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鬼の章
邂逅・悠久と優
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その日俺は授業をサボっていた。
授業を聞いていなくても、配布された教科書を見ておけば大体のことは理解できる。
それに教室にいると、周りの人間たちの視線がうっとうしい。
それに家にいると落ち着かなくてなかなか眠れない。
そういう理由で、俺は屋上にいた。
屋上は誰も来ない。
もともとは施錠されているからだ。
俺は勝手に鍵を開けて入り込んでいる。
いわゆるピッキングというやつである。
そうして俺が寝転んでいると、見慣れない女子生徒の顔がいきなり俺の顔の目の前ににゅっと出てきた。
かなりぎょっとした。
驚いて思わずそいつの顔をまじまじと見てしまった。
そいつは俺の顔を覗き込みながら、面白そうな顔で訊いてきた。
「何してるの?」
「………は?」
見てわからないのかこいつ。
というか、スカートの中が見えそうで非常に迷惑だ。
俺にそういうシュミはない。
スカートの中が見えないように微妙に目をそらしながら、俺は答えた。
「サボってるんだよ。見りゃ分かるだろ」
目の前の女はどことなく嬉しそうに口角を上げて、頭のおかしい質問をしてきた。
「君は、人間?」
「…………。」
何言ってるんだこいつ、と思った。
けれど、すぐに返事が出来なかった。
間違いなく俺は人間だ。
けれど、みんな俺の一族を『鬼』だという。
本当に俺は人間なのだろうか?なんて、つい考えてしまった。
俺が答えられずにいると、目の前の女はさらに嬉しそうに笑って俺の隣に腰を下ろしてこうのたまった。
「あたしもサボろうかなぁ」
「は?」
迷惑な奴だ。俺はこの静かで、誰も俺に関わってこない時間を日々の楽しみにしてるんだぞ。
「サボるのは勝手だが、違うところに行け」
「なんで?サボるのが勝手なら、どこでサボるかもあたしの勝手でしょ?」
「ぐ…」
確かにそれもそうだ。
「そ、そもそもサボっていいのかよ。単位落とすぞ」
女は心底不思議そうに返してきた。
「あたしの単位より、自分の単位は平気なの?」
「…………。」
それは平気なのだが、こいつは変だ。
返答がどうもふわふわしているというか、掴みどころがない。
今まで会ったことのないタイプだ。
俺は少し目の前の女に興味を持った。
俺に媚びず、かといって敵意も向けてこない奴はなかなかに珍しい。
「お前、なんでここにいるんだ?」
女は何が楽しいのか、ずっとニコニコしている。
「さっき一限が終わったから徘徊してたら、ここに来てた」
「は、徘徊?」
想像の斜め上をいく回答が返ってきて、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
ボケ老人じゃあるまいし、徘徊ってなんだ…?
気を取り直して次の質問をしてみよう。
「なんで徘か…うろうろしてたんだ?」
うっかり俺まで徘徊って言いそうになった。
「うーん、二限の英語の先生がキライだからかなぁ。あの先生声だけ無駄に大きくて、授業の内容がスカスカなんだよねぇ」
「お、おう…」
思ったよりはまともな理由だったが、先生がキライだろうと授業には出るべきなのではないだろうか…と、俺は自分のことを棚に上げて思った。
「逆にきいてもいい?」
「なんだよ」
「君は何してたの?こんなとこで。ここ鍵しまってるはずでしょ?」
「ああ…」
俺は起き上がって、制服のポケットから金属の棒を取り出した。
「勝手に開けた。つか、壊した」
どういう反応をするだろうか。
ちらりと顔を伺うと、女はものすごく目を輝かせていた。
…反応が読めん。
「なにそれすごい!今度あたしに教えてよ!そしたら家の鍵忘れた時に試してみるからさ!」
「あ、ああ…」
とりあえず、こいつかなり変わってるな。
なかなかお目にかからないタイプだ。
珍しく面白いと思っている自分に気付き、俺は内心驚いていた。
君は人間?なんて妙なことを訊いてきたのが少し気になるが。
隣の女に俺はもう一度顔を向ける。
女はぼーっと空を見ていた。
そこで俺ははっとして、自分の目もとを押さえた。
こいつは、この赤い目を見てなにも思わないのだろうか?
じっと見ていると、女が不意にこちらを向いた。
「君さ」
「…今度はなんだよ」
こいつ話し出すのも急だな。
俺はそんなどうでもいいことを思いながら返した。
女は少し真面目な表情で俺の顔をしげしげと見た。
「変わった目の色してるね」
「ああ、これな」
やはりこいつも、同じような目で俺を見るのか。鬼の目だと言われるだろうか。
ついさっき出会ったばかりの知らない人間に、俺はなにを期待しているんだろう。
俺は自嘲気味にそう思ったが、女はまた目を輝かせて言った。
「キレイだね!」
「え…」
驚きすぎると人間、言葉が出なくなるらしい。
口をぽかんと開けて間抜け面で固まる俺に、女はさっきまでと打って変わってどこか寂しそうな表情になった。
「あたしもそれくらいだったら良かったのになぁ」
なんのことだろうか。俺にはわからないが、ひとつだけ分かったような気がする。
こいつにもきっと、何かあるんだろう。
俺はもう一度、ごろんと横になった。
こういう時は寝るに限る。しばらく寝ておけば大抵のことはなんとかなる…はずだ。
横に目を向ける。
「寝よう。なんだか知らんが、寝るに限る」
女はキラキラした目をして頷くと、隣に横になった。
いちいち表情が大げさと思うのは俺だけなのだろうか…。
まあ幸い、今日はぽかぽかしている。気持ちよく眠れそうだ。
目を閉じるとすぐ眠気がやってきた。
ぼんやりした意識に、おやすみと声が聞こえたような…気がした。
授業を聞いていなくても、配布された教科書を見ておけば大体のことは理解できる。
それに教室にいると、周りの人間たちの視線がうっとうしい。
それに家にいると落ち着かなくてなかなか眠れない。
そういう理由で、俺は屋上にいた。
屋上は誰も来ない。
もともとは施錠されているからだ。
俺は勝手に鍵を開けて入り込んでいる。
いわゆるピッキングというやつである。
そうして俺が寝転んでいると、見慣れない女子生徒の顔がいきなり俺の顔の目の前ににゅっと出てきた。
かなりぎょっとした。
驚いて思わずそいつの顔をまじまじと見てしまった。
そいつは俺の顔を覗き込みながら、面白そうな顔で訊いてきた。
「何してるの?」
「………は?」
見てわからないのかこいつ。
というか、スカートの中が見えそうで非常に迷惑だ。
俺にそういうシュミはない。
スカートの中が見えないように微妙に目をそらしながら、俺は答えた。
「サボってるんだよ。見りゃ分かるだろ」
目の前の女はどことなく嬉しそうに口角を上げて、頭のおかしい質問をしてきた。
「君は、人間?」
「…………。」
何言ってるんだこいつ、と思った。
けれど、すぐに返事が出来なかった。
間違いなく俺は人間だ。
けれど、みんな俺の一族を『鬼』だという。
本当に俺は人間なのだろうか?なんて、つい考えてしまった。
俺が答えられずにいると、目の前の女はさらに嬉しそうに笑って俺の隣に腰を下ろしてこうのたまった。
「あたしもサボろうかなぁ」
「は?」
迷惑な奴だ。俺はこの静かで、誰も俺に関わってこない時間を日々の楽しみにしてるんだぞ。
「サボるのは勝手だが、違うところに行け」
「なんで?サボるのが勝手なら、どこでサボるかもあたしの勝手でしょ?」
「ぐ…」
確かにそれもそうだ。
「そ、そもそもサボっていいのかよ。単位落とすぞ」
女は心底不思議そうに返してきた。
「あたしの単位より、自分の単位は平気なの?」
「…………。」
それは平気なのだが、こいつは変だ。
返答がどうもふわふわしているというか、掴みどころがない。
今まで会ったことのないタイプだ。
俺は少し目の前の女に興味を持った。
俺に媚びず、かといって敵意も向けてこない奴はなかなかに珍しい。
「お前、なんでここにいるんだ?」
女は何が楽しいのか、ずっとニコニコしている。
「さっき一限が終わったから徘徊してたら、ここに来てた」
「は、徘徊?」
想像の斜め上をいく回答が返ってきて、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
ボケ老人じゃあるまいし、徘徊ってなんだ…?
気を取り直して次の質問をしてみよう。
「なんで徘か…うろうろしてたんだ?」
うっかり俺まで徘徊って言いそうになった。
「うーん、二限の英語の先生がキライだからかなぁ。あの先生声だけ無駄に大きくて、授業の内容がスカスカなんだよねぇ」
「お、おう…」
思ったよりはまともな理由だったが、先生がキライだろうと授業には出るべきなのではないだろうか…と、俺は自分のことを棚に上げて思った。
「逆にきいてもいい?」
「なんだよ」
「君は何してたの?こんなとこで。ここ鍵しまってるはずでしょ?」
「ああ…」
俺は起き上がって、制服のポケットから金属の棒を取り出した。
「勝手に開けた。つか、壊した」
どういう反応をするだろうか。
ちらりと顔を伺うと、女はものすごく目を輝かせていた。
…反応が読めん。
「なにそれすごい!今度あたしに教えてよ!そしたら家の鍵忘れた時に試してみるからさ!」
「あ、ああ…」
とりあえず、こいつかなり変わってるな。
なかなかお目にかからないタイプだ。
珍しく面白いと思っている自分に気付き、俺は内心驚いていた。
君は人間?なんて妙なことを訊いてきたのが少し気になるが。
隣の女に俺はもう一度顔を向ける。
女はぼーっと空を見ていた。
そこで俺ははっとして、自分の目もとを押さえた。
こいつは、この赤い目を見てなにも思わないのだろうか?
じっと見ていると、女が不意にこちらを向いた。
「君さ」
「…今度はなんだよ」
こいつ話し出すのも急だな。
俺はそんなどうでもいいことを思いながら返した。
女は少し真面目な表情で俺の顔をしげしげと見た。
「変わった目の色してるね」
「ああ、これな」
やはりこいつも、同じような目で俺を見るのか。鬼の目だと言われるだろうか。
ついさっき出会ったばかりの知らない人間に、俺はなにを期待しているんだろう。
俺は自嘲気味にそう思ったが、女はまた目を輝かせて言った。
「キレイだね!」
「え…」
驚きすぎると人間、言葉が出なくなるらしい。
口をぽかんと開けて間抜け面で固まる俺に、女はさっきまでと打って変わってどこか寂しそうな表情になった。
「あたしもそれくらいだったら良かったのになぁ」
なんのことだろうか。俺にはわからないが、ひとつだけ分かったような気がする。
こいつにもきっと、何かあるんだろう。
俺はもう一度、ごろんと横になった。
こういう時は寝るに限る。しばらく寝ておけば大抵のことはなんとかなる…はずだ。
横に目を向ける。
「寝よう。なんだか知らんが、寝るに限る」
女はキラキラした目をして頷くと、隣に横になった。
いちいち表情が大げさと思うのは俺だけなのだろうか…。
まあ幸い、今日はぽかぽかしている。気持ちよく眠れそうだ。
目を閉じるとすぐ眠気がやってきた。
ぼんやりした意識に、おやすみと声が聞こえたような…気がした。
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