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8 命のリレー
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翌朝、わたしと椿くんと、お互いの両親の6人で、実親のお墓参りに行くことになった。
椿くんの姉妹には、親戚のお墓の掃除を椿くんに手伝ってもらうという話にしているらしい。
墓地へ向かう車中、わたしは半分眠りながら、ずっと母子手帳手にしていた。
「その母子手帳は、すーちゃんが入っていた 保育器のスナグルの下にあったのよ。」
目を閉じると、昨夜、リビングで最初に聞いたママの言葉が頭の中ではっきりと蘇る。
車の窓ガラスを少し下ろすと、朝の香りがほのかに残る優しい風が入り込んできた。
考えすぎて熱っぽいおでこには心地よい冷たさだった。
震災時に分娩室で何が起こったか誰も知らない。
そこで働いていた人たちは助からなかったらしい。
停電でエレベーター使えなくて、病院のスタッフは多くの保育器を屋上に運ぶために階段を何度も上り下りしたという。
そして、病院が紙のカルテだったことと、震災時の混乱で、何人かの赤ちゃんは身元不明になった。
母子手帳には二卵性双生児と記録されている。
身元不明の赤ちゃんだを引き取った青葉さん夫妻の証言と、これだけそっくりな顔を並べられると、兄妹ということを疑う余地もない。
椿くんは手首に識別タグが巻き付けられていた。
だけど、わたしにはタグが付いていなかった。
とても大変な状況だったのだろう。
体を洗う時間もなく、保育器に入れられたようで、スナグルには落としきれなかった血液が付着していた。
墓地公園で車を降り、新緑に囲まれた広々とした光景を見渡した。
後に続いた青葉さんちの車も入ってきた。
車から出てきた椿くんの表情は硬かった。
椿くんは身元不明の赤ちゃんだったので、ご両親もこの場所ははじめてだった。
「こちらが二宮家の墓です。向こうの角に見えるのが、母親の旧姓、野原家の墓です。多くの時間をかけて親族を探しましたが、元気な姿でお会いすることは出来ませんでした。」
それぞれにお線香をあげ、手を合わせた。
わたしは目をつぶって祈っているとき、何も言葉が浮かばなかった。
心の中に沢山の戸惑いが溢れていたから。
「昨日の今日で、言葉が見つからない。」
そう言って、椿くんの方を向いた。
「俺も。とりあえず、遅くなってゴメンって謝った。」
「わたしよりずっと良いよ。」
「聞かせてもらえないか?」
「おはようございます。」
「……次回、頑張ろうな。」
「うん。」
慰霊碑のある丘へ移動した。
そこには実の両親の名が刻まれていた。
わたしは椿くんの言葉を借りた。
「遅くなってゴメンなさい。」
椿くんが軽く微笑んだ。
その笑顔はとてもまぶしくて
消さなければならない胸の奥に芽生えかけた想いを苦しくさせた。
帰ったら日記の数ページは封印だ。と、考えながら腕時計を見ると、時計の針は正午を指していた。
椿くんの姉妹には、親戚のお墓の掃除を椿くんに手伝ってもらうという話にしているらしい。
墓地へ向かう車中、わたしは半分眠りながら、ずっと母子手帳手にしていた。
「その母子手帳は、すーちゃんが入っていた 保育器のスナグルの下にあったのよ。」
目を閉じると、昨夜、リビングで最初に聞いたママの言葉が頭の中ではっきりと蘇る。
車の窓ガラスを少し下ろすと、朝の香りがほのかに残る優しい風が入り込んできた。
考えすぎて熱っぽいおでこには心地よい冷たさだった。
震災時に分娩室で何が起こったか誰も知らない。
そこで働いていた人たちは助からなかったらしい。
停電でエレベーター使えなくて、病院のスタッフは多くの保育器を屋上に運ぶために階段を何度も上り下りしたという。
そして、病院が紙のカルテだったことと、震災時の混乱で、何人かの赤ちゃんは身元不明になった。
母子手帳には二卵性双生児と記録されている。
身元不明の赤ちゃんだを引き取った青葉さん夫妻の証言と、これだけそっくりな顔を並べられると、兄妹ということを疑う余地もない。
椿くんは手首に識別タグが巻き付けられていた。
だけど、わたしにはタグが付いていなかった。
とても大変な状況だったのだろう。
体を洗う時間もなく、保育器に入れられたようで、スナグルには落としきれなかった血液が付着していた。
墓地公園で車を降り、新緑に囲まれた広々とした光景を見渡した。
後に続いた青葉さんちの車も入ってきた。
車から出てきた椿くんの表情は硬かった。
椿くんは身元不明の赤ちゃんだったので、ご両親もこの場所ははじめてだった。
「こちらが二宮家の墓です。向こうの角に見えるのが、母親の旧姓、野原家の墓です。多くの時間をかけて親族を探しましたが、元気な姿でお会いすることは出来ませんでした。」
それぞれにお線香をあげ、手を合わせた。
わたしは目をつぶって祈っているとき、何も言葉が浮かばなかった。
心の中に沢山の戸惑いが溢れていたから。
「昨日の今日で、言葉が見つからない。」
そう言って、椿くんの方を向いた。
「俺も。とりあえず、遅くなってゴメンって謝った。」
「わたしよりずっと良いよ。」
「聞かせてもらえないか?」
「おはようございます。」
「……次回、頑張ろうな。」
「うん。」
慰霊碑のある丘へ移動した。
そこには実の両親の名が刻まれていた。
わたしは椿くんの言葉を借りた。
「遅くなってゴメンなさい。」
椿くんが軽く微笑んだ。
その笑顔はとてもまぶしくて
消さなければならない胸の奥に芽生えかけた想いを苦しくさせた。
帰ったら日記の数ページは封印だ。と、考えながら腕時計を見ると、時計の針は正午を指していた。
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