偏愛ハートボーダーライン

輪廻巡

文字の大きさ
12 / 16
鬼の章

日常1

しおりを挟む
あの変わった女は、あれから毎日屋上に来るようになった。
俺と同じペースで授業をサボっていることになるが、果たして大丈夫なのかと何故かこちらが心配になってしまう。

女が来るようになってもう一週間が経つ。
そんなに会話があるわけではなかったが、俺はむしろそれがありがたかった。
最初こそ妙な質問をしてきたが、あれ以降そこまで変なことを訊かれたりしない。

でも、あの日訊かれた「君は人間?」という問いの答えを、俺は見つけられていない。
見つけられそうにもない。
そして今日も今日とて、女は何故か楽しそうに俺の隣にぺたりと座って空を見ている。
こいつが何をしたいのか、正直全く分からない。

そういえば。
俺は隣を見た。

「なあ」

女はそれはそれは嬉しそうに俺の方を見た。
どうしてこいつ、いつもこんなに嬉しそうなのだろうか…。

「なに?なになに?」

「…………。」

少しだけイラッとした。

「お前の名前は?」

女は一瞬ぽかんとして、それからニヤニヤしながら言った。

「人に名前を聞くときは、自分から名乗るものじゃないの?」

ニヤニヤしているせいか、少しではなくとてもイラっとした。

「俺は…俺は、夜部悠久。名乗ってやったんだからお前も名乗れ」

「あたしは暁浦優!ステキなあだ名をつけてくれると嬉しいよ!」

「は?」

なんで俺があだ名なんてつけなきゃならないんだ…面倒くさい。

「え、付けてくれないの?ケチだなー」

心を読んだ?!

「心読んだ?みたいな顔してるけど、その不満そうな顔見たら分かるよー」

なんか、いちいち腹が立つ奴だな。
名前は暁浦優か。今まで話したことがなかったな。だが確かこいつ…。
俺は暁浦の方を見た。
確かこいつ、あの有名な元特待生じゃないのか?

暁浦はのほほんとした顔をして、間延びした口調で言った。

「なにー、あたしの顔そんなに変だっけ」

この様子からは、とても頭が良さそうには思えないが。

俺は中等部まで、一族が経営する他の学園に通っていた。だから詳しいことは知らないのだが、前にクラスメイトが話しているのを聞いたことがある。

曰く、「自分から特待生を辞退した変わり者がいる」とか。
曰く、「成績は全体的に良かったが頻繁にトラブルを起こしていた」とか。

その噂になっていた奴が、あきうらという名前だった気がする。
それにしても、頻繁にトラブルを起こしていた、か。
現在進行形で授業をサボっているし、噂もバカにならないな。
そんなことを考えているといつのまにか静かになっていたので、俺は隣を見た。

「ぐー…」

「…………」

暁浦は寝ていた。

「って、唐突すぎるだろ?!」

「ぐー…」

思わず大音量でつっこんでしまったが、暁浦は起きなかった。
なんて自由な…いくら俺でもここまですぐは寝られない。
しかも揺さぶっても起きそうにない。

俺はため息をついた。
名前はわかったが、それ以外は何一つとして理解できない。

まあ、気長に知ればいいか。
俺に対して態度を変えないこいつを、俺は意外にも快く思っているようだ。
そんな自分にかすかに驚きながら、俺はあくびをしたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...