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第一章・俺の価値
競り
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爆笑し、いつもの調子の2人を見ながら、徒歩で酒場まで着いた俺達は、着いたぞ、と後ろを振り返り、生きた心地がしなかった。
「ッあれ!?キゥチは?!」
「…て、てっきりロイクが見ているものだと」
2人に聞かれ、俺は顔が引き攣る。
「ッいや、俺も普通に着いてきてるもんだと…」
(というか、17、8そこらの男が迷子になるかよ!)
正確な歳は分からないが、だいたいそれくらいだろうと目星をつけていた俺は、まさか今の今まで、はぐれているなんて想像もしていなかった。
後ろで笑いながら、俺と一緒に着いてきていると…。
「ヤバいじゃん!ルカ様のお気に入りなんだろ?!」
今一番、言われたくなかったことを言われる。
(兄様に…今度こそ俺はアレを…?)
今日だけで二度も見たあの紫色の光を思い出して、幼少期の苦い思い出が嫌でもフラッシュバックする。
兄弟喧嘩の末、認識阻害の魔法をかけられた俺は、誰に話しかけても、声が届くどころか触れることも叶わず、家族と他の人間、そして魔法をかけた張本人で、俺の姿が見えているはずの兄様にも存在を無視されるという地獄の3日間を過ごした。
父上は、
『もう大丈夫だ。ルカは二度とアレをしない。』
と俺の頭を撫でたが、何が大丈夫だよ!
右手に溜められた、禍々しい魔力を思い出して身震いがする。
あんな心地は二度とゴメンだ…!!
「私とアルバートはどうなるんだ…!まず、しなければならないのは報告と…」
早速、なんの未練もなく俺を除外したこれからを練り始めたレイモンドは、いつもの調子でアルバートに叩かれている。
いつもならこれに爆笑して笑い転げているところだが、笑えるはずがなかった。
「ひ、ひとまず来た道を戻ろう!」
俺の提案に、2人も急いで来た道を戻る。
ガヤガヤとした人混みの中、子供ほどではない中途半端な背の低さの人間を探すのは、骨が折れた。
(無事でいてくれよ…!!)
来た道を3人、手分けして隈なく探しながら、引き返していると
「1300!」
「1350!」
「1400!」
と、なにやら競りが行われているようだった。
キウチが興味を惹きそうだと、目線をそこへやると、オークションに掛けられていたのは、なんと先程までキウチが着ていた俺のお下がりだった。
「はぁッ?!」
しかもそのズボンは何やら、シミの位置から特定するに尿らしきものでビショビショに濡れていて、キウチが無傷である確率は壊滅的だった。
2人も競りに気がついたのか、こちらへ向かってくる。
「純血だなんだと騒がれているが、どういうことだ…?」
レイモンドの呟きに、俺は目を見開く。
昼間にキウチを観察した時、全く漏れ出さない魔力に、魔力の調整がものすごく上手い子がいるんだなあ、なんて感心した。
(まさか、魔力がなかったのか…?!)
昔はよく、瞳の色で魔力量が決まると噂されたものだが、それはただの俺たち魔法が使える人間の遺伝で、貴族の俺や兄様の瞳は紫だったり赤かったりするが、兄様と同じ紫の瞳を持つ弟は俺より魔力量が低い。
だから、てっきりキウチの黒目に、珍しいなと思うだけに留めていた。
(さ、察しが悪すぎる…)
今日1日を思い返しながら、自分の察しの悪さを痛感して、意識が飛びそうになる。
あの兄様が、俺へのイラつきを抑えてまであんなに他人にキウチを見せなかったのも、そんな理由があったからだったとは。
まず、何か情報が必要だと思った俺は、声高に叫ぶ。
「5000!」
「ろ、ロイク!?」
今ズボンを掴みこのオークションの主催をしているやつに近づくには、この競りに勝つしかない。
1300だなんだと言っている周りも、手持ちの金があるわけじゃないだろうから、きっとこれはゲリラの競りで、金も後払い。
兄様に言えば金を出してくれるだろうと、例の認識阻害魔法はもう喰らう前提に、金を積み上げる。
「ッご、5500!」
「5800!」
だが、それ以上の額を叫ぶ民衆の姿があった。
(純血の尿がそんなに貴重なのか…?)
ただの嗜好品とは違う周りの湧き方に、いよいよ純血の価値が分からなくなる。
例えば純血の涙で病気が治るとか、そんな迷信があるのは知っているが、純血なんて元を辿ればただ俺たちの先祖の生き残りで、そんな力あるわけないのは誰だって分かる。
それでも、そんなものに借金をしてでも縋りたいほど、国民の生活は圧迫されているのか?
嫌味な王家のことを思い出して、辟易する。
自分たちだけ甘い蜜を吸うような人間は言語道断だ。
ここにいる場の民衆を路頭に迷わせない為にも、この競りには必ず勝たないといけない。
2人には、俺の屋敷へ伝言を飛ばすように言い、俺は目の前の競りに集中した。
…尿まみれの古いズボンを落札する為に。
「ッあれ!?キゥチは?!」
「…て、てっきりロイクが見ているものだと」
2人に聞かれ、俺は顔が引き攣る。
「ッいや、俺も普通に着いてきてるもんだと…」
(というか、17、8そこらの男が迷子になるかよ!)
正確な歳は分からないが、だいたいそれくらいだろうと目星をつけていた俺は、まさか今の今まで、はぐれているなんて想像もしていなかった。
後ろで笑いながら、俺と一緒に着いてきていると…。
「ヤバいじゃん!ルカ様のお気に入りなんだろ?!」
今一番、言われたくなかったことを言われる。
(兄様に…今度こそ俺はアレを…?)
今日だけで二度も見たあの紫色の光を思い出して、幼少期の苦い思い出が嫌でもフラッシュバックする。
兄弟喧嘩の末、認識阻害の魔法をかけられた俺は、誰に話しかけても、声が届くどころか触れることも叶わず、家族と他の人間、そして魔法をかけた張本人で、俺の姿が見えているはずの兄様にも存在を無視されるという地獄の3日間を過ごした。
父上は、
『もう大丈夫だ。ルカは二度とアレをしない。』
と俺の頭を撫でたが、何が大丈夫だよ!
右手に溜められた、禍々しい魔力を思い出して身震いがする。
あんな心地は二度とゴメンだ…!!
「私とアルバートはどうなるんだ…!まず、しなければならないのは報告と…」
早速、なんの未練もなく俺を除外したこれからを練り始めたレイモンドは、いつもの調子でアルバートに叩かれている。
いつもならこれに爆笑して笑い転げているところだが、笑えるはずがなかった。
「ひ、ひとまず来た道を戻ろう!」
俺の提案に、2人も急いで来た道を戻る。
ガヤガヤとした人混みの中、子供ほどではない中途半端な背の低さの人間を探すのは、骨が折れた。
(無事でいてくれよ…!!)
来た道を3人、手分けして隈なく探しながら、引き返していると
「1300!」
「1350!」
「1400!」
と、なにやら競りが行われているようだった。
キウチが興味を惹きそうだと、目線をそこへやると、オークションに掛けられていたのは、なんと先程までキウチが着ていた俺のお下がりだった。
「はぁッ?!」
しかもそのズボンは何やら、シミの位置から特定するに尿らしきものでビショビショに濡れていて、キウチが無傷である確率は壊滅的だった。
2人も競りに気がついたのか、こちらへ向かってくる。
「純血だなんだと騒がれているが、どういうことだ…?」
レイモンドの呟きに、俺は目を見開く。
昼間にキウチを観察した時、全く漏れ出さない魔力に、魔力の調整がものすごく上手い子がいるんだなあ、なんて感心した。
(まさか、魔力がなかったのか…?!)
昔はよく、瞳の色で魔力量が決まると噂されたものだが、それはただの俺たち魔法が使える人間の遺伝で、貴族の俺や兄様の瞳は紫だったり赤かったりするが、兄様と同じ紫の瞳を持つ弟は俺より魔力量が低い。
だから、てっきりキウチの黒目に、珍しいなと思うだけに留めていた。
(さ、察しが悪すぎる…)
今日1日を思い返しながら、自分の察しの悪さを痛感して、意識が飛びそうになる。
あの兄様が、俺へのイラつきを抑えてまであんなに他人にキウチを見せなかったのも、そんな理由があったからだったとは。
まず、何か情報が必要だと思った俺は、声高に叫ぶ。
「5000!」
「ろ、ロイク!?」
今ズボンを掴みこのオークションの主催をしているやつに近づくには、この競りに勝つしかない。
1300だなんだと言っている周りも、手持ちの金があるわけじゃないだろうから、きっとこれはゲリラの競りで、金も後払い。
兄様に言えば金を出してくれるだろうと、例の認識阻害魔法はもう喰らう前提に、金を積み上げる。
「ッご、5500!」
「5800!」
だが、それ以上の額を叫ぶ民衆の姿があった。
(純血の尿がそんなに貴重なのか…?)
ただの嗜好品とは違う周りの湧き方に、いよいよ純血の価値が分からなくなる。
例えば純血の涙で病気が治るとか、そんな迷信があるのは知っているが、純血なんて元を辿ればただ俺たちの先祖の生き残りで、そんな力あるわけないのは誰だって分かる。
それでも、そんなものに借金をしてでも縋りたいほど、国民の生活は圧迫されているのか?
嫌味な王家のことを思い出して、辟易する。
自分たちだけ甘い蜜を吸うような人間は言語道断だ。
ここにいる場の民衆を路頭に迷わせない為にも、この競りには必ず勝たないといけない。
2人には、俺の屋敷へ伝言を飛ばすように言い、俺は目の前の競りに集中した。
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