精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第15章 四度目の夏、時は停まってくれない

第433話 男の子とも仲良くしたらと言われました。

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 その後も、何をするでもなく昼間は暇があるとボーッと海を眺め、夜はウンディーネおかあさんとハンナちゃんと三人で寄り添うように眠って過ごしたの。
 本当に何もしなかったの、いや、何もさせてもらえなかったと言うのが正確かも。
 みんな、心配しすぎだと思うの……。

 ここで過ごすのも後数日となった今日、リタさんがフェイさん、ソールさんと共に帝国へ行った。
 ポルト公爵とソフィちゃんの養子縁組の顛末とポルト公爵家がケントニスさんに対して行える支援内容について、ケントニスさんに報告を行うために。

 報告するだけなので、リタさんは一日二日で戻ってくる予定なの、リタさんが戻ってきたらわたし達は王都に向けて帰路につくことになる。


 そして、今日もわたしはウンディーネおかあさん、ハンナちゃんと共に海辺で腰掛けている。
 海を眺めていたらウンディーネおかあさんが唐突に尋ねてきたの。

「ターニャちゃんは男の子の友達はいないの?」

 思わずわたしは考え込んでしまった。友達?友達って何だろう?

 多分ハンナちゃんは違う、友達というより家族だ、可愛い妹と言う感じ。
 じゃあ、ミーナちゃん?ミーナちゃんもどちらかというと家族に近い気がする。

 フローラちゃんやルーナちゃんは友達と言って良いだろう。
 そのくらい親しくしてもらっているし、私も親しみを感じている。
 そう考えていくと、エルフリーデちゃんのグループは友達と言って大丈夫だと思う。
 あとは、ロッテちゃんとかラインさんとか……。
 と考えてハタと気付いた見事に女の子ばっかりだ。

 もちろん、わたしにはソフィちゃんのような恋心は分からないし、まだ早いと思っている。
 でも、そういう感情は抜きにしても親しみを感じている人の中に男の子は誰もいない。

 もちろん、クラスメートは男女問わず性格の良い子ばかりなので、男の子も嫌いな子は一人もいない。
 ただ、親しくしているかと聞かれたら、授業の時以外で話した記憶がない。
 あっ、領地に遊びに行ったときは少し話したか……、そんな程度だね。

 わたしが、友達と呼べる男の子はいないと話したら、ウンディーネおかあさんは更に尋ねてきた。

「それどうしてかしら、学園の生徒の半分以上は男の子でしょう?」


     **********


 ウンディーネおかあさんに問われたわたしは思考を巡らせて気付いたの。

 わたしは基本的に男の人が嫌いだ、だから意識しないで遠ざけているんだ。
 わたしが人の社会に出てきて、一番最初に個人として認識した男の人はミーナちゃんを虐げていた酒場の主人、次がミーナちゃんの叔父さん。人として最低の二人だった。

 最初に会った同年代の男の子はリタさんが元仕えていたアロガンツ家のナル、盗賊に捕らわれていたのを助けたのにお礼の一言もなくて、横柄でイヤな奴だった。

 そう考えると、人の社会に出てきて最初の頃って、ロクでもない男ばっかりだったな。
 最初の出会いで、わたしは男という生き物が平気で酷いことが出来る嫌な人達と潜在意識に認識させてしまったのだろう。

 人の社会に出てきて初めて会ったまともな男の人って、ホテルヴィーナヴァルトのオーナーさん、それにこの国の国王様、辺りか。
 最初に会ったのが、この二人の内のどちらかなら、男の人に対する評価も少し変わっていたかな。

 いや、違う。
 わたしは、精霊の森いた頃から男という生き物は、すぐに力で物事を解決しようとするロクでもない人達だと聞かされていたんだ。
 そして、それを証明するような人達と最初に会ったため、真実と認識したしまったのだ。

 わたしがそんなことを言うと、ウンディーネおかあさんは悲しそうな顔で言ったの。

「エーオースが危惧した通りになってしまったわね、ターニャちゃんは精霊の感性に強く影響されちゃったみたいね。」


 エーオースおかあさんはわたしが精霊の森にいた頃、精霊達が男の悪口ばかりをわたしに吹き込むものだから拙いと思ったらしいの。

 精霊と違って人間は男と女が番となって子を成し子孫を増やしていくものだから、精霊のように男を嫌悪するようになったらいけないと危惧したらしい。

 ヴァイスハイトさんは、ウンディーネおかあさんがほぼ一人で育て上げ、男の人のことなど殆んど話してなかったそうだ。
 人の社会に戻った時に先入観なしで接することが出来るようにだって。

「ヴァイスハイトは男女分け隔てなく接し、年頃になったら相応に恋を知ったわ。
 そして、伴侶を得て、今の王家にとその血は受け継がれているの。
 なんかね、ターニャちゃんを見ていると私と同じ精霊を見ているみたいで心配になったの。」


     **********


 ウンディーネおかあさんは言う、精霊は基本的に人間の男が嫌いだと。
 精霊は基本的に殺生を嫌い、争いごとを嫌う。

 そして、人の社会で争いごとを起こし、殺生をするのはもっぱら男の人だからと言うの。
 もちろん例外はあり、争いを好む女性もいるけど。

 精霊の発生原理は不明だ、だって突然精霊の森に光の玉が生まれるのだもの。
 どうして生まれるのかはおいといて、とりあえず人や他の動物のようにオスとメスが必要な訳ではない。

 なんで、精霊は全て女性の姿をしているのだろう。
 ウンディーネおかあさんの話しでは男性の姿をした精霊は一体も見た事がないと言う。
 他のおかあさんたちも男性の姿をした精霊は見た事がないらしい。

 更に、おかあさん達の知る限りでは、中位精霊の姿を見ることができ、言葉を交わすことができたのは例外なく女性だったと言う。

 ウンディーネおかあさんの様に顕現し誰にでも見えるようになれる、上位精霊、大精霊は例外ね。
 
「私も私が誕生する前のことは知らない。
 けど、私がこの世界に生まれた何千年か前の時点で既に精霊は全て女性の姿をしていたし、精霊が心を通わせるのは女性だけだったの。
 それは、長い年月人の社会を見てきて、常に力を用いて人を支配し、理不尽な暴力を振るうのは男だったから。
 だから、精霊は男を忌避したのね、きっと。
 私が見てきた歴史もそう、精霊が心を開く女達はみな優しい心の持ち主だったわ。
 そんな女達を愚かな男共は戦の道具に使おうとした、精霊達が協力を拒むと精霊が慈しんだ女たちを力尽くで従わせようと虐待したの。」

 虐待したのはまだ良い方で、古代魔導王国の男達は精霊の術が使える女たちの秘密を探ろうと人体実験を繰り返したらしい。それにより、多くの女性が命を落としたり、廃人になったりしたそうだ。

 そして、古代魔導王国の男達は、精霊が女達を通して忠告したにも関らず大規模な瘴気の濃縮施設を作り、あげく大陸の中央部分約三分の一を瘴気により汚染してしまったのだ。

 もちろん、女性の中にも横暴な者もいるし、ウンディーネおかあさんが力を貸した男達のように男性の中にも心清らかな者もいる。
 ただ、精霊の怒りに触れるような振る舞いをしたのは例外なく男性だったそうだ。

 きっと、精霊が全て女性の姿なのは、精霊が心を通わせることが出来る人達に似せたからなのだろうとウンディーネおかあさんは言うの。
 そもそも、自分達の発生原理が分からず、自我を持った時には女性の姿だったので本当のところは分からないけどねと言っていたけど。

「ターニャちゃん、これから少しずつでもいいから、男の子とも仲良くするようにしてみて。
 人間の半分は男性なのよ。その半分と仲良く出来ないのは凄い損をしていると思うわ。
 それに、将来、ターニャちゃんが子孫を残すためにも男性が必要なの。
 今はピンと来なくてもかまわないわ、気の会わない人と無理に仲良くする必要もない。
 ほんの少しずつでいいからね。」

 ウンディーネおかあさんは、わたしの行動や精神性が精霊寄りになっていることを心配しているみたい。
 
 わたしにもっと人の社会に順応して欲しいということみたいだけど、わたし自身としては十分順応しているつもりだったのだけど。違ったのかな……。

 言われてみれば、男の子の事なんて今まで考えたこともなかったよ。


     **********


 ウンディーネおかあさんは、

「このままじゃ、ターニャちゃんの子や孫が見られないんじゃないかと心配だったのよ。」

と笑いながら言ってその話は終わりになったの。

 そして、その晩、夕食も済んでみんなでまったりと過ごしていた時のこと。
 突然、リタさんが一部焼け焦げたボロボロの服装で、ソールさんに支えられるようにして戻ってきたの。

 明らかにただ事ではない様子に、その場にいたみんなに緊張が走った。

 リタさんは焦燥しきった声で言ったの。

「報告します。帝国の皇帝陛下が崩御されました。」

 夏休みも残すところ後わずか、事態は急転直下の方向に向かったの。 

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