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第15章 四度目の夏、時は停まってくれない
第458話 いったい儂に何の恨みがあるのだ…【その時、ゲスはこう嘆いた】
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その後もこの小娘は、取るに足らないことでこの儂を非難し続けた。
初代皇帝の再来を求めようとすると出産の際に周囲に大きな被害をもたらす恐れがあることを儂が知っていたこと。にも拘らず、初代皇帝の再来を生み出す計画を推し進めたこと。
黒の森から木材を伐り出す際にスラムのガキ共を魔獣をひきつける餌にしたこと。
そんな他愛ないことで王たるこの儂を批判するとは全く愚かな小娘だ。
色々と論って非難するが結局のところ、儂の利益のために人の命を犠牲にするのが許せないようなのだ。
この小娘、同じ魔導王国の血を継ぐ者だというのに権力者のあり方を全くわかっていないようだ。
昔、在る所に大そう権勢を誇った者がおったそうだ。
その者は来客があると、若くて非常に美しい娘を客の酌婦に宛がうのだ。
宴の中で、その酌婦が客に勧める酒を客が飲まないとその場で酌婦の首を刎ねたそうだ。
『儂の大事な客人が酒を飲まないのはお前の勧め方が悪いからだ、儂に恥をかかせおって』
と言う理由からだ。
勿論、そんなの単なる難癖に過ぎない。
客人は下戸だったかも知れんし、飲み過ぎでもう飲めなかったのかもしれない。
しかし、そんなことは関係ないのだ。これは、酒宴の単なる余興なのだから。
その者は、来客があると毎回この余興で客をもてなしたと言う。
これは、儂が権力者のあり方として、もっとも素晴らしい故事だと気に入っているものだ。
これこそが儂は常々こうありたいと思う理想の権力者像なのだ。
人道主義を謳う王国の腐った教育を受けた小娘には、権力者としての正しいあり方が理解できないようだ。
同じ魔導王国の王家の血を引くものとして嘆かわしい限りである。
**********
儂が小娘の青臭い話にうんざりしてきた頃、儂の真の目的が魔導王国の王都に眠る魔導王国の遺産、財宝や失われた技術、を手に入れることだと知った小娘が聞き捨てのならないことを言った。
この小娘は魔導王国の王都にある王宮で育ったと言う。
そして、魔導王国の王都に眠る財宝の大部分を帝国の民への施しのために散財してしまったと。
また、天翔る船や魔導具の武器など軍事用に使える魔導具は全て破棄したと言うのだ。
何を口からでまかせを言うのだ、そう言えば儂が魔導王国の財宝を諦めるとでも考えたか。
儂は小娘の言葉を全く信用しなかった。
当たり前だろう、魔導王国の王都は濃い魔素に覆われている普通の人間が生存できる訳がない。
儂がそれを指摘してやると、今度は魔導王国の王都は精霊が魔素を浄化して人が住めるようになっていると言いおった。しかも、自分はそこで精霊に育てられたと。
この小娘、どこまで儂を馬鹿にすれば気が済むのだ。
儂をからかうために態々ここまで来たとでも言うのか。
精霊、かつて大陸の広い範囲で信仰されていた民間信仰における架空の存在だ。
超常の力を使い、時にその力を人に貸してくれたという。
精霊は全ての生命を慈しみ、殺生を嫌う、同じ種族の生物内で争うのを特に疎んだと言う
そこから、人々は無用な争いをせず、慈愛の心を持って互いに助け合うべきだとする忌々しい精霊信仰が発生したと言われている。
遠い昔精霊使いといわれる超常の力を使う者達がいたという。
その者達は精霊の力を借りていると主張していたそうだ。
だが、精霊使いと呼ばれる者以外に精霊を見たという者は存在しない。
そのため、争いごとに協力したくない精霊使いが精霊をダシに使っていただけと考えられている。
先祖の見解では、精霊使いは人間の突然変異種だと考えられている。
それ故に、初代教皇は精霊使いの様に術が使える人間を作り出そうと王都を実験場にしたのだ。
先祖たちは、精霊使いの操る超常の力を戦に活用しようとしたが、精霊使いは頑として協力しようとしなかったという。
どんな過酷な拷問に掛けても、命を落とすことになったとしても……。
精霊信仰はかくのごとく根強いもので、先祖たちは頭を悩ませたと言うのだ。
ただ、精霊信仰の根強さから学ぶものもあったと初代教皇は言っている。
信仰と言うものは一度根付いてしまうと信仰する者に心の奥底に棲み付くものだと。
だから、帝国成立時に皇帝を傀儡にするのにあたり、我が先祖は『黒の使徒』を宗教団体に仕立てたのだ。
人々に信仰心を根付かせて、盲目的に『黒の使徒』に従うように洗脳することを目的に。
しかし、今でも隣の王国では王室が精霊信仰に被れているというが、こんな子供まで精霊を信仰しているとは思わなかった。
王国は信仰の自由を謳い特定の信仰を押し付けないと言っているが、真っ赤な嘘であろう。
この小娘を見る限り、王国では人道主義などという愚かな思想と併せて精霊信仰を強要しているに決まっている。
我が『黒の使徒』も謂れのない弾圧を受けているようであるし、信仰の自由などやはりお題目だな。
信仰や思想などと言うものは支配者が下々の者を型に嵌めるためのものであって、下々の者の自由にさせたらロクなことにならないに決まっている。
**********
儂に向かって生意気な口を利く愚かな小娘を見て、王国の偏った教育の弊害を感じていると。
小娘は宙空を見ながら、「ソールさん、チョッと出てきてもらえるかな。」 と呟いた。
すると、何もない空間にパッと二十歳位の若い女が現われた。
女が小娘の隣に着地すると、小娘はこんなことを言ったのだ。
「わたしの保護者のソールさん。
光の上位精霊なんだ。
帝都の皇宮にあらわれた魔獣を退治したのもソールさんだよ。」
精霊などと言う超常の存在が実際にいるかどうかはともかく、目の前に現われた女、こやつはとんでもない術師であることには違いあるまい。
何もない空間に突如現われるとか宙に浮いているとかそんな術は聞いたこともない。
しかも、皇宮を焼き尽くした赤子を退治したのがこの女だと言うしな。
仮に、小娘の周りにこんな術師が多数いたとすればどうだ?
確かに、魔導王国の王都一帯の魔素を掃う事が出来るかも知れん。
そうだとすると、以前から話題に上っている信じれん速度を出す魔導車や大量の食糧支援の財源についても小娘の説明で辻褄が合うではないか。
ちょと待て、さっきこいつなんて言った。
魔導王国の王宮に眠っていた我が一族の財産を帝国の民に救済に使ってしまったといわなかったか。
天翔る船や魔導具の武器、それに軍用に転用できそうな魔導具の全てを破壊したと言わなかったか。
なんてことをしてくれたのだ。
軍用の魔導具、それこそが魔導王国の繁栄を支えてきた物なのだぞ。
他国を圧倒する軍事力で侵略し、富を収奪する。そうやって魔導王国は財を蓄えたのだ。
確かに、他国が欲しがる便利な魔導具を多数開発し、それを輸出することも富の形成に資した。
しかし、それは軍事力を背景に魔導具の技術を独占できたからだ。
強力な軍事力がなければ皆が欲する魔道具の技術などすぐに奪われてしまったであろう。
生産技術が失われてしまったため、軍用の魔導具は現在何処にもないのだ。
魔導王国の王都に眠る大量の軍用魔導具を実戦配備すれば大陸を席巻出来る。
移動距離の問題は、魔導王国末期に完成した天翔る船があれば解決したのだ。
数千人の人を乗せて大陸の端から端まで数日で飛行できる船、それで兵員を運べば隣国の王都に奇襲をかけられる。
軍用魔導具を用いて短期間で王都を攻め落とせば、そこで物資を調達できる。
兵站の心配などいらぬのだ。
王宮の地下には完成したばかりの天翔る船二隻が眠っていると初代教皇の手記に記されていた。
それを全て壊してしまっただと、何と愚かな…。
それでは、この大陸のみならず、西の大陸も侵略して富の収奪を図るという儂の計画が実現できないではないか。
いや、それにもまして愚かなのは、帝国の民草へ施すために王宮の宝物庫に眠る金・銀・財宝を散財しただと。
それは最も愚かな財の使い方だ、我が先祖が聞いたらさぞかし嘆くことだろう。
王家の財産は権勢を誇るために使う物だ、下々に施しをするために使って良い物ではないのだ。
ケチるのとは違うぞ、ケチはダメだ、王家に忠実な貴族連中には派手にばら撒いてやらねばな。
例えば、自分の配下に祝い事があれば、腰を抜かすほどの祝儀を贈る。
例えば、祝賀行事があれば、目が眩むほど豪勢な宴席を用意して貴族連中を持て成す。
王というのは、そうやって配下の者をまとめ上げていくものなのだ。
逆らう者は苛烈に罰し、忠実な者には十分な褒美を取らせる、これが当たり前に出来なければいけないのだ。
その中で一番ダメな財の使い方が民への施しだ。
王家の財には民に施すものは銅貨一枚たりともないのだ。
民は収奪の対象だ、絞れるだけ絞る。
死んだってかまわない、どうせ幾らでも増えるのだから。
魔導王国の王家は歴代、その考えに基づいて国を繁栄させてきたのだ。
それを何だ、魔導王国に眠る財宝を帝国の下々への施しに大部分を使っただと。
しかも、言うに事欠いて、『二千年間の悪事の償いだと思えば安いものじゃないの。』などと言いおった。
儂の一族の何処に非があると言うのだ、王として、支配者として極当たり前のことをしているではないか。
何でこんなに話が噛み合わないのだ、子供にしても愚か過ぎるであろう。
それとも、王国では貴族の子女をこんな愚かに育てているのか。
貴族がこんな考え方をしていれば、下賎な民共が調子に乗って国が乱れるだろうに。
「ふざけるな!
貴様らは誰の許しがあってそんな勝手なことをするのだ。
魔導王国の財は全て魔導王国の現国王である儂のものなのだぞ。」
儂は堪忍袋の緒が切れて小娘をどやしつけたのだが、小娘は怯みもしないで言ったのだ。
「あなたが、魔導王国の国王だと主張するのはこんな物があるからだよね。」
そう言って手にして見せたのは儂が宝物庫の一番奥に隠しておいたモノ。
初代教皇が魔導王国から持ち出した王冠と国璽、正統な魔導王国の王の証である。
それがあるから儂は王を名乗れるのだ。
儂はこの時、とてつもなく不吉な予感がした、いけない、早く取り戻さねば。
「貴様、それを何処から持ち出した。
返せ、それは儂の物だ。
正当なる魔導王国の国王の証なのだぞ!」
儂の言葉に小娘はニヤっと意地の悪そうな笑みを浮かべて、……
「こんな物があるからいけないのよね。」
と言うや否や、いきなり王冠を床に叩きつけて足で踏み抜いた。
原形がわからないほど変形した王冠、飛び散る宝石、このバカ娘は止める間もなく王冠を壊しおった。
それは魔導王国の国王に二千五百年以上前から受け継がれたきた由緒正しい王冠のだぞ。
なんてことをしてくれるのだ。
しかし、暴挙はそれだけではなかった。
続いて床に叩きつけられた国璽、軟玉で作られたそれは固い石の床に勢いよくぶつかり音を立てて砕け散ったのだ。
国王が発する国家の重要文書に押される印章である国璽、勅令や外交文書の締結に持ちられる国璽こそ王の権威の象徴なのだ。王冠よりも重要なもの、それをこの小娘は台無しにしおった。
儂が言葉を失っていると、小娘は今度はなにやら紙切れを持ち出した。
王冠と国璽の破壊に呆然として、最初はそれが何か分からなかった。
やがて我に返ってそのモノの正体に気付いた、それを失ったらシャレにならん。
それだけは、やめてくれ。そう言いたかったが、儂は気が動転していて声にならなかった。
それは、儂が、『黒の使徒』の教皇が皇帝の上に立つ証なのだ。
二千年前、初代皇帝が初代教皇に宛てた誓約書。
内容は、皇帝が、教皇から委託をうけて国の統治権を預かることと教皇に対し子々孫々まで忠誠を誓うということ。
現在も帝国で使われている国璽が押されており、今でも有効な正式文書だ。
それがあるから、『黒の使徒』の教皇は皇帝に対しても大きな顔が出来たのだ。
しかし、この小娘は容赦なかった。
儂の目の前で火の術の炎を用いて完全に灰になるまで焼きおったのだ。
この子娘が最初に言った言葉、「『黒の使徒』の幕引きに来たから。」 。
あれは冗談でもなんでもなかったのだ。まさか、こんな小娘にしてやられるとは……。
儂はもう立っている気力もなく、膝から崩れ落ちてしまった。
思わず口に出してしまったのは、
「貴様等、なんて事をしてくれたのだ。
儂がこの国の正当な主であることの証を全て無くしてくれて。
いったい、何の恨みがあると言うのだ。」
と言う言葉だった。
ホント、儂が何を悪いことをしたというのだ。
何で王国の連中は、こんな無法をする小娘を放置しておくのだ。
こんな手に負えない無法者を放置しておくなど、王国の法はどうなっているのだ……。
初代皇帝の再来を求めようとすると出産の際に周囲に大きな被害をもたらす恐れがあることを儂が知っていたこと。にも拘らず、初代皇帝の再来を生み出す計画を推し進めたこと。
黒の森から木材を伐り出す際にスラムのガキ共を魔獣をひきつける餌にしたこと。
そんな他愛ないことで王たるこの儂を批判するとは全く愚かな小娘だ。
色々と論って非難するが結局のところ、儂の利益のために人の命を犠牲にするのが許せないようなのだ。
この小娘、同じ魔導王国の血を継ぐ者だというのに権力者のあり方を全くわかっていないようだ。
昔、在る所に大そう権勢を誇った者がおったそうだ。
その者は来客があると、若くて非常に美しい娘を客の酌婦に宛がうのだ。
宴の中で、その酌婦が客に勧める酒を客が飲まないとその場で酌婦の首を刎ねたそうだ。
『儂の大事な客人が酒を飲まないのはお前の勧め方が悪いからだ、儂に恥をかかせおって』
と言う理由からだ。
勿論、そんなの単なる難癖に過ぎない。
客人は下戸だったかも知れんし、飲み過ぎでもう飲めなかったのかもしれない。
しかし、そんなことは関係ないのだ。これは、酒宴の単なる余興なのだから。
その者は、来客があると毎回この余興で客をもてなしたと言う。
これは、儂が権力者のあり方として、もっとも素晴らしい故事だと気に入っているものだ。
これこそが儂は常々こうありたいと思う理想の権力者像なのだ。
人道主義を謳う王国の腐った教育を受けた小娘には、権力者としての正しいあり方が理解できないようだ。
同じ魔導王国の王家の血を引くものとして嘆かわしい限りである。
**********
儂が小娘の青臭い話にうんざりしてきた頃、儂の真の目的が魔導王国の王都に眠る魔導王国の遺産、財宝や失われた技術、を手に入れることだと知った小娘が聞き捨てのならないことを言った。
この小娘は魔導王国の王都にある王宮で育ったと言う。
そして、魔導王国の王都に眠る財宝の大部分を帝国の民への施しのために散財してしまったと。
また、天翔る船や魔導具の武器など軍事用に使える魔導具は全て破棄したと言うのだ。
何を口からでまかせを言うのだ、そう言えば儂が魔導王国の財宝を諦めるとでも考えたか。
儂は小娘の言葉を全く信用しなかった。
当たり前だろう、魔導王国の王都は濃い魔素に覆われている普通の人間が生存できる訳がない。
儂がそれを指摘してやると、今度は魔導王国の王都は精霊が魔素を浄化して人が住めるようになっていると言いおった。しかも、自分はそこで精霊に育てられたと。
この小娘、どこまで儂を馬鹿にすれば気が済むのだ。
儂をからかうために態々ここまで来たとでも言うのか。
精霊、かつて大陸の広い範囲で信仰されていた民間信仰における架空の存在だ。
超常の力を使い、時にその力を人に貸してくれたという。
精霊は全ての生命を慈しみ、殺生を嫌う、同じ種族の生物内で争うのを特に疎んだと言う
そこから、人々は無用な争いをせず、慈愛の心を持って互いに助け合うべきだとする忌々しい精霊信仰が発生したと言われている。
遠い昔精霊使いといわれる超常の力を使う者達がいたという。
その者達は精霊の力を借りていると主張していたそうだ。
だが、精霊使いと呼ばれる者以外に精霊を見たという者は存在しない。
そのため、争いごとに協力したくない精霊使いが精霊をダシに使っていただけと考えられている。
先祖の見解では、精霊使いは人間の突然変異種だと考えられている。
それ故に、初代教皇は精霊使いの様に術が使える人間を作り出そうと王都を実験場にしたのだ。
先祖たちは、精霊使いの操る超常の力を戦に活用しようとしたが、精霊使いは頑として協力しようとしなかったという。
どんな過酷な拷問に掛けても、命を落とすことになったとしても……。
精霊信仰はかくのごとく根強いもので、先祖たちは頭を悩ませたと言うのだ。
ただ、精霊信仰の根強さから学ぶものもあったと初代教皇は言っている。
信仰と言うものは一度根付いてしまうと信仰する者に心の奥底に棲み付くものだと。
だから、帝国成立時に皇帝を傀儡にするのにあたり、我が先祖は『黒の使徒』を宗教団体に仕立てたのだ。
人々に信仰心を根付かせて、盲目的に『黒の使徒』に従うように洗脳することを目的に。
しかし、今でも隣の王国では王室が精霊信仰に被れているというが、こんな子供まで精霊を信仰しているとは思わなかった。
王国は信仰の自由を謳い特定の信仰を押し付けないと言っているが、真っ赤な嘘であろう。
この小娘を見る限り、王国では人道主義などという愚かな思想と併せて精霊信仰を強要しているに決まっている。
我が『黒の使徒』も謂れのない弾圧を受けているようであるし、信仰の自由などやはりお題目だな。
信仰や思想などと言うものは支配者が下々の者を型に嵌めるためのものであって、下々の者の自由にさせたらロクなことにならないに決まっている。
**********
儂に向かって生意気な口を利く愚かな小娘を見て、王国の偏った教育の弊害を感じていると。
小娘は宙空を見ながら、「ソールさん、チョッと出てきてもらえるかな。」 と呟いた。
すると、何もない空間にパッと二十歳位の若い女が現われた。
女が小娘の隣に着地すると、小娘はこんなことを言ったのだ。
「わたしの保護者のソールさん。
光の上位精霊なんだ。
帝都の皇宮にあらわれた魔獣を退治したのもソールさんだよ。」
精霊などと言う超常の存在が実際にいるかどうかはともかく、目の前に現われた女、こやつはとんでもない術師であることには違いあるまい。
何もない空間に突如現われるとか宙に浮いているとかそんな術は聞いたこともない。
しかも、皇宮を焼き尽くした赤子を退治したのがこの女だと言うしな。
仮に、小娘の周りにこんな術師が多数いたとすればどうだ?
確かに、魔導王国の王都一帯の魔素を掃う事が出来るかも知れん。
そうだとすると、以前から話題に上っている信じれん速度を出す魔導車や大量の食糧支援の財源についても小娘の説明で辻褄が合うではないか。
ちょと待て、さっきこいつなんて言った。
魔導王国の王宮に眠っていた我が一族の財産を帝国の民に救済に使ってしまったといわなかったか。
天翔る船や魔導具の武器、それに軍用に転用できそうな魔導具の全てを破壊したと言わなかったか。
なんてことをしてくれたのだ。
軍用の魔導具、それこそが魔導王国の繁栄を支えてきた物なのだぞ。
他国を圧倒する軍事力で侵略し、富を収奪する。そうやって魔導王国は財を蓄えたのだ。
確かに、他国が欲しがる便利な魔導具を多数開発し、それを輸出することも富の形成に資した。
しかし、それは軍事力を背景に魔導具の技術を独占できたからだ。
強力な軍事力がなければ皆が欲する魔道具の技術などすぐに奪われてしまったであろう。
生産技術が失われてしまったため、軍用の魔導具は現在何処にもないのだ。
魔導王国の王都に眠る大量の軍用魔導具を実戦配備すれば大陸を席巻出来る。
移動距離の問題は、魔導王国末期に完成した天翔る船があれば解決したのだ。
数千人の人を乗せて大陸の端から端まで数日で飛行できる船、それで兵員を運べば隣国の王都に奇襲をかけられる。
軍用魔導具を用いて短期間で王都を攻め落とせば、そこで物資を調達できる。
兵站の心配などいらぬのだ。
王宮の地下には完成したばかりの天翔る船二隻が眠っていると初代教皇の手記に記されていた。
それを全て壊してしまっただと、何と愚かな…。
それでは、この大陸のみならず、西の大陸も侵略して富の収奪を図るという儂の計画が実現できないではないか。
いや、それにもまして愚かなのは、帝国の民草へ施すために王宮の宝物庫に眠る金・銀・財宝を散財しただと。
それは最も愚かな財の使い方だ、我が先祖が聞いたらさぞかし嘆くことだろう。
王家の財産は権勢を誇るために使う物だ、下々に施しをするために使って良い物ではないのだ。
ケチるのとは違うぞ、ケチはダメだ、王家に忠実な貴族連中には派手にばら撒いてやらねばな。
例えば、自分の配下に祝い事があれば、腰を抜かすほどの祝儀を贈る。
例えば、祝賀行事があれば、目が眩むほど豪勢な宴席を用意して貴族連中を持て成す。
王というのは、そうやって配下の者をまとめ上げていくものなのだ。
逆らう者は苛烈に罰し、忠実な者には十分な褒美を取らせる、これが当たり前に出来なければいけないのだ。
その中で一番ダメな財の使い方が民への施しだ。
王家の財には民に施すものは銅貨一枚たりともないのだ。
民は収奪の対象だ、絞れるだけ絞る。
死んだってかまわない、どうせ幾らでも増えるのだから。
魔導王国の王家は歴代、その考えに基づいて国を繁栄させてきたのだ。
それを何だ、魔導王国に眠る財宝を帝国の下々への施しに大部分を使っただと。
しかも、言うに事欠いて、『二千年間の悪事の償いだと思えば安いものじゃないの。』などと言いおった。
儂の一族の何処に非があると言うのだ、王として、支配者として極当たり前のことをしているではないか。
何でこんなに話が噛み合わないのだ、子供にしても愚か過ぎるであろう。
それとも、王国では貴族の子女をこんな愚かに育てているのか。
貴族がこんな考え方をしていれば、下賎な民共が調子に乗って国が乱れるだろうに。
「ふざけるな!
貴様らは誰の許しがあってそんな勝手なことをするのだ。
魔導王国の財は全て魔導王国の現国王である儂のものなのだぞ。」
儂は堪忍袋の緒が切れて小娘をどやしつけたのだが、小娘は怯みもしないで言ったのだ。
「あなたが、魔導王国の国王だと主張するのはこんな物があるからだよね。」
そう言って手にして見せたのは儂が宝物庫の一番奥に隠しておいたモノ。
初代教皇が魔導王国から持ち出した王冠と国璽、正統な魔導王国の王の証である。
それがあるから儂は王を名乗れるのだ。
儂はこの時、とてつもなく不吉な予感がした、いけない、早く取り戻さねば。
「貴様、それを何処から持ち出した。
返せ、それは儂の物だ。
正当なる魔導王国の国王の証なのだぞ!」
儂の言葉に小娘はニヤっと意地の悪そうな笑みを浮かべて、……
「こんな物があるからいけないのよね。」
と言うや否や、いきなり王冠を床に叩きつけて足で踏み抜いた。
原形がわからないほど変形した王冠、飛び散る宝石、このバカ娘は止める間もなく王冠を壊しおった。
それは魔導王国の国王に二千五百年以上前から受け継がれたきた由緒正しい王冠のだぞ。
なんてことをしてくれるのだ。
しかし、暴挙はそれだけではなかった。
続いて床に叩きつけられた国璽、軟玉で作られたそれは固い石の床に勢いよくぶつかり音を立てて砕け散ったのだ。
国王が発する国家の重要文書に押される印章である国璽、勅令や外交文書の締結に持ちられる国璽こそ王の権威の象徴なのだ。王冠よりも重要なもの、それをこの小娘は台無しにしおった。
儂が言葉を失っていると、小娘は今度はなにやら紙切れを持ち出した。
王冠と国璽の破壊に呆然として、最初はそれが何か分からなかった。
やがて我に返ってそのモノの正体に気付いた、それを失ったらシャレにならん。
それだけは、やめてくれ。そう言いたかったが、儂は気が動転していて声にならなかった。
それは、儂が、『黒の使徒』の教皇が皇帝の上に立つ証なのだ。
二千年前、初代皇帝が初代教皇に宛てた誓約書。
内容は、皇帝が、教皇から委託をうけて国の統治権を預かることと教皇に対し子々孫々まで忠誠を誓うということ。
現在も帝国で使われている国璽が押されており、今でも有効な正式文書だ。
それがあるから、『黒の使徒』の教皇は皇帝に対しても大きな顔が出来たのだ。
しかし、この小娘は容赦なかった。
儂の目の前で火の術の炎を用いて完全に灰になるまで焼きおったのだ。
この子娘が最初に言った言葉、「『黒の使徒』の幕引きに来たから。」 。
あれは冗談でもなんでもなかったのだ。まさか、こんな小娘にしてやられるとは……。
儂はもう立っている気力もなく、膝から崩れ落ちてしまった。
思わず口に出してしまったのは、
「貴様等、なんて事をしてくれたのだ。
儂がこの国の正当な主であることの証を全て無くしてくれて。
いったい、何の恨みがあると言うのだ。」
と言う言葉だった。
ホント、儂が何を悪いことをしたというのだ。
何で王国の連中は、こんな無法をする小娘を放置しておくのだ。
こんな手に負えない無法者を放置しておくなど、王国の法はどうなっているのだ……。
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最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。
八神 凪
ファンタジー
久我和人、35歳。
彼は凶悪事件に巻き込まれた家族の復讐のために10年の月日をそれだけに費やし、目標が達成されるが同時に命を失うこととなる。
しかし、その生きざまに興味を持った別の世界の神が和人の魂を拾い上げて告げる。
――君を僕の世界に送りたい。そしてその生きざまで僕を楽しませてくれないか、と。
その他色々な取引を経て、和人は二度目の生を異世界で受けることになるのだが……
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