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第13章 何も知らない子供に救いの手を
第354話【閑話】やさしい場所で…
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船内に案内されるとターニャお姉ちゃんは言ったの。
「ゴメンね、この船は客船じゃないからみんなの分の船室を用意することは出来なかったの。
ここは、荷室だけど一番上部階層で明り取りの窓はあるし、新品の船だからどこも汚れてないわ。
なるべく柔らかい絨毯を敷いたので寝ても体は痛くならないと思うから雑魚寝だけど我慢してね。
毛布はちゃんと一人に一枚用意してあるわよ。」
ターニャお姉ちゃんはネル達に客室を用意できなかったことを申し訳なく思っているようだけど、敷かれているのはフカフカの柔らかい何かでスラムの床よりはずっと寝心地が良かったよ。
なによりも、ターニャお姉ちゃんが言ったように凄くきれいだし、昼間は明るかった。
ポルトまでの四日間、リリちゃんもずっとネル達と一緒にいて、さらわれてからの事を話してくれた。
やっぱり、『色の黒い奴ら』にさらわれて、殴られたり酷いことをされたそうだ。
ターニャお姉ちゃんが『色の黒い奴ら』からリリちゃんを助けてくれたんだって。
今は王都にある王立学園と言う学校の寮にターニャお姉ちゃんと一緒に住んでいるんだって。
ターニャお姉ちゃんは、ミルト様以外にも王様とか偉い人と仲が良くて、ネル達スラムの子供を孤児院に保護できるように偉い人達に頼んでくれたのだって。
そのほかにもターニャお姉ちゃんは、ネル達を迎えに来た前の日にリリちゃんをさらった『色の黒い奴ら』を懲らしめてくれたそうだ。
リリちゃんの話しを聞いて、ターニャおねえちゃんってすごい人なんだと思ったの。
そしてスラムのあった港を出て四日目の夕方、ネル達の目の前に凄く大きな港が見えてきたの。
スラムのあった町よりずーと大きな町、船の上から町を見ていると急に怖くなった。
ネル達は本当にあの街に住んでいいのかな、また町の人の邪魔者にされるんじゃないかな。
そう思ったから。
ネルはターニャお姉ちゃんを町が見えるところに引っ張ってきて聞いてみたの。
「すごい大きな町だね、私たち、本当にあの街に住んでいいの?
ご飯を食べさせてもらって、綺麗なところで眠れるって本当なの?」
すると、ターニャお姉ちゃんはネルの正面にしゃがむと優しく微笑みながら言ったの。
「大丈夫よ、誰もあなたを邪魔者にはしないわ。
ちゃんと約束通り三食のご飯も食べられるし、清潔な部屋で眠ることもできるわ。
わたしは、嘘は言っていないから安心していいわよ。」
なんでだろう、ターニャお姉ちゃんはネルが欲しい言葉を返してくれる。
だから、ターニャお姉ちゃんの言葉を聞くとすごく安心できるの。
**********
ポルトの町に着いてびっくりしたのは町が臭くないの。
スラムは鼻が曲がるほど臭いけど、あの町はスラムの外もやっぱり臭かったの。
町は凄くキレイで、人がいっぱい、見た事がないお店もあって驚くことばかりだった。
おもわず、キョロキョロしていたらみんなから逸れそうになって、ターニャお姉ちゃんに注意されちゃった。それから、孤児院まで手を引いてくれたの。
ターニャお姉ちゃんに手を引かれているとなんだかそれだけで嬉しかった。
そして、坂道を登って孤児院の前まで来て、みんなビックリしてしちゃった。もちろん、ネルも驚いたよ。
だって、孤児院だって言われた建物、元いた町の領主様のお屋敷より立派なんだもの。
でも、目の前の立派な建物は精霊神殿という精霊様を祀ってある建物で、孤児院の建物はその裏に付いているんだって。よかった、こんな立派なところに住めって言われたら落ち着かないよ。
精霊神殿の前で孤児院の院長のステラおばあちゃんが、ネル達を迎えてくれた。
ステラおばあちゃんの案内で孤児院の中を見て回ったの、どこもキレイで心がウキウキしたよ。
お姉ちゃん達が一番興奮して歓声が上がったのが寝室だった。
日当たりと風通しの良い清潔な部屋に真新しいベッドが六つ置いてあった。
このベッドというものは一人で一台を使っていいのだって、一部屋を六人で使うんだね。
ネルはベッドという言葉を初めて聞いたけど、年上のおねえちゃん達は町の人は固い床ではなく柔らかいベッドというモノに寝ていていると聞いて憧れていたらしいの。
確かに触ってみるとフカフカで固い床で寝るより気持ちよく眠れそうだと思ったよ。
しかも、このベッド、大きくなっても使えるように大人の男の人向けの大きさなんだって。
だから、すごく広くて、ネルの大きさだったら三人寝ても余裕だと思った。
広すぎて、かえって落ち着かないかもしれない。
そして、みんなに新しい服が配られたの。みんな、すごくよろんでいた。
下着が五枚に、その上に着る服が三枚、ネルはボロ布みたいなモノしか着たことがなかったし、下着なんか着た事もなかった。
戸惑っていたら、ターニャお姉ちゃんが着せてくれたの。
服を着せてもらっていたら、優しかったお姉ちゃんを思い出したの。
そう、うまく着れないネルにいつもボロ布の服を着せてくれたのがあのお姉ちゃんだった。
そのとき、わかったの。何でターニャお姉ちゃんと一緒にいると安心するのか。
似てるんだ、遠くへ行っちゃたお姉ちゃんと。
姿かたちじゃなくて、しゃがんで目をあわせて話をしてくれたり、優しく手を引いてくれたりというところが。
そして、その日の晩ごはんは、ネル達の歓迎会ということで領主様から差し入れがあったんだって。すごいご馳走だった、当然初めて食べるものばかりだった。
大体、温かい食べ物なんて生まれて初めて食べたし、おなかいっぱい食べてたのもたぶん生まれて初めてだと思う。
きれいな寝床、きれいな服、お腹いっぱいのご飯、どれも夢のようだった。
その晩は、フカフカなベッドの中で夢なら覚めないで欲しいと思いながら眠ったの。
**********
夢じゃなかった。フカフカなベッドで目を覚ましたネルが最初に思ったのはそれだった。
スラムを出るときに大きなお兄ちゃんがターニャお姉ちゃんを疑って言っていた。
「上手いこと言って俺達を連れ出して奴隷のようにこき使うんじゃないか」って。
ターニャお姉ちゃんはそんなことは絶対しないと言っていたけど、ターニャお姉ちゃんの言う通りだった。
朝ごはんの後、ステラおばあちゃんはこう言ったの。
「子供はよく遊び、よく学ぶことがお仕事です。
みんなには始めに王国語を覚えてもらいます。
あなた達が話しているのは帝国語、残念ながらあなた達の言葉はこの国では通じません。
あなた達がこの町の人に何か伝えたいと思っても、あなた達の言葉では伝わらないのです。
この町の人と仲良く付き合っていくために王国語が必要ですので、早く覚えましょうね。」
ターニャお姉ちゃんに聞かされていた通り、ネル達は王国語の勉強が中心の生活を送ることになったの。
ネルはちっちゃかったこともあるけど、スラムにはモノもなかったんで知っている言葉も少なかったの。
孤児院には初めて見る珍しい物もいっぱいで、名前を聞いて、何に使うのかを聞いているうちに自然に王国語が喋れるようになったの。
そんな珍しい物の中でネルが一番惹かれたのがご本だった。
孤児院の中には図書室があり、ご本という物が置いてあったの。
最初に図書室を案内されたときに、たまたま手に取った本にキレイなお花の絵が描いてあったの。
キレイなお花の絵に下には、何か細かいものがぎっしりと書かれていた。
お花の絵を夢中で見ているといつの間にかステラおばあちゃんがネルの隣にいたみたい。
「それは、植物図鑑というのよ。
王国で見られる花や草木の絵が描かれているの。
下に細かく書かれているのが文字というものよ。
お花の絵の下には、文字でそのお花の説明が書いてあるのよ。
例えば、今見ているそのお花の下には、高い山の涼しいところでよく見られるって書いてあるの。
ネルちゃんも文字が読めるようになれば、その本に描かれている花がどんなところにいつ頃咲く花なのかが分かるわ。
文字ってすごいでしょう、読めるようになりたいと思わない?」
ステラおばあちゃんはそう言って文字のことを教えてくれた。
文字を読めるようになると色々な事を知ることが出来ると言われたの。
そして、ステラおばあちゃんはキレイな絵が描かれた本を持ってきて見せてくれた。
それは絵本というらしい、ステラおばあちゃんはネルを膝の上に抱きかかえるとネルの正面に絵本を持ってきて読み聞かせてくれた。
それは、昔々、泉の畔に捨てられた女の子が、奇跡のような魔法を使って荒地を緑の大地に変え国を築く話だったの。この国の王祖様の話なんだって、王祖様も孤児だったんだ。
ステラおばあちゃんは、王祖様が孤児だったこの国では孤児だからといって虐げるようなことはないから胸を張って生きなさいって言ってくれたの。
みんなが生活に困らない程度に王国語が話せるようになると、ステラおばあちゃんは年上のお兄ちゃん、お姉ちゃんに文字の読み書きを教えると言ったの。
小さな子供には難しいだろうから少し大きくなってからと言われたんだけど、ネルは早くご本が読めるようになりたいので文字を教えて欲しいとねだってみたんだ。
ステラおばあちゃんは優しく許してくれた、大きな子とは別にネルに分かり易いように教えてくれるって言ってくれたの。
ネルが読み書きの勉強を始めたころ、ステラおばあちゃんはもう一つ孤児院のみんなに言ったの。
孤児院の子供たちがポルトの町のみんなに打ち解けられるように、毎朝精霊神殿の前の掃除をしようと。
掃除中に傍を通りかかった町の人がいたら、「おはようございます」と元気良く挨拶をするんだよと教えられたの。
その翌日から、ネル達は精霊神殿の前庭から道路まで、ゴミを拾ったり、落ち葉を掃いたりという掃除を始めた。
言いつけ通り、近くを通りかかった町の人に、「おはようございます」って挨拶すると、みんなが挨拶を返してくれるし、「偉いね」って褒めてくれる人も多かったの。
最初は、スラムのあった町みたいに酷いことを言われるんじゃないかとビクビクしていたけど、そんなことは全くなかった。
毎朝掃除を続けていると、町の人から話しかけてもらえるようになったんだ。
色々な話が出るけど、ネルには知らない言葉が多くて、分からないことがたくさんあったの。
その時思ったの、もっと王国語を勉強して町の人とちゃんとお話できるようになりたいと。
ターニャお姉ちゃんが言った通りだった。
この町には、ネル達を邪魔者にする人はいなかった。
ステラおばあちゃんは胸を張って生きなさいって言ってくれた、もう隅っこでひっそりと隠れるように生きてなくていいんだ。
それが分かったら、ネルは、この町に、この孤児院に来て本当に良かったと思ったの。
「ゴメンね、この船は客船じゃないからみんなの分の船室を用意することは出来なかったの。
ここは、荷室だけど一番上部階層で明り取りの窓はあるし、新品の船だからどこも汚れてないわ。
なるべく柔らかい絨毯を敷いたので寝ても体は痛くならないと思うから雑魚寝だけど我慢してね。
毛布はちゃんと一人に一枚用意してあるわよ。」
ターニャお姉ちゃんはネル達に客室を用意できなかったことを申し訳なく思っているようだけど、敷かれているのはフカフカの柔らかい何かでスラムの床よりはずっと寝心地が良かったよ。
なによりも、ターニャお姉ちゃんが言ったように凄くきれいだし、昼間は明るかった。
ポルトまでの四日間、リリちゃんもずっとネル達と一緒にいて、さらわれてからの事を話してくれた。
やっぱり、『色の黒い奴ら』にさらわれて、殴られたり酷いことをされたそうだ。
ターニャお姉ちゃんが『色の黒い奴ら』からリリちゃんを助けてくれたんだって。
今は王都にある王立学園と言う学校の寮にターニャお姉ちゃんと一緒に住んでいるんだって。
ターニャお姉ちゃんは、ミルト様以外にも王様とか偉い人と仲が良くて、ネル達スラムの子供を孤児院に保護できるように偉い人達に頼んでくれたのだって。
そのほかにもターニャお姉ちゃんは、ネル達を迎えに来た前の日にリリちゃんをさらった『色の黒い奴ら』を懲らしめてくれたそうだ。
リリちゃんの話しを聞いて、ターニャおねえちゃんってすごい人なんだと思ったの。
そしてスラムのあった港を出て四日目の夕方、ネル達の目の前に凄く大きな港が見えてきたの。
スラムのあった町よりずーと大きな町、船の上から町を見ていると急に怖くなった。
ネル達は本当にあの街に住んでいいのかな、また町の人の邪魔者にされるんじゃないかな。
そう思ったから。
ネルはターニャお姉ちゃんを町が見えるところに引っ張ってきて聞いてみたの。
「すごい大きな町だね、私たち、本当にあの街に住んでいいの?
ご飯を食べさせてもらって、綺麗なところで眠れるって本当なの?」
すると、ターニャお姉ちゃんはネルの正面にしゃがむと優しく微笑みながら言ったの。
「大丈夫よ、誰もあなたを邪魔者にはしないわ。
ちゃんと約束通り三食のご飯も食べられるし、清潔な部屋で眠ることもできるわ。
わたしは、嘘は言っていないから安心していいわよ。」
なんでだろう、ターニャお姉ちゃんはネルが欲しい言葉を返してくれる。
だから、ターニャお姉ちゃんの言葉を聞くとすごく安心できるの。
**********
ポルトの町に着いてびっくりしたのは町が臭くないの。
スラムは鼻が曲がるほど臭いけど、あの町はスラムの外もやっぱり臭かったの。
町は凄くキレイで、人がいっぱい、見た事がないお店もあって驚くことばかりだった。
おもわず、キョロキョロしていたらみんなから逸れそうになって、ターニャお姉ちゃんに注意されちゃった。それから、孤児院まで手を引いてくれたの。
ターニャお姉ちゃんに手を引かれているとなんだかそれだけで嬉しかった。
そして、坂道を登って孤児院の前まで来て、みんなビックリしてしちゃった。もちろん、ネルも驚いたよ。
だって、孤児院だって言われた建物、元いた町の領主様のお屋敷より立派なんだもの。
でも、目の前の立派な建物は精霊神殿という精霊様を祀ってある建物で、孤児院の建物はその裏に付いているんだって。よかった、こんな立派なところに住めって言われたら落ち着かないよ。
精霊神殿の前で孤児院の院長のステラおばあちゃんが、ネル達を迎えてくれた。
ステラおばあちゃんの案内で孤児院の中を見て回ったの、どこもキレイで心がウキウキしたよ。
お姉ちゃん達が一番興奮して歓声が上がったのが寝室だった。
日当たりと風通しの良い清潔な部屋に真新しいベッドが六つ置いてあった。
このベッドというものは一人で一台を使っていいのだって、一部屋を六人で使うんだね。
ネルはベッドという言葉を初めて聞いたけど、年上のおねえちゃん達は町の人は固い床ではなく柔らかいベッドというモノに寝ていていると聞いて憧れていたらしいの。
確かに触ってみるとフカフカで固い床で寝るより気持ちよく眠れそうだと思ったよ。
しかも、このベッド、大きくなっても使えるように大人の男の人向けの大きさなんだって。
だから、すごく広くて、ネルの大きさだったら三人寝ても余裕だと思った。
広すぎて、かえって落ち着かないかもしれない。
そして、みんなに新しい服が配られたの。みんな、すごくよろんでいた。
下着が五枚に、その上に着る服が三枚、ネルはボロ布みたいなモノしか着たことがなかったし、下着なんか着た事もなかった。
戸惑っていたら、ターニャお姉ちゃんが着せてくれたの。
服を着せてもらっていたら、優しかったお姉ちゃんを思い出したの。
そう、うまく着れないネルにいつもボロ布の服を着せてくれたのがあのお姉ちゃんだった。
そのとき、わかったの。何でターニャお姉ちゃんと一緒にいると安心するのか。
似てるんだ、遠くへ行っちゃたお姉ちゃんと。
姿かたちじゃなくて、しゃがんで目をあわせて話をしてくれたり、優しく手を引いてくれたりというところが。
そして、その日の晩ごはんは、ネル達の歓迎会ということで領主様から差し入れがあったんだって。すごいご馳走だった、当然初めて食べるものばかりだった。
大体、温かい食べ物なんて生まれて初めて食べたし、おなかいっぱい食べてたのもたぶん生まれて初めてだと思う。
きれいな寝床、きれいな服、お腹いっぱいのご飯、どれも夢のようだった。
その晩は、フカフカなベッドの中で夢なら覚めないで欲しいと思いながら眠ったの。
**********
夢じゃなかった。フカフカなベッドで目を覚ましたネルが最初に思ったのはそれだった。
スラムを出るときに大きなお兄ちゃんがターニャお姉ちゃんを疑って言っていた。
「上手いこと言って俺達を連れ出して奴隷のようにこき使うんじゃないか」って。
ターニャお姉ちゃんはそんなことは絶対しないと言っていたけど、ターニャお姉ちゃんの言う通りだった。
朝ごはんの後、ステラおばあちゃんはこう言ったの。
「子供はよく遊び、よく学ぶことがお仕事です。
みんなには始めに王国語を覚えてもらいます。
あなた達が話しているのは帝国語、残念ながらあなた達の言葉はこの国では通じません。
あなた達がこの町の人に何か伝えたいと思っても、あなた達の言葉では伝わらないのです。
この町の人と仲良く付き合っていくために王国語が必要ですので、早く覚えましょうね。」
ターニャお姉ちゃんに聞かされていた通り、ネル達は王国語の勉強が中心の生活を送ることになったの。
ネルはちっちゃかったこともあるけど、スラムにはモノもなかったんで知っている言葉も少なかったの。
孤児院には初めて見る珍しい物もいっぱいで、名前を聞いて、何に使うのかを聞いているうちに自然に王国語が喋れるようになったの。
そんな珍しい物の中でネルが一番惹かれたのがご本だった。
孤児院の中には図書室があり、ご本という物が置いてあったの。
最初に図書室を案内されたときに、たまたま手に取った本にキレイなお花の絵が描いてあったの。
キレイなお花の絵に下には、何か細かいものがぎっしりと書かれていた。
お花の絵を夢中で見ているといつの間にかステラおばあちゃんがネルの隣にいたみたい。
「それは、植物図鑑というのよ。
王国で見られる花や草木の絵が描かれているの。
下に細かく書かれているのが文字というものよ。
お花の絵の下には、文字でそのお花の説明が書いてあるのよ。
例えば、今見ているそのお花の下には、高い山の涼しいところでよく見られるって書いてあるの。
ネルちゃんも文字が読めるようになれば、その本に描かれている花がどんなところにいつ頃咲く花なのかが分かるわ。
文字ってすごいでしょう、読めるようになりたいと思わない?」
ステラおばあちゃんはそう言って文字のことを教えてくれた。
文字を読めるようになると色々な事を知ることが出来ると言われたの。
そして、ステラおばあちゃんはキレイな絵が描かれた本を持ってきて見せてくれた。
それは絵本というらしい、ステラおばあちゃんはネルを膝の上に抱きかかえるとネルの正面に絵本を持ってきて読み聞かせてくれた。
それは、昔々、泉の畔に捨てられた女の子が、奇跡のような魔法を使って荒地を緑の大地に変え国を築く話だったの。この国の王祖様の話なんだって、王祖様も孤児だったんだ。
ステラおばあちゃんは、王祖様が孤児だったこの国では孤児だからといって虐げるようなことはないから胸を張って生きなさいって言ってくれたの。
みんなが生活に困らない程度に王国語が話せるようになると、ステラおばあちゃんは年上のお兄ちゃん、お姉ちゃんに文字の読み書きを教えると言ったの。
小さな子供には難しいだろうから少し大きくなってからと言われたんだけど、ネルは早くご本が読めるようになりたいので文字を教えて欲しいとねだってみたんだ。
ステラおばあちゃんは優しく許してくれた、大きな子とは別にネルに分かり易いように教えてくれるって言ってくれたの。
ネルが読み書きの勉強を始めたころ、ステラおばあちゃんはもう一つ孤児院のみんなに言ったの。
孤児院の子供たちがポルトの町のみんなに打ち解けられるように、毎朝精霊神殿の前の掃除をしようと。
掃除中に傍を通りかかった町の人がいたら、「おはようございます」と元気良く挨拶をするんだよと教えられたの。
その翌日から、ネル達は精霊神殿の前庭から道路まで、ゴミを拾ったり、落ち葉を掃いたりという掃除を始めた。
言いつけ通り、近くを通りかかった町の人に、「おはようございます」って挨拶すると、みんなが挨拶を返してくれるし、「偉いね」って褒めてくれる人も多かったの。
最初は、スラムのあった町みたいに酷いことを言われるんじゃないかとビクビクしていたけど、そんなことは全くなかった。
毎朝掃除を続けていると、町の人から話しかけてもらえるようになったんだ。
色々な話が出るけど、ネルには知らない言葉が多くて、分からないことがたくさんあったの。
その時思ったの、もっと王国語を勉強して町の人とちゃんとお話できるようになりたいと。
ターニャお姉ちゃんが言った通りだった。
この町には、ネル達を邪魔者にする人はいなかった。
ステラおばあちゃんは胸を張って生きなさいって言ってくれた、もう隅っこでひっそりと隠れるように生きてなくていいんだ。
それが分かったら、ネルは、この町に、この孤児院に来て本当に良かったと思ったの。
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