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ここを一緒に出よう

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 彼は言いました。

 「僕と一緒にここを出よう」
  
 優しい笑み、暖かい言葉。私は一度もそんなふうに言われことがない。

 「あっ……」

 私は手を伸ばしかけてやめた。

 私は奴隷。生まれた時から奴隷として生きる運命。だからここを出ては行けない。

 「どうしたの?」

 そう優しく問いかける。

 「……」

 何か言わなきゃいけないのに声が出ない。喉をぐっと押しつぶされたみたいに声が出なくて苦しい。

 じわっ

 「え、えっ⁉︎」

 ここで泣いても意味ないのに涙が溢れて止まらない。

 「シクシク」

 「……」

 ただ黙って泣く私をじっと見つめてくる。

 「「泣いても意味ないよ?」」

 「……っ!」

 どこからかそんな声が聞こえてくる。いや。きっとこれは自分の声だ。

 「「伯爵様の元を離れるの?」」

 「私が」私に聞いてくる。なんで言えばいいの?

 「「私は奴隷。だからここから出ちゃいけないの。なんでわからないの?またあんな目に遭いたいの⁇」」

 「……っ!!!!!!!」

 そう私は数年前に脱走を試みて逃げ出したことがある。でもすぐに捕まって、両足を折られた。

 「「痛かったよね?折られた足はなかなか治らなくて治療だってまともに受けられなくてただ痛いのを我慢する日々だったよね?」」

 わかってる。私がここを出ても行く場所なんてない。

 「君。さっきから黙ってどうしたの?」

 帰ってよ。私に構わないでよ。

 「大丈夫。僕が守ってあげるから。だから君は……」

 他にも何か言ってた気がするがもう私には何も聞こえない。

 聞こえるのはただ、暴言とここを出てはいけないって声だけ。

 「!!!!!!!っ!??!!!!!!」

 叫びたいのに声が出ない。心の中で悲痛の声を上げながら私は気を失った。

 最後に見たのは私を助けようとしてくれたあの人の心配そうな顔だけ。

 「クローバー‼︎」

 ドサッ

 どのぐらい経っただろうか⁇目を覚ました時には知らない部屋にいた。

 「……」

 ここはどこ?

 私は帰らなければならない。ここは私の居場所ではない。奴隷に権利なんてない。そう教えられたから。

 ガチャ

 誰か入って来た。

 「あっ!目を覚ましたんだね?」

 私が起き上がっていることにとても喜んでいるかのように駆け寄って来る。

 ビクビク

 「……」

 何か言わなきゃいけないのに声が出ないよ。

 「クローバー。君はもう自由だ」

 クローバー⁇それって私の名前?

 私は一度だけ自分の名前を聞いたことがある。伯爵様が言ってた名前。それが私の名前。

 「……」

 私は口をパクパクさせながらなんとか会話をしようと試みた。

 「クスッ。なんで僕が君の名前を知っているかって?」

 その人はすぐに理解をしてくれた。

 私はすぐに頷きその人をじっと見つめた。

 黒色の髪に萌えるような赤の瞳。綺麗だ。

 「僕は頼まれているから」

 頼まれた?

 「君のご両親にクローバーを探し出してくれって頼まれたからだよ」

 私に親がいたの?生きていたの?死んだって思ってた。私を探してくれてた。嬉しい。

 「クローバー。僕は君を助けるためにずっと探していたんだ」

 昔受けた恩は返すよ。君はもう覚えてないだろうが、君のおかげで生かせれているんだよ。

 「そうだ。僕の名前は……」
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