テンペスト

上野佐栁

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我慢するな

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 「私は自分の気持ちすらもうわからない、です」

 「風華さん」

 前回のあらすじ。砂蔓さんが亡くなったことを知らされる風華だが、涙が一向に出てこないぞ!
 風華は泣けるのか!泣けないのか!まだわからん!
 
 「だんだんと雑になっていく説明」

 「風華さん。今は泣けなくてもいつかは泣けますよ」

 夢さんが私を励まそうとしてくれる。だけど、その言葉ですら私の心に響かない。

 私が黙って俯いていると、夢さんが明日街に出かけようと言ってくれた。

 「私と二人で一緒にお出かけしませんか?」

 夢さんは柔らかな笑みを浮かべて私をそう提案をした。

 少しでも気分転換なると言ったので、私も了承し次の日の午後に出かけたのだが……。

 「お買い物楽しみですね?」

 「はい」

 「……で。砥部さんはお呼びではないのですが?」

 そう。砥部さんが私から離れなくて一緒に出かけることになった。

 「風華の監視役は俺だ」

 「……」

 たしかに砥部さんは私の監視役ではあるけど、どこまでもついて行く必要はないのでは?とは言えない。

 「はぁー。風華さんとデートできると思ったのにボンクラがついて来るだなんて誤算もいいところですよ」

 夢さんはため息混じりにそう言い、ショップへと入っていった。

 「風華さんの私服はまだありませんから私が選びますね?」

 私の手を取り砥部さんを無理やり引き剥がし奥の試着室に入った。

 「風華さんはシンプルなお洋服が似合いますね?」
  
 夢さんが色々な服を着せながらそう言ってきた。

 「そう、ですか?」

 私は服に行ってはよくわからない。だけど、少しだけ楽しい?

 一時間後

 「遅い」

 「はぁー。ボンクラの分際で文句ですか?風華さんはお洋服がよく似合うのでついつい買いすぎました」

 全部で二十着着せられ全て買っていった。

 「風華……似合っている」

 「ありがとうございます」

 嬉しいはずなのに胸が痛い。どこかがつっかえているようなそんな感じだ。

 その後も私たちはショップの中を歩き五分後には夢さんと逸れた。

 「……」

 「……」

 今は砥部さんと二人きりだ。

 「風華。あそこのクレープ食べるか?」

 砥部さんが不意そう言ってきたので食べると答えた。

 「風華。今も涙が出てこないのか?」

 ドキッ
 
 「な、なぜそれを?」

 「見ていればわかる」

 「そう、ですか?」
  
 前にも。前にもこんなことがあった気がする。大切な人が亡くなった時にその人に慰めてもらったことがある。あの時になんて言われたっけ?

 「風華は強いな」

 「えっ……」

 砥部さんは私の手を握りそっと抱き寄せた。

 「辛いことや苦しいことがあっても他人には頼らずにひとりで抱え込むと心が壊れるぞ」

 「何を言って……」

 こんな時になんで抱き締めるの⁇心臓の音がうるさい。ずっとドクンドクンって言っている。

 この気持ちはいったい。

 「砂蔓はお前を守った。砂蔓もお前に救われた」

 「そ、んなわけ……」

 私が強かったら砂蔓さんは今頃笑って生きられていた。私みたいな出来損ないのテンペストよりもずっと命の価値があるのになんで守れなかったの?

 「風華は誰かのために強くなった。砂蔓の最期は穏やかな顔をしていたそうだ」
  
 「……っ!!!!!!!」

 砥部さんは一旦私を離し私の目を見てこう言い切った。

 「俺は砂蔓の心を救ったのは風華だと思っている。だから自分を責めるの。我慢するな。言いたいことを吐き出せ。俺がいくらでも聞いてやる」

 真剣な眼差しだ。私は何かを成し得ただろうか?テンペストを倒すために頑張っただろうか?役に立てたのだろうか?

 「す、砂蔓さんをた、たすけ、たかっ、た」
  
 声がうまく出ない。目頭が熱くなっていくのがわかる。

 「うん」

 私の話を黙って聞いてくれる砥部さん。時々頷いて私の頭を撫でてくれる。

 「いき、てほし、かった。死んで、ほしく、な、かった。い、一緒に、帰り、たかったよおおー!!!!!!!」

 目の前が滲む。涙がポロポロと落ちる。

 「うぅゔわあああん!!!!!!!砂蔓さん。砂蔓さーん!!!!!!!」

 何度も名前を呼び何度も泣き叫び砥部さんは私をそっと抱きしめてうんうんと頷いてくれた。

 しばらくすると私は寝ていた。泣き疲れてしまったのだ。

 「すぅーすぅー」

 「や、やっと見つけました」
  
 私が寝た頃に夢さんが私たちの合流したのを後から砥部さんに聞いた。

 「風華は泣き疲れて寝た」
  
 「……泣けたのですね?」

 風華さんは本当に優しい方。

 「風華は俺の腕の中で泣いた」

 「……」

 「なんだ?」
  
 姫乃が俺を軽蔑な眼差しと言いたいような顔でこう言った。

 「これだと泣かせた相手を自分の腕に抱き寄せたみたいじゃないですか?」

 「???????そうだか?」

 「ばか!」

 いきなりの悪口に砥部は戸惑うのであった。
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