こんなハーレムラブコメ絶対オレは認めない!

OctoBer1993

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第2章

第23話

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主人公からどんどん遠ざかっている男こと、オレ千尋司ちひろつかさは、なぜかアホ大食い幼なじみヒロインの野々村泉ののむらいずみと一緒に観覧車に乗っていた。


なんだこの予想外のパターンは…?
これはハーレムラブコメだよな?

目の前には、観覧車にはしゃぐ野々村。

しかし現実は現実なのだ。
起きてしまったことはもう仕方がない。
ならば今できることを今やるのみ。

二度と同じ過ちを犯さぬように、なぜこんな展開になったのかを推理してみる。

――名探偵ツカサの出番である。

主人公になるためならば頭をフル回転させることはもちろん。
床に落ちいてる白い粉もすかさずペロッと舐めて青酸カリであることを確認することもいとわない覚悟のオレである!

舐めてもオレでは青酸カリかどうかわかんないし…。そんなものを舐めたら大惨事になるような気がするけど…。

幸い床に白い粉が落ちている様子は無いし、今回はおそらく事件性は無いでしょう…。

ならば、やはりこの現象は野々村が幼なじみヒロインというポジションであることが原因であると推察せねばならないだろう。


ふぅ…。
仕方ない、観覧車が地上に着くまで時間はたっぷりある。


オレは、野々村泉に――この【幼なじみヒロイン】に思いをはせてみることにした。


考えてみれば
【ハーレムラブコメの幼なじみヒロイン】
というポジションは不遇なポジションである。

生まれてこのかた、とは言わずとも、物心ついてからこのかた、今までの10何年間を、ほとんど人生の全ての時間を、主人公と過ごしてきたと言っても過言ではない幼なじみヒロイン。

幼少期から常に主人公のことを思い。
しかし、中高生くらいの年齢。
いわゆる『ラブコメ適齢期』になるまでは、その思いは報われることが無いことがとりあえず確定していて…。

しかも、そんな長い年月、他の男には目もくれずに主人公だけを思い続けたあげくに、いざそのラブコメ適齢期にやっとなると。

いきなり現れた、ぽっと出の【転校生】や【後輩】と同格扱いの、ハンデゼロの状態で同じスタートラインに立たされヒロインレースを走り抜かなくてはならず…。

いいや!
それどころか、あまつさえ幼なじみヒロインというのはヒロインレースで負けがちなのだ。

同格どころかハンデを負わされての出走…。


かけてきたコストとそれに対するリターンのバランスが完全に崩壊しているベリーハードなポジション。

それこそが【ハーレムラブコメの幼なじみヒロイン】というポジションなのだ…。

あれれ~?
おっかしいぞーー?

この女の子、不遇だよぉ。
どう考えても不遇すぎだよぉ?


それに加え、幼なじみヒロインのありがちなパターンのひとつでもある、優しくおっとりした性格。

ご多分に漏れず野々村にも当てはまるこの性格も相まって、主人公まわりのイベントに対して積極的に関わらずに遠くから見守るという事もしばしば。

押しの強くない、悪くいえば都合の良いキャラになってしまうパターンが多い。


今日も今日とて、映画館では、理由はどうであれ自分から一番端に座り。
隣はこのオレ…。

この観覧車でも自分から、主人公タイヨウのいるグループを外れるような始末。
同乗者はこのオレ…。


不遇である…。
はっきり言って、かわいそうである…。

自分で言うのも悲しいが、幼なじみヒロイン野々村が不遇なことには間違いない…。

いいのだろうか……?

はたして野々村は、今日という1日を、せっかくのお出かけイベントをこんな過ごしかたでピリオドを打ってしまって本当に良いのだろうか?

ふと、今朝の自分のポエムを思い出す。

『人は自分の目でしかものを見ることができない』


――野々村の目には一体どういう風に見えてるのだろうか。

今日という1日を、タイヨウのことを、自分のことを。

そんなオレの心配(?)など知るよしもない、当の野々村は自分の背もたれ側の景色を見るために、オレにクルっと背を向ける形で、椅子に膝立ちで座り楽しそうに外の景色を眺めている。

「うわー、高いねぇー。ちひろんも見なよー」

外の景色を眺めながら、いつもと変わらぬ調子で野々村がオレに話しかけてくる。

また能天気なこって……。

この状況わかってんのか?
そんなことだとヒロインレース負けまっせアンタ?


「てゆーか、よかったのか?」

思わず口をついたオレの問いかけに、野々村は景色を眺めるのを中断し、背中を向けたまま首だけクルリと回して、こちらに顔をむけた。

「へ?なにが~?」

野々村は、オレの言葉の意味が全くわからないようでキョトンとした顔で、これまたいつものぬけた調子の声でオレの質問に対して質問返しする。

まあ、野々村がアホの子ということを置いといても主語なしでいきなり言われちゃあ、そりゃあ意味がわからないか…。

「いや、皆《みんな》と乗らなくてってこと。別にオレは1人で乗っても良かったんだが。1人は嫌いじゃないし…」



…主人公というのは孤高の存在だしな。



しかし、それを聞いた野々村は、さらにハテナが増えてしまったのかポカーンとした顔だった。

なんでキョトンからポカーンに、疑問度が進化しとんねん!

あれ?オレ今回は難しい単語とか言って無いよな?

「…………」

しかし、依然としてオレのほうを見たまま、アホみたいに口を半開きにしてフリーズしている野々村。

なにも喋らないが、その目は外の景色へとは戻らずに、真っ直ぐオレの目を見たままでいる。

そんなにハッキリと真顔で見続けられると、なんだかなんとなく気まずいじゃねーか…。

野々村の視線から逃れるように、オレのほうから目をそらして外の景色を見てしまう。



――外を見ると辺りはすっかり夕暮れ時だった。

観覧車が地上つけば、時間的にも本日はこれで解散。

今日、土曜日というハッピーデイな1日が終わろうとしている。

昼と夜が入れ替わる、このわずかな時間にしか姿を現すことのできない、綺麗な夕日。
 
決して、でしゃばり自分の存在を誇示するようなこともせずに、ただただ沈んでいくだけ。

なんだか…そんな夕日が【幼なじみヒロイン】というポジションのキャラクターとかぶって見えた。





みんなって言うなら、ちひろんもみんなでしょ?」


「えっ…?」


予期せぬ野々村の言葉に、自ら外した視線をまた野々村のほうへ戻す。

今度は、不思議そうなポカーン顔では無く、あたりまえのような顔をしてそう言った、野々村はまた真っ直ぐオレの目を見て続ける。

「1人で乗るのもいいけど。せっかく皆で来たんだし、誰かと一緒に乗ったほうが楽しいよ?」

そう言って、オレにニコリと微笑んだ。


その表情は、いつもの純粋な子どもの微笑みのようにも見えるし、反対に普段の野々村からは想像がつかないほどの大人びた微笑みのようにも見えた。


人は自分の目でしかものを見ることができない。


野々村泉は――。

主人公だ、親友ポジだ、ヒロインだのと、そういう俯瞰ふかん的なポジションにこだわるオレを。

千尋司ちひろつかさのことを。

『幼なじみである主人公の親友』としてでは無く。

純粋に『1人の友達』として見てくれていたのだ…。


だからこそ彼女は、オレが1人だけで観覧車に乗るようなことを許してくれなかったのだろう。

それは文字通り、友達であって、そこにはそれ以上の特別な感情は存在しないだろう。

本人も『誰かと』と言ったように、野々村にとっては、雨宮も、日南も、同様にすべからく大事な友達で。

もしこれが1人になったのがオレじゃなく、他のメンバーの誰だったとしても、野々村はきっと同じようにしたのだろう。

野々村泉という女の子にとっては、それはあたりまえのことなのだ。

決して同情や哀れみなどからくるものでも無く、純粋に友達だから、あたりまえにそうする…ということなのだろう。


そんな野々村の、純粋でイヤミの無い優しさをオレは――素直にありがたいと感じた。


無論、オレはこれからも主人公に憧れ、主人公になることを目指すし。
その考え、行動を改めるようなこともしない。


けれど、今は。
この観覧車が地上に着くまでは。

オレは『主人公を目指す主人公の親友ポジション』では無く。
野々村泉は『主人公と幼なじみのヒロイン』としてでは無く。

ただの『1人の友達』として、観覧車から見えるこの景色を、楽しもうと…。


もう既に景色の方へとまた顔を向き直して、楽しそうに眺めている野々村の姿を見ながら。


――そう思った。
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