精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第15章 四度目の夏、時は停まってくれない

第419話 やってみたら出来た…、でも…

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 首尾よくハルクさんを領主としたわたし達は、その翌日、かつてマルクさんの村だった廃墟を再び訪れた。

「これはまた随分と荒れちまったな……。」

 村と農地の跡をみたハルクさんがため息をついた。
 自分の村を含めこの地方一帯が広大な小麦畑であったことを知っているハルクさんは、変わり果てた農地の跡が見るに耐えないようだ。

「ああ、こうなっちゃ、もうダメだと思っただ。おらぁ、そんで村を捨てたんだ。
 だども、おめえの村が甦ったと聞いて、おらもと思い聖女様にお願えしただ。」

 港町の生活に行き詰っていたところにハルクさんの村の噂を耳にして、藁にもすがる思いでわたしに土下座した訳だ。
 昨日、ここを訪れたとき途中で目にしたハルクさんの村を見て目を疑ったそうだ。
 噂通りだとしても、圃場があそこまで往時の姿に再生されているとは思わなかったみたい。

 まあ、期待が膨らんでいるようだし、期待に応える事としますか。
 わたしはかつて圃場であった荒地の前に立ち、おチビちゃん達に呼びかけ……。
 ようとしたところで、一旦取りやめて考えた。
 
 一寸考えたことを試してみようと思ったの、今なら出来そうな気がする。
 少しの間、おチビちゃん達には黙って見ててもらうことにしたの。

 わたしは、体の中から流れ出るマナに意識を向け、マナを操ることをイメージした。
 地表からわたしの膝くらいの深さまでの土地を耕し、小石を砕き、雑草があれば肥やしとして地に戻す、土地に適度な湿り気を持たせ、大地に眠る小さきものに目覚めよと告げる。
 対象はわたしの前方に二百シュトラーセ、わたしを中心に幅二百シュトラーセ。

 そして、わたしは抱いたイメージを具現化すべく、気合を入れ術を発動する。

「大地よ、甦れ!」

 わたしの気合と共に、わたしからあふれ出したマナの奔流はわたしのイメージ通りに大地を包み込んだ。
 そして、わたしからどんどんマナが吸い出され、酷い倦怠感を感じる頃、流れ出るマナはピタリと止まった。

 目の前にはイメージどおりの適度な湿り気を持つ黒々とした土が広がっている。

 マルクさんとハルクさんが畑に駆け寄り、しゃがみ込んで土を摘んだ。

「生きている、生きているぞ、この土は……。」

 マルクさんが摘んだ土を見て、そう呟くと黙り込んでしまった。
 よく見ると、頬に涙が流れており、泣き出しそうになるのを堪えているみたい。


 良かった、ちゃんとできたみたいだ。
 最近、体が成長期に入ったのか、生み出されるマナの量も日に日に増加しているの。
 おかげで今まで以上におチビちゃん達がわらわらと寄って来て困るくらいなんだ。

 それと同時に、マナを単におチビちゃんに対価として渡すために放出するだけでなく、自分で術として変換できる、なんかそんな気がしてきたの。
 実際に、試したみたら水を出すことができたから、もしかしたら大規模な術も使えるかもと思ったんだ。

 そして、今回試してみたらやっぱり出来た。
 これは一度おかあさん達に報告したほうが良いかもしれない。たぶん、こんな人間初めてだ…。

 で、やってみてどうだったか。
 自分でマナを操って術を発動するより、従来どおりおチビちゃんにお願いした方がマナの消費が少ないことがわかったよ。
 今回再生した土地は、ハルクさんの村と大して変わらないくらいなのに、今回の方がマナ切れによる倦怠感が強い。
 やっぱり、餅は餅屋ということなんだと思う、おチビちゃんといえども精霊、マナの扱いのプロだ。
 わたしが自分でやるより効率的なのだろう。

 「好奇心は猫も殺す」という言葉があるの、過度な好奇心は身を滅ぼすことがあるから注意しなさいという戒めなんだけど……。

 わたしは、この後すぐに興味本位で大きな術を使ったことを後悔することになるの。
 「好奇心は猫も殺す」、本当だよ、トホホ…。


     **********


 それはさておき、わたしの目の前には甦った大地を目にしてむせび泣く大の男が二人。
 感極まっているのだろうけど、傍目にはむさい男が声を殺して泣いている姿は絵面が良くない。
 はっきり言って、うざいよ。

「はい、感動しているのは分かりますが、ここで泣いている暇はありませんよ。
 お二人には至急今後の計画を立てていただく必要があります。」

 ハイジさんが男二人に声をかけ、わたし達が余り長くここに滞在する訳には行かないと告げた。
 もし、当面生活するための食物を栽培する必要があるなら、わたしがソバやら芋やらを促成栽培するので、早急にどの程度の人が帰ってくるのかを検討して欲しいと言ったの。

 ハイジさんに急きたてられて魔導車に戻った男二人と共に今後についての計画を話し合った。
 マルクさんは、わたし達が領主の許に交渉に行っている間に、元村民の人達と話し合ったらしい。
 その結果、村の農地が元通りになるのであれば全員が帰って来たいと言ったそうだ。
 その数、約百二十人、ハルクさん、マルクさんの打ち合わせでは、全員をマルクさんの屋敷に収容することは無理ではないかとなったの。

 そこで、マルクさんの村の建物の再建が済むまでは小さな子供とその母親を中心にハルクさんの屋敷で預かることにしたらしい。
 小さな子供やその世話に追われる母親は、村の再建の助けにならないからだそうだ。

 当面百人ほどが村に帰って、二十人程をハルクさんの屋敷で預かることになるみたい。
  
「ターニャちゃん、申し訳ないのだけど、帰ってきた人たちが飢えないように当面の食物の促成栽培をお願いできないかしら。」

 ハイジさんが申し訳なさそうに言うけど、わたしは最初からそのつもりだよ。
 わたしは、他の村でもそうしているように、村に面した畑を三枚使い、それぞれソバ、大豆、芋を植え付け、おチビちゃんにお願いして収穫寸前にまで成長させたの。

「聖女様、本当に有り難うごぜえました。
 おかげさまで、またここで小麦を作って暮らせそうです。」

 やるべきことを全て終えた時、わたしの振るう術を呆然と眺めていたマルクさんは涙を流しながら感謝してくれたの。

 そうして、ハルクさんにはしばらく身を寄せる人達の受け入れ準備をするようにお願いし、マルクさんをハンデルスハーフェンに送った。
 マルクさんは、村の建物の修復とわたしが栽培したソバなどの収穫をするため、自分を含む第一陣を数日のうちに村に連れてくると張り切っていたよ。
 他の人も出来る限り早く戻ってこれるようにするって。


     **********


 ハンデルスハーフェンの町を囲む森の一角、わたし達が拠点としている屋敷でのこと。
 マルクさんと分かれて屋敷に戻ったわたし達は夕食後の時間をリビングで寛いでいたの。

 それは、本当に不意打ちだった…。
 いきなり体の中からマナの奔流があふれ出し、体が引き裂かれるような激痛を感じたの。

 あっ、これはダメなやつだ……。
 わたしはそのまま意識を手放したの。
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