことといえば、あの森ができたことだけです。原因はあの森に違いありません。」

 ああ、それは魔力切れによる脱力感だね、『色の黒い人』は魔力の消費が激しいから。
 朝、顔を洗うのに水でも出したのだろう。
 きっと急激に瘴気が薄くなったので体が付いていかないのだと思う。
 そうか、製材所の幹部はみんな『色の黒い人』なんだね。
 
「村長、あなたは今朝から脱力感などを感じますか?」

 ハイジさんは答えが分かりきったことをさらりと村長に尋ねた。

「いいえ、むしろ昨日までより明らかに体調が良いです。
 これがあの森の恩恵だとすれば有り難いことです。」

 想定通りの答えが返ってきてハイジさんは満足気に頷いたが、ギリッグは納得していないようだ。

「そんなはずはない、表に出てみればわかる。みんな、体調を崩しているに決まっている。」

 そう言ってギリッグはわたし達を表に連れ出したのだ。
 
 そして、…。


      **********


「おう、そこのおまえ、一年前は世話になったな。あの時は助かったぜ、本当、恩にきるぜ。」

 村長の家から出てすぐに、全然気持ちのこもっていない感謝の言葉が柄の悪い二人組からかけられた。
 なんて名前だっけ、瀕死の怪我を治してあげたスラム育ちの少年。
 そうそう、アフトとゼクス、どっちがどっちだか覚えてないや。

「あ、丁度良いや。
 ねえ、今日あそこに突然森ができたみたいだけど、何か体調を崩したとか不具合があった?」

 わたしは、二人に聞いてみることにした。出会い頭の人なら口裏を合わせることができないから。

「え、今日か?
 何も不具合なんかないぞ、むしろ調子がいいくらいだぜ。
 去年、おまえらに会ってから倦怠感や息苦しさが少し和らいでいたんだが、今日はいっそう息苦しさがなくなった気がするぜ。
 体も軽くてな、ほら見てみろ。今日はいつもよりたくさん魔獣が狩れたんだ。魔晶石が大猟だぜ。」 

 わたしが二人の話しを聞いていると道行く人の話し声がちらほらと聞こえてきた。

「おい、なんか今日は体が軽くないか?」

「おお、おまえもか。俺もなんか今日は調子がいいんだよな。」

「今日は気のせいか空気が美味いな。」

「なんか、息苦しさが取れたよな。」

 いちいち、人を捕まえて聞くまでもなかったようだ…。


 ハイジさんが道行く人の様子を見ながら、ギリッグに言った。

「村にお住まいの方はあのように言っていますけど?」

 これは、ハイジさんに軍配が上がったかな?
 わたしは、いつまでも続く二人組みの自慢話に辟易としながら、そう思ったのだった。 

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