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第14章 四度目の春、帝国は
第373話 公正な裁きを期待してよろしいですか?
しおりを挟む公衆の面前で公正な裁きをして欲しいとルーナちゃんに要求されて渋々承諾してしまい領主は力なく肩を落としている。
そこへソールさんと衛兵さんが拘束したシュバーツアポステル商会の職員を乗せた荷車を引いて現われたの。
「ターニャちゃん、シュバーツアポステル商会の事務所から犯罪の証拠になりそうなモノを押さえてきましたよ。
ルーイヒハーフェンのときと同じで、殺人、誘拐、傷害、ありとあらゆる犯罪に手を染めていますね。
それと、そちらにいる領主さんに金を渡して犯罪のお目こぼしを要求していたことも分かりました。」
ソールさんは周囲にいる野次馬に聞こえるように大きな声で言った。
それと同時に野次馬の非難の目が一斉に領主に注がれたの。
領主は針のムシロに座らされたような気分だと思うよ。
「ええい、その書類をこちらにわたさんか!」
領主はソールさんに向かって証拠を渡すように要求したが、ソールさんに歩み寄ったリタさんが証拠書類一式を受け取ってしまった。
「この書類は、この者たちの裁きが終わるまで預からせてもらいますわ。
法に則りきちんとした裁きが行われたと認められれば、この際領主の収賄には目を瞑ってこれはお渡ししましょう。
ただし、もし法を曲げて、この者たちに温情を示すのであれば、この書類は皇太子殿下にお渡しすることといたしましょう。
この者たちとの癒着を示す書類です、皇太子殿下はさぞかしお喜びになることでしょう。」
そう言ってリタさんは領主に微笑みかけた。それはまさに悪魔の微笑だったよ。
リタさんの行動に呆然としていた領主だけど、ここで民衆の神経を逆撫ですることは出来ないくらいのことは分かったいるみたい。
「わかった、このまま中央広場でこやつらの裁きを行う。
見届けたい者は来るが良い。
誰か、ひな壇と断頭台を用意しろ。
裁きの後、即刻処刑に移る。」
領主はシュバーツアポステル商会の連中の裁きを公開の場で行うことを宣言したの。
と同時に裁きの様子が民衆から良く見えるように壇の設営と断頭台の準備を配下の者に支持していた。
断頭台送りは決まりなんだ……、まあ、貴族令嬢を拉致監禁したのだからやむをえないのかもしれないけど、生きて罪を償わせる方法も有ると思うのだけどな。
そして領主は重い足取りでトボトボと中央広場に向かって歩き出したの。
領主に続くように、拘束したシュバーツアポステル商会の連中を乗せた荷車とそれを取り囲むたくさんの民衆がぞろぞろと移動し始めた。
まだ、役者が揃っていないのだけど大丈夫かな、ちゃんと出てきてくれるかな?
**********
中央広場でしばらく待っていると即席の壇が設営され、その横には禍々しい断頭台が設置された。
デニスさんの話では、帝国にはきちんとした裁判制度がなく領主の一存で罪状が認定され刑が決まるらしい。一応、罪状により適用される刑罰は法で決まっているみたい。
領主に一存で決まるから、冤罪もあるし、賄賂による無罪放免なんかもあって、帝国では公正な裁きなんか期待できないそうだ。
従来、『黒の使徒』が犯した犯罪は、裁きはおろか犯罪捜査の段階で見逃されており、裁きの場に引き出されたことはないらしい。
そう言った意味で、『黒の使徒』の連中を法に従って裁いた、ルーイヒハーフェンでの出来事は画期的な出来事だったんだって。
領主が壇上にしつらえた椅子に腰掛けると衛兵隊長がヘスリヒを先頭に手を縄で縛られ首を縄でつながれた十三人のシュバーツアポステル商会の者たちを連れて領主の下にやってきた。
「この者たちは、オストマルク王国のアルムート男爵令嬢を拉致監禁した容疑で捕らえたものです。
令嬢を拉致監禁している現場に踏み込み、現行犯で逮捕したので罪状に疑いはございません。
法に則り、なにとど公正をお裁きをお願いしたします。」
一味を連行してきた衛兵隊長が領主に向かって恭しく告げた。
衆人の注目を集める中で領主は大きなため息を一つついた後に言った。
「うむ、衛兵隊長、大儀であった。
して、そこに繋がれている者共よ、何か申し開きはあるか。」
領主としてはヘスリヒに何とか上手い言い逃れを期待しているのであろうが、『黒の使徒』の連中にそんな気が回る訳がない。
ヘスリヒは空気を読まずに相変わらず強気一点張りだった。
「おいこら、領主、俺達をこんな風に晒し者にしてどういう了見だ!
たかだか、片田舎の国の男爵風情の娘をさらったから、なんだって言うんだ。
俺達は帝国を統べる『黒の使徒』の一員なんだぞ、俺達を敵に回してタダで済むと思うなよ。」
まあ、身分制度の厳格な帝国では、貴族及びその家族に危害を加えた場合は例外なく死罪らしいから自棄になるのは分かるけどね……。少しは周囲の目も気にした方が良いと思うよ。
ほら、ヘスリヒの物言いの傲慢さに民衆が殺気立っている。
ヘスリヒがルーナちゃんを拉致したことを認めたうえで反省の色もないのだから、領主だって情状を酌量する余地がなくて困っているじゃない。
そこは嘘でもいいから、『娘が貴族の令嬢だとは知らなかったんだ、ちょっと商売敵を脅してやろうと思っただけなんだ。反省している、もうこんなことはしない。』なんてことを言ってもらいたかったのだと思うよ。
そうすれば、領主も『元々貴族の令嬢を誘拐しようという気はなく、深く反省している事も斟酌して』とか言って軽い刑で済ませることもできただろうに。
だいたい、領主だって今まで甘い汁を吸わせてもらった小悪党だ。
金蔓を失うのは惜しいに決まっている。
ここは適当な落しどころを見つけて、わたし達が帰国した後ですぐさま釈放してご機嫌を取れば良いとか都合の良いことを考えていたのだろう。
民衆の側に付くより、『黒の使徒』と組んだ方が懐が暖まるのだから。
しかし、ヘスリヒは領主の思惑など一切考えず、犯行を全面的に認めた上で居直ってしまった。
あまつさえ、領主を恫喝したのだ、こうなると甘い量刑を言い渡すのが難しくなるよね。
帝国では貴族とその家族に危害を加えた者は死罪だ、馴染みの者には言い渡し難いと思う。
領主は、まだ民衆側に付くことに逡巡しているようで、罪刑の言い渡しを渋っている。
すると取り囲む民衆をかき分けるようにして、『色の黒い人』の一団が現われたの。
そして、先頭にいた高級そうなローブを纏った中年の男が領主に問い掛けたの。
「領主、この茶番はいったい何なのだ?」
やっとお出ましですか……。
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