精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第15章 四度目の夏、時は停まってくれない

第420話 本当に危ないところだったみたいです

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 子守唄が聞こえる…、懐かしい子守唄。
 わたしがまだ物心がつくかつかないかの頃、おかあさんが歌って聞かせてくれた子守唄。

 目を覚ますとわたしを心配そうに見つめるおかあさんがいた。
 何処までも清浄な空気、呼吸が楽だ、帰ってきたんだ精霊の森。

「ただいま。」

 多くの言葉は要らない、おかあさんには、一言だけで全てが伝わる。

「このバカ娘!全く心配させおって!」

 いきなり怒られた……。全ては伝わらなかったか……。

 あの後、突然気を失ったわたしをソールさんが慌てておかあさんの許へ連れて来てくれたそうだ。
 それから三日も目を覚まさなかったみたい。

 あっ、名前を付けずにおかあさんと呼んだら、それは光の大精霊エーオースおかあさんのこと。
 わたしを瘴気の森の縁で拾ってくれて、片時も離れずに育ててくれた優しいおかあさん。

「ねえ、おかあさん、わたし、どうしちゃったのかな。
 こんなの初めて、マナが言うことを聞かずに勝手にあふれ出したの。
 それも、身を裂く勢いで。」

 わたしが自覚した症状を告げるとおかあさんは表情を暗くした。

「こんな症状初めて見たが、おまえの体の成長がマナの増大に追い付いていないのだろう。
 人の身でマナを生み出せるなんて特異な体だとは思っていたが、まさか成長と共に生み出せるマナの量がこんなに増えるとは思わなかった。」

 何度も言うようだけど、マナを生み出せるのは植物だけだとおかあさん達は認識していたの。
 大精霊の数千年にも及ぶ見識を持ってしてもわたしのような存在は認知されていなかったから。
 何故かこの時代になって、わたしとハンナちゃんという特異な存在が立て続けに二人も確認されたの。

 だから、大精霊の見識を持ってしてもわたしの症状がどんな影響があるか分からないと言う。

「ターニャよ、おぬし、人の身でマナを操って術を使ったそうであるな。
 しかも、一面の大地を甦らせるような大きな術を。
 それによって今まで上手く堰き止められていたマナが流れ出す綻びが生じたのだろう。
 正直余り楽観視できる兆候とは言えないな。」

 おかあさんの推測では、わたしがおチビちゃん達に少しずつマナを分け与えて体に蓄積されるマナを少しずつ逃がしているのが良かったようだ。
 丁度、堤の中に貯めている水をあふれ出す前に、隅に設けた細い水路をつかって少しずつ逃がしているような感じ。

 ところが、わたしが堤から強引に水を引き出してしまった。
 自分では上手く制御したつもりでも、実際堤のそこは脆くなってしまい決壊寸前になっている。
 例えて言えば、そんな感じらしい。

 今はマナの扱いが巧みなおかあさんがわたしのマナを押さえ込んで綻びを一時的に塞いでいる状態みたい。

「私の可愛いターニャ、おぬしがその命を永らえたいと思うのであればもう無茶はしないでおくれ。
 おぬしが扱った術は人の身には過ぎたモノなのだろうと思う。
 しばらくは、チビ達に少しずつ分け与えることで生み出されるマナの圧力を減らすだけに留めるのが良いと思う。
 チビ達に与えるにしても荒地を開墾するような大量にマナを使う真似は控えた方が良いな。」

 いきなり、おかあさんからわたしの活動にストップが掛かってしまった。
 今年の夏休みは、ハルクさんの村とマルクさんの村で打ち止めかな……。

「そう残念な顔をするな、もし、どうしてもと言うのならシュケーたちに頼れば良いではないか。
 といっても、少しは安静にしていた方が良いな。
 ここでのんびりしていくのも良いぞ。」

 そのとき、シュケーさんの名を聞いてハタと思い出したの。

「おかあさん、ハイジさん達はどうしている?」

「ああ、あの人間の娘達か、随分とおぬしのことを心配しとったぞ。
 今は客室で寛いでもらっている。
 もう大丈夫そうであれば、呼んでくることとしよう。」

 そう言っておかあさんはわたしの寝室を出て行った。
 そして、さしたる時間も掛からずに二人を連れて戻ってきたの。

「ターニャちゃん、いきなり倒れたから心配したわ。
 呼びかけても全く反応が無いのですもの、もうダメかと思ったわ。」

 ハイジさんが深刻そうな表情で言った。
 大げさだなって思ったけど、ヤスミンちゃんもおかあさんも同じ表情をしている。
 本当に危なかったんだ……。
 
 あたしが倒れたことにフェイさんやソールさんも狼狽していて、ハイジさん達も一緒に連れて来てしまったみたい。
 ここには、大精霊達が認めた人間しか入れないことになっていたのに。
 ハイジさんは最初はわたしの傍を離れなかったそうだけど、昏睡状態が続いていたので客室で待機してもらったみたい。

 わたしが普通に起き上がっているのを見て、ハイジさん達はひとまずは安堵したみたい。

「ターニャちゃんにもしものことがあったらと思うと怖くてたまりませんでした。
 わたしが無理なお願いをしたせいでターニャちゃんがこんなことになったとしたら、どうやってお詫びすれば良いのか。」

 いや、ハイジさんのせいではないから、全てはわたしが妙な好奇心を抱いたせいだから。
 「好奇心は猫も殺す」とはよく言ったものだ本当に死ぬところだったよ、わたしも反省しなくては。

 でも、ハイジさんには申し訳ないけど、この夏はこれ以上活動できそうにないね。
 わたしがそれを説明するとハイジさんはさして落ち込む様子も見られなかった。

「ターニャちゃん、この夏休みは短期間に大きな農地を二ヵ所も再生できたわ。
 十分な成果じゃない、これ以上は欲張りすぎよ。
 何も無かった不毛の大地に二百シュトラーセ四方の農地が二ヵ所も出来たのよ誇るべき成果よ。
 西部地区の復興事業は十年がかりの長期戦よ、焦っても仕方がないわ。」

 逆にそう言ってわたしを励ましてくれたの。
 ハイジさんの表情に偽りはなく、本当にそう思ってくれているみたいだ。

 ハイジさんは、この夏はヤスミンちゃんという側近も手に入れたしと言って、成果に不満はない様子に見える。
 そう言ってもらえると気が楽だよ。

 そんな会話をしていると、ハイジさんも少しは心が落ち着いたのか、わたしが寝ている間の話をしてくれた。

 わたしの五人のおかあさんに挨拶をした時に凄く緊張したとか、館の彼方此方にある表示が見知らぬ文字で書かれていて読めなくて困ったとか、そんな話し。
 中でも、ハイジさんが一番驚いたのはわたしの居室がとんでもなく豪華だったことみたい。
 自分の父親である帝国皇帝の部屋よりはるかに上質な作りだと言っている。
 そう言えば、ハイジさんにはここがかつての魔導王国の国王の居室だとは言ってなかったね。

 しばらく、他愛の無い話を続けた後、ハイジさんはこれからの予定を尋ねてきた。
 三日も寝ていたのなら、明後日にはポルトにリタさんを迎えに行かないといけない。

「明日、一日ここで安静にして、明後日の朝一番でポルトにリタさんを迎えに行こう。
 ハイジさんも、義姉になるかもしれないソフィちゃんがどうなったか気になるでしょう。」

 わたしは、ハイジさん達も連れてポルトに行くことにしたの。



(設定注釈)

二百シュトラーセ四方=一平方キロメートル
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