恋なし、風呂付き、2LDK

蒼衣梅

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54 君のおかげ

 ずっと、少し不思議に思ってた。
 どうして蒲田さんは俺たちのこと認めないんだろうって。
 でもさ、なんとなく、そうじゃないかなぁって。
 認めないんじゃなくて、認めたくないんじゃないかなって。

「なんで……」

 蒲田さんって、多分、旭輝のこと好きだったんじゃないかなぁって。

「なんで、久我山さんの恋人が僕と同じ男なんですか……」

 女の人が相手なら、きっと興信所からの報告書にすぐに納得したんじゃないかな。でも、その恋人が男だなんて信じられないし、信じたくなかった。だからずっとずっと調査を継続してた。
 切なくなるよね……。
 だって、ずっと好きだったんだもん。
 横からかっさわれた感がすごいよね、きっと。

「……僕、だって、ずっと好きだったのに、でも、女ったらしで、女の人しか恋愛対象じゃない人だから、諦めてたのに。どうして、あなたが選ばれたんですか」
「……うん」
「僕の方がずっとっ」
「……うん」


 自分が蒲田さんの立場なら悲しくて切なくてたまらないと思う。それなら言って仕舞えばよかった。そしたら自分がなれたかもしれないのに。自分が彼の恋人になれたかもしれないのにって。

「ごめんね。でも」
「……」
「でも」

 胸がぎゅってする。

「俺も、旭輝のこと、好き」
「……」

 バックヤードの小さな、端っこには在庫の段ボールだって山積み担ってる小さな部屋で、ポツリと呟いた。
 蒲田さんはその言葉に、また目を大きくパチパチと瞬きさせて、その拍子に零れ落ちた涙にパッと俯いた。

「知ってます……義君が教えてくれたから」
「義……」
「叔父です」
「あ、うん」

 義君、って呼ぶんだ。国見さんのこと。でも、なんか……似合ってる。

「あの義君でさえダメだったんです。きっと誰も入れる隙間なんてないんですよ」
「……」

 入れる隙間って。
 俺と、旭輝の?

「ラブラブだって言ってました。義君すごくモテるんです。なのに、それでも落ちたなかったんなら相当なんです。そんなのきっとそもそも僕は敵わない」
「……」
「義君がいうには、すごく楽しそうに久我山さんのこと話してたって、その話を聞くだけでも、久我山さんだってすごく貴方のことを大事にしてる感じがするって。何より、僕、本当にずっと片思いしてたんで知ってるんです。前に一度貴方にはお話ししましたけど、本当に手早いんです。あっという間の出来事なんです。それなのに、そんな手の早い久我山さんが全然手を出してないっぽいのとか、もうその時点であり得ないことで……って、聞いてますか? 僕の話」
「は……ぃ」

 そ、なんだ。
 俺、そんなに大事に。

「聞いて……ます」

 大事に、してもらえてるんだ。

「あの……蒲田さん」
「はい」
「ありがと」
「…………はい?」

 あは。ちょっと懐かしい、その顔。最初、あのお芝居の時もすっごい顔で睨まれたっけ。接客業してて理不尽に当たられることもあったし、理不尽に怒鳴られることもあったし、もちろん嫌な顔をされることもあったけど、そのどれもが敵わないくらい、すっごい顔で睨まれた。
 びっくりしたけど。
 あれも今思えばそうもなるわけだよね。
 だって、旭輝のこと好きだったんだもん。俺はライバルなわけだから。

「僕、お礼を言われるようなこと今ひとつも言ってないんですけど」

 実は、言ったんだ。

「ううん。すっごい感謝」
「……はぁ?」

 ちょっと半信半疑だった。恋なんてさ一番厄介な臆病虫がくっついてる。どんなに普段「はぁ?」なんて言えちゃうような人だって恋を始めるのにも、始まったあとにも、ずっとずっとその臆病虫が身体にくっついちゃう。
 俺にももちろんくっついてた。

「ありがとっ」

 男なんて恋愛対象外だもん。告白なんてできるわけない。見てるだけ。そんな臆病虫が蒲田さんにくっついてた。
 ノンケなんて恋愛対象外。だっていつか女の人のところに行くでしょ? いつか絶対にバイバイってなるでしょ? そういう臆病虫が俺のところに。
 それと、男となんて付き合ったことのない旭輝はあのキスひとつで、やっぱ、間違えだったって後悔してるかもしれない、そんな臆病虫がつい最近俺にくっついてた。

「ね、蒲田さん」
「はい?」
「そのまんまの蒲田さんでいたらきっとすっごい可愛いと思うからさ」
「はぁ?」
「応援してる」
「はいぃ? なんで、応援されなくちゃいけないんですか」
「いーからいーから」

 だって、貴方のおかげで楽しみになった。自信が持てた。

「今度、一緒に飲もうね」
「飲みませんよ!」
「俺、恋愛なら結構してきたから相談たくさん乗るし!」
「いりませんよ! むしろ! 貴方のせいで落ち込んだんですから」
「うん」
「うんって! 貴方、何、うんって!」

 蒲田さんのおかげで。

「うん」
「だから! うんって」

 俺、旭輝に好かれてるって、自信持てたよ。




「あ、もしもし、お仕事、お疲れ様です。俺、明日明後日、仕事だけど、月曜日休みだから、月曜日のご飯、頑張るね。それじゃーね」

 他愛のない留守電メッセージ。
 でも、ついさっきまでならできなかった。俺が休みの日、そこで何かあるのかなとか、いやいや、ないんじゃない? やっぱりって、ちょっと距離あるかもよ? とか、色々考えちゃってたかもしれない。でも、きっとその日は恋人として、一日遅れのクリスマスになるって今は思う。
 一日遅れのクリスマス、料理初心者の俺だけど七面鳥くらい焼けちゃいそうな気がしてきた。

「やば! 休憩終わり!」

 そして大急ぎで店内へと向かう足取りはクリスマスのベルの音でもしそうなくらい軽く飛び跳ねてる気がした。


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