新緑の候

みなも・もなみ

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6 母子手帳

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 予想通りだし、そうじゃない方が不思議という域にまで達してる。
 椿くんの部屋は、同じ間取りの家の中で、同じ部屋を選んでいた。
 その上、同じ位置に机とベッドと本棚がレイアウトされていた。

 「ずいぶん手の込んだドッキリだな!」

 椿くんは腕組んで力強く言った。

 わたしは本棚に飾ってある硝子製の小さなイルカを手にとって
 「手が込みすぎだよ。これ、わたしも持ってる。」
 窓から差し込む日の光にかざした。

 「それ、俺が捨てられていたときに、唯一持っていた物なんだ。」

 「えっ!?」わたしは一瞬固まった。

 「……っていうパターン多じゃない。俺、ああいうの苦手なんだ。先が読めちゃうし。」

 本棚に漫画一冊もないけど、結構読んでるな……

 「茨城県の大洗水族館で買ったんだ。このボールペンも。」

 「あ、わたしもそうだよ!家族旅行で!」
 また同じところが見つかって、ほっとしている自分がいた。

 前触れもなくドアが開いた。
 そこには小学生か中学生位の女の子が立っていた。
 「……」
 こちらを見て口をあんぐり開けていた。
 ハッと何かスイッチが入ったようで廊下の方に向いて
 「お姉ちゃん大変!すごいよ!こっちきて!」
 と、大声を上げた。

 椿くんは
 「すまない、見世物みたいになっちまって」
 と言いながら頭をかいた。

 「何人の兄弟姉妹なの?」

 「三人。上に姉、下に妹だよ。俺は真ん中。」

 「わたしは上に二人の姉。末っ子なの。ポジション違うけど同じ三人だね」

 椿くんの妹さんとお姉さんが部屋に姿を見せた。
 お姉さんは椿くんの肩に手をのせ、真顔で言った。

 「椿、ドッペルゲンガーって知ってるか?」

 「マジでオカルト苦手だからやめてくれ」

 その後は、一緒に外食ランチをして、その帰りに夕飯の買い物をして、隣同士なので家の門の前で別れた。

  夕食後、ママと二人で食器を洗っていると窓の外に青葉さん夫妻がうちの門の前に立つ姿が見えた。

 「すーちゃんは、お2階に行ってて。パパ、青葉さんきたわよ。」

 わたしは言われたとおり2階の自室に行った。

 玄関の方から男性の声が聞こえる。
 「とりあえず、キリンとサッポロとアサヒ持ってきましたよ!」

 そんな飲み会の話は聞いてないぞ、おい。

 話し声の様子だと、椿くんも来ているようだった。
 
 わたしは日記をつけていると、椿くんが真剣な面持ちでリビングに来るよう呼びに来た。

 リビングの雰囲気は椿くんと正反対に和やかだった。

 ローテーブルの上には、母子手帳がひとつ置いてあった。

 名前は

  二宮 百合花

 ……花の名前が心に重くのしかかった。
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