恋なし、風呂付き、2LDK

蒼衣梅

文字の大きさ
14 / 119

14 同級生

しおりを挟む
 あ、同じ歳って最初に思った。
 ほら、最初に運転免許証見せてもらったから。
 別に同じ年に生まれたってだけで、共通点なんてなんもないけど。でも、ただその一つがあったから、なんかちょっとだけ親近感があったのは確かで。
 もしも年齢が違ってたら、一つでもズレてたら、この共同生活はなかったかも。
 そう、思ったりもする。

「あ、じゃあ、あのドラマ見てた?」
「?」
「千回プロポーズ!」
「あぁ、見てた」

 うちらが中学一年の時にすっごい人気だったドラマ。

「あれってさ、俳優さんがめちゃくちゃかっこよくて」
「あれって、女優がめちゃくちゃ可愛くて」

 言ったのはほぼ同時。

「「…………」」

 でも、言ってることがちょっと違うから、ところどころ完全にハモって、ところどころ完全に別々になって。

「「っぷ、あはははは」」

 そのリンクの凄さに二人で同時に笑った。

「やっぱ見てたんだ」
「そりゃ、だって、翌日はその話題で持ちきりだろ?」
「そうそう! そうだったそうだった」

 二人でちょおおおおお怖いホラー映画見た後、今度はちょおおおおおお笑えるコメディを見て、そしたら、そのコメディから昔、子どもの頃に見てたバラエティ番組の話になって、そっから他の年代の話し相手じゃ絶対に盛り上がることのない時事ネタで笑ってる。

「毎回、すっごい、んもおおおってなるくらいにもどかしくてさぁ」
「まぁ、そうだな」
「あっんなイケメンが自分のこと好きって毎回言うんだよ? もうそれだけでくっつけー! って思ってた」
「っぷは、なるほどな。でも、横恋慕キャラがいただろ?」
「いた、いたいた! あれがさぁ」

 ソファの手前にあるテーブルには空いたチューハイの缶がいくつも。久我山さんはなんでも飲めるんだね。お酒、すっごい強いんだ。ワインでもチューハイでもなんでも飲めちゃうらしくて。俺はチューハイメインだから、今日はそれに合わせてくれてるのかもしれない。

「でも、あれもイケメンって言われてたろ? 当時、結構人気があった気がするけど」
「んー、あれは好みじゃないっ。イケメンだけどさ、軽くない?」
「あぁ、まぁ」

 今は、その中一の時、もうクラスのほとんどが見てたドラマの話。

「けど、あのタイトルが微妙だったよな。当時もすっげぇいじられてた」
「確かに。旋回プロポーズとか言われてた」
「まぁ、男の方パイロットだったからな」
「あの当時もすっごいバラエティでパロドラマあったよね」
「あったな」

 千回、プロポーズ。
 もうその名前のとおり。千回くらいプロポーズするの。
 主人公の女の子が交通事故にあって、それから記憶喪失になっちゃって。で、その時に付き合ってた彼氏のことも忘れちゃったところから物語は始まる。
 彼氏の方はプロポーズをしようとしてて、だから、指輪を持って、その約束の場所へと向かう。
 そして主人公の女の子、久我山さんに可愛いと言わせた女優さん、その当時、もんのすごい大人気だった人なんだけど、その人も約束の場所へ向かう……途中で車にはねられちゃって。
 どーん、って。
 そして病室のベッドで目を覚ましてさ。
 彼氏の方はほっと胸を撫で下ろすんだけど。時計の針が十二時になった瞬間。

 ――あの、どちら様、ですか?

 その一言から始まる。
 そして、記憶喪失の彼女に色々教えて、あ、これはやっぱり元のいい感じに戻るのね。ほら、記憶まだ戻ってないけど、恋する感じじゃん? いい感じじゃん? なんてホッとしながらその様子を見守って、初回延長スペシャルだったそのラストシーン。主人公の彼氏も、視聴者である日本に住む全中学生も、これで大丈夫。さ、もう一回プロポーズだ!
 なんて思った瞬間。

 ――あの、どちら様、ですか?

 そのセリフでドラマの初回が終わるんだ。

「もう、学校行くとみんな真似してなかった?」
「してた」

 振り返って「あの、どちら様、ですか?」ってただ言い合うの。

「アホみたいにやってたよね」
「まぁな」
「え、久我山さんも?」
「俺は男だから……でも、まぁ、たまにな」
「やってた? やってたの? ちょおおおおお見てみたかった! 久我山さんバージョンのどちら様ですか」
「絶対に嫌だ」
「ええええ? 超見たいんですけどおおお」
「なんか、変に期待をされるプレッシャーで無理」
「なんだそれ! じゃあ……そんなに? 見たくなんてないかもしれない、かもしれない」
「どっちなんだよ」

 そこで久我山さんは笑いながらチューハイが半分くらい入ってたグラスをぐびっと飲み干した。

「あ、じゃあさ、どのシーンが一番好きだった? 実演でやってみよー」
「っぷは、ノリが完全酔っ払いだな」
「そりゃ、そーでしょーよ」

 言いながら、ソファの上に膝を抱えて座っていた俺は、ゆりかごに揺れるように自分の身体を左右にゆっくり揺らした。ただそれだけで、頭がふわりふわりとクラゲみたいに漂ってる感じ。これは。

「これは明日、また味噌汁決定だな」
「っぷは、かもしれない」
「……何回でも言う、君に好きだって」

 そっとその時、久我山さんがソファに手をついて、身を乗り出すようにこっちに近づくと、いつもの低い声を柔らかく、柔らかく変えて優しくそっと囁いた。

「…………」

 まるでキスでもするみたいに首を傾げて――。

「っぷは、すげぇ驚いた顔」
「! んもおおおお! びっくりした! 何その声のトーン! 女ったらし、こわ!」
「なんでだよ」

 何話、だったっけ? 忘れちゃった。でもドラマの終盤あたり。記憶がどうしても深夜の十二時までしか持たないことに悲しむ主人公にそっと、そっと優しく婚約者である彼が告げるシーン。

「な、なるほどねぇ、なるほどなるほど」

 そのシーン、俺もすごく覚えてる。

「そんで? 聡衣の思う名シーンは?」
「…………やりません。恥ずかしいから」

 あるけどね。

「はぁ? お前」
「っていうか、久我山さんがやると思わないじゃん!」
「やるだろ。酔っ払いのノリだ」
「どんなノリだよ」

 あるけど、ちょっとね。

「今、やらないと、明日の夕飯作らないからな。それから朝の味噌汁も」
「えぇ? なにそれ、横暴! っていうか、お味噌汁、納豆がいいです!」
「ぷはっ、ハマったか?」

 あるけど、ちょっと、やらない。

「美味しかった」
「そりゃ、よかった」

 ちょっと……ね。
 そして、久我山さんはまたグラスにチューハイを注いだ。けれどもうグラスの半分くらいしかなくて。

「じゃあ、明日は納豆の味噌汁、だな」
「やった」

 でも、そこに追加で新しいチューハイの缶は開けなかった。楽しい昔話はここで、終わりっぽかった。



しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

僕の目があなたを遠ざけてしまった

紫野楓
BL
 受験に失敗して「一番バカの一高校」に入学した佐藤二葉。  人と目が合わせられず、元来病弱で体調は気持ちに振り回されがち。自分に後ろめたさを感じていて、人付き合いを避けるために前髪で目を覆って過ごしていた。医者になるのが夢で、熱心に勉強しているせいで周囲から「ガリ勉メデューサ」とからかわれ、いじめられている。  しかし、別クラスの同級生の北見耀士に「勉強を教えてほしい」と懇願される。彼は高校球児で、期末考査の成績次第で部活動停止になるという。  二葉は耀士の甲子園に行きたいという熱い夢を知って……? ______ BOOTHにて同人誌を頒布しています。(下記) https://shinokaede.booth.pm/items/7444815 その後の短編を収録しています。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

処理中です...