54 / 119
54 君のおかげ
ずっと、少し不思議に思ってた。
どうして蒲田さんは俺たちのこと認めないんだろうって。
でもさ、なんとなく、そうじゃないかなぁって。
認めないんじゃなくて、認めたくないんじゃないかなって。
「なんで……」
蒲田さんって、多分、旭輝のこと好きだったんじゃないかなぁって。
「なんで、久我山さんの恋人が僕と同じ男なんですか……」
女の人が相手なら、きっと興信所からの報告書にすぐに納得したんじゃないかな。でも、その恋人が男だなんて信じられないし、信じたくなかった。だからずっとずっと調査を継続してた。
切なくなるよね……。
だって、ずっと好きだったんだもん。
横からかっさわれた感がすごいよね、きっと。
「……僕、だって、ずっと好きだったのに、でも、女ったらしで、女の人しか恋愛対象じゃない人だから、諦めてたのに。どうして、あなたが選ばれたんですか」
「……うん」
「僕の方がずっとっ」
「……うん」
自分が蒲田さんの立場なら悲しくて切なくてたまらないと思う。それなら言って仕舞えばよかった。そしたら自分がなれたかもしれないのに。自分が彼の恋人になれたかもしれないのにって。
「ごめんね。でも」
「……」
「でも」
胸がぎゅってする。
「俺も、旭輝のこと、好き」
「……」
バックヤードの小さな、端っこには在庫の段ボールだって山積み担ってる小さな部屋で、ポツリと呟いた。
蒲田さんはその言葉に、また目を大きくパチパチと瞬きさせて、その拍子に零れ落ちた涙にパッと俯いた。
「知ってます……義君が教えてくれたから」
「義……」
「叔父です」
「あ、うん」
義君、って呼ぶんだ。国見さんのこと。でも、なんか……似合ってる。
「あの義君でさえダメだったんです。きっと誰も入れる隙間なんてないんですよ」
「……」
入れる隙間って。
俺と、旭輝の?
「ラブラブだって言ってました。義君すごくモテるんです。なのに、それでも落ちたなかったんなら相当なんです。そんなのきっとそもそも僕は敵わない」
「……」
「義君がいうには、すごく楽しそうに久我山さんのこと話してたって、その話を聞くだけでも、久我山さんだってすごく貴方のことを大事にしてる感じがするって。何より、僕、本当にずっと片思いしてたんで知ってるんです。前に一度貴方にはお話ししましたけど、本当に手早いんです。あっという間の出来事なんです。それなのに、そんな手の早い久我山さんが全然手を出してないっぽいのとか、もうその時点であり得ないことで……って、聞いてますか? 僕の話」
「は……ぃ」
そ、なんだ。
俺、そんなに大事に。
「聞いて……ます」
大事に、してもらえてるんだ。
「あの……蒲田さん」
「はい」
「ありがと」
「…………はい?」
あは。ちょっと懐かしい、その顔。最初、あのお芝居の時もすっごい顔で睨まれたっけ。接客業してて理不尽に当たられることもあったし、理不尽に怒鳴られることもあったし、もちろん嫌な顔をされることもあったけど、そのどれもが敵わないくらい、すっごい顔で睨まれた。
びっくりしたけど。
あれも今思えばそうもなるわけだよね。
だって、旭輝のこと好きだったんだもん。俺はライバルなわけだから。
「僕、お礼を言われるようなこと今ひとつも言ってないんですけど」
実は、言ったんだ。
「ううん。すっごい感謝」
「……はぁ?」
ちょっと半信半疑だった。恋なんてさ一番厄介な臆病虫がくっついてる。どんなに普段「はぁ?」なんて言えちゃうような人だって恋を始めるのにも、始まったあとにも、ずっとずっとその臆病虫が身体にくっついちゃう。
俺にももちろんくっついてた。
「ありがとっ」
男なんて恋愛対象外だもん。告白なんてできるわけない。見てるだけ。そんな臆病虫が蒲田さんにくっついてた。
ノンケなんて恋愛対象外。だっていつか女の人のところに行くでしょ? いつか絶対にバイバイってなるでしょ? そういう臆病虫が俺のところに。
それと、男となんて付き合ったことのない旭輝はあのキスひとつで、やっぱ、間違えだったって後悔してるかもしれない、そんな臆病虫がつい最近俺にくっついてた。
「ね、蒲田さん」
「はい?」
「そのまんまの蒲田さんでいたらきっとすっごい可愛いと思うからさ」
「はぁ?」
「応援してる」
「はいぃ? なんで、応援されなくちゃいけないんですか」
「いーからいーから」
だって、貴方のおかげで楽しみになった。自信が持てた。
「今度、一緒に飲もうね」
「飲みませんよ!」
「俺、恋愛なら結構してきたから相談たくさん乗るし!」
「いりませんよ! むしろ! 貴方のせいで落ち込んだんですから」
「うん」
「うんって! 貴方、何、うんって!」
蒲田さんのおかげで。
「うん」
「だから! うんって」
俺、旭輝に好かれてるって、自信持てたよ。
「あ、もしもし、お仕事、お疲れ様です。俺、明日明後日、仕事だけど、月曜日休みだから、月曜日のご飯、頑張るね。それじゃーね」
他愛のない留守電メッセージ。
でも、ついさっきまでならできなかった。俺が休みの日、そこで何かあるのかなとか、いやいや、ないんじゃない? やっぱりって、ちょっと距離あるかもよ? とか、色々考えちゃってたかもしれない。でも、きっとその日は恋人として、一日遅れのクリスマスになるって今は思う。
一日遅れのクリスマス、料理初心者の俺だけど七面鳥くらい焼けちゃいそうな気がしてきた。
「やば! 休憩終わり!」
そして大急ぎで店内へと向かう足取りはクリスマスのベルの音でもしそうなくらい軽く飛び跳ねてる気がした。
どうして蒲田さんは俺たちのこと認めないんだろうって。
でもさ、なんとなく、そうじゃないかなぁって。
認めないんじゃなくて、認めたくないんじゃないかなって。
「なんで……」
蒲田さんって、多分、旭輝のこと好きだったんじゃないかなぁって。
「なんで、久我山さんの恋人が僕と同じ男なんですか……」
女の人が相手なら、きっと興信所からの報告書にすぐに納得したんじゃないかな。でも、その恋人が男だなんて信じられないし、信じたくなかった。だからずっとずっと調査を継続してた。
切なくなるよね……。
だって、ずっと好きだったんだもん。
横からかっさわれた感がすごいよね、きっと。
「……僕、だって、ずっと好きだったのに、でも、女ったらしで、女の人しか恋愛対象じゃない人だから、諦めてたのに。どうして、あなたが選ばれたんですか」
「……うん」
「僕の方がずっとっ」
「……うん」
自分が蒲田さんの立場なら悲しくて切なくてたまらないと思う。それなら言って仕舞えばよかった。そしたら自分がなれたかもしれないのに。自分が彼の恋人になれたかもしれないのにって。
「ごめんね。でも」
「……」
「でも」
胸がぎゅってする。
「俺も、旭輝のこと、好き」
「……」
バックヤードの小さな、端っこには在庫の段ボールだって山積み担ってる小さな部屋で、ポツリと呟いた。
蒲田さんはその言葉に、また目を大きくパチパチと瞬きさせて、その拍子に零れ落ちた涙にパッと俯いた。
「知ってます……義君が教えてくれたから」
「義……」
「叔父です」
「あ、うん」
義君、って呼ぶんだ。国見さんのこと。でも、なんか……似合ってる。
「あの義君でさえダメだったんです。きっと誰も入れる隙間なんてないんですよ」
「……」
入れる隙間って。
俺と、旭輝の?
「ラブラブだって言ってました。義君すごくモテるんです。なのに、それでも落ちたなかったんなら相当なんです。そんなのきっとそもそも僕は敵わない」
「……」
「義君がいうには、すごく楽しそうに久我山さんのこと話してたって、その話を聞くだけでも、久我山さんだってすごく貴方のことを大事にしてる感じがするって。何より、僕、本当にずっと片思いしてたんで知ってるんです。前に一度貴方にはお話ししましたけど、本当に手早いんです。あっという間の出来事なんです。それなのに、そんな手の早い久我山さんが全然手を出してないっぽいのとか、もうその時点であり得ないことで……って、聞いてますか? 僕の話」
「は……ぃ」
そ、なんだ。
俺、そんなに大事に。
「聞いて……ます」
大事に、してもらえてるんだ。
「あの……蒲田さん」
「はい」
「ありがと」
「…………はい?」
あは。ちょっと懐かしい、その顔。最初、あのお芝居の時もすっごい顔で睨まれたっけ。接客業してて理不尽に当たられることもあったし、理不尽に怒鳴られることもあったし、もちろん嫌な顔をされることもあったけど、そのどれもが敵わないくらい、すっごい顔で睨まれた。
びっくりしたけど。
あれも今思えばそうもなるわけだよね。
だって、旭輝のこと好きだったんだもん。俺はライバルなわけだから。
「僕、お礼を言われるようなこと今ひとつも言ってないんですけど」
実は、言ったんだ。
「ううん。すっごい感謝」
「……はぁ?」
ちょっと半信半疑だった。恋なんてさ一番厄介な臆病虫がくっついてる。どんなに普段「はぁ?」なんて言えちゃうような人だって恋を始めるのにも、始まったあとにも、ずっとずっとその臆病虫が身体にくっついちゃう。
俺にももちろんくっついてた。
「ありがとっ」
男なんて恋愛対象外だもん。告白なんてできるわけない。見てるだけ。そんな臆病虫が蒲田さんにくっついてた。
ノンケなんて恋愛対象外。だっていつか女の人のところに行くでしょ? いつか絶対にバイバイってなるでしょ? そういう臆病虫が俺のところに。
それと、男となんて付き合ったことのない旭輝はあのキスひとつで、やっぱ、間違えだったって後悔してるかもしれない、そんな臆病虫がつい最近俺にくっついてた。
「ね、蒲田さん」
「はい?」
「そのまんまの蒲田さんでいたらきっとすっごい可愛いと思うからさ」
「はぁ?」
「応援してる」
「はいぃ? なんで、応援されなくちゃいけないんですか」
「いーからいーから」
だって、貴方のおかげで楽しみになった。自信が持てた。
「今度、一緒に飲もうね」
「飲みませんよ!」
「俺、恋愛なら結構してきたから相談たくさん乗るし!」
「いりませんよ! むしろ! 貴方のせいで落ち込んだんですから」
「うん」
「うんって! 貴方、何、うんって!」
蒲田さんのおかげで。
「うん」
「だから! うんって」
俺、旭輝に好かれてるって、自信持てたよ。
「あ、もしもし、お仕事、お疲れ様です。俺、明日明後日、仕事だけど、月曜日休みだから、月曜日のご飯、頑張るね。それじゃーね」
他愛のない留守電メッセージ。
でも、ついさっきまでならできなかった。俺が休みの日、そこで何かあるのかなとか、いやいや、ないんじゃない? やっぱりって、ちょっと距離あるかもよ? とか、色々考えちゃってたかもしれない。でも、きっとその日は恋人として、一日遅れのクリスマスになるって今は思う。
一日遅れのクリスマス、料理初心者の俺だけど七面鳥くらい焼けちゃいそうな気がしてきた。
「やば! 休憩終わり!」
そして大急ぎで店内へと向かう足取りはクリスマスのベルの音でもしそうなくらい軽く飛び跳ねてる気がした。
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21)
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。