精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第14章 四度目の春、帝国は

第374話 やっと出てきてくれました。

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 金糸による刺繍が施された高級そうなローブを身に纏ったこの男、名乗ってはいないがこの町に置かれた『黒の使徒』の支部、その支部を治める司教だと思うの。

 事前の調査でこの町には『黒の使徒』の支部が置かれていることは分かっていたし、場所も確認したのだけど、教団の人を目にする機会はなかったんだ。

 表に立って派手に活動しているのはシュバーツアポステル商会の連中で、『黒の使徒』の支部は影でこっそりと色々な悪事を働いているらしい。
 その悪事を働く中心はもちろん救済神官、『黒の使徒』に逆らう者は魂が穢れた人間だと決め付けて、魂の救済の名の下に人を殺して歩く頭のおかしな連中だ。
 どうも、この支部には救済神官を常駐させていて、帝国西部地区で『黒の使徒』に逆らう者に差し向けているらしい。
 要するに、救済神官の活動拠点としてこの町に支部がある訳だね。


 裏でこそこそやる人達だからあまり表に出てこないの。
 シュバーツアポステル商会の連中をトカゲの尻尾切りみたいに見捨て出てこないと困るなと思っていたけどやっと出てきてくれた。

 人ごみを掻き分けて、司教と思われる人が三人の部下らしき『色の黒い人』を連れて領主の前までやってきた。
 すると、ヘスリヒがここぞとばかりに声を上げた。

「司教様、助けてください。
 この者達は不遜にも我々『黒の使徒』に名を連ねる者を、貴族令嬢の誘拐などという微罪で裁こうと言うのです。
 身の程知らずのこの者達に神の裁きを与えてやってください。」

 しかし、シュバーツアポステル商会って建て前上『黒の使徒』と無関係を装っていたのだけど、最近関係を隠さなくなったね。
 むしろ、『黒の使徒』が後ろ盾についていることを喧伝しているふしがあるようにみえる。 
  それだけ、切羽詰っていると見ていいのだろうか?

 ヘスリヒに助けを求められた司教が領主に言った。

「この者は、『黒の使徒』の庇護下にある者です。
 このような晒し者にすると言うのは、いささか領主の見識を疑いますな。
 即刻、この者たちを解放するのです、神に仕える『黒の使徒』の者を只人を裁くための法で裁こうなどとそのような不遜な行為は断じて許しませんぞ。」

 偉そうなことを言う司教に向かって領主がおそるおそる言った。

「いえ、司教様、もうそんなことは言っておられないのです。
 民の怒りは抑えきれないところまで来ております。
 ここは法に則り裁きを行いませんと我々の身の安全が保てないのです。
 そうおっしゃるのであれば、どうか、司教様が民を収めてくださいませ。」

 
 領主は、『黒の使徒』の側に付きたいけど、自分では民を抑えられないから助けてくれって懇願しているのだね。

「何をそんなに恐れているのだ、民衆なんかこうして力で押さえつけておけば良いではないか。
 見せしめに十人も葬ってやれば逆らう者の居らなくなるわ。」

 司教がそういうと同時に三人の部下が特大の火の玉を民衆に向かって放ったの。
 でもね、現われた時から魔法を待機状態にしてるのだもの、そんなバレバレの手は対策済みよ。

 わたしはすぐさま風のおチビちゃんにお願いし、強風で火の玉を上空高く巻き上げた。
 巻き上げられた火の玉は上空で力なく消滅していった。

 火の玉を投げ付けられた町の人たちも、投げ付けた『黒の使徒』の連中も呆然としてしまった。
 
 わたしは司教の前まで進み出て言ってやったの。

「あんなショボイ魔法で民衆を押さえつけるって?
 笑わせてくれるわ。」



     **********



「今のはおまえがやったのか、小娘?」

 いや、この状況でわたし以外の誰がやったというの。

「そうよ、あんな火の玉を人に向かって放ったら危ないでしょう。
 下手をすると死人が出るわよ、虚仮脅しにしては酷すぎるわ。」

「小娘、貴様、我らが神の御業を虚仮脅しというか。
 我々をコケにするというなら、子供といえど許しはしないぞ。」

「だって、虚仮脅しでしょう?
 いきなり放ったように見えたけど、実際はここに来る前から魔法を放てるように待機状態だったじゃない。
 本当はあんなに早く魔法を使うことは出来ないのでしょう。
 それに、魔法を放った三人、もう魔力切れで魔法使えないのよね。
 いくら威力のある魔法でも発動するのに時間が掛かって、しかも一度しか撃てないのでは虚仮脅しにしかならないじゃない。
 あなた達は卑怯な手が得意だから、さっきみたいにすぐに魔法が放てる状態にしてきて不意打ちで町の人達を脅していたのよね。」

 わたしは周囲にいる町の人みんなに聞こえるように、出来る限り大きな声で司祭に向かって言ったの。

「貴様、何故それを!」

 いつも思うのだけど、この人達って本当に馬鹿じゃないかな。
 そんな反応のすればそれが事実だと認めるようなものじゃない、そこは無表情で惚けないと。

「わたし達は三年も前から『黒の使徒』の連中に付け狙われているのよ。
 敵の情報を集めることくらいするわよ。
 おじさん達今日は特に魔力切れが早いでしょう?
 どう?この街を取り囲む森、おじさん達には素敵な贈り物でしょう?」

「あの忌々しい森も貴様が作ったというのか!」

「まさか、子供のわたしにあんな大きな森を創れる訳ないじゃない。
 あれは、わたしの保護者が創ってくれたの。
 おじさん達が魔力切れを起こして、ろくに魔法が使えなくなるようにって。」

 わたしが周囲の野次馬にも聞こえるように大きな声で言うと、案の定野次馬からこんな声が聞こえた。

「なんだ、嬢ちゃん、あの森とそいつらの魔法がなんか関係あるのか?」

「みんな、よく聞いて。
 『黒の使徒』が魔力と呼ぶものは、森の木々に吸収されちゃうの。
 だから、深い森に囲まれた場所だと、魔力が薄くて『黒の使徒』の連中は威力の強い魔法が使えないの。
 それに魔力切れも起こし易くなるのよ、さっきくらいの魔法だと一回撃つのがやっとのはずよ。」

 わたしは、みんなに聞こえるように森と『黒の使徒』の魔法の関係を簡単に説明したの。
 司教と対峙しているので詳しい説明はしないよ。不意打ちされると困るから。

「貴様、何故民草に余計な知恵を与える!
 民は無知なままに放置するのが、上の者に逆らえなくするための鉄則だろが!」

 弱点を暴露された司教が怒りの声を上げるが知ったこちっゃない。

「馬鹿ね、わたしは『黒の使徒』を潰すために動いているのよ。
 わたし達の最大の武器は、わたしや友達、そして保護者が持つ凄い魔法じゃないの。
 最大の武器は情報よ!
 わたし達は行く先々で『黒の使徒』に不利な情報を拡散して歩いているの。
 今言ったようなおじさん達の直接的な弱点だけじゃないよ。
 帝国の東部辺境やルーイヒハーフェン、それに帝国南東部の幾つもの港町で『黒の使徒』が排斥された情報なんかもね。
 今まで報復を恐れて黙っていた町の人たちが、他の町の情報に勇気付けられて毅然として『黒の使徒』に立ち向かえるようにね。
 例えば、昨日この町の人にこれを撒いたよ。」

 わたしはそう言って、懐から昨日撒いたチラシを風の術に乗せて司教に飛ばした。
 ヒラヒラと飛んできたチラシを目にした司教はわなわなと震えだしてしまった。

「なんということだ、我々が必死に隠していた情報をこんなに詳細に……。
 救済神官百名が返り討ちにされてしまったことまで民草に知られてしまったというのか。」
 
 司教の呟きを聞いたわたしはダメ押しに言ってあげたの。

「そうよ、そのチラシを読んだ町の人たちはどう思ったかしらね。
 これからは、町の人をあまり小馬鹿にしない方が良いと思うわよ。
 この町でルーイヒハーフェンの二の舞を演じたいかしら?」

 すると、捕らえてきたシュバーツアポステル商会の連中を見張っていたソールさんが集まった人達に向けて言った。

「すみません、フランクさん御一家ってご存知の方いませんか?」

 いきなり何を言っているのかと思ったら、町の人からこんな声が返ってきた。

「フランク家って、あんたらが新しく店を構えた建物、あそこを前に使っていたのがフランク家だぞ。
 三年前に商会を営んでいた家族三人が行方不明になっちまって、商会が潰れちまったんだ。」

「そうですか、実はコレ、シュバーツアポステル商会で押収したヘスリヒの手記なんですが。
 三年前、ヘスリヒがそこにいる司教にフランクさん御一家の殺害を依頼しているのです。
 それに対して司教は配下の救済神官を差し向ける旨を約しています。
 そして、三日後に司教から殺害が終った旨の連絡があったと書かれています。
 さて、領主、この司教の処分はどうされますか?」

 ソールさん、ナイス!
 良いタイミングでソールさんは、領主に踏み絵をつき付けたのだった。


  
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