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90 あったかい指先
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今日も結構忙しかった。初売りだったからね。でも常連さんも多かったから一人一人お話ししながらの応対って感じで楽しかったなぁ。
「少し遅くなっちゃったね。今日はお疲れ様」
「あ、国見さん」
「それじゃあ、明後日、また宜しくね」
「え、でも」
今日は三日で初売りだった。明日は四日で、水曜日。普段なら水曜日は定休日なんだけど元旦と二日お休みにしてたから、お店はやるんだって。でも、俺は契約通り、お休みでいいと言ってもらった。
元々定休日だからそう忙しくないだろうって。初売りの福袋はありがたいことに初日で完売。明日は初売り目当ての方もいないからゆっくり店をやっているって言ってくれた。
「大丈夫だよ。ほら、遅くなったから早く。じゃないと残業代支払わないといけなくなる」
「あ、は、はいっ」
「それは冗談だけどね」
ヒラヒラと手を振ってくれる国見さんに頭を下げてお店を出た。
外はひんやりとしていて、出た瞬間、エアコンで暖まっていた身体がきゅっと縮こまる。
「は、さむ……」
あの人。
近くで見るとすっごい美人だった。
迫力ある美人って感じ。
あんな人が? 旭輝のこと?
そりゃ、俺みたいなのに取られたら癪だよね。
十センチヒール履いちゃったら、俺より背高いじゃん。そこらへんの男じゃ、並んで歩くの恐縮しちゃうくらい。でも、そんなそこらへんの男は相手にしないんだろうなぁって感じ。まさに高嶺の花。そんな花が欲しいと思ったのは――。
自分の隣に、と招きたかったのは――。
「聡衣!」
「!」
「お疲れ」
あの人も旭輝が欲しかった。
「! あ、旭輝? 何して」
「聡衣を待ってたに決まってるだろ」
「……」
「普段はこんなことできないからな」
だから、かな。国見さん、なんか今日はすごく早く帰らせようとしてたんだよね。さっきとか、早く早くって。普段は逆に「もう帰っちゃうのか」なんて笑って言ってくる。君といると楽しいよって。でも、今日は急かすから残業代を本当に気にしてるのかなとか思ったんだけど。
「寒かったでしょ?」
「まぁな」
「も、ぉ、待つとかしなくていいのに。そう遠くないし。っていうか、言ってよ」
待ってるなら急いだのに。旭輝は笑いながら俺の肩越しに国見さんのお店へと視線を向ける。ちょうど店内の様子を窺える窓が真正面にある。でも、お店の中は明るいから外の様子は目を凝らして見ないとわからなくて。
「少しだけ、見てた」
「え?」
「聡衣が仕事してるとこ」
「……」
「エダシマさんだって、一人感動してただけ」
「なっ」
旭輝は手を伸ばして、いつもみたいに頬に触れようとして、その手を、指を、引っ込めちゃった。
「あ、アホなことしてないでよ!」
「あははは」
笑ってるし。だって、ねぇ、閉店しました、はいお疲れ様、ってわけじゃないの。お店閉めた後に掃除して、商品整理をある程度して、翌日の品出しがしやすいように準備してから仕事おわるんだから。だから、お店で働く様子から見てたらここで一時間は待つようじゃん。この寒い、真冬の夜に何してんの?
ねぇ。
「見てみたかったんだよ。たまにまだ信じられない時があるから」
ねぇ、冷え切ってしまった指引っ込めないでよ。
「聡衣」
「もぉっ!」
だから、その指先を捕まえた。慌てて捕まえて、ね? あったかいでしょ? ポカポカだから大丈夫って伝わるようにぎゅっとしっかり握った。旭輝は少し慌てて、引っ込めたそうにしてた。俺の指が冷えてしまわないようにって。
「……ありがとう」
じんわりと、少しずつ氷みたいに冷たくなった指先が温まっていく。ゆっくり、じんわり。
「やっぱり」
「?」
「聡衣が仕事してる時の顔、好きだ」
そして氷みたいだった指先は体温を取り戻して。
やっと俺の頬に触れてくれた。まだ少し、頬のほうが温かいから、今度はその掌に自分から頬を預けるように傾けると、ちゃんと包み込んで、その指先で髪にも触れてくれた。
「楽しそうだった」
「だって楽しいもん」
「あぁ」
「……」
あ。
キス。
「…………コホン」
「「!」」
飛び上がったのは二人ともだった。
「お店の目の前で従業員はキスしちゃダメでしょう?」
「く、国見さんっ!」
「聡衣君がよく働いてくれるおかげで僕も今日は早くあがっちゃおうと思ったらここで先にあがったはずの聡衣君がまだ恋人とイチャイチャしてた」
「こ、これはっ」
「それじゃあね」
国見さんはヒラヒラとまた手を振って、大きなカバンを肩から掛け直し、うちらとは逆方向へと歩いていく。
「あ! そうだ! 聡衣君」
「は、はいっ!」
「やっぱり聡衣くんの言っていたレイアウト変更しようと思うんだ。木曜日、お願いしてもいいかな」
「! は、はい!」
また国見さんはヒラヒラと手を振りながら、今度はもう振り返ることなくそのまま真っ直ぐ歩いていった。
「レイアウトをね、赤全面にしてみるのいいんじゃないかなぁって思って相談したんだ。赤色のものを窓いっぱいに並べるの。お正月だし、寒い冬だし。なんか目を引くかなって、」
あ、そういえば、手、繋いだままだった。国見さんいたのに、ずっと。
その繋いだままの手を引き寄せて、旭輝が背中を丸めてキスを一つした。
「俺たちも帰ろう」
「あ、うん」
「帰って、ちゃんとキスがしたい」
「あ、へ? ちょ、何?」
旭輝は慌てて真っ赤になった俺に笑いながら、もう一度、キュッと、しっかり指先を絡めて握ってくれた。
「キス魔だからな」
もうその指先はしっかりと温まって、これっぽっちも寒くなさそうだった。
「少し遅くなっちゃったね。今日はお疲れ様」
「あ、国見さん」
「それじゃあ、明後日、また宜しくね」
「え、でも」
今日は三日で初売りだった。明日は四日で、水曜日。普段なら水曜日は定休日なんだけど元旦と二日お休みにしてたから、お店はやるんだって。でも、俺は契約通り、お休みでいいと言ってもらった。
元々定休日だからそう忙しくないだろうって。初売りの福袋はありがたいことに初日で完売。明日は初売り目当ての方もいないからゆっくり店をやっているって言ってくれた。
「大丈夫だよ。ほら、遅くなったから早く。じゃないと残業代支払わないといけなくなる」
「あ、は、はいっ」
「それは冗談だけどね」
ヒラヒラと手を振ってくれる国見さんに頭を下げてお店を出た。
外はひんやりとしていて、出た瞬間、エアコンで暖まっていた身体がきゅっと縮こまる。
「は、さむ……」
あの人。
近くで見るとすっごい美人だった。
迫力ある美人って感じ。
あんな人が? 旭輝のこと?
そりゃ、俺みたいなのに取られたら癪だよね。
十センチヒール履いちゃったら、俺より背高いじゃん。そこらへんの男じゃ、並んで歩くの恐縮しちゃうくらい。でも、そんなそこらへんの男は相手にしないんだろうなぁって感じ。まさに高嶺の花。そんな花が欲しいと思ったのは――。
自分の隣に、と招きたかったのは――。
「聡衣!」
「!」
「お疲れ」
あの人も旭輝が欲しかった。
「! あ、旭輝? 何して」
「聡衣を待ってたに決まってるだろ」
「……」
「普段はこんなことできないからな」
だから、かな。国見さん、なんか今日はすごく早く帰らせようとしてたんだよね。さっきとか、早く早くって。普段は逆に「もう帰っちゃうのか」なんて笑って言ってくる。君といると楽しいよって。でも、今日は急かすから残業代を本当に気にしてるのかなとか思ったんだけど。
「寒かったでしょ?」
「まぁな」
「も、ぉ、待つとかしなくていいのに。そう遠くないし。っていうか、言ってよ」
待ってるなら急いだのに。旭輝は笑いながら俺の肩越しに国見さんのお店へと視線を向ける。ちょうど店内の様子を窺える窓が真正面にある。でも、お店の中は明るいから外の様子は目を凝らして見ないとわからなくて。
「少しだけ、見てた」
「え?」
「聡衣が仕事してるとこ」
「……」
「エダシマさんだって、一人感動してただけ」
「なっ」
旭輝は手を伸ばして、いつもみたいに頬に触れようとして、その手を、指を、引っ込めちゃった。
「あ、アホなことしてないでよ!」
「あははは」
笑ってるし。だって、ねぇ、閉店しました、はいお疲れ様、ってわけじゃないの。お店閉めた後に掃除して、商品整理をある程度して、翌日の品出しがしやすいように準備してから仕事おわるんだから。だから、お店で働く様子から見てたらここで一時間は待つようじゃん。この寒い、真冬の夜に何してんの?
ねぇ。
「見てみたかったんだよ。たまにまだ信じられない時があるから」
ねぇ、冷え切ってしまった指引っ込めないでよ。
「聡衣」
「もぉっ!」
だから、その指先を捕まえた。慌てて捕まえて、ね? あったかいでしょ? ポカポカだから大丈夫って伝わるようにぎゅっとしっかり握った。旭輝は少し慌てて、引っ込めたそうにしてた。俺の指が冷えてしまわないようにって。
「……ありがとう」
じんわりと、少しずつ氷みたいに冷たくなった指先が温まっていく。ゆっくり、じんわり。
「やっぱり」
「?」
「聡衣が仕事してる時の顔、好きだ」
そして氷みたいだった指先は体温を取り戻して。
やっと俺の頬に触れてくれた。まだ少し、頬のほうが温かいから、今度はその掌に自分から頬を預けるように傾けると、ちゃんと包み込んで、その指先で髪にも触れてくれた。
「楽しそうだった」
「だって楽しいもん」
「あぁ」
「……」
あ。
キス。
「…………コホン」
「「!」」
飛び上がったのは二人ともだった。
「お店の目の前で従業員はキスしちゃダメでしょう?」
「く、国見さんっ!」
「聡衣君がよく働いてくれるおかげで僕も今日は早くあがっちゃおうと思ったらここで先にあがったはずの聡衣君がまだ恋人とイチャイチャしてた」
「こ、これはっ」
「それじゃあね」
国見さんはヒラヒラとまた手を振って、大きなカバンを肩から掛け直し、うちらとは逆方向へと歩いていく。
「あ! そうだ! 聡衣君」
「は、はいっ!」
「やっぱり聡衣くんの言っていたレイアウト変更しようと思うんだ。木曜日、お願いしてもいいかな」
「! は、はい!」
また国見さんはヒラヒラと手を振りながら、今度はもう振り返ることなくそのまま真っ直ぐ歩いていった。
「レイアウトをね、赤全面にしてみるのいいんじゃないかなぁって思って相談したんだ。赤色のものを窓いっぱいに並べるの。お正月だし、寒い冬だし。なんか目を引くかなって、」
あ、そういえば、手、繋いだままだった。国見さんいたのに、ずっと。
その繋いだままの手を引き寄せて、旭輝が背中を丸めてキスを一つした。
「俺たちも帰ろう」
「あ、うん」
「帰って、ちゃんとキスがしたい」
「あ、へ? ちょ、何?」
旭輝は慌てて真っ赤になった俺に笑いながら、もう一度、キュッと、しっかり指先を絡めて握ってくれた。
「キス魔だからな」
もうその指先はしっかりと温まって、これっぽっちも寒くなさそうだった。
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