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憑依者

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 「やぁ、テルーレ。この俺と一緒にいられて最高だろ?」

 「はい」

 どこの世界に実の嫁を戦場に連れていく馬鹿がいるんだ⁇

 「俺はお前を愛してなどいない」

 「わかっています」

 「だが、お前のその力が欲しい。それだけだ」

 「はい……」

 本当に最低野郎ね。私はあなたのことが好きでもなければ顔すら見たくない。それぐらい大っ嫌いなんだよ!

 「俺はお前を守ってやるが、お前もその力を俺に寄越せよ」

 「いやです」

 「なんだと?」

 「なぜなら私はあなたと縁を切りたいからです」

 あなたが知っている私ではないの。私は憑依者だから。だから、本物のテルーレ.クレシックじゃない。

 「お前は俺の物にならないのというのか?」

 「はい」

 「お前の親から縁談を持ってきたのだぞ⁇」

 「私は望んでいません」

 望むわけがない。だって、私はあなたのことが会う前から本当に大っ嫌いなのよ!

 テルーレに憑依する前

 「君の夫は戦場に愛されている」

 「何このタイトル⁇」

 私はとある本屋でこの小説を見つけた。この小説のせいで、私の人生が何もかも変わってしまうだなんて知る由もなかった。

 「この本をください」

 「はい。ありがとう」

 結局買った人。

 「うーん」

 「テルーレ.クレシックは夫である、フリップ.オンジャ.レーチェース皇太子殿下を心から愛していた」

 「へぇー、恋愛ものか」

 「だが、殿下はとんでもない戦争好きで、嫁であるテルーレをよく戦場に連れて行き、最後には爆弾に巻き込まれて死亡」

 「は、はぁ?」

 「のちに殿下は新たなお嫁さんと結婚しその者を愛するようになり幸せに暮らすのであった」

 「ふ、ふざけてる⁉︎なにこの駄作は!」

 テルーレが可哀想だよ。

 そう思い眠りに着いたら

 「テルーレ‼︎早く起きなっ!」

 「えっ?えっ⁉︎」

 テルーレ.クレシックに憑依してしまったのだ。

 「何よこの展開は⁉︎」

 「早く支度しな!」

 「し、支度⁇」

 「今日はお前の婚約者がくる日よ」

 ピキッ

 「……」

 「テルーレ⁇おーい、テルーレ⁇」

 「わ、私はあの人と会いたくない‼︎」

 「はあああ⁉︎何馬鹿なことを言っているの?テルーレも素敵な方だって言ってたじゃない?」

 「そんなの一時の迷いよ‼︎私はあんな人と結婚だなんてごめんなんだからね!」

 私、まだ死にたくないもん!

 「いいから支度しなさい」

 「いーやーだー!」

 数時間後

 「ようこそお越しくださいました。殿下」

 「うむ」

 「ほらほら、テルーレ。殿下にご挨拶をしなさい」

 ムスー

 「この国の皇太子殿下に未来永劫の希望を捧げます」

 なんで私がこんなことを!

 「テルーレ。俺の婚約者」

 「……」

 「さぁ、街へ行こうか」

 「はい」

 「テルーレ!いってらっしゃい」

 「この馬鹿家族め!」

 私の新しい人生はもう決まっている。婚約破棄もしくは離婚して静かに暮らすこと!

 
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