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第5章
誰にでも裏の顔がある「どんな人にだって、表と裏の顔があるものよ」
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リアがジェイドに再度アプローチをすることを決意してから数日が経った。
あの子は機会をうかがっているようだけれど、最近の戦闘課は忙しくて接触することが難しいみたい。
新人研修もあるものね。
ジェイドはエネミーパニック経験者であり、その生き残りの一人でもある。
ブライトは優秀らしいけれど、危機感が人一倍強いジェイドの研修は厳しいものでしょうね。
私はいつものように事務のお仕事。
今日は午後から受付の仕事に入る。
私も一応リアの指導係のようになってきてしまい、またリアと組む予定になっている。
何だか懐かれているような気もするわね。
「リアさん。報告書、また間違えています。訂正して提出してください」
リアの机は私の斜め前にある。
事務課の主任が、リアがミスした報告書を持って立っていた。
「あ、すいません~。すぐに直します」
いつものように平謝りで流すリア。
主任は少し溜息をついて報告書を渡し、その場を後にした。
「私、主任苦手なんですよね。無表情だし何考えているか分からないんですけど」
自分のミスを棚に上げて、悪口を言い始めた。
本当にこの子はいい根性をしている。
「聞こえちゃうわよ。書き方が分からなければ教えてあげるから」
「いつもありがとうございます。でも、実際主任ってどんな人なんですか? 友達とかいませんよね絶対」
酷い物言いね。
でも確かに、私もよく分からないことが多い。
ルチル主任は長身体躯で灰色の髪の男性。
銀縁眼鏡をかけて、さらに前髪が長く目元が見えないため暗い印象を与えている。
表情も硬く、仕事以外の話を他の社員としている所もほとんど見たことが無い。
そして、私とあまり目を合わせないのも少し気になってはいた。
「とても優秀な人だと思うわ。仕事はできるし、戦闘時の戦略係にも任命されているのよ。頭脳はこの会社のトップクラスでしょうね」
実際のところ、潜力が低い者が国家防衛管理局に入社するためには事務課という枠しかなく、他の会社より倍率が桁違いに高い。
女性は受付という仕事もあるため多少容姿も採用基準に含まれている。
しかし男性に求められることは頭脳以外に無いので、かなりの秀才でなければ入社はまず無理でしょうね。
潜力が無い者は、ハモネーも他の国と同じように女性に対しては容姿を、男性に対しては頭脳を求めるのね。
ルチル主任は若くして出世して、戦闘課と共に戦略を練ることも度々ある。
「すごいとは思いますけど、頭がいい人ってやっぱりコミュ障な人が多いんですかね」
偏見がすごいわね。
「リアちゃんは、主任と目が合う?」
「えっ? あんまり目元が見えなくて分からないですけど、さすがに仕事の話をされる時は合いますよ、前髪の隙間から。さすがに目を見て話さないなんて、社会人失格じゃないですか~。あ、でもですね、他の男性社員と違って私をエロい目で見ない所は評価に値しますね」
「あら、じゃあ紳士なのね。私はあまり主任と目が合わないのよ。嫌われているのかしら」
「それは無いですよ。先輩仕事完璧だし。あれですよ。先輩が綺麗すぎて見れないんですよ」
リアは自分の言ったことで大笑いしている。
でもそういう感じではないのよね。
あからさまではないけれど、彼は私を避けている。
確かめる必要がありそうね。今後の為にも……。
「まあ、私は潜力が高い人以外はあり得ないので。能力値が高ければ多少エロくても大丈夫です」
「ふふふ、そうなの。でも潜力がなくても、主任はエリートじゃない?」
リアは真剣な顔をして、私の近くまでやってきた。
何か変なことを言ったかしら。
「私、エリートじゃなくて潜力が高い人を探しているんです」
「前にも守ってもらいたいって言っていたものね。そんなにエネミーが不安?」
「エネミーのことは管理局やクリスドール様が何とかしてくれると思ってますけど、危ないのは人間も同じじゃないですか。心が綺麗な人だけに潜力があるわけじゃないですもん」
久しぶりにリアがまともなことを言っている気がする。
「うち、母子家庭なんです。それで母も潜力がほぼ無いんです。それを狙ってか、昔家に強盗が入ったことがあって……」
「まあ! それで大丈夫だったの?」
「母も私も無事でした。ただ当時の恐怖から、母も私もメンタルクリニックに通っていたこともあります。今はもっとセキュリティーが高い家に引っ越していて、母を独りで残していても大丈夫だとは思うんですけど。やっぱり、一家に一人は能力値が高い人が欲しいんです! 私と母を守ってくれるような」
リアが必要以上にジェイドに固執していたことが分かった。
エネミーパニックで生き残った彼は、正真正銘の能力値上位者だものね。
戦闘課を家族に迎えるために、こんな倍率の高い会社に応募する努力家なのね。
「そうだったのね。私、リアちゃんとジェイドさんが仲良くなれるように応援するわ」
リアはいつものように、あどけない笑顔をつくり私に抱きついてきた。
この子にも抱えるものがあったのね。
人間って複雑でとても面白い生き物だわ。
さて、私もルチル主任の裏の顔を暴くとしましょうか。
私の裏の顔がばれる前にね。
あの子は機会をうかがっているようだけれど、最近の戦闘課は忙しくて接触することが難しいみたい。
新人研修もあるものね。
ジェイドはエネミーパニック経験者であり、その生き残りの一人でもある。
ブライトは優秀らしいけれど、危機感が人一倍強いジェイドの研修は厳しいものでしょうね。
私はいつものように事務のお仕事。
今日は午後から受付の仕事に入る。
私も一応リアの指導係のようになってきてしまい、またリアと組む予定になっている。
何だか懐かれているような気もするわね。
「リアさん。報告書、また間違えています。訂正して提出してください」
リアの机は私の斜め前にある。
事務課の主任が、リアがミスした報告書を持って立っていた。
「あ、すいません~。すぐに直します」
いつものように平謝りで流すリア。
主任は少し溜息をついて報告書を渡し、その場を後にした。
「私、主任苦手なんですよね。無表情だし何考えているか分からないんですけど」
自分のミスを棚に上げて、悪口を言い始めた。
本当にこの子はいい根性をしている。
「聞こえちゃうわよ。書き方が分からなければ教えてあげるから」
「いつもありがとうございます。でも、実際主任ってどんな人なんですか? 友達とかいませんよね絶対」
酷い物言いね。
でも確かに、私もよく分からないことが多い。
ルチル主任は長身体躯で灰色の髪の男性。
銀縁眼鏡をかけて、さらに前髪が長く目元が見えないため暗い印象を与えている。
表情も硬く、仕事以外の話を他の社員としている所もほとんど見たことが無い。
そして、私とあまり目を合わせないのも少し気になってはいた。
「とても優秀な人だと思うわ。仕事はできるし、戦闘時の戦略係にも任命されているのよ。頭脳はこの会社のトップクラスでしょうね」
実際のところ、潜力が低い者が国家防衛管理局に入社するためには事務課という枠しかなく、他の会社より倍率が桁違いに高い。
女性は受付という仕事もあるため多少容姿も採用基準に含まれている。
しかし男性に求められることは頭脳以外に無いので、かなりの秀才でなければ入社はまず無理でしょうね。
潜力が無い者は、ハモネーも他の国と同じように女性に対しては容姿を、男性に対しては頭脳を求めるのね。
ルチル主任は若くして出世して、戦闘課と共に戦略を練ることも度々ある。
「すごいとは思いますけど、頭がいい人ってやっぱりコミュ障な人が多いんですかね」
偏見がすごいわね。
「リアちゃんは、主任と目が合う?」
「えっ? あんまり目元が見えなくて分からないですけど、さすがに仕事の話をされる時は合いますよ、前髪の隙間から。さすがに目を見て話さないなんて、社会人失格じゃないですか~。あ、でもですね、他の男性社員と違って私をエロい目で見ない所は評価に値しますね」
「あら、じゃあ紳士なのね。私はあまり主任と目が合わないのよ。嫌われているのかしら」
「それは無いですよ。先輩仕事完璧だし。あれですよ。先輩が綺麗すぎて見れないんですよ」
リアは自分の言ったことで大笑いしている。
でもそういう感じではないのよね。
あからさまではないけれど、彼は私を避けている。
確かめる必要がありそうね。今後の為にも……。
「まあ、私は潜力が高い人以外はあり得ないので。能力値が高ければ多少エロくても大丈夫です」
「ふふふ、そうなの。でも潜力がなくても、主任はエリートじゃない?」
リアは真剣な顔をして、私の近くまでやってきた。
何か変なことを言ったかしら。
「私、エリートじゃなくて潜力が高い人を探しているんです」
「前にも守ってもらいたいって言っていたものね。そんなにエネミーが不安?」
「エネミーのことは管理局やクリスドール様が何とかしてくれると思ってますけど、危ないのは人間も同じじゃないですか。心が綺麗な人だけに潜力があるわけじゃないですもん」
久しぶりにリアがまともなことを言っている気がする。
「うち、母子家庭なんです。それで母も潜力がほぼ無いんです。それを狙ってか、昔家に強盗が入ったことがあって……」
「まあ! それで大丈夫だったの?」
「母も私も無事でした。ただ当時の恐怖から、母も私もメンタルクリニックに通っていたこともあります。今はもっとセキュリティーが高い家に引っ越していて、母を独りで残していても大丈夫だとは思うんですけど。やっぱり、一家に一人は能力値が高い人が欲しいんです! 私と母を守ってくれるような」
リアが必要以上にジェイドに固執していたことが分かった。
エネミーパニックで生き残った彼は、正真正銘の能力値上位者だものね。
戦闘課を家族に迎えるために、こんな倍率の高い会社に応募する努力家なのね。
「そうだったのね。私、リアちゃんとジェイドさんが仲良くなれるように応援するわ」
リアはいつものように、あどけない笑顔をつくり私に抱きついてきた。
この子にも抱えるものがあったのね。
人間って複雑でとても面白い生き物だわ。
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私の裏の顔がばれる前にね。
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